第372話 暗闇エリアの階層渡りの方法を何とか突き止める件
完全に乱戦と言うか、四方を囲まれての逃げ場のない戦いを強いられている来栖家チーム。それでも百戦錬磨の面々は、さほど慌てた様子もなく敵に対処している。
受け持った拠点を防御すれば、こちらに負けは無いみたいな妙な信頼感の中。不意に立ち上がる炎は、レイジーの『魔炎』が発動したのだろう。
この暗闇エリアの大きなデメリットで、数メートル離れたら周囲で起きてる事態が把握出来ない縛りがある。夜目の利かない姫香に限っては、紗良と香多奈がライトで敵を照らしながらの戦闘である。
それはルルンバちゃんも有り難いらしく、照らされた敵を上空から狙い撃つその手腕は見事。或いはこの状況を、楽しんでるのかなと思ってしまう戦闘振りだったりして。
それでも、敵を後ろに通したくない姫香にとっては、物凄く有り難いサポートである。5メートル超えの大ムカデは何とか倒したが、続けての大コウモリの襲撃は超厄介!
香多奈やハスキーのサイズなら、鍵爪で
だがしかし、ルルンバちゃんの
「わわっ、柱の上に注意だよっ……でっかいスライムが落ちて来たっ! みんな注意して、ミケさんくらいなら丸呑みにされちゃうサイズ!」
「うおっ、上から酸を吐いて来たな……みんな、柱からなるべく離れて! このスライムは雑魚じゃないぞ、
香多奈と護人の言葉に、再び周辺に立ち上がる赤い炎。それから落雷が何発か、丸呑みされちゃう発言に、ミケが腹を立てた結果かも知れない。
ただしミケのお手伝いも加わって、姫香とルルンバちゃんが受け持っていた裏正面は、敵影が綺麗に消えてくれた。しばらく用心していた姫香だが、新たに周囲に動く影は無し。
次いで、正面を受け持っていた護人が、こっちは片付いたと声を上げた。そこから戦闘音は徐々に減って行き、どうやらレイジー側も戦闘終了した模様。
後はツグミとコロ助サイドだが、こちらもどうやら無事に乗り切ってくれたみたい。元気な姿の2匹が、尻尾を振りながら後衛陣の元へと合流して来た。
そして律儀にも、ツグミは拾った魔石を姫香へと渡してくれる。
実はこのエリア、暗過ぎて撮影どころか魔石拾いにも支障が出る始末。香多奈とルルンバちゃんはションボリだが、その分ツグミが頑張ってくれていた。
この1層フロアで集まった魔石の数は、さっきの戦闘分を合わせて60個近くと言う。最後の襲撃では、魔石(小)も幾つか混ざっていた。
それから素材系のアイテムが幾つかと、用途不明の四角い石板が1つ。スキル書も1枚ドロップしていて、これは割とラッキーだった。
後は、恐らくスライムの落とした瓶入りの液体が3つと、金色のコインが6枚。またまたコイン系のドロップに、これは何だろうねとウキウキ模様の末妹である。
ひょっとして、ここも最後に景品交換が?
「そうだったら運がいいよね、難易度高めだから何回も来たいとは思わないけど。交換だとしたら、場所的にはどこだろうね?
中ボス戦の後とか、ひょっとして5枚目の大ボスの扉奥とか?」
「大ボスの扉はさすがに無いでしょ、だってパターン的に4つの鍵集めが必要なんだよね? いやでも……それもあり得るのかなぁ?」
考え込む姫香と香多奈だが、とにかく今はクリアの事を考えないと。休憩を終えて、護人はいかにも怪しい四角い石板を手に取って思案顔。
それからチームのみんなに注意喚起して、ワープ魔方陣とその周辺の変化に注意して貰う。そして台座の中央の窪みに、石板をゆっくりと乗せて行く。
この辺のギミックは織り込み済み、そして案の定起動し始めるワープ魔方陣である。ストーンヘンジの中央で輝きを発するそれは、恐らく第2層へと導く通路の筈。
ここにはもう用事は無いので、休憩の終わった一行は揃って魔方陣の中へと飛び込んで行く。そして軽い
やっぱり真っ暗で、右も左も分からない場所だった。
「ここも真っ暗だ、嫌になっちゃうよねっ。どっちに進めば良いのかな、叔父さんっ? 叔父さんの持ってる《心眼》って、割と凄いスキルだったんだね!
暗闇でもへっちゃらだし、進む方向も分かるんだもん」
「本当だよね……護人さんがいなかったら、迷いまくって大変な事になってたかも。さっきのエリアは、30分とちょっとで攻略出来たのかな?
ここも目標はその位で、頑張ってクリアしようっ!」
姫香の言葉に、お~っと追従するお調子者の香多奈である。喧嘩ばかりして仲が悪いように見えるけど、基本はこんな感じで馬が合う性格だったり。
そしてこの姉妹が元気だと、ハスキー軍団やペット勢も自然と乗って来ると言う良サイクル。どっちに進めば良いのと、姉妹の尋ねる声も弾んでいる。
ワープで飛ばされた先は、やっぱり暗闇の何も無い空間だった。光がほぼ遮断されるのも同じ仕様で、進む先など全く見当もつかない。
それでも護人の《心眼》は、このエリアでの目的地を探り当ててしまう。こっちに進むぞとのリーダーの声に、元気に従うペット勢と子供たち。
そして最初の敵との遭遇、その数は1ダース余りと割と団体さん。
今回の敵は、大芋虫と風変わりなパペットの混成軍だった。パペットの胴体は鳥籠のようになっており、中には発光するナニかが入っていて目立つ事請け合い。
側で見ていた護人には、その光っているのが何なのかハッキリ確認出来た。何と篭に入っているのは生首で、その見開かれた2つの眼が
作り物なら良いけど、こんなの子供に見せるモノでは無い。護人はやや慌て気味に、その不気味パペットを“四腕”のパンチで粉砕に掛かる。
幸い、その不気味パペットの数は少なくて助かった。そのペアの大芋虫に関しては、動きも鈍くてまるでハスキー達の相手にもならない弱さ。
ただまぁ、糸を吐く攻撃が少々厄介だった程度だろうか。
「掃討終了かな、それじゃあ移動を始めよう……やや右手の方向に、さっき見掛けた石柱のサークルが建っているかな。
約100メートルほど移動だ、気を抜かないようにな」
「了解、叔父さんっ……ルルンバちゃん、宙を飛んでて
暗視の無い彼は、今回はまるで良い所が無い。魔石拾いさえ出来なくて、割とションボリなAIロボである。それを見兼ねた姫香が、今日頼んだ改良が終わったら次から活躍出来るよと
それで呆気なく、元気を取り戻すルルンバちゃんであった。そんな一行は、ハスキー軍団を先頭にゆっくりとした足取りで真っ暗闇の中を進んで行く。
慎重なのは、いつ暗闇から敵が出て来ないとも限らないから。特に茶々丸が発見した、シャドウ族は不意打ち攻撃の天才モンスターでもある。
それを簡単に見破る茶々丸も凄いが、
途中で正にそのシャドウ族の襲撃と、それから大コウモリの空からの奇襲が1度ずつあった。それを何とか
移動距離こそ少なくて済んでるけど、正直神経は削られている一行である。そして目的地に到着したは良いけど、中に入るのを
パターンとしては、入ったら例の囲い込みが発動するのでは?
「あり得るな、今の所は周囲に敵の気配は無いけど……まさかこのままスンナリ、この層をクリアさせてくれる程優しくも無いだろうしな。
ただまぁ、入らない事には襲撃イベントも始まらないのかもなぁ」
「そっか、それじゃあ仕方無いから覚悟を決めて中に入ろうか。紗良姉さんと香多奈は、とにかくみんなの真ん中にいて頂戴ね。
護人さん、フォーメーションはさっきと同じでいい?」
「それなら……私たちもさっきみたいに、姫香お姉ちゃんの殴る敵にライトを当てて見えやすくすればいいんだねっ! ルルンバちゃんも、フォロー頑張って!
目の前に来た敵は、全部倒しちゃっていいからね!」
私も頑張るよと、末妹の言葉に紗良も乗っかってガッツポーズを見せる。そんな訳で、暗闇の中をサークル内へと踏み込んで行く来栖家チーム。
その中央にあったのは、さっきと同じく稼働していない魔方陣と台座のセット。今回は台座の横に、小型の宝箱がチョコンと置かれてあった。
それに喜ぶ香多奈だが、鍵が掛かっていて開かないみたい。ツグミに催促するも、彼女にもどう仕様も無い様子。どうやら鍵が必要みたいだが、それがどこにあるのか分からない。
これも敵が落とすのかなぁと、頭を寄せ合って考えていたら護人の合図が一行に。つまりは敵の気配が、四方から生まれ始めたみたいである。
それに備えるため、持ち場へと陣取り始める前衛陣。次の瞬間、備えろと一際大きな声が護人から。次いで鈍い音が鳴り響き、どうやら護人の盾に何か硬いモノがぶつかって来た模様。
しかも物凄い速度で、何かが連続して突っ込んで来たと思われる。
ただし、そのリーダーの言葉に反応したチームの動きは素早かった。コロ助は《防御の陣》で、姫香は『圧縮』スキルでの防御に成功する。
茶々丸と萌のペアは、萌の新装備の『紫雲竜の盾』で前に出ての壁防御。この新装備の盾、何と持ち主の意思である程度大きさや形を変えられるみたい。
茶々丸も覆い隠す程大きくなった盾の表面に、同じく物凄い衝撃が。他の防御壁にも、結構な衝突音が響いて周囲は一瞬で大変な騒ぎになった。
突っ込んで来たのは、どうやらラグビーボール大の甲虫モンスターらしい。衝突のダメージで魔石に変わって行くが、これを体に受けたら一大事かも?
他のメンバー、特に姫香と香多奈の所は大騒ぎで、ワーキャー言いながら衝突に対処している。それがようやく終わった後に、近付いて来る新たな敵影。
第2陣は、これも飛行タイプの大蛾の群れみたい。まるで、田舎の街灯に群がる蟲のラインアップだが、コイツの鱗粉攻撃には過去に嫌な思い出が。
再び飛ぶ護人の掛け声に、チームも対処に
護人の対処は、大蛾が近付く前に『射撃』スキルで全て撃ち落とす方法だった。その合間に、他の陣営が無事かどうかのチェックを《心眼》で行うと言う。
なかなか忙しいけど、1ヵ所が崩れたら背後から挟み撃ちで大ゴトになってしまう。その辺は慎重になり過ぎる事は無い、もちろん自分の持ち場も大切だけど。
そんな中、レイジーは安定の『魔炎』で飛んでる敵を焼き払っていた。姫香の陣営も、ルルンバちゃんが空中戦を挑んで敵を寄せ付けない構え。
彼には鱗粉攻撃も効かないので、接近戦も全くのへっちゃらである。ツグミとコロ助の陣営も、2匹の持つ遠隔攻撃で上手に対処しているみたい。
取り敢えず一安心の護人だが、突然敵の種類に変化が。地上からも大ネズミが襲って来始めて、上と下からの波状攻撃である。これは四方とも同じようで、慌てた悲鳴が背後から上がる。
それを聞いた護人も慌てるが、どうやら今の所平気なようだ。紗良も攻撃に加わったようで、向こうの戦線はまだまだ持ち
ハスキー達の両サイドも、落ち着いて対処出来ている模様だ。
そして次の敵の出現で、またまた上がる子供たちの悲鳴。今度出て来たのは、例の胴体が鳥籠のパペットだった。確かにこれは、近くで見るととっても怖い。
護人も改めてそいつを眺めて、趣味の悪さに思わず眉を
何だコイツはと不審に思うも、籠の中の生首を見て納得がいってしまった。どうやらこの不気味パペット、生首コレクションが趣味らしい。
とは言え、強さ的にはそこまででは無い雑魚カテゴリーのパペット。他の陣営もさほど苦労はしていないようで、次々と撃破して行っている。
そしてようやくの事、周囲に溢れていた敵影は全ていなくなってくれた。どうやらこの2層も、何とか襲撃イベントを耐える事が出来たようだ。
そして、周囲に散らばった魔石を苦労して拾い始める香多奈とルルンバちゃん。紗良はMP回復ポーションを取り出して、チームの回復に取り掛かり始めている。
まぁ取り敢えずだが、今回も何とか乗り切った感じ。
――真っ暗闇の中、子供達の安堵の声が響き渡った。
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