第382話 『日馬割』ギルドの女子チームが活躍する件



 その日は朝からお泊まり女子たちと、来栖家の紗良と姫香は探索準備に大わらわ。香多奈は護人の送迎で、お隣のキッズと一緒に小学校へと通学中だ。

 前日には、この抜け駆け探索をかなりブー垂れて批難していた末妹だったけど。また叔父さんに連れて行って貰うもんねと、自分の権利をしっかり主張して留飲りゅういんを下げた模様。


 つまり姉達と自分の探索回数は、飽くまで平等でなければならないと。変なルールを主張する少女に、どうやら今回も巻き込まれそうな護人保護者である。

 更には、ウチのチームは凛香チームの和香と穂積と、それから熊爺の所の双子で組むもんねと。平均年齢の低過ぎるチーム結成を、自慢げに話す香多奈である。


 そんなチームは危ないし、保護者の負担が大き過ぎる。そう𠮟り付ける常識派の姫香だが、凛香お姉ちゃんと熊爺の許可は貰ってるもんと強気な少女の発言である。

 どうやらこの春になって、色々と事態は動き始めているようだ。特にこの日馬桜ひまさくら町は、例の“春先の異変”で少なくない被害を出した事もあって。

 年齢関係なく、自分達で対処すべしの精神が一層強まった感がある。


 そしてそれを実践するには、自身の強さが必要になって来る訳だ。和香と穂積も、それからもちろん熊爺家の双子も、最近は来栖家の特訓に熱心に参加している。

 夕方の、たった1時間程度のお遊びと言うなかれ。それでも毎日参加すれば、それなりの技量も身につくしスタミナだって向上する。残念ながら、双子は週に2~3回程度の参加だけど。


 和香と穂積に至っては、毎日元気に参加して香多奈と真面目に訓練に励んでいる。その原動力は、将来的に兄姉のチームに入れて貰うとの夢の実現である。

 香多奈はこっそり、同年代での自分のチームの結成を目論んでいたりするけど。小学校の仲良し同級生に和香と穂積、それから双子が入ればもう完璧だ。


 後はコロ助やミケさん、それからルルンバちゃんや茶々丸や萌を譲り受ければ鬼に金棒。その頃には、叔父や姉達は探索者を引退してのんびり暮らせば良いのだ。

 叔父は元々から探索者などやりたくない人だし、姉達だってその頃には結婚しているかもだ。叔父には育てて貰った恩を返したいし、何より探索者って格好良い!

 お金も儲かる上、色んなダンジョンを間引きすれば褒めて貰える。



 そんな少女の内心など、さすがに実の姉と言えども分かる訳もない。とは言え現状は、自分達のチームの探索準備に急かされて抜けが無いかのチェックに大わらわ。

 今回の参加は来栖家からは紗良と姫香、それからツグミとルルンバちゃん。そして、ついて来ると駄々をねる茶々丸も一応メンバーに。


 お泊まり組からは、陽菜とみっちゃんと怜央奈が当然だと言わんばかりの参加表明である。その前からお泊まりしていた星羅は、遠慮して今回の参加を辞退した。

 以前から仲良しのグループに、ポンッと入るのは厚かましいと思ったのだろう。遠慮しないでいいのにと、コミュ力お化けの姫香は構わないよアピール。

 ただまぁ、人付き合いってそう簡単に割り切れるモノでも無し。


 そんな訳で、今日は以上のメンバーでの探索と相成った次第。紗良と怜央奈は、一緒にお昼のお弁当作りに余念がない。それをはりの上で見守る妖精ちゃんは、今回は同行しない模様。

 ミケも同じく、騒がしいリビングを出て縁側から朝の散歩に出掛けてしまった。紗良はちょっと寂しそう、頼めばついて来てくれると思っていたので。


 今回は妹の香多奈はいないけど、後衛陣は紗良と怜央奈と2人いる。しかも怜央奈はスマホ撮影係なので、戦力として数えるにはかなり微妙である。

 いつもの護衛付きの探索に慣れている紗良としては、頼りになる役割の演じ手が是非とも欲しかったのだが。いつまでも甘えたり、泣き言を言ってもいられない。

 そんな訳で、気合を入れ直して姫香に準備オッケーのサイン。


「えっと、白バンは護人さんが子供たちの送迎に使っているから……キャンピングカーで行こうか、運転に慣れてなくてちょっと大変だけど。

 みんなもそれでいいよね、それじゃあ荷物を運び込んで」

「えっ、姫香の運転であの峠道を麓まで降りるのか……それはひょっとして、探索以上に危険じゃないか?

 悪い事は言わないから、紗良姉にその役目を譲ってくれ」

「ええっ、私もこの大きさの車だとかなり不安なんだけど……護人さんが戻るのを待って、相談してみたらどうかなぁ?」


 消極的な紗良の案だが、お泊まり組は揃って賛成の構え。運転技術をディスられた姫香は、納得いかないって表情を見せている。

 ただまぁ、車をへこませた回数は、来栖家どころかお隣さんを含めてもトップなので反論も出来ず。そんな感じでスタートからつまづく女子チームだが、護人が戻って来てその件も無事に解決してくれた。


 つまりは護人が、無事にキャンピングカーの運転手になってくれるそうで何より。探索が終わって連絡をくれれば、また車で迎えに来てくれるとの事。

 その知らせに、もろ手を挙げて喜ぶお泊まり組の面々。それを過保護だとののしる者はここにはいない、田舎では割と当たり前の光景なのだから。


 その上、探索メンバーのメンツを改めて見て、この過保護な保護者護人は少し不安になったようで。何の騒ぎかと覗きに来たミケに、同行してやってくれとお願いまでしてくれた。

 ペット最長老のミケは、ヤレヤレと言った批判するような顔付き。とは言え、あるじの願いも断り切れず、大人しくキャンピングカーへと乗り込んでくれた。

 それを見て、素直にはしゃぎ始めるニャンコ好きな怜央奈である。


 とにかくこれで家から出発出来ると、締まらないチームの面々は勢いだけは超一流。ルルンバちゃんの新ボディを何とか車内へと押し込んで、荷物も忘れ物が無いか確認して。

 出発進行~っと、とっても楽しそうな怜央奈の音頭に合わせて。護人の運転で、麓の協会を目指す女子チームであった。シートのミケは、うるさいなとやや迷惑そう。




 そして10分後、日馬桜町の協会支部へと勇んで入って行く面々である。護人とレイジーは車内で待機、ミケと茶々丸とルルンバちゃんも同じく。

 来栖家チームで探索の場合、この事前説明はすっ飛ばしてダンジョンへとおもむくのだが。陽菜や怜央奈は、協会で依頼を受けて探索が当然の流れと認識しており。


 お試し探索なら別だが、初めて探索に向かう場所ならこの手続きは必須ひっすである。ついでに今回はこんなチーム構成で向かうと告げれば、もし達成報告が無かった時には救援に出向いても貰える。

 その辺は来栖家チームも見習うべきだが、田舎ってのはなあなあの慣習が蔓延しているのだ。良い意味だと大らかなのだが、支部の皆さんも困っているとも。


 ちなみにみっちゃんも、換金くらいしか地元の協会を使った事は無い。何しろ地元には3つしかダンジョンが無いのだ、支部が建ってるのが奇跡である。

 そんな話をしながら、取り敢えず協会への通知と依頼受けの遂行は完了した。そんな一行が今日潜るダンジョンは、前日に魔素の濃度を聞きこんで、大畠地区の“廃墟ダンジョン”と決まっている。


 来栖家チームは潜った事は無いが、D級クラスでそこまで難易度は高くないそうな。能見さんと自警団チーム『白桜』に情報を貰った結果、姫香もそう判断した次第である。

 今回の女子チーム、リーダーは自然と姫香が担う事になった。そんな訳で、今回どのダンジョンに潜るのかとか、色々と準備をしたのも彼女だったりして。

 その際に、勧められたのがこの“廃墟ダンジョン”と言う流れである。


 D級ランクのこのダンジョン、警戒するのはゴーストとトラップ程度で難易度はそこまで高くないそう。気の知れた間柄とは言え、一応は即席チームなのでこのランク辺りが妥当と姫香は判断した訳である。

 10層かそこらを目標に、朝から探索に潜る流れは良いとして。お泊まり組の士気が意外に高くて、ひょっとしたらもう少し先まで潜る可能性も。


 何しろ探索の時間は、朝からたっぷり取ってあるのだ。イケイケな性格の者もいるし、潜ってからどうなるかは正直良く分からない。

 紗良は昨日のうちに動画のチェックを終えて、荷物に水鉄砲と浄化ポーションもしっかり入れている。護人がいない重圧は意外と大きくて、緊張から前日の寝つきも悪かったのは仕方がない。


 お泊まり組はそうでは無かったようで、朝から元気いっぱいで探索にも超前向きだ。ペット達は、茶々丸以外はいつものマイペースでまずは良かった。

 とにかくそれぞれの意気込みで、向かう“廃墟ダンジョン”である。再びキャンピングカーに乗り込んで、護人の運転で進む事プラス10分あまり。

 そして町外れに、荒れ果てた空き地と廃墟が見え始めた。


「うわっ、凄い場所だねぇ……こんな所にも、ダンジョンって生えて来るんだ? この町が特殊なのかもだけど、通り掛かっただけじゃ入り口分かんないよね!

 それで紗良姉っ、どこから入るの?」

「そんな慌てないで、怜央奈ちゃん……ルルンバちゃんと茶々丸ちゃんを降ろしてあげて、それからみんなで向かいましょ。護人さん、運転ありがとうございました。

 帰りは何時頃になるかな、姫香ちゃん?」

「んっと、10階層で区切るなら3時位で済むけど……もう少し進む感じになったら、5時過ぎくらいになっちゃうかも?

 陽菜とか張り切ってるから、夕方過ぎになる可能性高いかなぁ?」

「そうか……取り敢えず香多奈達を迎えに、3時過ぎには麓に降りてるよ。それで連絡が無ければ、5時頃にも降りてその辺で待っていようか」


 その提案を、姫香は終わったら電話を入れるから、それまで家でゆっくりしててと却下する。過保護な護人に対して、気を使い過ぎだよとバッサリ斬り捨て。

 それから探索用具を全て車から降ろしたのを確認して、それじゃあ行って来ますと明るい挨拶。他のメンツも、行って来ますと元気に手を振っている。


 護人も一応手を振り返して、キャンピングカーを発車させてその場を去って行った。これで女子チームの周囲は、田舎の景色のみとなってしまった。

 目の前の廃墟は、元は割と大きな2階建ての建物だったのだろう。それが今は半壊して、扉以外の場所からも侵入が可能な状態となっている。


 紗良は一行を、廃墟の裏手へと案内する。春先のオーバーフロー騒動のお陰で、雑草の伸びもそれ程酷くは無い。ツグミが先頭になって、入り口を探しての敷地内の半周移動は呆気なく完了した。

 そんな一行の気分は廃墟探索、もしくは心霊スポット巡りの一団である。ダンジョン内には確実にゴーストが出るので、あながち間違いでは無いだろう。

 そんな無駄話をしながら、ようやく入り口の発見に至った。


「あったね入り口……それじゃあ後は、隊列を決めて探索を開始しよっか。紗良姉さんと怜央奈は後衛で、怜央奈は撮影係は決定ね。

 私とツグミが前衛も決まってるね、茶々丸も前に出たがるかなぁ?」

「私も前に出るぞ、姫香……みっちゃんは弓が得意だけど、最近は薙刀を持って前衛も出来るようになってるな。

 今日はどっちがいいかな、リーダーが決めてくれ」

「ルルンバちゃん、随分とボディの形状が変わっちゃったんスねぇ……私も、姫ちゃんに決めて貰って全然構わないっス!」


 そう丸投げされて、姫香はかなり迷う破目に……今回のルルンバちゃんは新ボディでの参戦で、実戦でどんな動きをするのかとんと不明である。

 茶々丸も萌が不参加なので、《変化》のペンダントと忍者衣装を持って来て貰っている。つまりは人間バージョンも可能なので、そうなると作戦も変わって来る。


 茶々丸と陽菜をいきなり組ませるのも不安だし、AIロボの超馬力を活かす場面が今回訪れるかも不透明だ。リーダーって考える事が多くて、正直苦手な姫香である。

 それでも、自分を頼って来る仲間の期待を裏切る訳には行かない。取り敢えずはみっちゃんを後衛の護衛に任命して、ルルンバちゃんは中衛に置いてみる事に。


 それを聞いたチーム員は、了解と返事を発してさあ行くぞと元気をアピール。ツグミが斥候役に、廃墟の崩れかけた壁際に生えている下り階段へと進み寄る。

 遅れまいと追随する茶々丸は、護人やレイジーがいないのに気付いて少々不安そう。姫香に近付いて来て、顔をり寄せて大丈夫なのと訊ねる仕草。

 姫香は茶々丸の頭をポンと叩いて、頼りにしてるよと優しく呟く。


 それは主に、暴走しないでねって意味だったりするのだが。単純な仔ヤギは、その一言で不安より頑張るぞーって意気込みが勝ってヤル気モードに。

 他の面々も、久々のこのチームでの探索が楽しみで仕方がない様子。それが空回りしなきゃ良いけどと、冷静な紗良は内心で危惧きぐするのは当然か。

 果たして今回の探索、上手く行くのかは全くの不透明。





 ――久々の女子チーム、その活躍振りは如何いかに!?







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