第395話 ひょんな事から男のダンジョン祭りが開催される件
そんな訳で、リリアラと甲斐谷が満足したタイミングで、一行は再び装置を起動させて帰路についた。改めてそのワープ移動の手段に、凄く便利だなって感想のメンバー達である。
これで本当に、自宅からダンジョン通いの時代が到来してしまう可能性が。実際は、近場のダンジョンゲートを利用して、そのゲート同士を繋げてしまう仕様みたい。それはともかく、リリアラとレイジーを除く面々は午後からもう一仕事残っている。
しかも同じ“鼠ダンジョン”の敷地内で、護人は皆を3層の入り口まで案内する。それから、ダンジョンの特性を細かく説明しての探索前の準備を始める。
つまりはこっちの2つの扉は、どうやら女子禁制らしいと言う情報である。それからダンジョンの特徴として、1フロアで出て来る敵の数がとっても多いとの周知などを少々。
後はまぁ、自分より随分と経験もレベルも上の探索者の2人である。取り立てて注意するのもおこがましいし、今回は勉強させて貰いますってなモノ。
そんな2人だが、甲斐谷の方はムッターシャをかなり意識している様子。向こうは押しも押されぬ広島のナンバーワン探索者だが、異世界の探索者の実力と較べてみたいって思いがアリアリである。
若いなぁと思うが、確かに甲斐谷は護人より10歳も年下なのだ。
気持ちは分からないでも無いが、ムッターシャは護人とほぼ同年代である。冒険者歴を訊ねると、10代の頃からなので何と20年以上との話。
甲斐谷と較べると4倍近い経験値、懐の深さは段違いだと思われる。護人からしてみれば、無事にこの探索が終わってくれれば言う事無し。
その上で、自分も何か吸収するモノがあれば良いかなって感じでの参加である。この“女子禁制ダンジョン”の攻略については、まぁ二の次でも全然構わない。
今日が駄目でも、後日にゼミ生の大地や凛香チームの隼人を誘って来れば良いのだ。そんな感じで気楽に考えながら、数分後には扉ばかりの0層フロアに到着する。
そこまで付いて来たレイジーに、行って来るよと告げての出発。
「なるほど、動物もメスは
興味深いギミックだな、後でリリアラに話してやろう」
「茶々丸もルルンバちゃんも、無事に通れたみたいだな……良かった、それじゃあルルンバちゃんには今回撮影役を頼んだぞ。
前面のフレームにスマホを固定してあるから、急な動きは気をつけて」
「なるほど、色々と便利なAIロボだなぁ……飽くまでサポートに使うのも面白い、戦えばとっても強そうなのに。
その砲塔は見せかけじゃ無いんだろう、護人の旦那?」
護人は肩を
負けるモノかと
ただし、空が見えているのでフィールド型のフロアなのかも知れない。どことなく湿った空気を感じるが、寒いって程でも無くむしろ少し蒸した気温かも。
今回はどんな仕掛けかなと、隣で
その辺は慎重に見極めないと、ドツボに
ムッターシャや甲斐谷からすれば、いつもと変わらないと思っているだろうけど。護人にとっては、騒がしい子供達がいないのは少々寂しい限りである。
まぁ、その分探索には集中出来るかも。
「ふむっ、本当に変わったダンジョンだな……前情報では3層構造で敵は大量に出現だったか。確かに経験値を稼ぐと言う点では、優れた狩場かもな。
あの石の構造物付近に、雑魚っぽいのが固まっているかな?」
「今回はどんな仕様か分からないけど、敵が多いのは確定だと思うよ。2人が前衛をするなら、こっちは弓での援護に徹するけどどうだい?」
「俺は前衛で構わないぜ、いつもの役回りでやらせて貰おうかな? これだけのメンツなら、戦力不足って事も無いだろうし」
護人の提案に簡単に乗った甲斐谷は、どうやらヤル気満々の様子で敵のいる方向へと向かっている。それについて行く茶々丸も、やっぱりヤル気満々。
そして遺跡の岩場の影から出て来た、大トカゲとダチョウに似たモンスターと早速派手に遣り合っている。年配のムッターシャは、余裕の位置取りでせかせかした感じも無し。
護人も『射撃』スキルでの援護で、途中に襲撃して来た
たった今撃破した敵の数は、10匹と少しだろうか。律儀にルルンバちゃんが魔石を拾って回っていて、ムッターシャがそれを手伝っている。
護人と甲斐谷は、新たな敵の襲撃に備えつつ進む方向を感知している。即席ながら、役割分担も何となく割り振られて順調なスタートかも。
それより遺跡型のフロアは、やっぱりどこも屋根が壊れて空が素通しだ。それをどう
そこが女子禁制ダンジョンと、どう言う風に結びつく?
「敵の気配は、この遺跡の奥が一番濃い感じかな? 恐らくそこに、次のフロアへの階段だかゲートがあるんだろう。
そっちに進むでいいかな、護人リーダー?」
「おっと、俺がリーダーなのか……そうだな、罠と待ち伏せに気をつけながらそっちに向かおうか。ギミック系の意地悪仕様は、そんなに無いとは思うけど。
探索の得意なハスキー達もいないし、移動は慎重に」
「了解した、ボス……なかなか新鮮だな、チーム以外の冒険者と組むのは。おっと、こっちでは探索者と呼ぶんだったかな?
ズブガジも連れて来たかったな、最近は奴も退屈してたから」
護人もズブガジがどんな風に戦闘をこなすのか、ぜひ見てみたかったけど仕方がない。ルルンバちゃんとの2トップなんてさせたら、エリアの地形が変わる可能性もあったかも。
とは言え、このムッターシャと甲斐谷のコンビも未知数だけにかなり怖い。護人とルルンバちゃんは出しゃばらないスタイルだが、それでも前衛は足りてそう。
ヤン茶々丸も、張り合って無茶は絶対にやめて欲しい。何しろ今回は、治療役の紗良もいないのだ。魔法の鞄にポーション類は多めに入っているけど、それでも心配ではある。
そんな護人の不安など構わず、甲斐谷はズンズンと奥へ進んで行く。しばらく進むと、再び敵の襲撃が激しくなって来た。種類はさっきと同じで、鳥系がメインだ。
迎え撃つ前衛陣だが、不意に茶々丸が四肢を折ってうずくまってしまった。驚く護人だが、ムッターシャと甲斐谷の動きもどこかぎこちない感じ。
その異変に、背中の薔薇のマントが素早く反応した。ご主人の耳を塞いで、まるでヘッドホンのように頭部を守る態勢に変化して行ったのだ。
驚く護人だが、その後の行動は素早かった。
すぐにルルンバちゃんを引き連れて、前線に飛び出て茶々丸を回収する。幸い息はあるようで、即死系の攻撃をうっかり受けた訳で無さそうで良かった。
その原因を探りながら、護人は迫って来る敵たちを返り討ちにして行く。そうこうしていると、ムッターシャが思い切り跳躍して遺跡の柱を伝って上方へ。
護人も《奥の手》を使って、その立体機動に追い
不用意に近付くと、その歌声は何とも脳を揺さぶって来た。
そんな女性の姿のモンスターは、確かにこちらの物語でも有名かも。海辺だと“セイレーン”と呼ばれ、“ハーピー”ともよく混同される半人半鳥のモンスターだ。
その歌声で人を魅了するとか、眠らせるとか言われて恐れられているモンスターだ。確かに護人も、薔薇のマントの保護が無ければ
茶々丸なんて、アレは恐らく歌声で戦闘中に眠り込んでしまったのだろう。接近戦に持ち込んでしまえば、飛び去られない限りはそれ程怖くない敵だけれど。
何も対応出来ない間に、こちらの全員が戦闘不能に追い込まれた可能性もあった訳で。そう言う意味では、かなり恐ろしい仕掛けだった気がする。
今はもう、ムッターシャと護人で処理は全て終わった所。
「やっぱり癖の強いダンジョンだな……女子禁制だから何かあるとは思ってたけど、どうやら女性型のモンスターが出る仕掛けなのかもな。
異世界でも厄介な存在だったよ、ハーピーの歌に乗せた『風の眠り』系のスキルは。奴らは元々が、風の精霊から派生したモンスターだからな」
「こっちもマントの保護が無ければ、茶々丸みたいに眠りこけてたかもな……確かに癖があるって言うか、恐ろしい仕掛けだなぁ。
さすがムッターシャ、冒険で蓄積した経験値が違うな」
柱の上は遺跡の屋根みたいになっていて、半ば崩れかけて割と酷い有り様だった。その屋根の上に、さっきのハーピーたちが待ち伏せして隠れていたらしい。
地上の戦いも、甲斐谷が何とか全て片付けてくれており。ルルンバちゃんも少し手伝ったらしく、今はようやく起きた茶々丸が護人を探してキョロキョロしている。
やっぱりまだ子供だけに、保護者がいないと不安らしいこの仔ヤギ。ルルンバちゃんが上だよと教えてくれて、ようやくその姿を見付けて安心している。
それより5メートル程度の柱を登ったためか、このフロアの全貌が何となく分かって来た。遺跡の廃墟には間違い無いが、明らかに怪しい場所が遺跡の天井に存在していたのだ。
ムッターシャも、どうやらそちらが気になっている様子である。って言うか、茶々丸がこちらに合流しようと、倒れかけた柱を楽々登って来た。
仕舞いには甲斐谷とルルンバちゃんも、柱を登って天井組に合流する。そして目の前に
どうやら、目的地はあちらの方向だと全員の意見は一致。
「そうすると、地面を行くよりも天井に沿って進んだ方がいいのかな? それだと、鳥系のモンスターに狙われ放題になってしまうけど」
「う~ん、こっちは戦力もそれなりに整ってるし、まっすぐ進むで問題無いんじゃないか? あの樹の下に階段があるのかな、大将?」
「恐らくそうだろう……ハーピーの『風の眠り』の呪文に気をつけて、それじゃあ遺跡の天井伝いにあの大きな樹を目指そうか。
茶々丸もルルンバちゃんも、天井伝いの移動は問題無いかな?」
護人の言葉に、大丈夫と張り切ってるアピールを返す両者である。どうやら仔ヤギもAIロボも、しっかりとリーダーの護人の言葉を理解している模様だ。
香多奈がいない現状、その事実はとても頼もしい。とは言え、何だか自分も人外のルートに踏み込んだみたいで、少しソワソワしてしまう護人だったり。
まぁ、これも家族の愛情による意思疎通と思えば案外と平気かも。それより空を飛んで接近する、大鷲やらハーピーやらの数が増えて来た。
それを始末するべく、護人が弓矢での攻撃を加えて行く。その真似をするように、ルルンバちゃんも魔銃での援護を始めてくれる。
どうやら今回は、いつもと違って仲間が少ないので活躍するチャンスと思っているのかも。反対に茶々丸は、空からの襲撃に思うように攻撃が届かない様子。
隣で苛立つヤンチャな仔ヤギを
どこかに次の層への階段か、はたまたゲートが存在する筈なのだが。それよりハーピーの風系の呪文が、高い所から降り注いで来て厄介この上ない。
ムッターシャも言っていた『風の眠り』の他に、どうやら連中は風の刃も飛ばして来ていた。そして女性型モンスターだけあって、何と言うか色っぽい容姿が目立っている。
つまりはどのハーピーも、バスト丸出しで飛び回っており。射落とす護人も、何となく罪悪感を感じてしまうのは仕方の無い事か。
それも当然、来栖家の子供達は姫香を始め全員が年頃の女性なのだ。幸いにも、倒す端から魔石に変わって行ってくれるので、精神的な負担はそこまで大きくは無い。
それでもやっぱり、このエリアはさっさと抜けてしまいたい。
――それにしても、次の層への入り口はどこ?
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