第361話 来栖家チーム揃って(?)“浮遊大陸”で朝を迎える件



 取り敢えず何事もなく朝を迎えられた迷子チームは、まずその事に感謝しつつ。自分たちの置かれた状況を思い出し、軽く絶望感を抱く破目に。

 コロ助も同じく、朝起きてご飯の支度がされてないなど、彼にとっては天変地異が起きたようなモノ。この悲しさと来たら、思わずへこたれそうに。


 周囲を見渡すと、朝日は昨夜逃げ回っていた土地を満遍まんべんなく照らしていた。完全なる見知らぬ土地、ここは一体どこだろう?

 空を見上げると、やっぱり普段より雲が近い。と言うよりも、手を伸ばせば届きそうな位置に雲がある。だがその事実は、コロ助に何の感銘も与えなかった。

 何しろ雲は、食べても腹は膨らまないので。


 そうこうしている内に、星羅もようやく目覚めて自分の境遇を思い出した模様。ぐずぐず泣かれるのが面倒なコロ助は、さっさとこの場所からの移動を決意する。

 何しろここにいても、確実にご飯は見付からないに決まっている。兄妹犬のツグミがいれば、《空間倉庫》に何かおやつを隠しているに決まっているのに。


 とにかく最悪でも、狩るべき獲物がいれば何とでもなる筈だ。もう一度周囲を見渡すが、昨夜逃げて来た道のりをコロ助はハッキリと覚えていた。

 そしてその反対側だが……既に朝なのに、そちらの領域は未だに厚い雨雲が掛かっているように薄暗いと言うかくらい。遠目に古城も見えるけど、あまり近付きたくはない雰囲気だ。


 そうなると、進むべきルートは自然と決まってしまう。相方の身支度を待って、コロ助は木々のまばらに生えている丘陵地帯へと向かう構え。

 星羅せいらもおっかなびっくり付いて来て、水場があればお願いとの無茶振りをして来た。とは言えコロ助も喉は乾いてるし、是非とも探し当てたい所ではある。

 そんな訳で、1人と1匹の“浮遊大陸”サバイバルのスタート。


「ワンちゃん、こっちの方向に向かって大丈夫なの? 確かに水は欲しいけど、変なモンスターに追いかけ回されたくはないなぁ。

 ワンちゃんの強いのは、昨日見て分かってるんだけどね?」


 そう持ち上げられても、コロ助は出来る事しかやれない訳で。過剰な期待は止めて欲しい、まぁ無茶振りは香多奈と言うご主人で慣れているけど。

 朝の丘陵地帯は物静かで、今の所は何の生き物の気配も感じない。しばらく歩くいていると、丘の向こうに廃墟の遺跡群が見えて来た。


 それは意外と奥まで広がっていて、いかにもモンスターが居着いていそうな雰囲気だ。それでもコロ助は全く気にせず、廃墟の遺跡内へと侵入して行く。

 当然ながら、星羅も恐る恐る後へと続いて来ている。やがて廃墟の比較的マシな居住区みたいな場所に、清浄な流れの用水路を発見出来た。コロ助は臭いを嗅いで、問題無しとそれを飲み始める。

 星羅も同じく、のどの渇きには抗えず。


 そうやってお互い、ようやく一息ついて近くの瓦礫がれきに腰を下ろす。かと言って、この後の展望などある筈もなく、途方に暮れるしか無いコロ助だったり。

 そのまま、どのくらい時が経っただろう……ふとした気配に顔を上げると、正面の壊れた壁の隙間から何かがこちらを窺っていた。後手に回った驚きと苛立ちに、コロ助はすかさず臨戦態勢を取る。


 ところがその物体は、特に警戒する事も無く両者に姿を見せて来た。そいつはやたらとメタリックな作業用ゴーレムで、手には何故かくわかごを持っていた。

 その姿に親近感を覚えた訳でも無いが、コロ助は一瞬で敵では無いと判断を下す。星羅に限っては、コロ助の後ろに避難してわちゃわちゃしている始末。


 来栖家には働くAIロボもいるし、こんなゴーレムは珍しくも無い。向こうも1人と1匹を、害の無い遭難者とでも判断したのだろう。

 反転して歩き出した姿は、付いておいでと言ってるような気も?


 行く当てのないコロ助は、好奇心も手伝ってゴーレムについて行く事に。ひょっとしたら、何か食べる物が貰えるかも知れないと言う期待と共に。

 星羅も文句を並べ立てつつ、やっぱりそれに従って歩き出す。何しろこんな見知らぬ土地で、1人ぼっちなど怖過ぎて無理。

 そんな訳で、1人と1匹の移動はもうしばらく続くのだった。





 朝の気配に一番最初に飛び起きたのは、人間の中では香多奈が最初だった。少女に寄り添うように姉達も寝ており、その隙間にはミケや萌が滑り込んで眠っていた。

 今も起きる気配は無く、昨日は随分と探索を頑張ったと思われる。特に魔法やスキルを頻繁に使うと、俗に言うMPを必ず消費するのだ。その経験は、慣れない人間には実は割と辛かったりする。


 何と言うか、二日酔いや花粉症のような症状とも言おうか。とにかく頭が重くて仕方がない感じで、充分な睡眠を必要とするのだ。

 香多奈もMPの使い過ぎで、過去にはブッ倒れた経験もある。つまりは探索の後は、みんな寝坊しがちだって事で、今回もそんな感じなのだろう。


 香多奈に限っては、途中から記憶が無くなっている事から察するに。寝落ちしちゃったなぁと、スマホを探して録画記録などチェックしてみたり。

 そんな感じでゴソゴソしていたら、レイジーとツグミの気配が近付いて来た。香多奈がいたのは女子用テントの中で、その入り口はメッシュ素材で仕切られている。

 そこから顔を覗かせる、今日も元気そうなハスキー達。


 香多奈は姉達を起こさないように、テントを出て周囲を窺う。そこは見知らぬ森の中で、近くには廃墟のような遺跡も存在しているようだ。

 確か妖精ちゃんの話だと、自分達は“浮遊大陸”のダンジョンへ転移して来た筈。空を見上げると、その通り雲や太陽が異様に近い気がする。


 空が見えるって事は、昨日の内にチームはダンジョン脱出に成功したって事だ。そんな最中に寝コケてたのは残念だったけど、感動モノのイベントには違いない。

 そんな感じで朝からテンションの高い、元気の完全回復した末妹である。


「んあっ、ここはどこ……? あっ、おはよう……香多奈が一番早く起きるって珍しい。あれっ、寝てたのはテントの中なんだね。

 家畜に餌あげなきゃ……あれ、キャンプしたんだっけ?」

「ナニを呑気に寝惚ねぼけてるのよ、姫香お姉ちゃん……おはようっ、ここって“浮遊大陸”の地上って事で合ってるの?

 コロ助と星羅ちゃんは、まだ見つかって無いの?」

「あぁ、昨日はダンジョンを抜け出すので精いっぱいだったよ……誰かさんは寝オチしてるし、みんな体力の限界になってたし。

 取り敢えず朝ごはん食べて、それから護人さんと今日の計画を話し合おう」


 起き抜けで寝惚けていた姫香だが、ようやく今の現状を思い出した様子。その話し声で、ようやく紗良も目覚めて朝の挨拶を交わし合う。

 それから子供達は、朝の支度に時間を費やして行く。紗良は早々に支度を済ませて、朝ごはんの支度へと取り掛かる。姫香もペット達の食事の用意、ついでに皆の体調チェックも並行して行う。


 そうこうしていると、ようやく護人も個人テントから起きて来た。どうやら子供達が寝た後も、しばらくは用心に歩哨ほしょうに立っていたらしい。

 疲れや眠気は完全には取れていないけど、動き詰めの昨日に較べたら随分とマシな表情。そんな護人は、挨拶代わりに子供達に調子の程をうかがってみる。

 そして何事もなく朝を迎えられた事実に、ホッと安堵のため息。


 子供達もぐっすり眠れたと返事をして、紗良の用意してくれた朝食を食べながらの朝の作戦会議。目的はもちろん、迷子のコロ助と星羅との合流である。

 恐らく誰も上陸した事の無い、“浮遊大陸”の情報収集も一応は大切ではある。それでもはぐれて心細さに震えている、1人と1匹の救出が何より大事なのは当然だ。


 どうしようかと悩む一行に、まずは地形の把握が大事かなと護人の案出し。それなら撮影器具を持って、ルルンバちゃんに飛んで貰おうかと香多奈が提案して来る。

 それは良いねと、姫香も妹の案に乗っかって最初の作戦は決定の運びに。


「地形の把握が終わったら、安全そうな場所に移動してレイジーに遠吠えして貰おうか。そうすれば、恐らくコロ助も応えてくれるだろうし。

 そう言えば、この地上にもモンスターは棲息してるんだっけかな?」

「妖精ちゃんの話では、色んな種族が領地争いしてるって……おっかない奴らもたくさんいるから、なるべく刺激しないようにって言ってる」


 家族全員が《異世界語》を覚えた後も、つい癖で翻訳をしてしまう香多奈である。しかしその内容は衝撃的で、この後の迷子の捜索も危険に満ちた道のりとなりそう。

 そんな訳で、頼られたルルンバちゃんは張り切って大空高く舞い上がる。ドローン形態を切り離しての飛行は、はたから見ているとちょっと格好良いかも?


 それから数分後、ようやく無事に戻って来てくれた飛行モードのルルンバちゃん。そして早速、撮影された上空からの地形を確認する一行。

 空に浮かぶ孤島は、地形もバリエーションに富んでいた。


「うわっ、この真ん中の辺りは何で朝なのにこんな真っ暗なの? こっちには廃墟が拡がってるね、昔は異世界の住人が平和に暮らしてたのかな?

 栄枯盛衰だっ、昔にアニメであったラピュタみたいだね!」

「この大陸も、大っきな浮遊石で浮かんでるのかなぁ? あっ、地上を攻撃する秘密兵器とかあったら、ちゃんと壊しておかないと!」


 確かにそんなモノがあったら怖いが、協会のチャーターしたフェリー船は、確か今日の午後には帰路につく筈。世界の危機を救う時間は、実はそんなに残されていない。

 コロ助と三原の“聖女”を迷子から救出すれば、後はゲートを見付けて『転送装置』で“アビス”へと戻れる。そこでリングを使えば、無事に地上へと転送で戻れるって仕組みだ。


 つまりは、帰りのルートはバッチリ確定してあって問題は無し。後はお昼のタイムリミットまでに、その救出ミッションをクリアすれば良いだけ。

 ただし、肝心のコロ助と星羅の行方は手掛かりさえないと言う現状である。妖精ちゃんの話では、姫香の言ってた暗いエリアは『死霊の国』で、リッチの王が支配しているのだそう。


 森と荒野エリアの大半は、別の勢力の『獣人の国』が領地にしているとの事。獣人の王は代替わりが早いので、現在の王は妖精ちゃんも知らないみたい。

 そして廃墟の遺跡地帯は、反乱を起こしたホムンクルスの末裔が領土を支配しているそう。彼らは長年、人間に奴隷扱いを受けていたお陰で、人種族に対してかなり敵対的なのだとか。

 ここと遭遇して戦いに負ければ、奴隷落ちか死は覚悟しろと妖精ちゃん。


 その点は、獣人たちに捕まっても悲惨な運命が待ち構えている。特に女性は、口には出せないおぞましい結果になる事請け合いだ。絶賛迷子中の、星羅がそんな目に遭っていなければと願う一同である。

 それから最後に、この地で割と温厚な勢力も1つだけ存在するそう。“意思を持つ宝石”の率いるゴーレム軍は、地上よりもダンジョン内に拠点を拡げているみたい。


 そんな“浮遊大陸”での勢力図を聞いて、さてこれからどうするかの議論に移行する面々。取り敢えずは移動して、レイジーの遠吠え案は決行したい所。

 ただ、妖精ちゃんの情報によると敵対勢力がやたらと多くて、しかもヤバいやからが揃っていると来ている。目立つ行動をして、そんな連中に寄って来られても迷惑だ。

 その辺を、何とか穏便に済ます方法は無いモノか。


「遠吠えはとってもいい案だと思うけど、どうしても目立っちゃうからねぇ……でも仕方がない気もするかな、寄って来る敵がいたら排除しながら進むしか無いんじゃない?

 現にほら……空から既にもう1匹、敵が釣れちゃってるよ」

「あぁ、あのルルンバちゃんの短い撮影でも目立っちゃうのか……なかなか辛いねぇ、どこの勢力の手下かな?」


 呑気な姉妹の遣り取りに、あれはキメラだからホムンクルスの軍隊かなと妖精ちゃんの返し。首の長い怪鳥は、確かに合成獣の不自然な個所が目立っている気も。

 それでも5メートル級の大物だし、キメラは総じてタフである。戦闘準備と号令を発する護人の言葉に、すかさずチーム内に緊張感が走る。


 そして各々が、迎撃するために行動を開始する。妖精ちゃんも物陰に隠れながら、逃がすと応援を呼ばれるから確実に倒せと激励して来る。

 かくして、“浮遊大陸”の地上での初戦闘が開始される事に。





 ――お昼のリミットまでに、果たして2組は合流なるのだろうか?






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