第396話 ようやく女子禁制ダンジョンの階層渡りに成功する件
「射撃で結構、敵の群れを倒したな、モリト……お陰でボス級のハーピーが、ようやく動き出してくれたみたいだ。
アレを倒せば、何か事態は進展するかもな?」
「おっと、確かに体格と羽根の輝きが他の奴とは違うな。うおっ、風の刃も威力が段違いだ……どうやって倒そうか、ムッターシャ?」
「おいおい、俺をのけ者にするなよ……遠距離攻撃は俺も持ってるぜ、あの敵は俺に任せてくれよ、大将」
護人の呼び名がリーダーから大将に変わっているが、まぁ
そもそもこの2人を誘ったのは、A級以上の探索者の戦い方を間近で見るためでもある。要するに勉強だ、護人が目立つためでは全く無い。
後でムッターシャにも見せ場を作らなければとか思いつつ、護人は戦いの準備をする“皇帝”甲斐谷を注視する。そんな彼はまだ20代ながらも、ずば抜けた戦闘能力を有するとの噂である。
手にするのは立派な片手剣で、盾の類いは持っていない。チームに盾役がいるので、自身は恐らく近接アタッカーに専念しているのだろう。
しかし甲斐谷が今回披露したのは、光で出来た3本の剣だった。タゲを取ったせいで風の刃が頻繁に飛んで来るけど、甲斐谷は全て片手剣で払い
それから出現させた光の剣を、物凄い速さで上空にいる特殊ハーピーへと射出して行く。狙い違わずに、その剣は次々と敵の体を貫いた。
中ボスは無残に地面に落下し、それからワープ魔方陣へと変わって行った。
「ふむっ、そう言う仕掛けだったか……これで次の層へと向かえる訳だ、ちなみに退出は不可能みたいだな。
まぁたった3層って話だし、クリアした方が早いな」
「そうだな、しかし……戦い方を見習おうと思って見てたけど、何とも力技だったなぁ。まぁスキルを極めれば、あんな出力を出せるって事だろう。
そう言う戦術も、アリっちゃアリなのかな?」
「何だモリト、戦い方の参考が欲しかったのか……そう言えば、最近は長刀を使って訓練しているな。俺たち異界の冒険者は、スキルの恩恵は薄いしそっちを頼りにはしてないんだが。
そう言う事なら、剣での戦い方を見せてやろうか?」
そう言うムッターシャの得物は、普段は長大なハルバードである。俗に言う槍斧で、槍の先に斧がくっ付いた破壊力のある武器である。
その分、扱いは大変で
その威力は、護人もいつもの訓練で見知って理解している。まさかそんな彼が、剣の扱いにも長けていたとは全く知らなかった。2人の話を聞いていた薔薇のマントが、予備の白刃の木刀をペッと吐き出してくれた。
気の利かし方は何と言うか、ご主人の役に立って見せろ的な
ルルンバちゃんがいち早くワープ魔方陣に近付いて行き、ドロップ品を確定したようだ。魔石(中)が1個と、良い香りを放つ苔のシートが魔方陣の側に落ちていた模様。
護人はそれらを、丁寧に魔法の鞄へと放り込む。
ちなみに今回は、魔法の鞄もルルンバちゃんに縛り付けてあったりする。荷物運びも撮影もお手の物、とにかく万能選手振りが際立つAIロボである。
その作業が終わると、一同はほぼ休憩も無しに次の層へと移動する。まだ突入して30分程度なので、必要無いとのそれぞれの判断である。
茶々丸もまだまだ元気、と言うか空の敵に手が出ないフラストレーションが凄いみたい。護人はそんな仔ヤギを
スキルと言うのは不思議なモノで、必死にそれを願えば身につく確率は跳ね上がるとの統計が。たった1年の活動ではあるが、それを身に染みて感じる護人である。
ただまぁ、茶々丸がそれを心から欲するかはまた別の話。
そして辿り着いた2層目のフロアだが、やっぱり先程と同じく崩れかけた廃墟なテイスト。空が見通せるうえに、どちらに進むべきかも分からないと言う。
甲斐谷も困った顔で、また天井に抜けて移動しようかと提案して来る。ところがその前に、どうやら向こうから歓迎の敵軍が近付いて来てくれた模様。
しかも今度は、割と大量のお出迎え……ムッターシャの推測通り、このエリアの特徴の女性型モンスターが結構混ざっている。と言っても、女性型のパペットってだけの話だが。
性能的に普通のパペットと違うのかと聞かれれば、そんな事も無い感じ。その1ダース以上の群れに、ここは俺に任せてくれとムッターシャが飛び込んで行く。
そして披露された剣
派手な動きはまるで無く、むしろ静かで体の正中線は全くの乱れが無い。その代わり、白刃の木刀はまるで生き物のように、彼の手首の
敵を倒すには、剣を振りかぶって頭から叩き斬らねばと言う概念が、
甲斐谷もその彼の剣技には、驚いて声も無い様子である。さすがに異界育ちは根本が違う、普通に戦いが生活に組み込まれていたような自然な身体捌き。
何と言うか、剣を大袈裟に振り回すのではなく、手首の強さで剣先の軌道を操っている感じ。全てのパペットを倒し終わっても、残心でその場に立ち尽くす姿は凄味すらある。
最近ようやく護人も分かり始めたのだが、理力を効率的に使うとこんな動きも可能になる良い例なのだろう。思わず見とれてしまったが、まさに達人の技である。
構えを解いて戻って来たムッターシャは、今の動きについて説明を始める。つまりはこの魔素で構成された“ダンジョン”は、敵を倒せばモンスターは魔石に変わる。
つまり、余計な力はほぼ必要無いのだよと。
「俺たちの世界の自然のダンジョンは、モンスターを倒しても死体は消えてはくれないからな。油断してると死に際の反撃を受けるし、そうで無くても敵の血肉で刃の切れ味は落ちて行く。
コアダンジョンは、その点では敵の死は
まぁ、ズブガジの消費する魔石を、自分達で集めるって意味もあるけど」
「へえっ、それにしても凄い技術だな……前に君たち異世界人は、スキル書を覚えても恩恵はあまり大きくないって言ってたけど。
だとしたら、さっきの剣技も自己修練のみで得たモノなんだな」
素直に感心するしかない護人だが、似たような感覚は実は自分の中にもあったりする。“喰らうモノ”の探索失敗から呪いを掛けられた際の、夢空間での鎧騎士との無限戦闘。
あの経験で、得意とは言えなかった長剣での戦闘が何とか形になったのだ。修練とは、ある意味スキルでの取得より強力になり得るとの良い証明である。
もちろんスキルの強化も探索には必要だし、甲斐谷などはその典型パターンだろう。先ほどのボスハーピーを仕留めた手腕は、まさにスキル運用の最高峰とも言える。
吉和の遠征での大ボスを倒した際の戦闘も、まさにそんな感じで超巨大な蜘蛛を倒していた。一般常識では不可能な打撃力も、スキルを使えば可能なのだ。
護人の《奥の手》もまさにそうで、人間には3本目の腕などありはしない。それを可能にするスキルと言うのは、戦闘に
それに対してムッターシャの能力は、単純に言うと武芸を極めたって感じである。その上で超越した技を、理力をつかって発現しているって理屈だろうか。
強さの極め方は、1通りでは無いと言うのは面白いかも。
ムッターシャの話を通訳して甲斐谷にも話してやると、向こうも成る程と物凄く感心した様子。俺も何週間か弟子入りしようかなぁと、冗談に聞こえない独り言を呟く有り様である。
確かに来栖家の現状は、炎の魔人の師匠を始め、ザジの罠探知の訓練やらリリアラの魔術系の修練やら。いつの間にか、やたらと教え手が豪華になって来ている気が。
良い事には違いないし、チームの底上げには欠かせない土台の構築に。最近はムッターシャも関わってくれているのは、物凄く有り難い事実だったりする。
確かにまぁ、甲斐谷が羨むのも仕方が無いかも?
そんな話を交えながら、探索の続きは順調に進んで行く。遺跡の跡地を適当に進んで行くと、いつしか遺跡の石壁よりも植物が目立つようになって来た。
そこから発される妖しい甘い臭いに、顔をしかめる護人と同行者たち。また何かしらの仕掛けかと思ったら、遺跡の奥から重低音の羽音が響いて来る。
護人は聞き慣れているが、これは蜂とかその手のモンスターだろう。案の定、生い茂った木立の間を縫って出て来たのは巨大な蜂の群れだった。
ダンジョンの方向性からして、中央に位置する一際巨大な奴が女王蜂なのだろう。お供の護衛バチですら、バランスボール程の大きさがあって威圧感が半端ない。
針の長さも、アイスピックくらいはありそう……ましてや女王蜂のそれは、長包丁くらいあって凶器としては充分なサイズ感。間違っても、あんなのに刺されたくはない。
近付かれる前に撃墜しようと、護人は弓矢で撃墜へと動く。ルルンバちゃんも追従して、案外とこのペア組は上手く行っている感じがする。
ただし弾の魔玉が切れると、当然射撃も行えなくなる訳で。
その最大の弱点を、必殺ビームでフォローするルルンバちゃんであった。結局はその一撃で、人より大きな女王蜂を撃破してしまう剛腕振り。
ムッターシャもこれには感心して、ウチのズブガジとタメ張る攻撃力かもなと一言呟く。どうやら魔導ゴーレムの一人者からも、お墨付きを貰ったようで何より。
その後に、魔銃の弾込めを
意外と上手く行ってるこのペア組に、茶々丸が焼き餅を焼くと言う良く分からない流れ。ちなみに今は小休憩中で、他の2人には来栖家特製の果汁ポーションを振る舞っている所である。
紗良が持たせてくれた魔法の鞄には、ちゃんといつもの探索セットが詰め込まれている。軽食まで用意されていて、何と言うか至れり尽くせり。
2人とも軽食も所望したので、小休憩が本格休憩になってしまった。この辺のおおらかさは、さすがに両者とも大物だなって護人などは思ってしまう。
まぁ、来栖家の子供達も
「それにしても、女性型モンスターがメインで配置されてるダンジョンなんて凄いな。だとしたら、男性が入れない反対側の2枚の扉はどうなってしまうんだ?
姫香たちは探索に行くって張り切ってたし、変な仕掛けでなけりゃ良いんだけどな……」
「むうっ、確かにな……まぁ何事も経験だよ、モリト。モリトは過保護な所があるからな、もう少し子供達を独り立ちさせるようして行かないと。
立派な探索者を育てるには、何事も経験だよ」
そう言うムッターシャだが、護人は特に子供達を立派な探索者に仕立て上げたくは無い。その答えに対しては、むうっと
ムッターシャの言葉が理解出来ない甲斐谷が、仕切りに通訳を求めて来る。そう言えば協会の本部長に、《異世界語》の宝珠を貰ったんだと思い出して、ムッターシャに使って貰う事に。
体裁としては、今回の探索に付き合ってくれたお礼と言う事で。これでお隣さん達とも自由に会話が出来るようになるし、異世界語が通じない問題は一気に解決だ。
感謝するムッターシャだが、高価な宝珠をホイホイと他人に融通する姿に甲斐谷は呆れた様子。しかもその後、自分も欲しいと駄々を
うっかりと、もう1つの宝珠《マナプール》を使ってしまうとは、完全に計算外だったみたい。その懐の
一方の、貰った茶々丸は有頂天で周囲を飛び回っている。ルルンバちゃんまで、良いなぁとちょっと羨まし気な視線を向けて来てたりして。
とんだカオスな状況、作り出したのは護人ではあるのだが。
――こんな調子で、この先の探索は上手く行くのかちょっと不安?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます