第399話 男祭りのダンジョンにようやく終焉が訪れる件



 ラミア3体とヒドラのドロップ品は、魔石(中)が1個に魔石(小)が3個、それからオーブ珠が1個にラミアの装備が少々。蛇皮の鎧などは、使うにもまずまずの良品かも知れない。

 そして宝箱の中からは、鑑定の書や魔玉(光)や薬品が少々。薬品の中には、安定の毒薬も混じっている模様である。それから当たりの魔結晶(大)が4つほど。


 1個50万円の値がつくこのサイズは、ダンジョン探索してても滅多に出ない。このお土産を持ち帰れば、ズブガジも恐らく喜んでくれるだろう。

 後は牙素材と蛇の皮素材が割とたくさん、それから派手な色合いの長槍も1本入っていた。それから最後に、財宝っぽい金貨や宝飾品が少しだけ。

 内容的には、割と当たりの部類には違いなさそう。


 大物モンスターの出現に、甲斐谷はなかなか骨のあるダンジョンだなと感想を漏らしている。今は護人からエーテルを受け取って、MPの補給を行っている所。

 怪我の類いはしていないようで、その点は安心である。ムッターシャも、こっちの世界の探索者もなかなかやるねと感想を口にする。


 護人も、次回の“喰らうモノ”探索に参加するチームのリーダーだよと、改めてのお試し探索の説明など。もう1チームがなかなか決まらず、突入の時期が不明な点も含めて口にする。

 ムッターシャも、それは仕方が無いねとせっつく事はしないみたい。数だけ揃えても、返り討ちに遭うのが関の山と分かっているのだろう。


 護人にしても同様で、是が非でもリベンジなんて感情は間違っても起きない。それでも地元の厄介な問題に、さっさと始末をつけたい気持ちは当然ある。

 その為に、こうやって力をつけている次第。


「それじゃあ、休憩もいいなら次の層に向かおうか……茶々丸、いつまでも落ち込んでいないで次に行くぞ?」

「仔ヤギも落ち込むんだなぁ、ちょっと可愛いかも」


 甲斐谷は、どうも仔ヤギの茶々丸にツボったようで、元気出せと励ましの言葉。どうやらさっきのラミアの魅了に、簡単に篭絡ろうらくされたのを覚えていたよう。

 落ち込むのは仕方が無いが、ダンジョン内でダラダラしてもいられない。一行はワープ魔方陣を利用して、次のエリアへと向かう事に。



 そして次のエリアも、崩れた遺跡のフィールド型だった。前のエリアと違うのは、遺跡の跡地が割としっかりと残っている点だろうか。

 柱もしっかりしている奴が多く、天井のある場所もあちこちに存在する。破壊されている場所もあるけど、それは長年の風化によるモノだろう。


 少なくとも、巨大な生物が暴れ回った感じには見えず、その点は有り難い。そして蜘蛛の巣が張ってあったりと、遺跡の雰囲気はそれなりにバッチリだ。

 一行が敵の姿を探す前に、そいつ等は暗がりからワラワラと出現して来た。蜘蛛系のモンスターかなと想像した護人だったが、残念ながら外れていた。

 いや、蜘蛛が苦手な護人にはその点は有り難い限り。


「おっと、今回はサソリの半獣人か……毒持ちの割と強敵な連中だな、意外と素早いから注意してくれ」

「うへっ、このエリアも半身が女性ってこだわりがあるのか。全然有り難くないな、戦い難いったらありゃしないぜ……」

「ルルンバちゃんも前に出ていいぞ、暴れ回って柱まで壊さないようにな」


 遺跡は柱が等間隔に立ち並んでいて、風化によってもろい部分も多そうだ。戦うにしても、天井の崩落やらに注意が必要かも。

 茶々丸が未だに落ち込んでいるので、護人も武器を長剣に替えて前へと出る事に。ルルンバちゃんの隣に陣取り、意外と多い敵の殲滅のお手伝い。


 甲斐谷とムッターシャも、同様に前衛でそれぞれの武器を振るっている。ムッターシャの忠告通り、このサソリの半獣人は意外と地面を素早く移動して厄介な敵である。

 その形状は何と言うか、アラクネのサソリ版とでも評そうか。つまりはサソリの身体の下半身に、上半身は女性の身体がくっ付いていると言う感じ。


 それがモンスターサイズ、つまりはそれぞれが結構な大きさで、体長はどれも護人とどっこい程度ある。パワーも同様、そして妙な角度から繰り出される毒の尾の一撃と来たら。

 ルルンバちゃんは全く平気だが、護人は何度も冷や汗をく事に。


 それでも数分掛けて、ようやく向こうの数を半数に減らす事に成功した。このまま押し切れると思った拍子ひょうしに、ムッターシャの新たな警告の声が。

 どうやら敵の増援らしい……天井に注意と言われて視線を向けると、やっぱり出て来た蜘蛛の群れ。大小様々なサイズの中には、一際巨大な奴と噂のアラクネも混じっていた。


 一番大きな蜘蛛など、小さな一軒家サイズで視線を向けるのもおぞましい。一方のアラクネは、こちらを完全に餌だと認定したようで満面の邪悪な笑み。

 そんな妖艶な笑みで狙いを定め、弓矢や粘糸飛ばしで一斉に攻撃を始めるアラクネ達。5体以上は蜘蛛の群れに混じっているようで、その戦力はあなどれない。


 ただしその頃には、茶々丸もヤル気を回復して前線で頑張ってくれていた。すぐ落ち込む困ったちゃんだけど、回復の速さは褒められるレベル。

 ただの戦闘好きなのかもだが、落ち込んだままでいられるより数倍マシである。護人もなるべくなら、大蜘蛛の相手など積極的にしたくはない。

 それでも誰かは、巨大蜘蛛を倒す役割をになわないと。


 今回も甲斐谷が担当してくれるのかと思ったが、意外にもムッターシャが名乗りを上げた。位置的に一番近かったと言うのもあるけど、大物を倒す自信もあるのだろう。

 スキルや魔法に頼らず、どうやってあんな巨大モンスターを倒すのかと思っていたら。得物を得意のハルバードに持ち替え、壁に張り付いていた巨大蜘蛛の背に脅威の身体能力で張り付いての討伐開始。


 ムッターシャの放った一撃で、巨大蜘蛛は霧状に分解されて行ってしまった。実際には魔石(大)へと変わったのだが、その鮮やか過ぎる手腕はまるで手品のよう。

 それでも辛うじて、護人には彼が何をやったのか理解出来た。あらゆる生き物はしたたかである半面、ここを突かれると弱いと言う急所が存在する。


 巨大モンスターもそれは同じで、ムッターシャはそれを事前に見極めていたみたい。理力を武器にまとって、彼は命の流れを見事に最小の力で断ち切ったのだ。

 なるほど、これなら強大なスキル技や、超絶的な魔法も必要は無いだろう。とは言え、誰もが真似の出来る技では決して無いのも事実である。

 護人にしても、《心眼》のお陰で辛うじて解析出来たのだ。


 その反面、今の動きがとっても勉強になったのも確かな事実。ちなみに、地上にいる敵は甲斐谷たちの奮闘で、いつの間にか綺麗サッパリ片付いていた。

 壁に張り付いていた敵も、護人とルルンバちゃんの射撃でようやく全ていなくなった。そして恒例のドロップ品と、湧いた宝箱の中身の回収作業を皆で行う。


 それから、アラクネを倒した跡地に湧いた魔方陣で、次の層へとワープで飛ぶ一行。何だか難易度が高い気のする“女子禁制ダンジョン”の、恐らくは最終層である。

 そこはしっかり、全員で気を引き締めて進まないと。



 そしてこのエリアも、入った瞬間に風景に違和感を覚える護人たち。今まで野外の遺跡跡地だったのに、急に室内に移動させられて戸惑う面々。

 室内と言っても、さっきのファンシーな壁紙の張られた感じでは無い。中世の豪華なお城の中みたいな、何と言うか派手な印象は同じである。


 さっきの遺跡との相違点は、やはり生活臭が漂ってるかどうかだろう。廊下には赤い絨毯じゅうたんが敷き詰められていて、灯りは至る所にランプが掲げられている。

 壁は石で出来ていて、それが護人がお城の中かなと思った主な原因である。進める方向は前方のみで、柱の立派な広間へと続いている。


 つまりは暴れるにも充分な空間で、敵も多数出て来そうな雰囲気。それはこちらも手っ取り早くて好都合と、男性チームは特に警戒も無くそちらへと進んで行く。

 そして今回出て来た、鎧型ゴーレムと動く石像を見て素早く戦闘準備に移行する前衛陣。硬そうな敵のオンパレードだが、甲斐谷にもムッターシャにも戸惑いは無い様子だ。

 ちなみに、鎧も石像もしっかり女性型である。


「おっと、今回は動く鎧に女性版のガーゴイルか……硬い敵は苦手なんだが、この程度なら何とかなるかな。

 いや、しかし意外と数が多いな!」

「俺とルルンバちゃんが出よう、茶々丸は無理して突っ込むなよ? ここも途中で、中ボスが乱入して来るかも知れないな……みんな、注意は怠らないようにな!」

「了解した、おっと……今度はモリトがボス戦をこなす番かな? 俺は大人しく、雑魚の石像の群れを壊していようか。

 確かに続々と湧いて来て、壁役は何人か必要みたいだ」


 そんな事を口にするムッターシャは、まるでこの状況を楽しんでいるみたい。そして護人が、中ボスをソロで撃破出来ると信じて疑っていない様子。

 来栖家のメンバーも、茶々丸はともかくルルンバちゃんは硬い機体を活かして奮闘中。護人も武器をシャベルに替えての、『掘削』スキルでの戦闘参加を始める。


 その殲滅速度は、S級の甲斐谷や明らかに格上のムッターシャにも引けを取らない程。寄って来る石像たちも、明らかに戸惑うレベルで破壊されて行っている。

 そのせいなのか、とうとう前倒しで登場してしまうこのエリアの中ボスである。新たな半裸の巨大石像を数体従えて、現れたのはメデューサと言う大物モンスターだった。


 ギリシャ神話に登場する、元は美女のモンスターで石化能力は超有名だ。髪の毛が蛇になっていたり、特徴は他にも色々とあるらしい。

 目の前のそいつは2メートル超で、こちらも侵入者を前に暴れる気満々のよう。茶々丸が新たな敵の出現に反応するも、それより先に護人は駆け出していた。

 そのサポートにと、周囲の敵を倒し終えたルルンバちゃんも続く。


 彼も立派な来栖家チームの一員で、連携の仕方は何度もその目で見て知っている。安全に狩りを行うには、お手伝い要員は必要だと理解しているのだ。

 強い敵には特に必要で、今はその役を担う頼もしい仲間がいない状況である。それなら自分がやっちゃおうかなと、そんな思考に至った忠実なAIロボだったり。


 幸いにも、ルルンバちゃんには改造パーツでの後付けの破砕アームがくっ付いている。こんな時のためにと、ドワーフ職人の先見の明には大感謝。

 さっきの石像と動く鎧も、彼はそのアームパンチで粉砕して来たのだ。ここに来て万能感が出て来たルルンバちゃんだが、本人には全くその自覚は無いと言う。


 そして先行した護人は、“四腕”を発動してまずは邪魔なお供の石像から始末して行く。メデューサの特殊能力は心配だが、視線を合わせなければ平気だと信じつつ。

 乱暴に振るわれる錫杖の攻撃を、《心眼》スキルで楽々かわして行く護人。ルルンバちゃんのサポートを得て、周囲の従者の群れをシャベルで破壊して行く。

 荒ぶる中ボスだが、その振るう攻撃は護人には届かず。


 ルルンバちゃんは何度か被弾したが、全く効果は無いと言う。恐らくは《石化》の特殊能力も、喰らいながらも効果の無いAIロボに、メデューサも苛立っている事だろう。

 そんな相手の背後を取った護人は、ルルンバちゃんのサポートに感謝しながら最後の仕上げ作業に入る。理力を込めた一撃は、さっきムッターシャに見せて貰った。


 そのお手本は、自身の持つ《心眼》が思いの外理論的に解析してくれていた。手に持つシャベルはサブ武器だが、理力を通すのに不便は無かった。

 そして敵の弱点も、同じく《心眼》で確認済み。


 なるほど、理力を極めればスキルに頼らず大物を始末する事も可能みたいだ。護人に関しては、スキルも大いに併用してしまっているけど。要するに、成長の仕方は甲斐谷ルートも、ムッターシャルートも両方選べるって事でもある。

 両者の良い点を戦闘中に確認出来たのは、この上ない経験だった。その結果、こんなに楽に難敵のメデューサを撃破する事が出来てしまった。


 その次の瞬間に、倒した場所に大き目の宝箱と退去用の魔方陣が出現した。女性型のモンスターがメインで出て来るこのダンジョンも、これにて終了である。

 幸いにも、周囲の雑魚の群れも全て倒し切って既に動く敵影はない。仲間も全員無事のようで、リーダー役の護人としては一安心。


 寄って来る茶々丸とルルンバちゃんを褒めてやって、今回は有益だったなと考えつつ。何とか全員が無事にクリア出来て、その幸運には感謝である。

 後は宝箱の中身をチェックして、さっさとここを出るだけ。





 ――そんな事を考えながら、今回の体験を脳内で反芻はんすうする護人だった。







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