第354話 何だかんだあって15層へ到達する件



 考えるべき事は多いが、実際に出来る事と言えば実は限られている。来栖家チームとしては、ある程度このダンジョンの情報を得て、無事に地上に戻るのが最優先事項である。

 つまりは、“ダン団”の内部崩壊案件にかまっている暇など無いのだ。それは声を大にして言えるし、向こうからも構って欲しくない事象には違いなさそう。


 こちらも放っておくから、自分達で何とかしてくれと忠告を飛ばしたいのだが。それは無理なので、とにかく探索を急いで進める来栖家チームである。

 ハスキー達は相変わらずの張り切り具合で、先行して12層を走破している。そして、そのままの勢いで13層へと突っ込んで行く。隊列は変わらず、姫香はずっと前衛のままだ。


 何度か代わろうかと護人は打診するのだが、姫香は戦闘で新しい装備を馴染ませたいみたい。実際、『真紅龍の鱗鎧』と『白百合のマント』のデビュー戦なのは確かである。

 そうして13層まで到達して、ようやく雑魚モンスターにも歯応えが出て来た。そんなパペット騎士やゴーレムの類いを、元気に相手取る姫香である。

 そして感じる、新しい装備はまずまずのフィット感。


「それにしても、“ダン団”のトップの人が行方不明なのかぁ……女性なのに、ダンジョンで迷子になっちゃうのは心配だねぇ?

 だからと言って、他の探索者を襲ったらダメだけど。大人って、子供にあれこれダメって言う癖に、自分達は割と酷い事を簡単にするよねぇ?」

「ま、まぁそう言う事もあるかな……香多奈ちゃんは、そんな大人にならないように頑張ろうね? 悪い事をしたら、そのまんま自分に返って来るもんね。

 あの人たちは、多分それを教えてくれる人がいなかったんだね」


 そんな事を話し合う後衛陣、お姉さんとして紗良は言葉選びが慎重だ。香多奈は納得のいかない表情で、大人に対して不満があるのが丸分かり。

 少女も、子供なりに世の中の不条理にモノ申したいみたい。それより今は探索中だよと、護人のたしなめの言葉で渋々会話を打ち切る事に。


 紗良もホッとした表情を見せ、前衛陣に応援を飛ばす末妹を横目で見遣る。善悪を子供に教える事は難しい、駄目ならダメな理由をしっかり教えないと。

 最近の風潮は、臭いモノにはふたをして悪そのものを子供の目から隠蔽いんぺいするけど。それって逆に危ないんじゃと、紗良などは思ってしまう。


 丸裸でモンスターの前に押し出されるような、そんな危機感を子供に与えているような。少なくとも来栖さん家の末妹は、モンスターの怖さも対処方法も教えて貰っている。

 比喩ひゆに過ぎないけど、それって大事じゃないかと紗良は思う次第である。



 そんな事を考えている内に、前衛陣が階段を見付けたよと声を掛けて来た。これで13層も無事に走破完了、ちなみにこの層ではリングを3つとメダルを4枚確保済みである。

 メダルの数も順調に増えて、既に20枚を超えている。リングも同じく、ただしこれは“アビス”を離れると完全に不用品になってしまう品みたい。


 帰り際にでも、協会に押し付けるかなぁと護人は内心で考えつつ。まだまだ元気な前衛に続いて、後衛を護衛しながら14層へと階段を降りて行く。

 14階層など、実はほぼチーム挑戦最深層だったりする。とは言え、何度も出たり入ったりしているせいか、あまりそれを感じない。護人もほぼ戦闘をこなしておらず、何と言うか燃焼不足な感じ。

 その点で言えば、今日は後衛陣にも出番は少ないようだ。


「ねえ叔父さん、この際もうちょっと進んで20階層を目指そうよ。どうせ今日は、ここにお泊りするんでしょ?

 それなら夕ご飯まで探索しても、全然オッケーだと思うの」

「う~ん、俺たち後衛陣には余裕はあるかもだけど、前衛陣はどうかな? 敵の強さもまだまだ余裕あるし、時間もあるから可能だとは思うんだけど。

 フェリー船に戻っても、何もする事も無いのは確かだからな」


 周りは海だし、戻っても寝るだけなら探索に時間を費やすのも良いかも知れない。そんな訳で、護人は少し前を先行する姫香とハスキー軍団に伺いを立てる。

 彼女たちは少し先で完全に歩を止めていて、向こうも護人を待っていた。その原因は毎度の仕掛けで、今回も見た目にも分かり易いトラップゾーン。


 その内容だが、遺跡型の通路の壁に沿って等間隔にガーゴイル像が配置されていた。その上例の細い紐が、左右に通行を邪魔するように張り巡らされている。

 紐の先は大半はガーゴイル像にくくられていて、残りは壁のブロックに。引っ張り過ぎると何かありそうとの予感は、前回の層でバッチリ刷り込まれている。


 なのでこれは勝手が出来ないなと、リーダーの到着を待っていたらしい。特に後衛同伴のルルンバちゃんは、今日は株を爆上げしていて頼もしい限り。

 ちなみに幾ら挑発しても、手前のガーゴイル像は全く反応しなかったらしい。動く石像タイプじゃないっぽいけど、この像の間をすり抜けないと先へは進めない。

 この難問を、再び力尽くで突破すべき?


「むうっ、さすがに何度もそれじゃあ危ない気もするなぁ。さっきもルルンバちゃんじゃ無ければ、確実に命の危機の仕掛けだったし。

 出来れば、もっと安全な方法を模索したいよね?」

「そうだね、崩れた所から敵が出て来る程度ならまだいいけど……爆発したりとか天井が崩れて来るとかは、確かに危ないもんねぇ。

 香多奈、何か言い案無いかな?」

「何で私に訊くのよっ、それよりお姉ちゃん達もう疲れちゃった? 今日はこの後、チーム最深の20層を目指そうよ!」


 そんなやり取りを挟みつつ、姫香もその案にはとても乗り気なのが確認された。そんな中、真面目な紗良だけがこの罠の最適解を脳内で解こうと頑張っていた。

 結果、仕掛けが作動した瞬間に、誰も被害範囲にいなければオッケーと気付いて。ある程度の長さのロープを、仕掛けのロープに絡ませて安全地帯から引っ張る案を提案する。


 それを聞いて面白そうとはしゃぐ末妹、姫香は早速ロープを袋から取り出している。その辺のチームワークは抜群だが、さてこの後の作戦は?

 取り敢えずはその辺の石をロープの先端に繰り付けて、適当に上の隙間から仕掛け地帯の中央へと投げ込む姫香。狙いはバッチリで、あとはそのロープを下から引き戻すだけ。


 ただし、それをするには危険地帯に入る者が必要である。紐に触らなければ安全と言う保証は、悲しいけど全く無いのが現状である。

 そこに進み出るコロ助、確かに下の隙間は割とスカスカでハスキー達なら通り抜けられそう。行ってくれるのとの香多奈の問いに、彼は勢い良くひと吠えして臨戦態勢に。

 そして《韋駄天》スキルを使っての、一瞬での作業完了!


「わっ、凄いよコロ助……これなら、もし罠が作動しても関係無かったね!」

「頭いいねコロ助、お手柄だよっ! 主人に似て一番ヤンチャだと思ってたのに、いつの間にか機転が利くようになってたんだねっ!」


 主人に似てヤンチャって何よと、またもや始まる姉妹喧嘩はともかくとして。護人は出来上がった巨大な輪っかを手に、それじゃあ念の為に離れて防御姿勢を取ろうと指示を出す。

 そんな訳で、紗良の《結界》やら姫香の『圧縮』で、手厚い防御網を敷いた後。力持ちのコロ助が、またもや活躍してのロープ引きを実践してくれる。


 大好きなひも遊びに思わず熱がこもるコロ助だったが、その結果は割と悲惨だった。ガーゴイル像の至る所から起こる爆発音と、瓦礫の崩れ落ちる音のハーモニー。

 それはしばらく続いて、子供達は思わず耳を塞ぐほど。


 そしてようやく落ち着いて前方を見渡すと、無事なガーゴイル像は1つも存在しない有り様。いや、奥の方の奴は辛うじて無事っぽいけど、砂煙で良く見えない。

 凄かったねぇと、やや唖然とした感想を漏らす香多奈に同意の頷きを返す紗良。そして土煙が収まるのを待って、ようやく用心しながら済み始めるハスキー軍団。


 その先頭はツグミが担っており、覚え立ての『探知』を恐らくフル活用しているのだろう。奥の像とロープのセットは、残念ながら数本が辛うじて残っていた。

 そこでツグミが、このルートは安全だよと自ら率先してのルート確保。その通路を忠実に進んで、一行は難関トラップエリアを全員無事に通過する事に。

 ルルンバちゃんも何とか、通り抜けに苦労しながら通過完了。


「ふうっ、何とか無事にクリア出来たよっ! 途中で落っこちてる魔石を拾ったけど、ひょっとしてモンスターも隠れていたのかな?

 儲かったけど、ここは宝箱の回収率は意外と低いよね」

「贅沢言わないの、異世界ダンジョンみたいなラッキーは滅多に無いに決まってるでしょ。このダンジョンはかなり深いみたいだから、14層とかきっとまだ浅い層認定なんだよ」

「ああっ、そうかもねぇ……確かに姫香ちゃんの言う通りかも、噂じゃこの“アビス”ダンジョンは100層超えって話だもんね。

 敵の強さも、だとしたら深い層は相当なレベルになっちゃってそう」


 感心する紗良だが、確かに深層の敵の強さなど計り知れないレベルかも。20層ならまだ大丈夫だよなと、護人は多少心配するも。

 その後の探索は至って順調で、すぐに15層の階段を発見に至るハスキー軍団。ついでにツグミが小さな武器庫を発見して、ミスリル装備と重オーグ鉄製の武器を幾つか回収出来た。


 何ともラッキーな発見に、ほらねと得意満面な末妹のドヤ顔である。姫香も特に悔しそうでも無く、よくやったねとツグミを褒めたたえている。

 重い武器防具は、護人が率先して魔法の鞄へと回収して行った。せめてこの位は働かないとと、今日の実労時間を思い返すリーダーだったり。

 そして中ボスの部屋も、結局は姫香が前衛を譲ってくれず。



 ちなみに15層の中ボスは、パペット騎士とパペット騎馬が1セット。それに加えて、護衛役のガーゴイルが3体と言う感じだった。

 それらを姫香と茶々丸と萌のトリオで、メインの中ボスは3分と掛からず撃破に至った。ガーゴイルの群れに関しては、ほぼ全て白木のハンマーでコロ助が退治してしまった。


 レイジーとツグミも参戦したが、敵の足止め役で止め役はコロ助に譲った感じ。役割分担もすっかり定着して、この辺も探索を長く続けて来た結果かも。

 そしてドロップ品を喜んで拾う、香多奈とルルンバちゃんのコンビ。ミケは暇そうにそれを見ていて、護人ももう少し出番が欲しいなと内心で思ってみたり。


 妙薬のお陰で若返ったのに、役回りは相変わらず子供の引率で逆に老け込んでる気も。それはともかく、中ボスは魔石(小)とスキル書と木製の槍のドロップのみ。

 宝箱も銅色で、中身もそれほどパッとしない有り様。上級ポーション800mlと初級エリクサー700mlが辛うじて当たりで、後は、鑑定の書が6枚に木の実が4個。


 魔結晶(中)が5個も辛うじて当たり、ただし後は小さな銅像や指輪や古い金貨の類いのみ。リングとメダルは7枚ずつ入っていたので、それが救いだろうか。

 石製の斧やナイフは、魔法アイテムでも無いそうなので置いて行く事に。


 この辺は、妖精ちゃんがいてくれて本当に頼りになる。彼女も中身がシケてると思ったのか、不満そうな表情で先に進むのをうながしている。

 ちなみにこの小さな淑女、過去にもこの“アビス”ダンジョンに入った事があるそうな。前もって言ってよと、情報収集に苦労した紗良が絶叫する場面も。

 そんなチビ妖精の経歴は、本当に謎に包まれている。


「入った扉によって中身も違うから、前情報を仕入れても当てにならないんだって、紗良お姉ちゃん。そんで妖精ちゃんがいたパーティは、60階層まで潜ったって言ってるね。

 凄いよね、きっと腕のいい探索者だったんだね!」

「アンタ妖精ちゃんの通訳してくれるのは有り難いけど、もう家族の全員が会話は分かるようになってるからね? でも喋り方に癖があるのか、聞き取りにくい言葉も時々あるよね。

 紗良姉さんはどんな、妖精ちゃんの言葉は完璧に聞き取れてる?」

「う~ん、実は私もあんまりかなぁ……特に錬金レシピとかの話になると、言葉どころか文法を聞き取るのも怪しくなっちゃって。

 スキルも万能じゃ無いのかも、護人さんはどんなです?」


 護人に関しては、鬼との会話も妖精ちゃんとの会話もほぼ齟齬そごなく可能である。異世界チームとも同じく、相性が良かっただけなのかもだが。

 その辺の個人差は、恐らくはどのスキルにも多少は存在するのだろう。不明な問題だらけのスキル関係の研究は、お隣さんの小島博士も行っているそうだ。


 ただし向こうも「相性は確かにあるよねぇ」とか、「えっ……動物やAIロボにも取得が可能なのっ!?」程度の認識で、全く進んでないのが現状みたいだ。

 そんな話をしながら、15層の主のいなくなった中ボス部屋を後にする一行。そして、出た先はやはり薄暗い“アビス”の回廊で、見渡した限り他の探索者の気配は無し。

 どうやら来栖家は、他のチームとタイミングが全く合わないらしい。





 ――それでも問題なく15層到達、次は頑張って20層だ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る