第380話 香多奈とキッズ達の新学期が始まる件



 そうこうしている内に、4月の春の気配は日馬桜ひまさくら町にも蔓延まんえんして行った。当然のように、新しい息吹がそこかしこで芽生え始めていろどりは段々とはなやかに。

 香多奈の小学校にしても同じで、新1年生を迎える入学式が執り行われ。香多奈自身も新6年生で、いつの間にやら最上級生となってしまった。


 そして新学期での新しい級友は、香多奈のクラスにも訪れる事に。年齢を少々誤魔化して、和香が6年生に、穂積が5年生に転入して来たのだ。

 これは本人たちも望んでいた事で、引っ越し当時は学力不足でむ無く断念していたのだ。それがこの半年の猛勉強で、何とか学力アップを果たして学校に通えるようになった次第。


 その努力の成果に対しては、凛香や隼人も大喜びでお互い半泣き状態。そして探索で稼いだお金で、2人の制服や鞄や教材などを買い揃えて、万全の準備を手助けしての送り出しである。

 来栖家も色々と、アドバイスを送ったり文房具をプレゼントしたり。お隣さんであり、末妹の友達の新たな門出を盛り上げるお手伝いを行ったのだった。

 何しろこんな田舎なのだ、子供の数も1学年は両手の指で数えられる程。


 同級生の数が増えてくれるだけで、町の活性化に繋がって喜ばしい限り。そんな新学期の始まりの前に、中止されていた小学校の卒業式も執り行われた。

 残念ながら、中学校がこの町に復活する話は、今年度には間に合わなかったみたい。それでもあれこれと春先に行事が行われ、保護者の面々も忙しい日々を送る事に。


 護人としては、朝夕の送迎が賑やかになったなと言う感想しかない。車で麓の小学校まで送るのに、1人が3人になっても別段に手間は変わらないのだ。

 峠の山が春の色に彩られる中、賑やかな車内の送迎は固定行事となる予定。一緒に学校に向かうコロ助は、その騒がしさにちょっとだけ迷惑そうな表情。

 まぁ彼は、忍耐力は鍛えられて並み以上に持っている筈である。



 それから町の変化で言うと、自警団チーム『白桜』も最近は動きが活発になって来た。何しろ年下の探索者チームが、毎週のようにダンジョン通いを頑張っているのだ。

 良い大人が、それを尻目にふんぞり返っている訳には行かない。そんな理念が顔を覗かせて、間引き作業も毎月真面目に行うようになったみたい。


 “春先の異変”での町内の惨劇も、活動の変化に大いに関係しているのだろう。治安の維持にも力が必要だと、近頃は活発な自警団チームの面々である。

 それで言うと、来栖家チームが融通した、装備や武器の新調も地味にチーム力アップに貢献している模様だ。そんなチームの底上げで、探索の安全度も上がって来ており。

 自警団チーム『白桜』も、春先から段々と力をつけて来ている。


 その原動力となった凛香チームは、週に1~2回は必ず探索におもむく勤勉振り。主に“竹藪ダンジョン”で、ポーション類や食料品を補給するのがルーティンワークとなっている。

 そのため凛香チームの食糧事情は、大幅に改善されて育ち盛りの子供達も良い感じに肉が付いて来た。発育不良気味だった和香と穂積も、何とか年相応の体型になって来ている次第である。


 凛香と隼人の戦闘能力も、最近は安定していてC級昇格も目前らしく。来栖家との特訓も、サボらず毎日参加する努力が実った形だろうか。

 残りのメンバーも、若いだけあって力の伸びは半端ないよう。実力的には、この日馬桜町のチームでは既に来栖家チームに次ぐ力を有しているかも。

 今や町の治安維持にも、無くてはならない存在の凛香チームである。



 それから異世界チームだが、彼らはこの異界の地で割と好き勝手に過ごしていた。リリアラは特に活動的で、毎日温室に通って紗良と話し込んでいる次第である。

 妖精ちゃんも、この新しい助手を歓迎している素振りで熱心に錬金活動に勤しんでいる。する事が無ければ、一日中怠惰に過ごすこの小さな淑女なのだけど。


 最近のアグレッシブさは、家族のみんなが驚いている次第である。それにつれて、来栖家の簡易錬金小屋から、色々な薬品や装備品が出来上がって行く好サイクル。

 例えば果汁ポーションの高性能版とか、ペット達の戦闘ベストの改良版だとか。それらはおおむね好評で、特に茶々丸は自分の飾り付けが大好きみたい。


 リリアラに関しても、地味に所有レシピが増えてご満悦の様子。お隣さんとも良好なようで、出来上がった薬品やアイテムを配布しているようだ。

 ただまぁ、一番お隣さん達とコミュニケーションを取っているのは、ザジであるのに間違いは無いだろう。毎日ゼミ生の教室に通って、異世界語の会話と読み書きをキッズ達と学ぶ熱心さは凄いの一言。

 今では言語スキル無しで、片言ながら会話が出来る秀逸さ。


 それからたまに、凛香チームにくっついて探索にも出掛けているみたい。自分の所のチームが探索を休止しているので、恐らく腕がなまらない為の措置なのだろう。

 秀逸な罠解除や、探知系の技能を備えているこの猫娘。夕方の特訓では、その技能をみんなに教える教師役も担っているほどの熟練者である。


 そんな彼女の同伴は、凛香チームにとっても心強い助っ人には違いなく。概ね好評なこの異世界チームの存在、受け入れられるのに時間が掛かるかなと護人は思っていたが予想は大外れ。

 それに関しては、まずは一安心の来栖家チームであった。ムッターシャにしても、毎日の日課として“喰らうモノ”の観察は続けていて本当に勤勉。


 責任感と言うか、一度受けた依頼に関しての義務感は強いようだ。ひょっとして、個人的に“喰らうモノ”に対して恨みでもあるのかと感じる程度には。

 この災厄級の生物モンスターは、異世界で相当な獲物の乱獲をこなしていたそうである。なので、そう言う事も過去にあったのかも知れない。

 彼のチーム員は誰も、その事を口にはしないけど。


 それよりも、異世界チームの補佐役として派遣された、新たな協会の職員2人なのだが。揃って全く田舎生活に馴染めないようで、これには護人も困っていた。

 子供達からも、愛想の悪い新参者認定されていて見えない壁が出来てしまっている。前に通っていた土屋さんが良かったよねと、香多奈などは明けけに口にする程だ。


 とは言え、気軽に協会にチェンジお願いしますなど、人事に関わる事への口出しなど出来る訳もなく。異世界チームも特に文句も言って来ないので、現状はそのままと言う。

 仮に、2人の内のどちらかでも問題を起こせば、そこは報告する切っ掛けにはなるだろう。運転係など、職務は忠実にこなすので今の所は騒ぎ立てる程の事も無い。

 例え子供の受けが悪くても、それは彼らの職務外なのだ。




 ところで、ゼミ生チームの立場は相変わらず微妙で、探索に出る機会もめっきり少なくなっていた。完全にインドア派の生活をしているが、それは仕方が無いと皆が認識している。

 何しろ山の上の子供の学力向上は、彼らの手腕に任されているのだ。その感謝の度合いたるや、護人を筆頭に頭が上がらない程には貢献度は高かったりして。


 もしこの日馬桜町に、今年度から中学校が出来ていたら、確実な就職先が見付かっていただろうに本当に残念。“大変動”以降は、運転免許や教員免許は実は紙くず同然に価値が落ちている。

 つまり近所からの信用や人柄が、採用の決め手になるのが一般的になっている。元から教員職についていた人が、その採用に関わる事が多いようだ。


 その辺は、地域とのコネもある護人が猛プッシュすれば、採用も確実だったと思われる。中学校案件がお流れとなって、今回は残念な結果に終わってしまった。

 もっとも、ゼミの長となる小島博士は全くその件は気にしていないよう。本人は何気にネットで論文を発表して、それが書籍化されたと自慢していたり。

 まぁ、今の時代の出版数などたかが知れているけど。


 ゼミ生主催の教室の生徒数に関しては、熊爺家のキッズ達が本格的に週3日ほど通い始める事が決定した。年上の3人と一番年下の双子を含めて、なかなかの意欲を見せているようだ。

 その辺は、ゼミ生の授業運びが相当に上手と言う点もあるみたい。香多奈からの報告によると、授業の内容は生徒の好きに選べるとの事。


 苦手な教科を克服するより、学ぶって楽しい! を全面的に打ち出している感じだろうか。小島博士もダンジョン学を熱弁して、子供達もそれは楽しんで聞いているのだそう。

 少々不安になる内容も含まれているが、現状の世界情勢がまさにそうなのだ。とにかく知る事で、その知識が生き延びる術になるなら何より。

 そんな訳で、ゼミ生達の教室に生徒が途切れる事は無い模様。


 そんな感じで山の上の来栖家周辺の事情だが、星羅が秘かに厄介になっている現状も大きく変化は無い感じ。協会依頼の“アビス”遠征も、世間では概ね成功として発表されていた。

 それに携わった来栖家チームも、評価は増々アップしており。何故か既に、A級ランクに昇進したと言う噂がネットを中心に流れているそうな。


 それを素直に喜んでいるのは、単純な子供達だけと言う。まぁ、例の“ダン団”方面の抑制力になるのなら、その噂も悪い方面ばかりでは無いかも知れない。

 ちなみに、あの青空市で大暴れした通称“実行部隊”だが、ヘンリーチームが連行して行った後の音沙汰おとさたがない。現状では、スキル持ちの犯罪者を抑留こうりゅうする手立てが無いので、犯罪者は即処分が妥当なのだそうだが。


 それを確かめる度胸は、護人には無いし確かめたいとも思わない。ただ、末妹の香多奈とその友達が、無事で良かったと心から思うのみ。

 もうこれ以上の“ダン団”のちょっかい掛けは、起きて欲しくないのが本音の護人である。協会の方からも、後日こちらから情報が漏れたとの謝罪があった。

 どうやら捕らえた実行部隊への、事情聴取は本格的に行われた模様だ。


 それに対する本格的な謝罪も、近々本部長が訪れて直接行うとの話である。組織って面倒臭いなと思う反面、その位の誠意はあって当然とも思う。

 その予定も来週明けに決定して、護人も色々と春先の予定が詰まって行く中で。例の女子チームの面々が、泊まり掛けで遊びに来るイベントが先に訪れる事に。


 本当はゴールデンウイーク辺りに来る予定だったのだが、来栖家が異世界だ浮遊大陸だと突飛な動画を立て続けに上げたせいで。彼女達も好奇心を抑え切れず、計画を前倒しする事になったそうである。

 それは別に構わないし、田植え行事も手伝ってくれるとの話でもある。ただやっぱり、メインの計画はギルド運営としてのダンジョン探索らしい。


 香多奈は同行させられないので、そこでひと悶着もんちゃくありそうな予感。まぁ、彼女達も久々の再会を楽しみにしているし、今更止めなさいとも言えないのが実情。

 その辺は何とか帳尻合わせをして、お茶をにごそうかなと考えている護人である。例えば全員でお花見に行って、ワイワイ楽しんで貰うとか。

 後は、庭の端っこにピザがまを建築してイベントを行うとか。


 それで末妹の関心を引いて、ダンジョン同行にハブられた事を忘れて欲しいのだが。こっちの筋書き通りに行かないのが、子育ての難しい所である。

 とにかくこの春は、何事もなく過ぎて欲しいと願う護人だった。




 そして4月の半ばを過ぎた、ある週末の金曜日のお昼過ぎ。明日は家族総出で田植えだよと、その辺の周知は済ませての駅前の小さな駐車場である。

 来栖家のキャンピングカーは、もうすぐ到着する電車を待って停車中。その車内では、子供達とペット勢が来客のお出迎え準備に奮闘中と言う。


 割とカオスな状態なのは、主に香多奈がどっかから仕込んだ知識のせい。ウェルカムボードを作ったり、ペット達を色紙いろがみで飾り付けたりしての歓迎を家族に提案して来たのだ。

 それを姫香が面白がって、ついでにキャンピングカーまで飾り付ける始末。結果、どこの港の出航場面だよって感じの、派手な絵面に成り果ててしまった。


 それを熱心に撮影する香多奈は、ついでに歓迎の歌も付けようよと悪ノリは果てを知らない有り様。何を歌うのよと、姫香はその案にはピンと来ない様子。

 派手な三角帽や色紙での輪っかで飾られたハスキー達は、この上なく迷惑そうな表情。ただまぁ、ミケまで文句を言わず従っているので、表立って抗議も出来ない様子である。

 ミケはさすがの貫禄で、子供の遊びに無関心を決め込んでいる。


 ただし、こんな歓待を受けた陽菜とみっちゃんと怜央奈は違った様子。熱でもあるのかと言う眼差しや、ひたすら照れてたりと感想は様々っぽいけど。

 おおむねスベッた感じなのは仕方がない、歓迎されてるのが伝わった点のみ評価すべし。そんな感じで始まる、遠方から訊ねて来た女子チームのお泊り会であった。

 期間はだいたい3週間程度、お泊まり会としては最長である。





 ――その間、果たしてどんな波乱が待ち受けるやら?







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