第377話 夕闇エリアを無事にクリアに至る件



 何とか最初の地点での妖怪モンスターの襲撃を、撃破に至った来栖家チームである。そして今回は『お供え物』がドロップせず、アレッて感じの子供たち。

 どっか別で回収するのか、それとも拾いそこなったのか分からない。周囲を見渡してみるけど、どうも拾い忘れの類いは無さそう。その点は、ツグミもルルンバちゃんも確信の顔付きである。


 と言う事は、移動した先で入手するのだろう。今回は途中の回収品も無さそうで、目的の丘もここから良く見える。そんな訳で、チームに移動しようかと護人の掛け声。

 それにすかさず反応して、ハスキー達がチームを先導し始める。子供達もまだまだ元気をアピールしつつ、それに続いて小高い丘を登り始める。


 周囲はススキも目立つけど、基本的には低い雑草の生える斜面である。そして見えて来た、大小の差こそあれ真っ赤な鳥居の乱立するエリア。

 そして目的地である、丘のてっぺんのお稲荷様の小さなほこらに一行は到着する。その丘の上からの景色を、何とは無しに家族一緒に眺めてみたり。

 長閑のどかで良い風景だが、そこはやっぱり沈まない太陽に違和感が。


「ここまで来たけど、お供え物が無いからクリアが出来ないねぇ、叔父さんっ。あれっ、ここって中ボスの出る3つ目のエリアだっけ?

 何だかちょっと、5層ダンジョンと3層のがこんがらがってるや」

「そうだな、ここは中ボスエリアだから、一番大事なのは鍵をゲットする事かな。ついでに出口の魔方陣も出てくれないと、閉じ込められてしまうから大変だね。

 その辺は、中ボスを倒したら恐らく解決するだろう」

「そうだねっ、薄暗闇エリアもここでお終いみたいだし。頑張ってクリアして、植松のお婆ちゃん呼んで家でおはぎパーティの準備をしなきゃね!

 星羅せいらもきっと喜んでくれるね、楽しみだなっ」


 そう言って張り切る姫香は、既に私こっちを受け持つねと自分の陣地でスタンバイ中。今日のパートナーの萌も寄って来て、いつもの調子で戦闘準備を行っている。

 そう言えば、茶々丸の鞍の調子を見るのがまだじゃ無いのと、香多奈が思い出して発言する。変なタイミングでの茶々入れに、おっとそうだったと戸惑う面々だったり。


 そんな来栖家チームを待ってくれる筈もなく、周囲の鳥居の仕掛けは続々と発動し始めた。今回もなかなかの密度で、巨大な敵影もチラホラと散見される。

 更には薄暗闇のどこかから、何かの獣の遠吠えが聴こえて来た。それに威圧か何かの魔法が乗っかっていたのか、紗良と香多奈は思わず身をすくませる破目に。


 前衛陣はさすがに耐えたけど、今回の襲撃戦はさっきより本格的なのは確かそう。近付いて来る敵の中には、初見の軽自動車サイズの茶釜ちゃがまタヌキが混じっている。

 つまりは胴体が茶釜で、それにタヌキの頭と手足が生えている不思議生物だ。これも妖怪カテゴリーなのか、その辺は判然とはしないけど硬そうで嫌な敵である。

 他の連中も、それぞれサイズが大きくなって手強さが増してる気も。


「みんな注意しろっ、初見の敵も混じっているぞ……中ボスがどいつか、まだ分からないから決して無茶はしないようにな。

 互いにフォローし合えるよう、陣地からは離れ過ぎないようにな!」

「了解、護人さんっ……紗良姉さんっ、アッチの方向敵が固まってる! ルルンバちゃん、魔法を撃ち終わった後のフォロー頑張るよっ!」

「あっちの方向、了解っ……それじゃあ行くよ~!?」


 さっきのパターンに味を占めた、姫香の指示出しからの紗良の《氷雪》魔法アタックは2度目も見事に成功した。今回は大入道が2体と、飛行モンスターが2体ほど範囲に入ってくれた模様。

 やっぱり止めを刺すには至らなかったけど、指示通りにルルンバちゃんがその任務を果たしてくれている。姫香と萌も、地上の敵の足止めに大忙し。


 今回は中ボスの潜むエリアだけあって、どうも出て来るモンスターの数も多いようだ。他の前衛陣も、密度の濃い妖怪モンスターの進撃に大わらわな様子。

 しかも、どこかから聞こえて来る三味線の音色に、明らかに速度やパワーの上がる一つ目小僧たち。手にしている武器は農具だが、それを振るう連撃があなどれない速度になっている。


 三味線が敵のパワーアップに繋がってると気付いた護人が、ツグミにその排除をお願いする。その途端、自分の影へと消えて行く忍犬ツグミ。

 味方の筈のコロ助は、その兄妹のパフォーマンスにちょっとビックリ。それからしばらくして、派手な断末魔と共にピッタリと止んでくれた三味線の音。

 敵のバフ効果も、目論見通りに止んでくれてまずは一安心。


 そこから一気に、来栖家チームの反撃が始まった。レイジーと萌の火炎ブレスが夕闇を染め、護人と姫香も一気呵成かせいに敵の群れを攻め立てる。

 いつしか厄介そうな茶釜タヌキも姿を消して、4メートル超えの大入道も全て倒されていた。終わりかなと一行が油断した瞬間、香多奈が火の玉が浮いてると家族に大声での警告を発する。


 その方向には、確かに揺らめく大きな火の玉が。アレって狐火かなと、紗良が中ボスの正体を推測したその途端。その火の玉は、巨大な狐の姿に転じて一行の目の前に降り立った。

 紗良と香多奈は、すかさずその大狐の尻尾の数を数え始める。従来のテンプレでは、その本数が敵の強さに比例するとの紗良の解説に従った行動なのだけど。

 それによると、この推定中ボスはかなりの強者らしい。


「えっと、えっと……動いてて良く分からないけど、多分7本か8本くらいかな? 9本は無いから安心していいよっ、叔父さんっ!」

「そうですね……九尾ではなさそうですけど、それに準じた強さは持ってそうですので充分に気をつけてください。

 ちなみに他の敵影は、見える限りでは全ていなくなってます」

「分かった、属性は炎系かもな……それに気をつけて抑えよう、姫香っ!」


 了解っと、元気に応じて抑え込みに掛かる姫香とツグミのペア。近付いた途端に火の玉が飛んで来て、それを姫香は軽々と『圧縮』防御で弾き飛ばす。

 アドバイスあっての適応能力だが、場慣れした感のある姫香も凄い。他の面々も、周囲から攻めて来ていた雑魚がいなくなったと知って中ボスに集中し始める。


 意外と巨体な中ボスに、しかし取っ掛かりは意外と少なそう。とは言えレイジーの『魔炎』攻撃で、敵は明らかに怯んでいる様子ではある。

 炎も物理も、恐らくある程度の効果はありそうだ。姫香とツグミも、思い切り踏み込んで接近戦を挑んでいる。護人は弓矢攻撃で、敵の気をらしてそのお手伝い。


 敵の反撃も、いよいよ火の玉飛ばしや咬み付き攻撃が酷くなって来た。前衛を張る姫香は、それに対して一歩も引かない男前な構えをみせている。

 そんな孤軍奮闘の敵の中ボスだが、レイジーの火炎に半身を焼かれ、護人の弓が左目を射抜いていよいよ劣勢に。最後は姫香に、胸元に強烈な一撃を喰らってようやくの事倒れてくれた。

 その場で魔石と化して、辺りは完全な静寂が支配する。


「ふうっ、大きい敵だったけど何とか倒せて良かったね! サポートありがとねっ、ツグミ……それから護人さんとレイジーと、あとみんなもっ!

 大きな敵相手にも、段々と接近戦で押せるようになって来たよっ!」

「いや、それはそれで心配なんだけどな……とは言え、ペット達じゃ明らかにサイズ不足だし、俺や姫香が結局は敵に当たる事になるんだろうけど。

 まぁ、『圧縮』スキルとツグミのサポートがあれば、滅多な事じゃ直撃は貰わないか」

「姫香お姉ちゃんっ、そんな事より中ボスのドロップ品を調べてよっ! 宝箱がほこらの隣に湧いたけど、鍵が掛かってて開かないのっ!

 それからお供え物も、どっかに無いかみんなで探してっ!」


 香多奈の大声で、そうだったと最後のお仕事を始める一行である。紗良も怪我した人はいないかと、声を掛けつつペット達のチェックに余念がない。

 そうこうしている内に、中ボスのドロップが確定した。魔石(大)が1個にスキル書が1枚、それからしっかり宝箱の鍵らしきモノも落としてくれていた。


 それを持って、姫香とツグミは宝箱の中身回収へ。その間に、ルルンバちゃんが『お供え物』を茂みの中から無事に拾って来てくれた。これで、帰路の心配はしなくて済みそうで何より。

 香多奈も一緒に見守る中、宝物チェックは進んで行く。まずは鑑定の書(上級)が3枚に魔結晶(中)が3個、エーテル800mlに浄化ポーション600ml。


 それから強化の巻物が2本に白木の矢が20本、それから奇妙な形の鞭が1本。先が8本も付いていて、これで叩かれたらとっても痛そうだ。

 後は魔玉(風)が8個に金色のコインが11枚、上等な毛皮のコートにマフラーが数点。やや季節外れだが、品質はとっても良さそうな品々である。

 そして最後に、茜色の大振りの鍵が1つ。


 鍵はやっとこ2つ目で、大ボスに挑戦するのにあと2つは必要みたい。今日は夕方にはまだ少し時間はあるが、護人の指示でここまでと言う約束だ。

 そんな訳で、一行は宝箱の中身とドロップ品を全て回収し終え。家に帰っておはぎパーティだと騒ぎつつ、お供え物で起動した帰還用のワープ魔方陣へと、全員揃って飛び込むのだった。




 今日は全体的に暗いエリアが多かったせいで、ダンジョンを出た面々はお日様の有り難味を噛みしめている感じ。各々で伸びなどしながら、あぜ道を通って来栖邸へと戻って行く。

 日はまだ完全に落ち切っておらず、子供達はその解放感にはしゃいだ声をあげている。ペット達は平常運転、ただしホームに戻って来た安心感はある模様。

 周囲を眺めながら、異常は無いか抜け目なくチェックしている。


「植松のお婆に電話しても良い、護人さん? 何かもう我慢出来ないや、おはぎ作る準備をして、向こうで待ってて貰おうっと」

「おやつには間に合わないけど、爺婆の家に行けば何かあるよねっ? 着替えてすぐ行こうよ……あっ、星羅ちゃんも呼ばなきゃね!」

「材料は結構あるから、お隣さんにも配れるくらいは出来るかなぁ? その分、作り終わるまで時間が掛かるかもだけど」


 それはまぁ仕方が無いと、姫香が電話を掛けるのを見守りながら護人は諦めた表情。子供達が立てた計画は、余程の事が無い限り遂行される運命である。

 しかも今回は、食欲が結びついてるので止める事など困難過ぎる。まぁ、植松の爺婆も子供たちの突然の来訪程度なら、喜んで迎え入れてくれる筈。


 おはぎの製作にしても同じで、去年のもち米はもう既に使い終わって家には無い。なので今回の補充は、有り難いと喜んで貰える事請け合い。

 香多奈に関しても、春休みの最後に充分楽しめたみたいで何よりだ。課題にしていた萌や茶々丸の装備チェックについては、いまいちの結果ではあったけど。


 何も無理やり探索中にしなくても良いし、訓練でもチェックは可能だろう。香多奈は学校が始まって、探索に費やす時間は確実に減ってしまうが仕方ない。

 子供は勉強と、それから遊びが本分なのでそちらを頑張って欲しい。お隣の和香と穂積も、新学期からいよいよ麓の小学校に通う事になっている。

 本人たちも、楽しみらしくてここ数日ハイテンションだ。


 来栖家チームは、そんな話をしながら今日の探索成功を祝っている。普段着に着替えたらすぐに出発ねと、探索の疲れはほぼ無い感じ。

 そして程無く勝手口に再集合を果たした面々、茶々丸はお留守番を言い渡されて不満顔である。ルルンバちゃんと萌も同じくだが、こちらは聞き分け良くお留守番モードに。


 星羅もお留守番しようかと遠慮するも、どうやら夕食も向こうの家で食べるそう。だったら食いっぱぐれるよりはと、彼女もついて行く事にした次第。

 この辺は意地汚いと言うか、食に対するこだわりの強い元三原の“聖女”である。庭先で茶々丸を慰めながら、明日は一緒に散歩してあげるよと約束して。





 ――ともあれ、香多奈の春休みの最終日は無事に終了の運びに。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る