第362話 ようやく2組が“浮遊大陸”で合流を果たす件



 ホムンクルスの軍勢だと評された怪鳥は、戦ってみてかなりの強さだと判明した。飛行能力のある敵は、確かにそれだけで組み合い辛い相手である。

 そいつは体力的にタフで、攻撃力に関してもあなどれないレベル。さすが合成獣である、戦闘用に色んな所を強化されていたのかも。それでも5分以上に渡る激闘で、何とかかんとか倒し終える事に成功した。


 最後はミケの《魔眼》まで発動して、かなりコスパの悪い勝利となってしまった。そして驚きの事実が発覚、倒したモンスターが魔石化しないと言う事態に。

 ダンジョンとは違うルールを突き付けられ、多少あたふたしてしまったモノの。何とか無傷で乗り越えて、今はチームでホッと一息入れての休憩中。


 とは言え、あまり悠長にしていたら午後のリミットが訪れてしまう。一行はキャンプ地を綺麗に畳んで、大急ぎで出発の準備を完了させる。

 そして見知らぬ土地の探索へと、今日も元気に出発して行くのだった。


「さっきの戦闘も大変だったけど、迷子の捜索も時間制限あるとキツいよね……帰りのフェリー船に乗り遅れたら、家に戻れなくなっちゃうよ。

 泳いで帰る訳に行かないし、猶予は後3時間くらいかな?」

「えっ、それまでにコロ助と星羅せいらちゃんを探し出さないといけないのかぁ。叔父さん、大丈夫かな……私も再来週には、小学校が始まるんだからね?」

「そこはハスキー達に期待するしか無いな……島の面積は思ったより大きいけど、さすがに四国程じゃ無いからな。

 遠吠えが聴こえれば、コロ助も返事してくれるだろう」


 そんなやり取りからの20分後、来栖家チームは見晴らしの良さげな丘のてっぺんへと到着。風の抜けが良くて、やや肌寒い中レイジーの遠吠えが響き渡る。

 返事が無いかなと、必死に耳を澄ます子供達。しかしハスキー達にも、返事があったとの反応は無く残念な結果に。代わりに森の途切れた場所から、オーク兵の偵察部隊が出現して来た。


 全部で1ダース程度だろうか、その連中にバッチリ目撃されて慌てる来栖家チームの面々。互いの距離は100メートル程度、逃げられたら応援を呼ばれて厄介な事態は確実だ。

 それに思い当たった護人は、姫香に後を任せて薔薇のマントの飛行モードを発動する。そのスピードについて来る、地上を疾走するレイジーは大したモノ。


 ツグミも遅れて突っ込んで来て、茶々丸も慌てて後を追っての突撃開始。案の定、敵のオーク兵の中の数人は反転して部隊を離脱しようとしていた。

 それを許さぬ力技で、護人とレイジーは敵を次々とほふって行く。


 ツグミと茶々丸が戦場に到着すると、後は余裕をもってこちらのペースに。そしてやっぱり、倒した敵は魔石になって貰えず往生おうじょうする面々。

 返り血を浴びるとか、肉の油で刃物の切れ味がにぶるとか。家畜を扱って多少は知っているけど、まさか戦場で味わうとは思ってもみなかった護人である。


 そう思うと、敵の発する断末魔も余り気持ちの良いモノではない。それでも数分も掛からず、何とか遭遇した敵は全て切り伏せる事に成功した。

 そして血塗れのペット達を見て、何となく悪い事をした気分に陥る破目に。紗良が濡れタオルを用意して、その後片付けを手伝ってくれているのはナイス気遣いだ。

 とは言え、こんな遭遇戦はあまり続けて経験したくはない。


 そんな訳で、さっさとこの場を離れて島の中央へと進む事に決定した。今度はなるべく身を隠しての、レイジーの遠吠えチャレンジを敢行する事に。

 そして2回目の挑戦だが、またもや空振りの残念な結果に。今度は敵をおびき寄せなかったので、その点はまずは良かった。とは言え時間はどんどん消化され、既に朝の10時過ぎである。


 香多奈の顔にも、段々と焦りが浮かんでくる中。妖精ちゃんの提案で、一行は廃墟の遺跡エリアへと方向転換を行う。どうやらこっちの方向に、さっき話に上がった友好的な勢力の拠点があるらしい。

 いざとなったら協力して貰おうと、ここの事情を良く知る感じの小さな淑女の言葉である。どうやら異世界にいた頃に、何度かこの地には訪れた事があるらしい。


 ビックリな証言だけど、逆に地理に詳しい仲間の存在は心強い限りだ。話を聞き進めるに、どうやらこの“浮遊大陸”には、地下に拡がる“太古のダンジョン”の入り口が全部で8つあるそう。

 そして来栖家チームが出て来たのは、その中の1つみたい。


「大抵はどこかの勢力が入り口を押さえてるんだけど、夜を明かした場所はどの拠点からも遠かったみたいだね。その点はラッキーだったのかもって、妖精ちゃんが言ってる。

 やっぱりここに住むモンスター達も、ダンジョンは利用してるのかな?」

「倒しても死体が消えないって事は、奴らも寝たり食べたり経験詰んで強くなったりしてるんだろうね。そんな連中を相手取るのは、やっぱりちょっと嫌かも。

 倒れてる死体とか流れてる血を見ると、どうしてもね……」

「姫香は無理する必要は無いよ、今日はずっと俺が前衛に立とう。妖精ちゃんも言ってたけど、ここで捕まると相当酷い目に遭いそうだ。

 後衛陣は、ヤバいと思ったら無理せず戦線を離脱して逃げるようにな。その指揮は、そうだな……妖精ちゃんに頼もうか。

 その時は情を挟まず、例の装置でここを離れてくれ」


 そんな事出来ないよと強い否定を示す姫香だが、妖精ちゃんは重々しく頷きを返す。チームが全滅するよりは、よっぽど理性的な判断だと褒めてさえくれた。

 それに納得出来ない姫香や子供達は、やはり情に支配され過ぎているのだろう。仕方ないとは言え、不安な思いは護人だって同じである。


 そんな話をしながら、一行は妖精ちゃんに従ってゆっくりとした足取りで進んで行く。先行するレイジーとツグミも、足取りはかなり慎重になっている。

 そして20分後に、再度のレイジーの出番となった。敵に発見される確率は、妖精ちゃんによると割と高いみたい。そこで香多奈が、ルルンバちゃんに前以まえもって『波動砲』のスタンバイを頼んでおく事に。


 地上から団体で来る敵も、空を飛んで偵察に来る敵にも、このエネルギー砲は有効である。弱点は、再装填そうてんに割と時間が掛かる事くらいだろうか。

 大物相手なら外す事も少ないし、不意を突けば命中率もかなり高いこの兵器。隠れておいての先制打には、実はかなり効果的だったりする。

 香多奈も接近する敵がいたら、真っ先に見付けるよと張り切っている。


 そして今日3度目のレイジーの遠吠えに、期待の視線……もとい、聴力に神経を集中する一行。場所は廃墟の遺跡が瓦礫がれきとなっている広場で、見通しは悪くない。

 来栖家チームはそんな瓦礫の影に隠れながら、必死にコロ助の返答を待っている。しばらくすると、瓦礫の上のレイジーがビクッと耳を動かし始めた。


 ツグミも同じく耳をそばだて、それから空を見上げる仕草。姫香は期待しながら、同じく空を見上げてみる。しかし目に入ったのは、巨大なワイバーンが編隊を組んで飛んで来る姿だった。

 ガッカリしていると、マークされたレイジーが誘導するように本隊の方へと逃げて来た。そこに準備万端のルルンバちゃんが、容赦の無い一撃をブッ放す。

 その威力で、一気に3匹のワイバーンが飛行不能に。


「うわっ、ワイバーンの上に誰か乗ってたかな……一緒に墜ちて行っちゃったけど、接近されてたら厄介だったかも。

 凄い威力と命中精度だったね、ルルンバちゃん!」

「本当に助かったな、こっちも一応弓は用意してたんだけど。連中は森の中に墜ちて行ったみたいだ、念の為にそっちは避けて進もうか」

「あれっ、レイジーが進む方向分かったっぽいよ、叔父さんっ! 私たちには聞こえなかったけど、コロ助の返事が聴こえたのかもっ!?」


 その朗報に、盛り上がる護人と子供たち。レイジーは張り切って先頭を進み始め、その足取りは今までと違ってかなり軽やかだ。それに続く面々も、同じく期待に満ちた表情。

 そこから20分も進むと、誰の耳にもはっきりと犬の遠吠えが聞こえて来た。レイジーは自重して、それに返事はしないと決め込んでいるみたい。


 何しろ、今まで高確率で敵を招く結果になっているのだ。どうやら周囲の領地持ち陣営は、縄張り意識が非常に高い様子である。野生に近いその習性を、逆撫でしても良い事は何も無い。

 となると、コロ助の側も少々心配ではある……一緒にいる筈の星羅も、無事でいるかどうかも含めて。一行の足は自然と速くなり、先導するレイジーの足取りによどみは無い。

 時刻は11時、そろそろリミットも近付いて来た。




 そろそろお腹も空いて来たかなって感じのお昼前、来栖家チームは廃墟遺跡を何とか無事に通り抜ける事が出来た。敵との遭遇が無かったのは、運が良かったのかレイジーの優秀な先導のお陰か。

 とにかくある程度開けた場所に出た一行は、奇妙な砦のような建造物を発見した。やけに大きな塀の高さと、大門はまるで巨人の住処すみかのよう。


 その脇に、まるでオマケのように設えてある小さな扉は人間用のモノだろうか。それが突然バカっと開いて、稲妻のように何かが飛び出して来た。

 その塊は、真っ直ぐに後衛陣に狙いを定めている様子。


「コロ助っ……良かった、無事だった!!」

「うわっ、久し振りにコロ助のマジ走りを見たよ……」


 持久力に優れるハスキー犬だが、その気になれば瞬発力も秀でている。嬉しさのあまり、本気の全力疾走を見せたコロ助は、ご主人に突進して見事にすっ転がしていた。

 それを温かい目で見つめる護人と姉達、紗良など思わず涙ぐんでいる。ヤンチャな相棒に転ばされて、いつもは文句を言う香多奈も言葉にならない感情の様子。


 そのコロ助が出て来た扉から、もう1つ小柄な影が出現した。続いてもう1つ、後ろの人影は星羅の様で、姫香が手を振ると明らかにホッとした表情に。

 その前を歩いているのは、外見からしてどうやらパペットのよう。素材は何か分からないが、どこか人間臭い歩き方である。フードを被っているが、顔や手足は完全に剥き出しだ。

 そして額には、虹色に光る大きな欠けた宝石が。


 それを見て一番に反応したのは、今は半人半竜姿の萌だった。確かに彼の額にも、負けない程の大きな宝石がはまっている。向こうのパペットも、萌の存在は気にしている様子。

 それから星羅も、子供達にお帰りと声を掛けられて半泣きに。紗良がその体を受け止めて、よく頑張ったねと背中をポンポンと軽く叩いてあげている。


 それを切っ掛けに、星羅の半泣きは次第にマジ泣きに。護人は三原の“聖女”を子供達に任せて、宝石付きのパペットへと向き直る。今やその小柄な姿は、声が届く程の距離まで近付いて来ていた。

 ただし、やはりパペット……声帯など無いようで、言葉を発する事も無く。姫香も護人の隣に寄って来て、何か伝えたい事があるのかなと不思議顔。


 とにかく、迷子の1人と1匹を今まで保護して貰っていたっぽいし、恩人には違いない。お礼は言わなきゃねと、ポジティブ思考の姫香である。護人も揃ってお礼の言葉を述べると、向こうは片手をあげて何でもないよの仕草。

 そこに萌も寄って来て、何だか見つめ合う小柄な2つの影。妖精ちゃんも久し振りだナみたいな声を掛けて、そのパペットとはどうやら知り合いだった感じ。

 その話の流れには、護人や姫香も思わずビックリ。


 そしてようやく復帰した香多奈も、通訳するよと一行へと合流して来た。それから妖精ちゃんも交えて、良く分からない異界人同士の意思疎通が暫くの間続く。

 結果、分かったのはこのパペットはこの辺を統治する“双子の宝石”の片割れらしいって事。妖精ちゃんの言っていた、この“浮遊大陸”で唯一友好的な種族だった模様である。


 そんな相手に拾われるとは、コロ助と星羅の運も捨てたモノでも無かったようだ。良ければ寄っておいでと、砦の統治者は一行を歓迎してくれる素振り。

 それは嬉しいのだが、そろそろ時刻はお昼に差し掛かろうって頃合いだ。ゆっくりしていられないが、仲間を救ってくれたお礼もしないのはとっても無礼。


 妖精ちゃんは、少しの時間なら良いだろうとその話には乗り気な模様。どうやら何事か交渉して、来栖家チームに有利なイベントを引き出したい策士のチビッ子妖精である。

 気紛れな彼女の作戦は、果たしてそんな上手く行くかは不明。


 紗良も時計を気にしながら、約束の時間までまだ30分程度はありますと護人に進言して来た。それならと、護人は思い切ってお招きに乗っかる事に。

 リーダーの決定にいなの無い子供達は、中はどうなってるのと興味津々の様子。香多奈も張り切って、撮影しながらもう片方の手はコロ助の頭を撫で続けている。


 人間用の扉は、割とボロくて全員で通れるほど大きくは無かった。一列になってそれを通過して、砦の内側でまず最初に目に入ったのは驚きの光景だった。

 その広い空間には、それを塞ぐように鎮座する巨大なゴーレムの姿が。素材は黒曜石だろうか、腰掛けていてもその巨大さは見上げる程である。年季は入っているが、どこか知性も感じさせる顔の造形かも。

 そして何より、その額にはどこかで見た虹色の宝石が。





 ――“双子の宝石”の片割れは、静かに一行を歓迎してくれた。






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