第360話 “太古のダンジョン”の手強い中ボス戦?を味わう件



 時間は少しだけ巻き戻って、星羅とコロ助が何とか獣人たちの追撃を振り切る直前。その頃、迷子を追う形でワープ魔方陣に飛び込んだ別動隊も途方に暮れていた。

 何しろ妖精ちゃんの話では、後を追うために起動した魔方陣の座標が狂っていたそうで。結果、出た先は恐らくは“太古のダンジョン”内だナとの推測の言葉である。


 そう聞いて周囲を見渡すと、確かに“アビス”ダンジョンとはややテイストが違ってるような気も。荒廃した遺跡跡地は、半壊して夜の景色が隙間から見渡せている。

 妖精ちゃんによると、“アビス”ダンジョンとこの“太古のダンジョン”は親子みたいなモノらしい。ダンジョンが子を増やすとは、初めて聞いた来栖家チームの面々。なかなかに興味深い話だが、今は探索と言うより迷子の追跡が先である。

 ザックリした指標によると、向かう先は地上の方向との事。


「つまりはこのダンジョンを逆行すればいいのかな、護人さん……そんな探索はした事無いけど、地上を目指すって事はそう言う意味だよね?」

「そうだな、しかし……夜も更けて来たし、あまりこんを詰めても良い結果にはならないかもなぁ。

 さて、どうするべきか……」

「私なら大丈夫だよっ、叔父さんっ! 早くコロ助と星羅ちゃんを見付けてあげないと、今頃心細くって泣いちゃってるかもだよっ!」


 その推測は大当たりなのだが、その場の誰もその事実には気付かず仕舞い。協議した結果、どちらにしても地上を目指して移動するべきだとの結論に至った一行である。

 安全な場所が確保出来れば、そこで一夜を明かすのも念頭に入れつつ。ひょっとして中ボスの部屋に、地上へのワープ魔方陣がある可能性を願って出発する事に。


 ある程度規模の大きなダンジョンだと、そんな親切設計も普通に存在するのだ。しかも逆ルートで地上を目指せば、敵は段々と弱くなってくれる筈。

 少しでも進んだ方が、休むにしても安心出来るって寸法だ。そんな訳で、もう少しだけ頑張ろうとのリーダーの護人の言葉に。子供たちの元気な返事と共に、レイジーとツグミは探索を開始する。


 コロ助の不在で、遊撃部隊のハスキー軍団も割と戦力ダウンとなってしまった。そこは何とか誤魔化しつつ、とにかく地上に少しでも近づく算段での探索である。

 ただしさすがにこれ以上、子供達に無理はさせられない。ここからは護人が前衛に出て、姫香は後衛陣の護衛へと下がる陣形を取る流れに。

 姫香は不満そうだったけど、その辺は年の功で説き伏せた護人であった。


 ところが探索開始して間もなく遭遇したのは、恐竜タイプの甲殻獣が2匹と言う。両方とも見上げるような大きさで、外皮は硬そうな上に牙も鋭い。

 こんなのに咬み付かれたり、踏まれたりしたら一撃でお陀仏だぶつだ。幸いそこまで素早くないが、敵の甲殻はやわな刃など全く通りそうにない。


 しかも同じタイミングで、後衛を襲う飛竜の参上に。場は一気にパニック状態で、姫香とルルンバちゃんも体を張って対応に追われる始末。

 どうやらルルンバちゃん、今回初の分離からの飛行モードをお試ししているよう。香多奈の声援を背に、飛竜を相手に頑張って空中戦を挑んでいる。

 ミケはそれを見て、横取りの手出しは控えた模様。


 前衛の戦闘に関しては、護人は“四腕”の発動と予備のシャベルでの『掘削』で問題無く対応していた。敵の大きさも、ハスキーの機動力を捉えるまでには至らない。

 レイジーは『歩脚術』を使って、甲殻獣の視覚潰しを狙っているようだ。ツグミはそれをサポートしつつ、敵の片方を引き受けている。


 その間に、護人は必殺の『掘削』で敵を文字通り順調に削っていた。大暴れし始める巨体に、止めの一撃を繰り出す隙がないのが辛い所。

 それを見たレイジーが、すかさずそのフォローへと回る。放たれる必殺の炎のブレスが、装甲の薄くなった敵の皮膚をこんがり焦がして行った。

 その攻撃をモロに受け、みるみる弱って行く甲殻獣。


 護人はそれを確認して、余裕で接近しての止め差し。やはり巨体を誇るモンスターは、色々と神経を使ってしまう。万一攻撃がかすっただけでも、バランスを崩すか最悪大きな怪我を負う事態に陥ってしまう。

 その点、護人とレイジーのペアは以心伝心率が非常に高い。安全にミスなく狩りをする、常にそのポイントに重きを置いて戦闘をこなしている証拠だろう。


 それはチームを率いる上でも重要な事で、仲間を危険にさらしたくないと言う思考が常に頭にある事も意味している。無理して得られる成果など、チームの為にもならないと言う考えなのだろう。

 高いハードルへの挑戦は大事だが、安定した成果の獲得がチームの実力である。互いにフォローし合っての安全な攻略、これが護人の目指す所だったりする。

 その考えは、チームも共有して姫香も実践してくてれいる。


 そんな感じで敵の甲殻獣は、2匹目も問題無く撃破に至った。後衛陣を襲っていた巨大飛竜も、ルルンバちゃんが弱らせて墜落させた所を姫香が止め差し。

 どちらも魔石(小)を落として、なるほど敵のレベルも手強いダンジョンかも。続いての敵との遭遇も、オーガ兵の群れと言う洒落にならない“太古のダンジョン”の仕様である。


 下手に動き回って消耗するより、さっさと階層を下って行きたい思いの護人。ハスキー達に下りではなく、上りの階段の捜索を頼むけどそう上手くはいかない。

 オーガの群れは、何とか10分以上の激闘により退けたモノの。最初に発見したのは、下り階段で思う通りには行かない夜中の探索道中である。


 そろそろ香多奈も目に見えて疲労しているようで、しかも睡魔にも襲われている様子。紗良と手を繋いでついてくる姿は、何ともいじましい限り。

 その時、姫香が後衛からあの塔が怪しくないかと言って来た。半壊した廃墟遺跡には、たまに周囲を見渡せる場所も存在しており。

 そこから見えた塔は、確かに上り階段には不自由は無さげ。


「そうだな、闇雲に歩き回っても消耗するだけだし……試しにあの塔を目指そうか、頼んだぞレイジーにツグミ。茶々丸と萌は、そろそろMP切れじゃ無いのか?

 後ろに回って、薬品で補給して来なさい」

「いつになく過酷な探索だけど、力を合わせて頑張ろうっ! 護人さんっ、私もいつでも前衛に出れるからね!」

「姫香ちゃんは本当に元気ねぇ、感心しちゃうよ……コロ助ちゃんがいなくて前衛が手薄だと思うなら、私たちの護衛はいいから前に出ても良いんだよ?

 ミケちゃんもいるし、香多奈ちゃんは私が守るから」


 そう提言して来る紗良だけど、彼女も咄嗟の壁の大切さは良く知っている。ミケが幾ら凄かろうと、不意を突いて襲い掛かって来る敵の壁にはなれない。

 一撃で倒せなかった場合、後衛の2人は逆にたった一薙ひとなぎで倒される可能性だってあるのだ。過保護な考えには違いないが、それが来栖家チームの方針でもある訳で。


 そんなリーダーの情愛に異を唱える行動は、姫香だってしたくは無い。そんな訳で、紗良姉さんと不出来な妹は私が守るよと、挑発混じりの返答に。

 しかし、いつもは喧嘩に乗って来る末妹は既に半分夢の中。


 これは不味いねと、思案する姉2人は短く話し合った結果。姫香が末妹をおぶって、この後の道中を移動する事に。幸いにも白百合のマントは、主人の意を完全にんでくれた様子で何より。

 何と言うか見事なサポートで、姫香の背負う負担はほとんどない高性能振り。何より両手がふさがらないので、このまま戦闘になっても平気そう。


 この発見に素直に驚く姫香だが、そんなツキの巡りは前衛陣にも訪れていた。まずは敵の群れに遭遇せずに、目的の塔に無事に辿り着けたのが一点。

 そして目論見通りに、そこに上り階段を発見出来たのが二点目である。喜ぶ一同だが、出た先が直に中ボス部屋の可能性だってある訳だ。

 そこは緊張感をもって、ハスキー達を先頭に先を進む来栖家チーム。




 そして出た先はやっぱり夜の廃墟遺跡で、その点ではちょっと残念だった。ただし、これでこのエリアの特徴と言うか、癖みたいなモノが何となく把握出来たのは大きい。

 妖精ちゃんも、この調子でどんどん進めと太鼓判を押してくれて心強い限り。戦闘には全く参加しない小さな淑女だが、こんな知識の差し入れは素直に有り難い。


 ちなみに香多奈は、完全に熟睡モードで静かな限りである。そんな末妹の扱いも、姉2人は気を配っている模様。いざ戦闘になったら、紗良が預かって《結界》に閉じこもるのが良策だろうと話し合っている。

 幸い、苦労して辿り着いたこのフロアも、戦闘2回で突破する事が出来た。掛かった時間は30分程度で、最初の戸惑いながらの探索よりずっと短縮出来ている。

 とは言え、時刻は既に夜の9時を回っていたりして。


 紗良と姫香も、口には出さないがそろそろ探索が辛くなって来ていた。階段を上がった先が、また似たようなエリアだった時には軽い絶望感に襲われる程度には。

 それでも敵の強さは、ハッキリと体感出来る程度に弱くはなって来ている。もう少しだとお互いを励まし合って、エリアを進む事更に30分余り。


 目指すは壊れかけた、元は立派な高い塔で変わりはないレイジーとツグミ。コロ助がいない分の負担は、やっぱり大きくて大変そうには違いない。

 それでも、弱音も吐かずに健気に頑張る2頭はさすがである。茶々丸と萌も、そんな先輩たちを見習いたい所なのだが。まだ子供の彼らは、このエリアの探索の途中から目に見えて失速気味。

 そのため、む無くルルンバちゃんと配置転換する流れに。


「茶々丸ちゃん、よく頑張ったねぇ……まだ眠っちゃダメだよ、もう少しだけ頑張って! 萌ちゃんは元の大きさに戻ってなさい、抱っこして運んであげるから」

「まだ2匹とも子供だもんね、こんな時間だとエネルギー切れるのも仕方無いか。ルルンバちゃんが無限のパワーなのが、本当に有り難いよね」


 仲間に頼られたルルンバちゃんは、ひたすら嬉しそうで護人の隣を頑張って疾走している。未だに動きはスムーズとは行かないが、それでも破壊力に関してはピカ一なのだ。

 先ほどの機体の分離も上手く行ってたし、いざと言う時の機動力も悪くはない。後は慣れる時間だが、どの程度掛かるかは本人にも不明と言う。


 そのエリアでも、モンスターとの遭遇戦は2度ほどあった。ただし出て来るのはオーク兵やラプトル騎兵程度で、明らかに敵の兵力はスケールダウンしている。

 こちらも安心して当たれるし、護人もこの程度の戦力なら無双が可能である。戦闘時間も5分で終了、そうしてようやく目的の塔へと辿り着いた。


 それから塔内に入り込んで、その装飾の華美さにやや驚く一行である。敵の姿こそ無いが、今までと明らかに違うその雰囲気に期待感も高まって来る。

 そして上がりの階段を発見して、チーム内で短く作戦会議。今度こそ中ボスの部屋だと信じて、速攻で片付けてその近辺の安全を確保する算段である。

 そうして、何は無くとも今日の探索は終わりにすべし。


「もう10時だもんね、こんな時間まで探索するとは夢にも思わなかったよ……もっとも、夢の中の住人も既に約1名いるけどね」

「香多奈ちゃんは起こさないよう、私が預かっておくね? ミケちゃんには悪いけど、少しだけ我慢して貰って。

 出来れば戦闘も、静かにパパっと終わらせて欲しいかな?」


 紗良のそんな無茶振りに、苦笑いの護人である。ただし、ミケが護人の肩に乗っかって来て、これはオーダー通ったかなと背中に冷たい汗の流れる感触が。

 姫香も重荷を降ろせた手前、前衛で暴れる気満々である。逆にレイジー達は、ご主人の肩の上で貫録とオーラを発散するミケに腰が引けている感じ。


 小さなミケは、完全に狩りモードに移行している雰囲気がバリバリ。そんな護人とミケを先頭に、階段を上り切って階層移動を果たす。

 周囲を確認すると案の定の中ボス部屋で、中にはオークキングとその護衛のソルジャーが3匹。手前に魔術師がいるのは、こちらが逆ルート突入のせいだろう。


 そんな些細な事など関係無いと、ミケの暴虐が室内に荒れ狂った。姫香とルルンバちゃんが追随する暇も無く、吹き荒れる雷の槍はオークの兵団を打ちえて行く。

 護人も踏み込むのも躊躇ちゅうちょする、ミケの先制パンチは肉球なんて可愛げのあるレベルでは無い。案外ミケも、今回の長時間探索にいらついていたのかも?

 そして訪れる静寂、後には無事な敵の姿は皆無と言う。


 毎度のご無体むたいだが、家族にそれをとがめる者は皆無である。むしろ誰も怪我無く中ボス部屋を制覇出来たのだ、これ以上の朗報は無いって感じ。

 周囲を見渡すと、そこには銀の宝箱と、それから秘かに期待していたワープ魔方陣が1つ。恐らく地上に戻れる転移用だろう、目論見通りの出来事に思わずガッツポーズの姫香である。

 とにかく、これで安全な場所に移動は叶いそう。





 ――ようやく訪れた探索の終わりに、安堵感にひたる来栖家チームだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る