第379話 来栖家の周辺が段々と騒がしくなって来る件



 先日は何とか、3つ目の“ダンジョン内ダンジョン”を2つほど制覇して、残る扉は3つとなった。半端に残してしまったが、そこはまぁ仕方が無い。

 近場だからとこんを詰めても、来栖家チームは子供もいるので方針にそぐわない。次回に残った3つを回れば良いだけの話で、問題は全く無いとも。


 そんな訳で、今日はお昼過ぎから協会に魔石の換金と動画編集のお願いに伺う予定。いつもの手順なので、子供達もすっかり慣れている。

 つまりは午前中に、厄介なスキル書の相性チェックと魔法アイテムの仕分けと鑑定を行うべし。縁側でのペット達の相性チェック作業も、温かくなって随分と楽になった。

 少なくとも、香多奈にとってはそんな感じだ。


「はいはい、みんなちゃんと並んで~! えっと、今回はスキル書か4枚とオーブ珠が1個だねっ。最近は宝珠とか見ないけど、あれもあったらあったで誰が使うか揉めるんだよねぇ。

 私が持っただけで、お姉ちゃんとかマジに怒るし!」

「それはアンタの、普段の行いが悪いからでしょ? 知ってるんだからね、護人さんが持ち出しちゃ駄目って言われてる物、黙って持ち出して遊んでるのっ!」

「それは駄目だよ、香多奈ちゃん……護人さんが持ち出し禁止してるのは、本当に事故になったら危ないからって理由なんだからね?

 それより学校の時間は大丈夫、香多奈ちゃん?」


 今日から新学期の香多奈だが、来栖家は早起きなので朝食後に多少の時間の余裕はあったりする。とは言え、ほんのりと過ごす程の時間は無いのも事実。

 そうだったと、香多奈は姉との喧嘩を取り止めてスキル書とオーブ珠の相性チェックを始める。ペット達は協力的で、合計5回のチェックは慣れもあってか素早くこなされて行った。


 そして残念ながら、今回は誰もスキル習得とはならない結果に。香多奈も当然、自分のチェックは真っ先に行っていた。それも何の反応も無く、ショボンな結果に。

 姉2人と護人も、朝から張り切る香多奈に巻き込まれてのお付き合い。ついでに妖精ちゃんの魔法アイテムの選り分けも、朝の支度の時間に済ませてしまう流れに。


 それがスンナリ終わったのも、今回の魔法アイテムの少なさゆえかも。とは言え、昨日はたった6層の攻略だったので、こんなモノだと皆で納得の結果である。

 それを眺める星羅せいらも、申し訳ないと思いつつもそのイベントに参加する。そして当然ながら反応ナシの結果に、心の隅ではホッとしていたり。


「今日は始業式だけだから、学校はすぐ終わるんだけど……友達と遊ぶ予定があるから、協会に行くのは私抜きでいいよっ。

 その代わり、後でどんなだったか聞かせてよねっ!」

「そんなのいつもと変わんないよ……魔石を換金して、動画依頼をするだけなんだから。アレを楽しみにしてるのは、アンタ位のものだよっ」

「確かに、みんなで行く必要は全く無いわねぇ……でもやっぱり、探索者登録をしてるからには、報告は一緒にしたほうがいいのかな?

 さすがに探索したのに報告なしじゃ、向こうも心配するもんねぇ?」


 それもそうだねと、姫香も賛同して家族での報告は今後も続きそう。末妹に関しては、学校も友達付き合いもあるし仕方が無いと言う事で。

 そろそろ出発しようかと、護人の言葉に元気に返事をする香多奈。今日から6年生だねぇとの紗良の言葉に、満面の笑顔の少女である。


 そして護衛犬のコロ助と一緒に、オンボロの白バンへと乗り込む香多奈。今学期からの相違点だが、お隣さんの和香と穂積も一緒に通う事になったのだ。

 これはお隣さんの凛香や隼人も大喜び、もちろん通えるほどの学力を身につけた和香と穂積も大したモノ。和香は香多奈と同じ小学6年生、穂積は5年生に編入が決まっている。


 その毎日の送り迎えは、香多奈を送るついでに護人が担う事で決定した。ますます頭の上がらない凛香チームだが、この程度は田舎に暮らしていたら当たり前である。

 恩に着る事も無いよと、その程度の認識だったり。


「護人のおじちゃん、おはようございます! 昨日のおはぎ美味しかったです、朝ごはんに2個も食べたよっ!

 香多奈ちゃんもおはようっ、今日から一緒の学校だねっ!」

「和香ちゃんに穂積ちゃん、おはようっ! 張り切り過ぎたら途中でバテるよっ? 今日は始業式と、それから多分編入の挨拶させられると思うから。

 今の内から、何を話すか考えておいた方がいいかもっ?」


 そうなんだと、途端に緊張し始める和香と穂積は初々しい限り。香多奈もアドバイスをしつつの、車に乗り込んでのお喋りタイムのスタート。

 香多奈は呑気に、春休みは宿題出ないから良いねとか喋っている。和香と穂積は、初日挨拶に何を話すか熱心に予習中である。後ろの席のコロ助は、ちょっと肩身が狭そう。


 今日から毎日こんな感じなのかと、運転する護人も子供たちの勢いにタジタジな様子だ。でもまぁ、子供はやっぱり元気が一番と、田舎育ちの彼は特に注意もせずに運転に集中する事に。

 そんな感じで、小学生たちの新学期は始まるのだった――




 一方の来栖邸だが、その日は朝からザジが突然やって来て、騒がしく紗良にまとわりついて来た。どうやら昨日配ったおはぎが美味しかったようで、まだ無いのかとのおねだりらしい。

 この猫娘は、梅干しは苦手だが甘いものは大好きみたい。姫香がお握りならあるよと言うと、途端に警戒するような顔付きに。


 この程度の遣り取りは、毎日あって姉妹も全く気にしていない。それ位には、新しいお隣さんとの距離は縮まって来ていて日々平和で何よりな感じだ。

 昨日は家族でダンジョンに潜ったんだよと言うと、ザジは知ってるよと日本語を使って答えて来た。毎日の勉強会は、かなり順調なようで紗良も驚いている。


 猫娘は自前のノートを持って来ており、台所に居座って文字を教えろとそれを開いて催促して来た。これもいつもの事で、彼女の勉強意欲は留まる所を知らない。

 そして教える紗良も、熱意を持ってそれに当たっていると言う。香多奈の古い国語の教科書を持ち出して、平仮名や優しい漢字を中心に読み書きの練習に付き合っている。

 これもまぁ、最近の日常の一つだったり。


 それからリリアラが錬金術の勉強を誘って来る時もあるし、料理を教えてと凛香が来る時もある。ゼミ生の勉強会がある時は、全員でそちらに参加もする。

 当然、護人の畑の手伝いに出向く事も、春先を過ぎれば多くなるだろう。最近はお隣さんの人数も増えて、畑仕事のはかどり方も半端ない程だったりして。


 ルルンバちゃんの農機具運用も、来栖家にとっては衝撃的だったと言うのに。そのAIロボにしても、今年も草刈りや何やらで百人力の労働力を提供してくれそう。

 恐らく近く行われる、田植えやその後の稲刈りでも存分にその能力を発揮してくれるだろう。とっても素直な性格の彼は、お手伝いを至上の喜びと感じている様子。


 今日のお隣さんを含めた山の上の午後の予定だけど、来栖家が協会に出掛けるのは皆が周知済み。そのため、夕方の厩舎裏の特訓までは緩い感じで過ごすみたい。

 ムッターシャはお決まりの“喰らうモノ”の偵察に行って、その後町のパトロールを行うそうだ。この取り組みで、協会から幾らかお駄賃を稼いでいるとの事。


 大抵はザジやズブガジも同行するけど、リリアラは最近は研究がメインみたい。こちらの世界の文献まで読み漁る、その研究者としての努力は凄まじいモノがある。

 その分、冒険業からは遠ざかっているようで、その辺はやや心配かも。まぁ、同じチームのムッターシャやザジが何も言わないので、それで良いとも取れるけど。

 当面の異世界チームは、こんな感じでの活動がメインみたいだ。


 凛香チームはそれとは対照的で、週に2度の探索ペースは年が明けてから崩れる事は無い。それなりに稼げてもいるようで、生活はずっと安定している。

 チーム力も上がって来てるみたいで、それが探索の順調さに直結しているようだ。しかも星羅の治療のお陰で、隼人と穂積の“変質”の心配も無くなって。


 実はこれが一番大きな変化かも、そう言う意味ではやはり三原の“聖女”の力はあなどれない。その力を知る人々がり代とあがめるのも、分からなくもないその能力スキルである。

 とは言え来栖家としても、彼女を囲って力を我が物になんて間違っても思わない。とにかく自立をするまでは、居候して貰うのは全く構わない。

 そこから先は、彼女の意思のままにって感じ。



 とにかく午後になって、来栖家は予定通りに協会へとキャンピングカーで向かう事に。香多奈は不在だが、そこは本人も納得済みなので問題無し。

 それから、魔法アイテムの選別と鑑定も家を出る前にチェック済み。



【暗黒のマント】装備効果:闇耐性&麻痺・毒耐性up・中

【蛾のピアス】装備効果:麻痺耐性&回避up・小

【赤いふんどし】装備効果:怪力&頑強・小

【八双自在鞭】装備効果:伸縮自在&延焼&放電&冷却・中

【破魔矢】使用効果:破邪効果・中


その他:『強化の巻物』 (破邪)×2




 『赤いふんどし』が少々物議をかもしたが、誰も使うとは言い出さず。使えばと提案されなかった護人も、何となくホッとしつつこのアイテムをスルーする。

 『暗黒のマント』は、薔薇のマントが食べる前に姫香が無事に確保した。そして2階に居座る自分の白百合のマントに試しに押し付けたら、見事に吸収を始めてくれた。


 それで色が灰色になるなんて事もなく、ただし能力を吸収したかは不明のまま。それでも薔薇のマントと同じ特性なら、その辺は信用して良いかも知れない。

 『蛾のピアス』は売り候補に、残った『八双自在鞭』はペット達が使うかもなのでツグミに預ける事に。『破魔矢』は弓矢持ちの護人が持つ事になり、それで分配はつつがなく終了。


 後は大量に集まった『金色のコイン』なのだが、2つの扉を攻略してその使い場所は見付からず。中央の扉のエリアだとすると、かなり風変わりと言う他ない。

 そして辿り着いた協会でも、動画のチェックで特に変わった問題も起きず仕舞い。割と淡々とした流れ作業で、魔石の換金も何事もなく終了してくれた。

 今回は150万円程度と、6層攻略にしてはまずまずの結果に。


 今回は鑑定プレートが家に揃ったお陰で、鑑定の書も売りに出す事に。魔法アイテムには使用するけど、それでも毎回余ってしまうのだ。

 相性チェックの終わったスキル書とオーブ珠は、一応家に保管しておく事に。ギルド員も増えて来ているし、誰かが使えるなら融通すれば良いだけの話。


 能見さんとの動画チェック作業も、無事に終わってまずは一安心の両者である。今回は流したら不味い映像も無いし、香多奈がいないせいで終始静か。

 ただし、やはり真っ暗闇のエリアではほぼ見せ場となる映像は撮れていなかった模様。これは動画編集は苦労しますねと、能見さんは頭を悩ましていたり。


 そんな感じで、今回の協会での用件は無事に終了した。それから帰り道で香多奈と和香と穂積を拾って、その日の用件は無事に終わってくれた。

 4月はまだ始まったばかりだが、この後もイベントは色々と詰まっている。来栖家的に大きな行事で言うと、田植えと陽菜たちのお泊り会が控えているのだ。

 来栖家の周辺は、色々と騒がしくなって来そうな雰囲気。





 ――温かさと共に、生活が活発になるのは世のことわりかも?






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