第376話 夕闇エリアのパターンをすっかり覚える件



「さて、家に戻ってからのお楽しみは今は置いとくとして。それじゃあどっちに進むか、調べてから探索を再開しようか。

 姫香、ハスキー達のMP補給は終わったかい?」

「バッチリ終わったよ、護人さん……ついでに紗良姉さんの作った、果汁ポーションも飲ませておいたよ。

 私たちも、今の内に飲んでおこうよ」

「あっ、私も飲むっ……丁度喉が渇いてたし、ナイスタイミング♪ ミケさんも飲む、それとも果汁は嫌い?」


 忙しない香多奈だが、そんな感じで戦闘前の補給に勤しむ面々。その間に紗良は、遠見のアイテムを使って周囲のチェックを行う。

 前の層のイメージが残っているので、探す建造物も分かり易くて助かる。ちなみに今回も、馬顔の大コウモリが『お供え物セット』を落としてくれた。


 香多奈など、これを持って帰ったら罰が当たるかなと、文字通りにバチ当たりな発言をしている。神様はお祈りの心が大事なのであって、そこまで狭量きょうりょうじゃ無いよと長女の紗良が口添えしている。

 もっとも、お稲荷様は無碍むげにされるとたたるとよく耳にするけど。その辺の事情は、さすがの博学の紗良も詳しくは知らないらしい。


 そんな話をしながら、全員が果汁ポーションを飲み終わって支度は終了。紗良が遠見で確認した丘の方向へと、ハスキー達を先頭に移動を始める。

 さっきと同じパターンだねと、急に邪魔する敵が出なくなったエリアに香多奈が感想を述べる。そんじゃまた襲撃イベントだねと、姫香もそれに呑気に答えている。

 しばらく歩くと、案の定に乱立する大小の赤い鳥居を発見。


 それを縫うように、丘の頂上に向かって小路が続いている。舗装もされていない土がむき出しの道だけど、それなりに歩きやすいし罠も無さそう。

 ハスキー達もそれを使って、一行を頂上へと導いてるのがその証拠だ。その移動中、太陽の位置が全然変わらないねと、その違和感に敏感に反応する子供達。


 確かに日が昇るにしても沈むにしても、地平線に掛かってる時間はそんなに長くはない。山の稜線にあそこまで長く居座る姿は、体感的にも変に感じるのは当然かも。

 護人もこのエリアには、生理的な違和感を感じて居心地が悪いったらない。ただし、さっきの真っ暗闇エリアを体験しているだけあって、灯りがあるだけ有り難いと感じてもいる。

 矛盾の想いも、難易度的にこの措置には感謝などしていたり。


 そして見えて来たお稲荷様の小さなほこら、これも先程のエリアと同じ仕様で間違いなさそう。さっそくお供え物を上げようとする末妹に、手順が違うでしょと姫香の忠告。

 そんな手順はあるのと、香多奈は不思議そうに姉へと突っ掛かる。これでワープ魔方陣が湧いたら、出て来る敵を無視して次の層へと行けてしまう。


 それだと経験値も入らないし、形式的に美しくないと主張する姫香である。そんな感じで言い争っている内に、周囲ではさっき体験した変化が起こり始めた。

 つまりはそれぞれの鳥居から、出現して来る大小のモンスター達。それらが一斉に、丘の頂上に居座る来栖家チームへと襲い掛かって来たのだ。

 それを感じて、慌てて防御戦線を張りに掛かる面々である。


「紗良姉さん、アッチの方向に大きな敵が固まってるみたい! まだ距離があるし、一気に魔法で倒しちゃえば? 何か魔法のアイテム使って、威力も調節出来るようにはなって来たんでしょ?

 ヘイト取ったら、私と萌が盾になるからやっちゃって!」

「う、うん……今日は私、ほとんど攻撃場面では役に立って無いもんね。それじゃあ、姫ちゃんのお言葉に甘えて頑張ってみるよ!

 なるべく範囲を絞って、その分ダメージが上がる様にしてみるね!」

「おおっ……頑張れ、紗良お姉ちゃんっ!」


 香多奈の応援も貰って、姫香の指し示す方向へと《氷雪》魔法を撃ち込みに掛かる紗良。この魔法は範囲が広過ぎて、一網打尽には良いけど仕留め切れなかったら一気に敵対心をあおると言う弊害があるのだ。

 使う場所をかなり選ぶので、範囲を絞る訓練を行っているのだが。その効果が『魔導の書』の使用によって、大幅に改善されている所だったりする。


 真面目な紗良だけあって、毎日の特訓にも手を抜かずに取り掛かった結果。攻撃範囲は、何とか最初の半分程度まで縮める事に成功している次第。

 その分の威力向上とは今の所至っていないので、次の課題はそこだろうか。とにかく紗良の放った改良版の《氷雪》は、大入道2体に大トンボ3体を巻き込んで炸裂した。


 冷気にさらされたモンスター達は、次々に凍り付いて行動不能に。3体いた猫顔の大トンボは、落下ダメージで魔石へと変わって行ってくれた。

 4メートルを超す一つ目の大入道は、ルルンバちゃんに止めを刺されて呆気なくお亡くなりに。作戦が上手く行って有頂天な姫香は、萌と共に周囲の敵を蹴散らして行く。

 他の前衛陣も、波乱無く順調な戦闘振りでまずは好調。


 敵の種類もさっきと同じで、宙を飛んでいるのは馬顔の大コウモリと猫顔の大トンボの混成軍。地上の落ち武者顔の大蜘蛛も、結構な数いたけど全て掃討済みだ。

 それから数分後、お馴染みのメンバーがもう安全かなと、魔石やドロップ品を拾い始める。紗良は回復したい人はこっちねと、MP回復ポーションを用意しながらチームに呼び掛ける。


 毎度の戦闘後の騒ぎの中、香多奈がスキル書が落ちてたと大喜びを始めた。これで今日の探索で3枚目、雑魚からのドロップは初めてなので嬉しいのも当然だろう。

 ルルンバちゃんも、大蜘蛛のドロップしたっぽい糸素材を拾って来た。ただし、透明な糸の中に黒いのが混じっていて、ひょっとして落ち武者の髪の毛じゃなかろうかと変な想像をしてしまう末妹である。


 他には目立ったドロップは無く、後はワープ魔方陣を起動させて次の層へと進むだけ。そんな訳で、確保していたお供え物を祠へ置いて、家族揃って手を合わせてお祈りする来栖家の面々。

 次の瞬間、祠のすぐ側にワープ魔方陣が出現してくれた。


「これで次が最後の層だっけ、割と順調に進んでいるよね、護人さん。後は何か、チーム内の変化でチェックする事あったかな?

 そう言えば萌だけど、前衛でもう少し戦わせてみようか?」

「あっ、茶々丸ちゃんに作ってあげた鞍が、使用に耐えられるかどうか調べてみたいかも? 鎧を着た萌ちゃんを乗せるの初めてだから、こすれたりして痛くないか知っておきたくて。

 駄目ならまた改良して、お互い動きやすい形に仕上げ直さなきゃ」


 紗良お姉ちゃんは真面目だねぇと、感心した様子の香多奈の呟きに。アンタも真面目成分を分けて貰いなさいと、姉の姫香の混ぜっ返し。

 いつもの姉妹喧嘩になりそうな所を、紗良が何とか取り成して事なきを得て。護人が休憩は平気かと皆に問い掛けて、出発オッケーの返事が各所から。




 そんな訳で、出現したワープ魔方陣へと飛び込む一行である。次のエリアもやはり薄暗闇でいろどられ、太陽モドキの発する僅かな光明が周囲を照らすのみ。

 念の為の光源は、各々がライトや魔法の灯りで確保はしている。それでも遠くは確認がし辛くて、例えば茂みの奥や空に飛んでる物体の確認もあやふやだ。


 姫香は周囲を見渡しながら、まだ果汁ポーションの効果は続いてるねと上機嫌。とは言え、視力までは強化されないので、アレは何だろうと空を見上げて不思議顔。

 香多奈も隣で見上げながら、たこか何かかなと一緒に首を傾げている。こうして見ると姉妹で雰囲気が似てるなぁと、紗良は一歩引いた場所で思ってみたり。


 それよりも、確かに夕焼け空より暗い宙には、布のような浮遊物体がフワフワと浮いている。護人も一緒に眺めながら、ひょっとして一反いったん木綿かもなと推論を口にする。

 その途端、上空から物凄い勢いでこちら目掛けて突っ込んで来る飛行物体。それは途中で分裂して、半ダースほどの群れに成長したかと思ったら。

 来栖家チームに絡み付き、窒息させようと目論み始める。


「わっ、やっぱり妖怪だった……くそっ、コイツ意外と刃物に耐性あるっ!? 私の武器じゃ斬れないよ、助けてツグミっ!」

「こっちにも来たっ、ひあっ……何かコイツ、動きがニュロニュロしてて気持ち悪いっ。どうやって倒せば良いのっ、叔父さんっ!?」

「レイジーと萌のブレスを試してみよう……前衛は、武器を絡め取られないように注意してっ。くそっ、俺の刀剣でも斬れそうにないなっ!

 弾き飛ばして距離を取って、体に巻き付かれたら厄介だぞ!」


 飛行物体を確認に行こうと、飛行ドローンで飛び立ったルルンバちゃんがまさにそうなっていた。布型のモンスターに巻き付かれ、飛行出来ずに地面に無様に転がってる始末。

 本人は焦っているのだが、チームの面々もそれぞれ戦闘中でそれどころでは無い。む無く彼は仲間が助けに来るまで、その恰好で我慢する事に。


 例えば戦艦やヘリの乗っ取りだって、高い確率で出来てしまえるルルンバちゃんだけど。さすがに布製生物までは、乗っ取るのは不可能な様子。

 そこまでチートでないAIロボは、ひたすら現状を我慢で過ごす。


 そんな現場だが、レイジーと萌のダブルのブレスで戦況を見事に引っ繰り返す事に成功していた。護人の指示通り、その炎は妖怪の苦手属性だったようだ。

 護人や姫香は、武器を上手く使って一反木綿に絡まれない様にコントロールしている。それを確認して、レイジーと萌がそれぞれ妖怪モンスターを焼き払って行く。

 この辺のコンピプレーはさすがのレベル、半ダースもいた一反木綿は瞬く間に戦場から姿を消して行った。その隙をつくように、一行の背後の茂みから巨大な影が。


 それはまるで巨大な壁のような容貌で、今まで茂みに隠れおおせていたのが不思議なサイズ感。一反木綿の次はヌリカベかなと、紗良が冷静に情報をチームに伝える。

 それにしては太り過ぎじゃ無いかなと、隣の香多奈は冷静なツッコミ。確かによく見ると、このヌリカベは横にも広いが厚さも相当な幅広さ。

 まるで豆腐みたいだねと、小学生は容赦の無いコメント振り。


「いやまぁ、確かに色も白っぽいし、言われてみればそうかも? でも妖怪縛りのエリアなんだし、やっぱり紗良の言う通りヌリカベなんじゃ無いかな?」

「そうね、私もそこまで自信は無いけど、他に例えようも無いからヌリカベだと思うわ。香多奈はこれを、豆腐魔人だって思ってる訳よね?」

「名前までは決めてないけど、この前習った慣用句? で出て来てたよ。豆腐の角っこに頭をぶつけたら死んじゃうんだって!

 きっと、アレがぶつかるとすごく痛いんじゃないかなぁ?」


 物知りな紗良が、その言い回しは元は落語から来てるんだよと末妹に解説している。ちなみに人間は、豆腐の角に頭をぶつけたくらいじゃ死なないからと注釈をつけて安心させる素振り。

 そんな間抜けな話の最中にも、推定ヌリカベはゆっくりと前進して来ていた。どうやら短いが足も付いているらしい、その事実にひたすら感心する子供たち。


 なんなら、頑張れと応援までしちゃっていたりして。アンタが応援したら洒落にならないでしょと、香多奈は姉の姫香に叱られている。

 そんな中、コロ助はツグミに白木のハンマーを用意して貰っていた。そして颯爽さっそうと口に咥えて突進して、3体いる内の中央の白い壁を思い切り撃ちえてやる。


 その途端、物凄い音と共にソイツは自爆覚悟で前へと倒れて来た。つまりはコロ助をぺしゃんこにしてやろうと、最後の悪足掻わるあがき的な自爆プレスを敢行した……のだが。

 当然の如く、その攻撃をひらりとかわす優秀なハスキー犬である。むしろ今のが、まさか攻撃だったなどとは夢にも思っていない様子。

 鈍重過ぎる攻撃は、こうして見事にスかされる破目に。


 その後は、何故かレイジーの『針衝撃』で粉々に砕け散る自爆ヌリカベ。可哀想過ぎる最期だったが、誰も特に哀れとは思わなかったみたいである。

 残りの2体も同じ目に遭って、最後は魔石(小)を落として終了の運びに。ついでに白レンガも落としてくれて、護人的には有り難い限りである。


 ちなみにさっき倒した一反木綿は、赤くて長い布と金色のコインを4枚落としてくれた。赤い布は、どうやらふんどしらしい事が護人の証言によって判明した。

 それを聞いて、どうやって着用するのかなぁと何故か子供達も興味津々と言う。それは魔法アイテムだぞと、妖精ちゃんのコメントで場は更に騒然としてしまう破目に。

 何にしろ、こんなに騒いでいても次の敵は出現せず。





 ――そろそろ先に進めとのお達しに、全く無頓着な来栖家チームだったり。








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