第363話 “双子の宝石”と色々と取引を行う件
よく見れば周囲にも、大小様々な形状のゴーレムやパペット、更には人型でない機兵や作業用のロボなどが存在していた。賑やかな視線が、客である来栖家チームに注がれている。
護人や子供達は、やや落ち着かない感じで砦の2体の
その経歴は、何故か妖精ちゃんが知っていた。大昔に地中に埋まっていた宝石が意志を持ち、それが2つに割れて地上へと出て来る事になって。
それから様々な知性体の手に渡って行き、長い年月を経る間に意思は段々と思考するように。思考は感情を生み、もっと自由な移動を望むようになったのだとか。
そうしてパペットやゴーレムの身体の所有に至り、果ては自分達の王国を造るまでに。領地の従者たちに感情を持つ者はまだ少ないが、数年に1体の確率で生まれる事があるそうだ。
その原理は不明だが、いずれはこの地に彼らの王国を築くことを夢見ながら。今は獣人軍やホムンクルス軍勢に完全に押されて、何とか安全領域を確保している彼らである。
最近はダンジョン内にまで追いやられ、劣勢ながらも頑張ってるみたい。
パペット兵やゴーレムは、
体格が良くなり素材も上物になれば、それなりの強敵になり得るのだろうけれど。生憎とそんな個体は、数が少なくてなかなか揃わないのが実情である。
ましてや“双子の宝石”の片割れみたいな、超巨大ゴーレムともなると超希少。ただまぁ、このサイズになるとダンジョンにも逃げ込めなくて困っているとの事。
ちなみに彼らが押さえているダンジョンの入り口、入った先のエリアはフィールド型のエリアで生活環境も整っているそうだ。ゴーレムやパペットの生活って何だと、ツッコミは入れたくなるけど。
彼らにだって、寛げる空間は必要なのだろう。
「ダンジョンの1層程度なら、出現するモンスターも弱いし私たちでも生活しようと思えば出来るかもね、護人さん? でも可哀想だね、色んな軍勢から
出来れは向こうの勢力を削るお手伝い、お礼に買って出たいけど」
「それはいいねっ……今日はもう時間無くて、私たちが無事にお家に帰れるかどうかの瀬戸際だけどさっ。もし帰りのフェリーに遅れたら、ここにお世話になる代わりに家族で用心棒を引き受ければいいんだよっ!
すごくいい案だと思わない、叔父さんっ!?」
「いやまぁ、遅れないよう戻るのが一番なんだけどな……迷子の保護のお礼に関しては、確かに何か考えなきゃな」
その保護されていたコロ助と
他のメンバーもお腹は空いていたが、そこはグッと我慢である。無事に戻れたら、船の上でお昼を食べる時間は幾らでもあるのだ。第一、今は仮にも一国の統治者と面会中の身。
その交渉を、主に妖精ちゃんが行ってるのはアレだけど。それから何故か、萌も前に出て来て言葉とは別のコミュニケーションを交わしている模様。
そう言えば、萌の正体はダンジョンで拾った卵だったような気も。ただし、その元はちゃんとした生命体だったかは怪しい限りである。同時に消えていた魔剣が一番怪しいが、それがひょっこり生物に進化するとはちょっと考えにくい。
案外と、元は似たような進化なのかなと護人は漠然と考えつつも。“双子の宝石”の知性は高そうで、萌はそれに及ばない感じを受ける。
その差が何なのかは不明だが、萌の伸びしろはかなり高いのではなかろうか。そんな萌との話し合いが終わったのか、リーダー格のフードを被ったパペットが一同を砦の奥へと招いてくれた。
ついでに妖精ちゃんも、ここにワープ魔方陣はあるかとお
どうやら来栖家の小さな参謀は、この“浮遊大陸”への直接ルートを確保したい模様だ。それが叶うと、“アビス”と“浮遊大陸”の新コンテンツ2つに簡単に参加が出来るようになる訳だ。
それを有り難いと思うかは別として、チームの強化案は確かに
香多奈が張り切って、向こうのパペット領主の言葉を通訳してくれている。紗良は妖精ちゃんに言われて、ワープ装置で魔方陣の位置情報をコピーしている。
パペット領主は友好的で、特に萌の事を同種と認識しているようだ。そんな感じのニュアンスを香多奈が翻訳して、家族間に混乱をもたらしている。
そのお陰なのか、萌に対するプレゼントは凄かった。
恐らくは“太古のダンジョン”からの回収品なのだろう、紫色の鱗製の全身鎧や宝珠、それから鎧とセットの盾も譲ってくれるそう。
資材置き場らしき他の箱には、木の実や魔石が整然と箱に仕分けされていた。木の実は彼らに使い道が無いので、全部持って帰って貰って良いそうだ。
魔石に関しては、パペットやゴーレムの駆動エネルギーとなるそうなので残念ながら許可は出ず。それから何故か、アビスリングやメダルも割とたくさん収集されていた。
それを見て興奮する子供たち、何しろ“アビス”自販機の交換品には良品もかなり揃っていたのだ。それも持って行って良いとの事で、狂喜乱舞する香多奈であった。
そのお返しにと、妖精ちゃんが前日の回収品からアレを渡してあげろと紗良に指示を出す。アレって何だろうと相談する姉妹、試行錯誤して探り当てたのは丸い石板だった。
何となくダンジョンコアに似てるなと、用途不明ながら鞄に仕舞い込んだ覚えのある紗良だったけど。それが『コアイミテーター』と言う、まさにそんな品だと知ってビックリ仰天。
つまりは、これを基にダンジョンが発生する?
「向こうの話が難しくて良く分かんないけど、ダンジョンの卵みたいなモノなのかな? “アビス”の扉が多いのも、これで枝分かれして増えて行った結果なんだって。
良質なゴーレムのコアにもなるから、凄く欲しいって言ってるね。ウチに持って帰っても危ないだけだし、リングやメダルと交換しちゃおうよっ!」
「それがいいかもね、ついでにゴーレム誕生の瞬間も見てみたいかなっ? ちょっと神秘的じゃない、新しい生命が芽吹くのって?」
それは見たいかもと、姫香の言葉を通訳し始める末妹の香多奈。紗良は鞄から取り出した『コアイミテーター』を、しげしげと眺めたのちに領主パペットへと渡す。
改めて言われると、その石板は微かに温もりを放っていたような? それを受け取った領主は、一行を隣の大部屋へと誘ってくれた。
そこには起動していないゴーレムやパペット、機兵が整然と並んでいた。どうやら彼らは、整理整頓の精神が行き渡っている様子。
パペット領主はその中の騎兵の前へと歩み寄り、手にした石板をその胸へと押し付ける。その途端、周囲に眩い光が満ち始めて驚く姫香や香多奈。
ハスキー達も、非常事態かと緊張して身構えている。
次の瞬間、3メートル級の機兵の動ぐ起動音が室内にこだました。おおっと素直なリアクションの子供たち、一方のペット勢は警戒して迎撃態勢を取っていたり。
機兵は超合金のロボのような外観で、いかにも強そうな見た目である。しかし機兵が最初に取った行動は、パペット領主に臣下の礼を取る事だった。
それにも感動のコメントを口にする子供たち、確かにちょっと奇跡の瞬間に立ち会った感じがする。その機兵に近付くルルンバちゃん、何か通じるモノがあったのかも知れない。
萌も続けてコミュニケーションを取りながら、一体何を話し合っているのか。しかし、せっかく最果ての地で得た知り合いだと言うのに、無情にも別れの時が訪れた。
紗良が慌てたように、お昼の12時を過ぎちゃったと護人に進言する。それを聞いて大慌ての面々、このままでは瀬戸内海のど真ん中に取り残されてしまう。
何とかパペット領主に経緯を説明して、また遊びに来るねと伝言する香多奈。相手は軽く手を振って来て、どうやら了承されたようで何より。
最後に追加のお土産までくれて、これは本気でお返しをせねば。
「紗良姉さんっ、装置を動かしちゃおうっ……あっ、大き目の魔石をお礼に置いて行っていいかな、護人さんっ? 忘れ物無いか確認して、香多奈っ!
ハスキー達とみんな、今度は
「中くらいの魔石、さっきの子の誕生プレゼントに幾つか置いて行くね? 萌もちゃんとお礼言った? アンタが一番、いいモノ貰ったんだからねっ?
本当にありがとうっ、また今度遊びに来るねっ!」
「えっと、これが“アビス”の16層の回廊休憩所の座標だっけ? 妖精ちゃん、これでリングをここに設置でオッケーかな?
あっ、起動したっ……みんな、お別れ言ってお
紗良の言葉と共に、正常に起動する転移用のワープ魔方陣。ペット達は全く
続いて子供達が、バイバイとかさようならと愛嬌を振り
最後にパペット領主と、束の間視線が合った気がしたのだが。そこからは末妹のようには、全く何の情報も得る事が出来なかった護人。
或いは何か、大事なメッセージの類いを発信していた可能性もあったけど。異世界交流もまだまだ素人の護人には、察する事すら叶わず仕舞いで残念な限り。
そうして“浮遊大陸”上陸イベントは、慌しく幕を閉じたのだった――
そこからはとにかく急ぎつつの、地上への帰還――の前に、大量のリングと自販機の組み合わせで、欲望に支配された子供たち。途中で貰ったリングとメダルの、実に半分を利用しての物品交換に及ぶ流れに。
その間も、時間が無いと焦った言葉を
ただし、今度いつここに来れるかと言われたら、そこは全くの未定でもある。それならこのチャンスは逃せないと、要するに緊急事態にも関わらず物欲が勝った訳だ。
そうして、コレが欲しいとかこっちは凄い性能だねとか。これは絶対に複数交換しなきゃとの、壮絶なメダルの残り量との
その間に、護人は保護した三原の“聖女”の処遇を考えていた。このまま何事もなく帰路につければ、恐らくは協会のお偉いさんに丸投げは出来るだろう。
ただし、果たしてそれで良いのやらって感情は確かにある。それが向こうの知る事となれば、2つの組織の戦争になってしまうのも分かってはいる。それに巻き込まれたくは無いけど、このまま身を引くのも薄情な気も。
本人の主張は“ダン団”には戻りたくないと、その点は譲らない構え。子供達もそれは可哀想と、彼女の告白を聞いてからは保護の感情に傾いている。
とは言え、日馬桜町の実家まで連れて帰る気はまるで無い。この大規模レイドの責任者は甲斐谷チームなので、そちらに預かって貰えば良いだろう。
後は恐らく、協会組織が何とかしてくれる筈。
そうこうしている内に、ようやく子供たちの自販機交換は終了したみたい。それぞれ満足そうな表情で、さてこれで地上に戻れるねと口にしている。
それから星羅を見て、変装しなきゃバレちゃうと意見する香多奈。彼女もせっかく貰ったミスリル装備を捨てて来た事を、ここぞとばかりに謝罪する。
そんな事よりこの先の危機回避が大事と、何か変装出来るアイテムは無いかなと話し合う一同。結局は、ダンジョンで回収した重装備を再び着込んで貰う作戦に。
その装備の重さで、動きがぎこちなくなる星羅はちょっと
そして来栖家チームは、リングを使ってワープ魔方陣でようやく地上に出るに至った。丸1日振りの海上の風景に、しかし感慨に
フェリー船はどこだと、慌てて周囲を見回す来栖家一同である。時間は12時を30分以上過ぎていて、とっても微妙なライン。
そんな中、まず目に入ったのは割と悲惨な様相に変わり果てた護衛艦『いづも』の姿だった。誰の仕業かは不明だが、恐らく航海には支障は無さそうだ。
そしてそれよりかなり小型のフェリー船が、出港準備を完了して来栖家チームを待ってくれていた。思い切り喜びながら、それに向けて駆け込む一同。
船上からは、他のチーム員が何人も手を振っているのが窺える。
――こうして、初の“アビス”探索は無事帰途につくに至ったのだった。
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