第397話 カオスな状況ながらも探索は順調(?)に進む件



 甲斐谷に鋭く突っ込まれ、さすがに護人も流れで茶々丸に宝珠を使った事を後悔する。まぁどちらにしろ、子供達も割と豊富にスキルを所有しているのだ。

 これ以上覚えたがるとも思えないし、特に怒られはしないだろう。それより宝珠を貰った茶々丸が上機嫌で、高らかにひづめをかき鳴らして喜びを表現している。


 逆にルルンバちゃんは不機嫌そう、この辺の塩梅あんばいは本当に難しい。護人は彼に新たな魔石を与えて、ご機嫌を取りつつさっきの手腕を褒めそやす。

 それから、また飛行系の敵が出て来たら一緒に頑張るぞと語り掛けて。信頼してるアピールをしながら、チームにそろそろ出発しようかと提案した。


 同行者たちは食事も終えて、取り敢えず出発の準備は万端みたい。それからこれ以上来栖家チームに突っ込んでも、得るモノは何も無いなと気付いた模様。

 チームに同行している、AIロボと仔ヤギについては敢えて触れない事に。それは護人にとっても有り難いので、取りつくろった表情を浮かべるのみ。


「前の層を参考にすると、ボスっぽいモンスターを倒せばワープ魔方陣が出現するのかな? 適当に動き回ってても、向こうからこっちを見付けてくれる気もするけど。

 なるべく手っ取り早く、ボス級の敵を探し出したいな」

「ここは樹木の精霊の気が強いな……だとすると、考えられるのは向こうの方向か」

「なるほど、それじゃそっちに進んでみよう」


 ベテラン冒険者のムッターシャの助言に従って、護人は行き先をチームに告げる。心強い同行者の存在に、いつもより心の負担はずっと軽い。

 ただし騒がしい子供達がいないと、何だか心が引き締まらない気がしてしまう。それから献身的なハスキー軍団の不在も、物足りなくて仕方がない。


 それでもパワーと言う点では、この男性陣だけの即席チームは素晴らしい。再び出現し始めた女性型パペットを蹴散らして、更には大蔦おおつたのちょっかい掛けを寸断する。

 そろそろ出るかなと、ムッターシャはそんな道中に周囲を仕切りに伺う素振り。護人も同じく、スキルの《心眼》頼りだが生い茂る樹木に視線を飛ばす。

 そして発見する、一際異彩を放つ古樹の存在を。


 ムッターシャも同意見らしく、そちらに視線を固定して行けるぞのアピール。護人もすかさず先制攻撃の準備、薔薇のマントに投擲用のシャベルを出して貰う。

 そして『掘削』込みの『射撃』スキルでの遠隔攻撃、これが見事に古樹にヒット。その途端に、周囲に耳をつんざく絶叫が響き渡った。


 相手はどうやら、こんな強引な先制打を喰らうとは思っていなかったらしい。古樹の表皮に裸の女性の上半身が浮き上がり、憎々し気にこちらを睨んで来る。

 隣のムッターシャは、アレのHPは恐ろしく高いぞと呑気なコメント。普段だと、レイジーの火炎ブレスやら遣り様は幾らでもあるのだけれど。


 今回のチーム編成では、割と脳筋編成で魔法が得意な者がいない。突っ込んで行きそうな茶々丸を制しつつ、護人はルルンバちゃんの出番だと攻撃の催促を口にする。

 甲斐谷は周囲から出現した大蔦の相手に忙しそう、それらはこっちも目標に伸びて来ている。茶々丸はそれを挑戦と受け取ったようで、そちらに対して特攻を掛けていった。

 とは言え敵の蔦の繁殖力は、その程度では揺らがない模様。


 つまりは、ボスを倒すのが手っ取り早いのは一目瞭然である。ムッターシャも、近付く大蔦に斬りつけながら、アレは恐らくアルラウネだなと説明してくれた。

 その証拠に、大蔦は至る所で綺麗な花を咲かせ始める。その甘い臭いに、男衆は全員が体の芯がしびれたような感覚に陥りそうに。それに気付いた薔薇のマントが、今度はご主人の口元を覆い隠す。


 息が苦しくて仕方無いが、あれだけ元気だった茶々丸などはモロにその臭いを嗅いだみたい。途端にその場にぶっ倒れて、どこかで見たシーンの繰り返し。

 それよりも、ようやくその状況を理解したルルンバちゃん。アレを倒せば良いのかと、自慢の『波動砲』をようやく起動させ始める。

 溜めの必要な大技だが、その威力は絶大で敵の体力は見る間に減って行く。


 そして何と、アルラウネの体力をほぼそのビーム砲の一撃で刈り取ってしまった。止めはその隙に近付いたムッターシャの、愛用のハルバードの一撃。

 2層のボスにしては、とんでもない体力と特殊能力を持っていたモンスターである。途端に難易度が上がった気がして、護人も内心で冷や汗モノ。


 とにかくこの層のボスの駆逐によって、ワープ魔方陣が無事に出現してくれた。他にも魔石(中)が1個とオーブ珠が1個、それから立派なサイズの香木がドロップ。

 宝箱は全く見付かっていないが、このエリアを探し回れば設置されているのかも。まぁ、広過ぎるエリアをこれ以上散策する気も一行には無い。


 そんな訳で、さっさと次の階層に行こうとボス撃破の情緒も無い感じ。彼らにとっては、癖のあるボス級も雑魚とそんなに大差ないのかも。

 とにかくこれで、無事に最終の3層へと侵入を果たす事に。




 つまりは茶々丸も近寄って体を揺らすと、すぐに意識を取り戻してくれた。お騒がせなヤンチャ坊主だけど、各種耐性の低さは気になる所。

 まぁ、まだ子供だし仕方が無いとも取れるのだけれど。そんな仔ヤギが、猪突猛進で敵だろうがボスだろうが突っ込むのはどうかなと思ってしまう。


 そんな事を考えながら、魔方陣を潜った先のフロアを見渡す護人。そこはさっきと全く違う、ピンクの壁紙で統一された室内だった。

 驚く一行だが、置かれてある家具や何やら全てお洒落でまるでおとぎの国だ。目がチカチカする配色は、飾られた絵画や花瓶全てに言える事である。


 まるで女の子が遊ぶドールセットの部屋だなと、護人が思った瞬間に。開け放たれたドアから、ワラワラと入って来るメイド服姿の女性型パペット兵の群れ。

 そいつ等に、さっきの汚名返上とばかりに突っ込む茶々丸である。彼のガッツ魂は、何度か眠らされた位で消え失せるモノでは無いみたい。

 それに一瞬遅れて、甲斐谷も敵の駆逐に参加する。


 その辺は、前衛根性がみついた探索者らしいと言うか。敵の姿を見掛けたら、なるべく早く視界から殲滅するのが一番の安全策と分かっている感じ。

 一方の護人は、サポートは必要無いなと判断して周囲の確認を始める。ダンジョンなのだから、階層渡りで全く違うエリアに飛ばされるなど日常茶飯事。


 とは言え、ここまでの変化だと探索者も戸惑ってしまうのは当たり前だ。少しでもこのフロアの情報を集めようと、護人は壁や床や置かれた家具などをじっくり検証する。

 そしてやっぱり、思い付くのは女の子の遊ぶドールハウスの形状だったり。出現する敵も、まさにそんな感じで女性型パペットが主体である。


 戦闘を一通り終えて戻って来た甲斐谷も、未だにこの変化に戸惑っている様子。こんなモノがドロップしたんだがと、差し出して来たのはまさにメイド服だった。

 受け取る護人だが、子供の内誰が一番喜ぶかなと変な想像に走りそうに。ここの中ボスも女性型モンスターなのかなと、話題をらすような一言を述べる。

 ムッターシャも甲斐谷も、それにはおおむね同意見みたい。


「恐らくは、ドール型の何かだろうね……それからこのフロア、イミテーターに注意だな。話は変わるが、さっき飲んだ果汁ポーションの効き目は凄いね。

 効果もそうだけど、持続時間も倍以上じゃないかい?」

「ああ、それは紗良のとっておきの研究成果だからね。最近はリリアラも参加して、2人で更なる改善に力を注ぎ込んでるみたいだよ。

 2人に渡したのは、主に前衛能力のアップ系だけど。欲しければ、魔力の伸びる後衛系のジュースも持参しているよ」

「うほっ、それは凄いな……ちょっと仲間のお土産用に、今日の帰りに譲ってくれないかい、大将? 金は払うから、是非ぜひともお願いするよ。

 何なら、今回の探索の分け前から引いといてくれてオッケーだ」


 それはちっとも構わないが、そう言えば探索終わりに分け前の分配作業もリーダーの務めみたい。いつもは家族でやっているので、その辺はザル勘定の来栖家チームなのだが。

 今回は、他人同士の即席チームなので、きっちり公平に分けないと揉める原因になってしまう。リーダー業って本当に大変、その辺の重荷も背負わされている訳だ。


 まぁ、平等に3頭分がもっとも無難で波風が立たないだろう。来栖家からはルルンバちゃんと茶々丸も参加しているが、これは誤差の範囲である。

 本人たちは、参加出来れば幸せってオーラが漂い出ているし。護人の扶養家族でもあるので、分け前が無くても文句は出て来ない筈。


 茶々丸に至っては、既に充分過ぎる程の報酬を貰っている。それより調子に乗った仔ヤギが、家具に突撃してまたエラい騒ぎとなっていた。

 とか思ってたら、イミテーターだったと言うオチ。


 これにはムッターシャも驚き顔で、どうやって見分けたのと思わず呟く有り様。甲斐谷も頼もしいなと言う表情で、茶々丸との2トップでどんどん先へと進んで行く。

 そして4つ目のピンクの部屋で、豪華な宝箱を発見する一行。あからさま過ぎるその仕掛けに、果敢に角を突き出して茶々丸が突っ込んで行く。


 そして始まる、ミミックと仔ヤギの壮絶な乱打戦。体格は同じ位で、ミミックは箱の口から大きな蟹のはさみ状の腕を出して攻撃して来ている。

 箱の前面部分は、茶々丸の角の攻撃で既にボロボロだ。それでも痛痒つうようを感じてなさそうなミミックは、意外と強敵の部類に入る敵の模様。

 そんな事情は、しかし仔ヤギには一切関係が無いみたい。


 ただし、手伝いに入ろうとした甲斐谷を蹄で蹴りつけて、お前は邪魔すんなはやり過ぎである。結局は、ゴリゴリの力押しで勝利をもぎ取った茶々丸ではあったけど。

 見返りとして、少なくない怪我を体のあちこちに負う始末。


「茶々丸……今のは褒められないぞ、味方にまで攻撃してどうするんだ! 怪我まで負ってする事か、レイジーが無茶な事してるの見た事無いだろう?

 治療してやるから、少し反省してなさい」

「いや、まぁこっちは蹴られてないし……そこまで怒らなくても、大将」

「ふむっ、モリトは怒れない性格かと思ったけど、なかなか堂に入った叱りっ振りだな。確かに今のは良くなかった、モリトが怒って無かったら俺がおきゅうえてたよ。

 リーダの能力も鍛えられてるね、良い事だよ」


 頼もしそうにそう口にするムッターシャだが、さすがに仲間に攻撃する行為は怒ってやらないと。異世界にお灸の文化があるかは不明だが、《異世界語》スキルは少なくともそう翻訳してくれた。

 リーダーに叱られて、明らかにシュンとしている仔ヤギに同情したのか。甲斐谷が取り成して来るけど、やっぱり仲間への攻撃は悪い事には違いない。


 許すよ以上の事はコメント出来ず、結局は罰としてしばらく戦闘に参加しちゃダメの刑に。それが最後の仕掛け部屋への、壮大な振りになっているとは。

 その時は、全く誰も気が付かなかったのは仕方無いコト。



 そこから更に4部屋を踏破して、出て来た女性型パペットとドール型ゴーストを難なく片付けて行く甲斐谷とムッターシャ。この2トップは最強過ぎて、戦闘もほぼ一瞬で終わってしまう程。

 それで油断した訳では無いが、最後の突き当りの部屋には全く敵影が無く戸惑う両者。そして部屋の奥に設置されていた、華美な全身鏡を思わず覗き込んでしまう甲斐谷であった。


 そして気付いた時には既に手遅れ、仕掛けは鏡の中で作動していると言う有り様。咄嗟とっさに破壊しようと武器を振るうも、強烈な光を浴びて目潰しを喰らう破目に。

 次の瞬間には、その全身鏡はドッペルゲンガーへと姿を変えていた。しかもこのダンジョンの都合上なのか、甲斐谷の女性版の姿での出現と言う。


 目潰しを喰らったお陰で、それを直視出来なかった甲斐谷はある意味幸せ者なのかも。これが茶々丸とかだったら、精神的ショックも少なかっただろうに。

 少なくとも、ルルンバちゃんのカメラはそれをバッチリ撮影中。





 ――こうして3層のボス、“女帝”甲斐谷との戦いが始まった。






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