第375話 赤い鳥居の乱立する丘を目指す件



 敵の落としたドロップ品は、他にも魔石(微小)に混じって金色のコインが4枚ほど。両手サイズのかごに入ったお供え物も、紗良がバッチリ確保済みだ。

 それから遠見のスキルで、怪しい場所をチェックに掛かる長女と、周囲を嗅いで回っているハスキー軍団。護人も《心眼》スキルで確認するが、特に怪しい気配は引っ掛からず。


 どうもこのダンジョン、敵があらかじめ配置されている感じが無いと言うか。何かの手順をこちらがクリアしたら、それに応じて湧いて出る感じだろうか。

 それなのにフィールド型ダンジョンと言うのは、意地悪な仕様でしか無い気がする。それでも、あっちの方に怪しい構造物が見付かったと、薄暗闇の中で報告する紗良はお手柄である。


 ハスキー達も素早く反応して、そちらを偵察に伺って良いかとリーダーに目で確認。それから護人の合図と共に、素早く小高い丘の向こうへと駆けて行った。

 茶々丸も遅れじとそれに追随、姫香と萌のペアも続いて進み始める。後衛陣も、妖怪の出没に注意だねと話し合いながら後を追ってのスタート。

 早くもこのエリアの、仕掛けを見抜いた感じである。


 ただしこのエリア、午前中に突入した真っ暗闇エリアよりは明るいとは言え。日陰に入るとやっぱり視界は利かず、移動するにも不便が強いられる。

 灯りは普通に光源が届くので、そこは安心ではあるのだが。今回は起伏も激しいフィールドも相まって、移動の苦労はどっこいかも?


 先行偵察のハスキー達は、敵の姿が無いのにガッカリな感じで周囲を見回していた。追いついた後衛陣は、その異様な風景に少々面喰らった表情。

 そこには丘の斜面の至る所に乱立する、大小の赤い鳥居が拡がっていた。


「うわあっ、こんなエリアもあるんだ……ちょっと不気味だね、赤い鳥居が乱立してるのって。でもモンスターの姿は無いね、ハスキー達も戸惑ってるみたい。

 ここで私たち、何をすればいいのかな?」

「ふむっ、どこかにほこらが無いかな……あればそこに、お供え物をすればいいと思うんだが。さっきと同じパターンなら、そこに近付いたら敵の集団が襲い掛かって来るとか?」

「なるほどっ……それじゃあほこらを探すよ、みんなっ!」


 後衛陣の遣り取りを聞いていた姫香が、すかさず前衛陣に指示を飛ばしての捜索開始。程無く丘のほぼ頂上に、お稲荷様の祠が発見された。

 左右2体の石像は、間違いなく狐の姿をかたどっていると分かる。小学生の香多奈は、このお稲荷さんは妖怪の親玉なのかなと不思議そうに呟いている。


 護人はお稲荷様は商売繁盛の神様だろうと、その末妹の言葉を訂正する。狐の姿は、偉い神様の眷属か何かじゃ無いかなと、その辺の知識は曖昧あいまいみたい。

 物知りな紗良が、お稲荷様はいねの霊と言われてますねと言葉を引き取る。狐の姿の眷属を従えてるので動物霊と間違えられやすいけど、実際は五穀豊穣の神様なのだと。

 だから本当は、農家にも凄く縁の深い神様だったり。


 それを知らなかった香多奈は、物凄く感心した素振りで姉に尊敬の視線を送っている。護人も同じく、そして祠の前に探索者が集まった事で、ようやく仕掛けが作動した模様。

 周囲の気配が、段々と物騒に変化して行くのを肌で感じる一行。敵に備える様にと、護人は低い声でチームの面々に指示を出す。それに従って、前衛陣は後衛を守るように周囲に防衛線を張り始めた。


 その陣形だが、先ほどのフロアと同じような四方を守る形状である。ペア割りは少々違うが、今度は真っ暗闇ではないのでさっきより気が楽かも。

 そのしばらく後に、いよいよ周囲に敵が湧き出して来た。どうやら赤い鳥居を通路か何かにして、敵の群れはこの地にやって来ている演出みたい。

 その数は、ざっと数えて30体以上と今回も特盛である。


 その大半は地上にいて、大蜘蛛だったり人型の妖怪だったり。ただし大蜘蛛の頭は落ち武者仕様で、人型は4メートル級で一つ目の大入道も混じっている。

 大きい奴は、きっちり大きな鳥居から出て来るので一応は法則はあると思われる。もっともそんなの関係無いと、暴れられる相手を目の前に張り切るハスキー軍団である。


 茶々丸も同じく、大蜘蛛はひづめで踏みつけて大入道は角でのチャージ攻撃が容赦ない。レイジーも上手くフォローして、茶々丸の仕留め損なった敵にキッチリ止めを刺して行く。

 ついでに後衛の香多奈にわれて、目の前の敵に『針衝撃』スキルを披露する。前脚の肉球でポンと地面を踏むと、その振動が針状になって敵の真下から襲い掛かるこのスキル。


 使い勝手は悪くないが、何と言うか地味で効果もそこまで強くない。数をこなせば段々と強くなって行くかもだが、今の所は相手の姿勢を崩す程度の威力である。

 いや、ちゃんとダメージも通ってはいるけど。


「あれっ、コロ助の『牙突』くらいは強いかなって思ったけど、レイジーの新しいスキルはそんなに強くないっぽいね?

 加減してるのかな、ダメージは通ってるみたいだけど」

「まだレイジーちゃんも、新スキルに慣れてないのかもねぇ……あっ、飛行系の敵も出て来たみたい、アレは大型のトンボかな?

 頭の部分は、何故かネコに変わってるけど」


 その存在が気に入らないのか、ミケも空中の敵の撃ち落としには《刹刃》と『雷槌』のミックス技で積極的に参加している。ルルンバちゃんも、飛行モードでそれをお手伝い。

 他の前衛陣は、危なげもなく近付いて来る敵の群れを順調に始末して行っている。姫香と萌のペアも、自分達の倍の大きさの大入道を相手に怯む事も無い。


 姫香の作った『圧縮』スキルでの土台で、変則的な動きで敵の首を狩りに掛かっている。姫香はともかく、萌もその動きについて行けるのは鎧の性能のお陰かも。

 黒槍の使い方に関しては、まだまだ慣れているとは言えない萌ではあるけれど。前衛の動きは姫香について行けている時点で、文句なく合格点を与えられるレベルである。


 気付けば大型の大入道も、小型の一つ目小僧もほぼ戦場から姿を消していた。落ち武者蜘蛛も妖怪トンボも、10分余りの戦闘で全て掃討されて行った。

 後には、魔石やドロップ品が無数に散らばるのみ。


 護人と姫香の合図を待って、周囲に散らばったドロップ品を拾い始める末妹。ツグミとルルンバちゃんもお手伝いするけど、良いモノは落ちて無さそう。

 それでも次の層に期待だねと、前向きな発言の香多奈である。草が生い茂った丘での魔石拾いは、なかなか大変だったけど文句も言わないのはアッパレかも。


 その辺は、連れて貰っている感謝もあるし、自分は役に立っていると言う気概もある少女だったり。何より拾う分だけお金になるのだ、気など抜いていられないのが本音である。

 そして狐の石像が左右に建っている祠を、念入りに調べる紗良と姫香の姉達2人。やっぱりさっき拾ったお供え物が鍵だよねと、紗良がそれを祠の前に置いてみる。


 すると案の定、すぐ近くに出現するワープ魔方陣に、拍手喝采の姫香である。相変わらず薄暗いエリアだが、このチームの周辺は何故か常に明るい雰囲気である。

 哀愁を誘うヒグラシの合唱も、それを覆す事はなかなかに難しそう。



「魔石拾い終わったよ、叔父さん……魔石以外のドロップは、素材系の蜘蛛の糸素材くらいかな? あっ、次の層に行けるようになったんだ。

 やったね、さっきより順調に進んでるよね!」

「そうだね、これなら今日中に、扉の攻略もう1個行けるかもだよ、護人さん?」

「うん、まぁあまり無理してもアレだしな……予定通り、ここのエリアを攻略して今日は終わろう。数日待っていれば、ルルンバちゃんの新ボディも戻って来るからね。

 そしたらまた、長い時間でも探索すればいいさ」


 安全マージンを取りたい護人は、そう言って子供達を説得しに掛かる。ルルンバちゃんの新ボディが解禁されれば、無敵の切り札が1枚追加される事を意味している。

 そうすれば、少々探索で無理をしてもそこまで怖い思いをしなくて済むだろう。今日は萌を前衛慣れさせる練習と割り切って、早い時間で戻れば良い。


 その説明に、子供達も何とか納得してくれた様子。家にはお客さんもいるし、余り帰りが遅くなるのもそもそもよろしくない。星羅せいらは気にしないかもだが、心配はするか知れない。

 そんな訳で、推定残り2層を頑張ろうと口にする姫香と香多奈。そしてワープ転移した先は、やっぱり薄暗い田舎のあぜ道だった。


 虫の鳴き声ももの悲しく、どことなく哀愁の漂う夕暮れのエリアに。見渡して目に入るのは、稲穂がすっかり刈り取られた後の田んぼの風景だった。

 何故か至る所に案山子が立っていて、そいつ等は全員がこっちを見ている気がする。案山子の長く伸びた影と、逆光で良く見えない表情がとっても不気味。

 ハスキー達も、それを察していつの間にやら戦闘態勢に。


 不意に、そいつ等が一斉に地面に突き刺さった棒を引っこ抜いて跳躍した。そして頭上からこちらを串刺しにすべく、かなりの速度で落ちて来る。

 姫香が上と掛け声をかけて、自身も『圧縮』スキルで防御の準備。紗良も《結界》でそのお手伝い、コロ助も同じく、《防御の陣》を使っているようだ。


 物凄い衝突音の割には、そんな訳で来栖家チームの被害はほぼ無く終わった。反撃のレイジーのブレスで、逃げ出そうとした案山子の2体が火だるまに。

 ツグミの『土蜘蛛』は、残念ながら敵に止めを刺すまでには至らず。その場に留まった案山子が、回転しながら逆襲に乗り出し始めている。

 それには大慌ての茶々丸、チャージも外れてボコボコにされる破目に。


「わわっ、回転パンチだっ……アレは強いよ、姫香お姉ちゃんのお株を奪う攻撃だねっ! 茶々丸っ、無理しないでいったんこっちに戻っておいでっ!」

「萌っ、ヘルプに行くよっ……茶々丸を下げるから、相手との間に割って入って! 余裕があったら、さっきのブレスで焼いちゃっていいからね!」


 香多奈の慌てた解説はともかく、姫香は冷静に即席コンビの相方に指示を飛ばす。新装備のお陰もあってか、茶々丸のダメージはそこまで酷くは無さそう。

 それでも与太よたってる茶々丸が心配な面々は、あれこれと指示を飛ばしてフォローの構え。そうこうしていると、その戦闘音を聞きつけてか、空から新たな敵が参加を決め込んで来た。


 それを発見した護人が、チームに警戒を発して自ら迎撃準備に動き始める。弓矢でまず撃ち落としたそいつ等は、顔の部分が馬の大コウモリだった。

 不自然に長くて飛行が辛そうだが、空中から咬み付いて来ようとして来るのであなどれない。しかもいななき声には、『威圧』の効果があるみたいだ。

 それに見事にかかった香多奈が、その場にしゃがみ込む始末。


 もっとも、それを見て怒ったミケが『雷槌』でのお返しを即座に敢行してくれた。幸いにも妙な馬面の大コウモリは、5匹程度で討伐もミケのお陰ですぐに済んだ。

 そして地上の案山子戦も、萌のブレスで新たに2匹が炎に包まれて行く破目に。気がつけば、残りの敵も姫香やハスキー達が倒し終えていた。


 怖かったぁと、ようやく立ち上がった末妹に心配そうにミケが近付いて行く。その小さな生き物を優しく抱っこして、ふうっと一息つく香多奈。

 紗良は慌てながらも茶々丸を確保して、スキルを使っての治療を開始する。姫香は妹を心配しつつ、ハスキー達や萌にMP回復ポーションを飲ませてやっている。


 暇なルルンバちゃんが、粛々しゅくしゅくと散らばったドロップ品を飛んで集め始める。その途中で、田んぼの外れで動いていない案山子を見付けるAIロボ。

 そしてその首に、竹編みの籠が掛かっているのも同時に発見に至る。


 その成果を、彼はご機嫌にチームへと報告に戻った。復活した香多奈が、これまた意気揚々とそのチェックへと向かう。護衛役の護人も、呆れるほどの少女の回復振りだ。

 案の定、籠の中身にはアイテムが割とぎっちり詰まっていた。中からはポーション800mlとMP回復ポーション800ml、鑑定の書が4枚に木の実が3個。


 それから魔玉(土)が6個に魔石(小)が5個、小豆ともち米の入った小袋が2つずつ。最後に金色のコインが5枚と、下手な宝箱より中身が良いと言う。

 香多奈も興奮して、植松のお婆におはぎを作って貰おうと、帰ってからのお楽しみを口にしている。甘党の護人も、それは良いねと素直に賛同。


 ようやく治療の終わった紗良が合流して、回収アイテムを魔法の袋へと詰め込み始める。そしてやっぱり嬉しそうに、植松家の訪問の予定を組み込み始める。

 お隣さんの分はあるかなぁと、袋のサイズ的に何人分になるか計算する末妹に。ザジとリリアラは、確か食べた事無かったよねと姫香も会話に参加する。

 そんな甘党連合は、今回のドロップ品に大盛り上がり。





 ――田舎の夕暮れ風景の中、そんな会話が周囲を賑わすのだった。







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