第391話 姫香チームとキッズチームで火花が飛び散る件



 キッズ達の、保護者同伴のダンジョン探索から1日明けての日曜日。その日も家族は早起きで、家畜の世話から朝の日課が始まっている。

 お泊り組は、まだこの早起きに慣れない様子でひたすら眠そう。完全に順応しているのはみっちゃん1人で、さすが島育ちの元気少女である。


 そして今日の予定だが、キッズチームは当然探索の計画は全く無い。お姉さんチームも休養日で、何をしようかと話し合っている所である。

 そんな中、末妹の香多奈だけは超元気で、昨日の回収アイテムを魔法の鞄から取り出している。そして床に広げては、ニマニマしながら眺めていると言う。


 その内に妖精ちゃんが飛んで来て、鑑定するのかと問うて来た。その流れで、自分達もこの前の回収品の鑑定をしようかと、姫香とお泊まり組も話し合う。

 私たちの戦利品と混ぜないでよねと、香多奈は姉に注意を飛ばしている。どうやら自分達の探索の方が、成功したとマウントを取りたい様子である。

 何しろ、8層で戻ってるけど一応はレア種も倒しているのだ。


 一方のお姉さんチームは、15層まで攻略したけど回収品は平凡そのもの。お互いに動画を観合ったけど、何と言うかチビッ子軍団の方が統制がとれていたような?

 護人やペット達の加勢は確かに大きかったが、初探索にしては上出来だったと香多奈も思う。その功績を、自慢したくって仕方がない末妹だったり。


「何言ってるのよ、レア種も中ボスもペット達の功績じゃん! アンタが鼻高々になるのはお門違いだよっ、図に乗ってるとすぐに痛い目を見る事になるからね!」

「何よっ、お姉ちゃん達だってルルンバちゃんの力を借りてたじゃんっ! 私たちだけで頑張った所だって、いっぱいあるもんねっ。

 そうだよね、叔父さんっ!?」

「ん、ああ……まぁ、そうだな。でもお姉ちゃんの言う通りに、調子に乗ったらダメだぞ、香多奈。子供達だけで探索に出たり、そんな事したらもう2度と探索に連れて行かないからな。

 探索者登録も、せめてもう3年待ちなさい」


 とは言え、協会での換金は登録者の同行が必須ではある。そうすると、子供チームの今回の探索は実績に計上されない可能性も出て来てしまう。

 熊爺と協会の仁志にし支部長を交えて、護人もその辺を話し合った結果。何とか天馬と龍星だけは、協会に探索者登録を許可して貰った次第である。


 護人も熊爺も、後継人としてこの双子を見守る事を承諾して。来栖家のギルド『日馬割』にも正式に入会、晴れてメンバーの一員となって貰った。

 そんな訳で、今日の午後には一緒に協会へと換金に向かう予定である。それがいつもの姉妹喧嘩から、それなら今回の売り上げで勝負しようと言う事になって。


 護人も紗良も止しなさいと制止するのだが、こうなったら歯止めが効かない姉妹である。仲が良い程喧嘩するし、一番の仲良しはライバルでもあるのだ。

 その辺は、最初から姉妹のいなかった紗良には全く分からない感情である。ヒートアップした姉妹をなだめながらも、朝食の後片付けを星羅せいらと行う彼女。


 それを眺めるお泊まり組は、面白そうだなと姉妹の競争を後押ししているから始末が悪い。まぁ、探索の無い日は基本何もイベントが無いので仕方が無い。

 そんな訳で、まずはリビングでの鑑定チェックから。



 *~*女子チーム*~*

【革の小手】装備効果:器用up・小

【闇のローブ】装備効果:闇耐性&魔法耐性・中

【闇の杖】装備効果:闇召喚&魔法攻撃up・中


その他:『強化の巻物』 (耐性)×2、『強化の巻物』 (闇属性)×2



 *~*キッズチーム*~*

【オリハルインゴット】使用効果:魔力伝導up・金属素材

【スライムゼリー】使用効果:魔法液体・薬品素材




 両チームとも魔法アイテムの回収は、いつもより随分と少なかったみたい。スキル書やオーブ珠の数も、ほぼ似たり寄ったりな感じに落ち着いている。

 キッズチームなど、レア種を倒してこの数である。まぁ、8層までしか潜って無いので仕方無い。一方の女子チームは、15層潜ったのに少し物足りない感じ。


 その辺は運もあるし、宝箱の中身など指定は出来ないので仕方がない。階層の探索は女子チームの方が倍だし、そう思うと姫香が自信満々なのも頷ける。

 その勢いのまま、両者は協会に魔石売りに行くよとの流れとなった。仲介役の護人は、どっちが勝っても揉めそうで今から胃の痛む思いだったり。


 それでも動画依頼と魔石の換金は、香多奈が休みのこの日曜日にすべきである。キッズチームの面々は今日は不在だけど、換金が終わったら分配すれば良いだろう。

 そんな感じで、午前中から出発の準備を始める一行。アイテムの入った魔法の鞄を用意して、ワイワイと騒ぎながらキャンピングカーへと乗り込んで行く。

 そこはお泊まり組も交えて、結構な大騒ぎ振りである。


 もっとも、星羅と茶々丸は毎度のお留守番だけど。お隣の和香と穂積にも、今回は敢えて声を掛けずに出掛ける事に。何しろお泊まり組だけで、既に車内は満杯状態なのだ。

 ハスキー達はもちろん警護犬なので、常時の同行は当然である。そうして麓へと向かって、いつものルートで協会の日馬桜町支部へと辿り着く。


 既に電話で知らせてあったので、協会では能見さんが笑顔で出迎えてくれた。そこからは、いつもと同じ席での動画チェック&魔石の換金依頼の流れに。

 いつもと違うのは、2チーム別々の換金依頼と動画の本数も2本ある事である。能見さんは動画の編集について、2本立てで行きましょうかと言いながら今回の探索を視聴している。


 相変わらず自分の探索動画の時には、横から解説がうるさい程の香多奈なのだが。姉たちの動画の番になると、お姉ちゃんも頑張ったねぇと何故か上から視線と言う。

 姫香は妹の頭をポカンと叩きながら、余裕だったけどねとうそぶいてみせる。とは言え大変だったのは確かで、次の探索も少々思いやられる感じかも。

 お泊まり組の面々は、姉妹とは別に動画のチェックに盛り上がっている。


「こうして見ると、かなりバタバタしているな……もう少しスマートに探索しないと、余裕の無さは怪我やアクシデントに直結するぞ?

 今回のスキル書の相性チェックも全滅だったし、新しい力は得れなかった訳だが。それだけに、次の探索までに意識改革が必要だな。

 そうじゃないか、姫香?」

「そうだね、さっきの双子の動画の戦闘シーン観た? 私たちより随分と年下なのに、凄く綺麗なコンビプレーだったよね。ハスキー達も、手出ししなくても良いかなって顔してたし。

 この子たちは、双子ならではの動きだよね。相手のする事を分かってる感じ?」

「う~ん、姫ちゃんとツグミちゃんのコンビは、後ろから見てて物凄く安定してたよ? 今回はそれを中央に置いて、隣を陽菜ちゃんかみっちゃんで固めてたよね?

 その配置は、割と上手く行ってたと思うけどなぁ」


 問題はヤン茶々丸なのだが、戦力的には素晴らしい戦果を挙げていて文句も言えない。何しろ、地面を這う敵を倒すのに女子チームがあれだけ苦労していたのだ。

 それをひづめでのスタンプ攻撃で、効果的にゴキを倒してくれてチーム的には大助かりだった。多少チームで浮いた行動をしていても、それをとがめられないのも当然だ。


 そんな感じでお姉さんたちが難しい話を始めて、バトル形式をスカされた香多奈はむくれ気味。それでも反省会は大事だし、動画を観ながらは効果的である。

 護人がねた末妹の頭を撫でながら、キッズチームのお金の分配方法を問うて来る。回収したアイテムに関しては、魔石と薬品類は全部売ってお金にするのは簡単である。

 ただし、それ以外の品物については換金化も困難なのだ。


 企業に一括いっかつで売るか、それとも青空市で自分達で売るかしないと。香多奈は当然自分達で売って稼ぐのだと、鼻息も荒く告げて来た。

 その売り上げも、どうやら姉達と競ってみたい感じの末妹である。姉妹で仲良くしなさいと、護人の言う事など聞き入れてくれそうもない。


 姉の姫香の方も、受けて立ってあげるよとのスタンスで完全に競争を面白がる始末。他のお泊まり組は、飽くまで真面目に次の探索へのチーム修正案を語っている。

 この辺はさすがに探索慣れしていて、来栖家も見習うレベルかも。思えば毎回の探索終わりでも、そんな反省会はした事は無かった気が。


 やるとしたら、精々が動画チェックでの香多奈と能見さんの遣り取り位だ。あの時は凄かったとか、ここは編集でぜひ使ってねとかそんな感じ。

 ただまぁ、みんな一緒に動画のチェックをしてるので、各自で復習みたいな事は脳内でしているとも。護人にしても、以前ほど探索に後ろ向きではない。

 年少チームも増えて来たのだ、重責も自然と増えて来る。


 そんな事を考えてると、江川が両チームの換金が終了したと言って来た。結果を待ちびていた姉妹は、さあどうなったと前のめりな表情に。

 まずは女子チームだが、魔石の売り上げが140万で薬品系が50万円。依頼料その他で10万ちょっとと、合計で約200万円程となった。


 対するキッズチームは、魔石が60万円で薬品系が155万円。その他鑑定の書や魔玉の売り上げが5万円程度で、合計で220万円程度となって。

 キッズチームは、中級エリクサーを回収したのがとっても大きい。一方の女子チームは、さすが15層も潜っただけあって、魔石の売り上げは凄い。


 更には上級ポーションや初級エリクサーもゲットして、依頼料までせしめている。スキル書の数も1枚多いので、それらを売れば売り上げは逆転する感じ。

 それを踏まえて、これは引き分けかなと護人の公平? な判定が下された。納得出来ない香多奈は、それじゃあ青空市で勝負だねと引き続き対決の構え。

 それには姫香も、望むところよと熱く応じている。


 実はキッズチームは、レア種を倒した際に『オリハルインゴット』をゲットしていたのだが。倒したのはペット達と言う事で、これは来栖家に権利を融通したと言う流れが。

 なので売り上げで勝負出来るのは、この協会での換金と青空市でしか手段が無い。その点は護人も安心だ、何しろ今回の回収品には高価な物は混じってなかったから。



 そして能見さんとの動画チェックも終わり、換金されたお金もしっかりと受け取って。後は帰りに熊爺の家によって、分け前を双子に渡す作業を残すのみ。

 もちろんお隣さんにも寄るけど、そこは家も近いのでいつでも渡す事が可能である。それが終わったら、植松の爺婆の所によって何かおやつを作ろうかって話に。


 双子に関しては、初めての探索同行だったので、直接会って精神的な負荷が無かったか確認しておきたい。子供の心のケアは、どう考えても大人の役割には違いなく。

 それでも現状、和香と穂積を含めて彼らには頼りになる兄弟がいる。崩壊したこの現代を、一緒に生き抜いた頼りになる血の繋がらない肉親たちが。


 熊爺もあれで子供の面倒見も良いし、今後の探索についても特に反対はしていなかった。それでも双子が今回の同行で、心に負担を負ったなら話は全く変わって来る。

 恐らくそうなった場合、せっかくの探索者登録もお流れとなる可能性が高い。そうなると香多奈は残念がるだろうけど、護人としては諦めるしかない。

 むしろ自分が至らなかったと、前回の探索結果を責めるだろう。


 ダンジョン探索は儲かるけれど、それは危険と隣り合わせだからに他ならない。子供のする仕事では無いとさえ、護人は正直思っている。

 それても平時の危険に対処する力だとか、仲間との絆だとか。他では味わえない感動や感謝も、得られる場所だとも感じていて。

 せめてそれに気付くまでは、彼らに続けて欲しい気も。





 ――もちろん、その場合は護人の負担も増えるのだけれど。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る