第373話 難易度の高い暗闇エリアを何とか踏破に至る件
予想通りに、レイジー側に襲撃した敵の内の1体が宝箱の鍵を落としたようだ。それを器用にツグミが回収して、これで開かない宝箱問題は解決した。
中身は鑑定の書が2枚に魔結晶(小)が7個、ポーション800mlにMP回復ポーションが800ml。木の実が3個に金色のコインが7枚。
それからサングラスやアイマスクと一緒に、普通っぽい杖が出て来た。興味深そうに香多奈がそれを
俗に言う仕込み杖だが、何故こんなモノがと姉妹は驚いて議論している。取り敢えず、危ないからと取り上げられた末妹はやや不服そうな表情。
文句を言わない所を見ると、どう頑張ってもやり込められるのが分かっているからだろう。それよりツグミの回収品の中に、魔石と一緒に四角い石板もあって何より。
これで何とか、次の階層への挑戦権を得た模様。
「MP回復ポーションは、もうみんないいかな? 怪我した人はいないよね、いたら今の内に言って頂戴ね。
暗くて分かりませんでしたじゃ、次の中ボス戦危ないからね?」
「コロ助も茶々丸も萌も、大丈夫って言ってるけど……本当に暗くって、目で確認出来ないから大変だよね。
まぁ、痛い所が無いなら平気だと思うけど」
「そうだねっ、レイジーもツグミも怪我して無さそうだし休憩も充分っぽいよ。それじゃあ3層に向かおうよ、護人さん。
中ボス戦もこの暗闇の中かな、ちょっと緊張するね」
あれだけ迫り来る敵に絶叫してたら、そりゃあ緊張位はするかなと護人も思う。香多奈は遊園地のアトラクション気分なのか、それ込みで楽しんでるみたいだけど。
姫香に限っては、本気で驚いて絶叫していたみたい。まぁ確かに、あの鳥籠パペットの外見は超不気味だった。暗闇の仕掛けと妙にマッチしていて、これもダンジョンの底意地の悪さか。
取り敢えず、次の層にはそっち系の仕掛けが無い事を祈りつつ。休憩とアイテム回収の終わった一行は、一塊となって出現したワープ魔方陣を潜って行く。
そして案内された次のエリアも、やっぱり真っ暗闇と言う。ランプの灯りも精々が1メートル先までしか届かず、これではどちらに向かうべきかも分からない。
護人さんがいて本当に良かったねと、姫香の言葉に同意する子供たち。ここまで護人が頼りにされた事は、ひょっとして今までの探索では無かったかも。
今までは護人は保護者枠扱いで、余り出しゃばらないでって感じの扱いだった気も。護人の気のせいかもだが、素直に言葉にされるのも何となくくすぐったい。
それはともかく、向かう方向を探らなければ。
「今度は左手の方向に、約200メートルほど真っ直ぐ進む感じかな? 遠過ぎて良く分からないが、明らかな異物があるみたいだ。
取り敢えずは、皆でそっちを目指そうか」
「は~い、左の方向だねっ! ルルンバちゃん、ついて来て~」
いい加減、暗闇にも慣れて来たのか呑気な香多奈の返事はいつも通り。紗良は先程から『光紡』で、光源確保をしようとしているが上手く行っていないよう。
ハスキー達はいつもの先行偵察はしていないが、それ以外は不自由も無い感じ。今も近付いて来た大ネズミと大コオロギを、何なく蹴散らしてくれている。
そして安定の安全確保、一度リーダーの方を振り向いて、行き先に間違いが無いかを確認する。仕事に忠実なその態度には、本当に頭が下がる思いの護人である。
茶々丸もそのクールさに憧れているのか、真似をしようと健気に頑張っている。しかし、ヤンチャな性格はどうやっても隠し切れず、その点は仕方が無いとも。
むしろ、元気な方が子供達も安心するだろう。パートナーの萌は、ちょっと迷惑気味に感じてるかもだけど。萌もまだ子供なのだから、あれくらいの元気があっても良いのかも。
そんな事を考えながら、暗闇の中をひたすら移動して行く一行。すると今度は上空から、大蛾と大コウモリの混成軍が襲い掛かって来た。
護人は弓矢を取り出して、そいつ等を次々撃ち落として行く。
ツグミがすぐにその気配に気付いて、すかさずドロップ品を回収してくれる。この辺も物凄く真面目なハスキー達、パートナーって良いなと普通に思う。
後衛陣は相変わらずで、お喋りしながらこちらの後を必死について来ている感じ。何しろ視界が効かないので、少し離れただけで
そうこうしている内に、ようやく目的地の例のストーンサークルへと到着した。どうやらエリアの造りは、どれも一緒みたいで何と言うか安直ではある。
とは言え、五感の1つを奪われたエリアで、これ以上難しいミッションを与えられても困ってしまう。その辺は突っ込まず、最終ミッションを頑張ってこなすのみ。
つまりは、ここも恐らく円の内に入れば襲撃イベントが起きる筈。
「さあっ、今度はどんなかな……まさか襲撃の敵の中に、中ボスが混じって来る感じとか? でも宝箱と魔方陣はあるのに、中ボスいないもんね?
じゃあやっぱり、後から出て来るんだ」
「なるほど、そんな演出になる訳ね……今まではこっちが速攻で倒してたけど、このエリアじゃそれも不可能って事だね。
凄いね、ダンジョンも学習してるんだ」
「違うと思うけど、でもまぁこっちの必殺戦法は今回は使えないわねぇ。今回は私と香多奈ちゃんも、積極的にサポート頑張ろうね!」
張り切る紗良だが、確かに彼女の活躍は先手必勝の時くらいに限られている。最近は、めっきりと魔法を撃ち込む機会も減っている長女である。
この間、魔法アイテムの『魔導の書』を家族の勧めで使って、得意の《氷雪》の熟練度が上がったと言っていたけど。今までそれを発揮出来ず、紗良もモヤモヤしていたのかも。
とは言え、こう視界が悪いと使い所も厳しいかも知れない。それでも手強い相手が出るのなら、魔法をぶっ放す事に
そんな感じで作戦は決まって、中ボスと甲虫の特攻には気をつけろと護人の忠告の後。チーム全員でサークル内へと侵入して、さて恒例となった襲撃戦のスタートだ。
前衛陣が所定の位置について、後衛の香多奈から元気な『応援』が飛んで行く。ちなみに末妹のこのスキル、今では複数人に行き渡る性能にまでアップしている。
やはり使用頻度の高いスキルは、成長も著しいし効果も高くなっているみたい。ただしMPの使用率的には、それほど差異は出ていないようだ。
何にせよ、今では末妹の代表スキルである。
「来るぞ、みんなっ……最初は恐らく甲虫だ、備えろっ!」
「了解、護人さんっ……!」
護人の掛け声に、勇ましい相槌が暗闇に響き渡る。それから間もなく、それぞれの盾や障壁に硬い物体がぶつかる音が鳴り響き始めた。
時折上がる紗良と香多奈の悲鳴だが、実害には及んでいない様子。それでもこの衝撃音は、肝を冷やすには充分な物騒さには違いない。
その攻撃も、魔石のばら
ただし今回は、地面から大ネズミの進軍も追加されているみたい。なかなかの物量戦が、四方から繰り広げられるのはさすが最終層と言った所か。
紗良と香多奈も、魔法や魔玉投げで敵の殲滅に貢献している。灯りで敵を照らす作業も、同時に行っているので後衛もなかなか大変みたい。
姉妹揃っての戦闘は、実は探索中ではあまり無いシチュエーションで割と新鮮みたい。それだけに、香多奈も張り切って魔玉でのサポートを頑張っている。
「飛んでる敵は、姫香お姉ちゃんとルルンバちゃんが全部やっつけたかな? 大ネズミの群れは、私と紗良お姉ちゃんで始末出来たと思うよ。
えっと、順番で行くと次はあの不気味なパペットかな?」
「うえっ、アイツか……あっ、噂してたら来たみたい」
生首コレクターのパペット兵が、暗闇からヌッと現れるのはかなり心臓に悪い
しかもこの敵、武器を持ってはいるけどバカみたいに首元しか狙って来ない。ワンパターンの戦術しか持たない敵など、今の姫香の実力からすれば恐れるに足りず。
ところが、そんな油断を突くかのような不気味パペットの特殊能力が発動した。籠の中の生首が、突然に口から紫色の煙を吐き出して来たのだ。
ビックリする一同だが、それが有害だと気付いたのは果たして誰が一番先か。その煙を吸うなとの護人の大声に、まず反応したのはハスキー達だった。
迅速に敵との距離を置き、『土蜘蛛』や『牙突』の遠隔攻撃で人形を破壊に至るツグミとコロ助のコンビ。一方のレイジーと茶々丸と萌の陣営は、毒霧ごと炎のブレスで消滅させると言う力技を敢行している。
驚いた事に、萌も口から紫炎のブレスを吐き出していた。どうやら新しく覚えた《竜の波動》の効果は、こんな所にも及んでいたようだ。
茶々丸も相棒のこの成長には、目をまん丸くして驚いている。
姫香に至っては、私は色々と耐性スキルがあるから平気だと。壁となって後衛に近付けまいとしているが、香多奈から離れ過ぎると灯りが届かないでしょと叱られている。
そんな混乱の最中に、次なる異変が突然この攻防戦に襲い掛かった。急な地面の振動は、まるで何か巨大なモノがすぐ近くで足踏みをしたかのような?
更にはストーンサークルの上の空間から、にょっきりとバカでかい手の平が伸びて来た。それに気付いた一行は、何だコレはと大騒ぎを始める。
指1本が人間の大きさのその手の平は、中央の紗良と香多奈を掴もうとしているよう。そうはさせじと、ルルンバちゃんが連続で魔銃を撃ち込みに掛かる。
巨大な手の平にロックオンされた、紗良と香多奈も大パニック状態。何とか《結界》での防御を展開して、被害を防ぎに掛かる長女の紗良である。
ところがその肩の上に乗っかるミケは、そうは思わなかった模様。元々ミケは、知らない人間に上から腕を伸ばされる状況が大嫌いなのだ。
まぁ、小柄な動物は大抵それをストレスに感じるのは当然かも。
ミケも同じく、それを自分への攻撃と判断して、過剰に反応するのは仕方の無い事か。だとしても、束での雷撃落としは少々やり過ぎかもだけど。
あれって、ひょっとして中ボスかもとの香多奈の推測はやや遅過ぎた感じ。何しろその推定中ボスは、護人が飛び上がっての止めの一撃で、光る粒子と化してしまった後だったから。
そして突然、周囲のエリアが見事に明るくなる演出に。眩しさに思わず目を覆う一同、ペット達も明らかにこの変化には戸惑っている。
それでも危険は去ったみたいで、地面にはばら撒かれた魔石や素材系のドロップが。その中に鳥籠を発見して、アレってパペット兵の落としモノかなと、その物体を遠くから眺める末妹である。
ドロップ品は他にも、素材系に混じって四角い石板と魔法の鍵が1つずつ。魔石(中)とスキル書1枚は、恐らくは中ボスの巨人(手の平のみ)のドロップか。
ルルンバちゃんと一緒に、地面に散らばった魔石を拾い始める末妹は楽しそう。明るいって良いねと、暗闇の消え去ったエリアに満足そうな笑顔である。
姫香はツグミから鍵を受け取って、暗闇色の宝箱の中身チェックを行う。中からは鑑定の書が4枚にオーブ珠が1個、魔石(中)が7個に魔玉(闇)が14個ほど確認出来た。
それから装備品は真っ黒いマントに、蝶か蛾の
後は生活用品で、黒Tシャツ数枚に黒靴下、白髪染め液やら墨汁やら黒ペンが数本。最後に金色のコインが10枚に、闇色の鍵が1つ出て来て終了。
予想通り、このダンジョンも鍵を4つ集めて中央の扉を開けて攻略する感じみたい。そして雑魚モンスターの数も、1層ごとに半端なく多い特徴も一緒だった。
とにかく、1つ目の扉は何とかクリアに
回収したアイテム類を魔法の鞄に詰め込み、それを祝い合う家族チーム。惜しむべきは、萌の新装備のチェックが充分に出来なかった事くらいだろうか。
まぁ、その辺は午後からの探索で行えば良いと、子供達は前向きなコメントを発している。それよりお腹が空いたから、一旦お家に帰ろうと香多奈の言葉に。
それもそうだねと、同意する姫香もお腹がペコペコの表情。
――難易度の高いダンジョンを攻略し、意気の高い子供達だった。
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