第352話 10層階をクリアして色々と判明する件
「ルルンバちゃんっ、無事なら返事してっ!? 天井から大きな敵が出て来たよっ、危ないから不用意に動き回ったらダメだからねっ!」
「またそんな無茶言って、ルルンバちゃんを混乱させるんだから。香多奈、せめて『応援』飛ばしてあげなよ。
私たちは、頑張って出て来た大タコを倒すよっ!」
姫香の号令で、一斉に敵へと襲い掛かるハスキー軍団である。とは言え、コイツも表皮の滑りのせいか物理攻撃に耐性があるみたい。しかも何本も伸ばされた触手に掴まると、とっても酷い事になりそう。
かと言って、遠距離からの『牙突』や『土蜘蛛』は、やっぱり効きが
それにしても、瓦礫に埋もれたルルンバちゃんの反応は未だに無し。そろそろ心配になって来た香多奈が、大声で彼に『応援』スキルを振る舞って行く。
その途端、まるで何かのアニメのシーンのように、瓦礫を割って這い出て来るルルンバちゃん。その勇姿にやんやの大
護人にしても、這い寄る触手を斬り飛ばすのが精一杯。
それを見て、ここはやっぱりミケさんの出番かなと、ルルンバちゃんに退避を命じながら香多奈の作戦提案。ついでに萌の槍での、黒雷招来も試してみなさいとの無茶振りに。
萌は小首を傾げて、出来るかなぁと自信なさげな素振り。逆に萌を乗せてる茶々丸は、やってやるぜと特攻を仕掛けるタイミングを見計らっている。
この
そんな訳で、ヤル気満々の茶々丸を察して仕方無いなと言う表情のミケ。チビッ子たちの為に威力を加減しての、《刹刃》の雷矢を選択して大タコに向けて何本か放ってやる。
それは敵を弱らせて止めを譲る、ミケの母性的な行動ではある。つまりようやくミケも、茶々丸と萌を大切な家族の一員と認めてくれたのかも。
その意気を感じてか、大タコの触手を華麗に
それでも千載一遇のチャンスを逃すと、仲間からの信頼を一気に失うのは必至。何とかタイミングを合わせて、萌は手にする『黒雷の長槍』を大タコの眉間へと突き刺してやる。
そして長槍の特殊技の、黒雷を招来しての大ダメージをプレゼント。
その結果、瓦礫の上にポトンと落ちて行く魔石(中)とスキル書が1枚。やったぁと無邪気に喜ぶ香多奈と、生き埋めから何とか生還を果たしたルルンバちゃんと言う構図。
止め差しの役を譲って貰った茶々丸は、これ以上ないドヤ顔である。萌に関しては、ヤレヤレ戦闘が終わってくれたと言う表情にしか見えないけど。
紗良が近付いて来て、瓦礫で汚れたルルンバちゃんを災難だったねぇとタオルで拭ってくれている。その原因を作った香多奈は、ドロップ品を拾って家族に報告。
ルルンバちゃんも、それを見て多少誇らしげである。
「うわあっ、結局は力尽くで紐の罠エリアを壊しちゃったね、護人さん。まぁ、ハスキー軍団はともかくとして、他のメンバーは失敗して作動させてたかも知れないし。
ルルンバちゃんには災難だったけど、これで良かったのかもねぇ?」
「そうだねぇ、私も罠エリアの途中でテンパってたかも……大助かりだったよ、ありがとうねルルンバちゃん」
紗良にそう言われて、満更でも無いAIロボである。そして呆れた事に、あれだけの瓦礫を浴びてもほぼ無傷と言うフレームの強さ。そこは恐らくだが、製作した技術者の腕前の高さだろうか。
凄いねぇと感心していたら、ツグミが天井に駆け上がって隠されていた小箱を回収して来てくれた。中からは鑑定の書(上級)が2枚に魔石(小)が6個、それから魔玉(水)が8個に例のメダルが8枚ほど。
なかなかの収穫に、姫香は相棒のツグミを褒めそやしてご機嫌な表情。9層はこれ以上、厄介な仕掛けは無いよねと先に進むのを
護人もチームの気の緩みを締め直して、それじゃあ探索を再開するよと号令をかける。慣れない水エリアだけに、長居して不測の事態に
そんな訳で、9層も何とか無事にクリアの運びに。
そしてようやくの10層フロアへと到着、予定通りなら中ボスの部屋がこの奥にある筈。パターンを読むと、そこから再び回廊へと出られるのだろうか。
ずっとダンジョンに閉じ込められているより、精神的には幾分か楽な造りではある。とは言え魔素の濃度的には、中も外もそんなには変らない気もする。
ハスキー軍団は10層フロアでも、遠慮なく先行して探索を進めている。後衛陣も、まだまだ元気そうでその点は安心な護人である。
そしてこのフロアの敵も、前の層と同じ種類ばかりで特筆すべき事も無し。唯一、カサゴ獣人の装備が多少立派になって、魔術師が混じっていた事くらいが差異だろうか。
ハスキー達は、関係ないぜとサクッと敵を倒して進んで行く。
そうして進む事10分少々、ようやく中ボスの部屋の前へと辿り着いた。少しだけ休憩と作戦会議の時間を取りつつ、今までずっと後衛だった護人はそろそろ前衛に立とうかと口にする。
姫香はまだ疲れてないし、どうせ速攻がメインの作戦でしょと元気をアピール。ペット達にMP回復ポーションを与えていた紗良は、ついでにみんなの怪我チェックに余念がない。
みんなが為すべき事を行っていて、その辺は探索に対して随分慣れて来た来栖家チームである。香多奈でさえ、チームの雰囲気を明るくする役目を
まぁ、多少騒がしいし姉妹喧嘩が過ぎて護人を悩ます事態もあったりするけど。とにかく作戦はいつも通り、ただし大物が出たら護人も前に出る事に。
それで
無理にプライドを張って、怪我をしても詰まらないし。そんな感じで作戦は決定、護人が部屋の中央扉を開け放って進み入る来栖家チームの面々である。
その中に敵の姿はなく、ただ床に大きな裂け目が。
「あっ、これって……8層の大ウツボの仕掛けと同じだ! 多分だけど、床の亀裂から何かが勢い良く飛び出して来るよっ!
みんな、咬み付かれないように注意してっ!」
「おっと、これじゃあ速攻を仕掛けるのも無理だな……後衛陣は、念の為に他の場所も注意して見てておいてくれ。誰かあの亀裂に近付かないと、中ボスは出て来てくれないのかな?
仕方がない、俺が『硬化』を掛けて行こうか……」
「えっ、ルルンバちゃんが既に行く気満々だよっ、叔父さん。何だか新しい硬質ボディが、物凄く気に入っているみたいだねぇ。
他にくっ付けた武器とかも、順次お試ししてみたいって!」
意外と人身御供にノリノリなルルンバちゃん、いや香多奈の翻訳が正しければだけど。しかし本人は、その場でクルリと一回転したかと思ったら、亀裂へと果敢に突っ込んで行く素振り。
おおっと、他の者たちも驚きつつ戦闘準備を始めて行く。そして姫香の推測通り、いきなり飛び出て来たのはやっぱり大ウツボと言うオチだった。
ただし今回の奴は、中ボス補正が掛かって8層より一回り大きい気がする。そして同じ亀裂から、装備も立派なカサゴ獣人が追加でワラワラと出て来る始末。
肝心のルルンバちゃんは、恐らく丸呑みされたのか戦場から消え去ってしまっていた。香多奈の絶叫が戦場にこだまするけど、
何とか助け出すぞと、護人が慌てて中ボスに突っ込んで行く。
急な展開に慌てている護人だが、ルルンバちゃんが死んでしまったとは思っていない。何しろ彼は不死身なのだ、中ボスの腹を掻っ
姫香も同じく、『圧縮』防御を頼りに敵へと突っ込んで行っている。再び亀裂に戻られると厄介だし、とにかく足止めにくっ付く作戦だ。
そんな思惑での移動だが、思ったより足が前に進まない。ハスキー達も同じく、何とこの中ボス部屋は水エリアの制約が一際きつくなっているみたい。
この仕掛けにはみんな大慌て、その中でスイスイ自在に泳いで接近して来る中ボスの大ウツボ。護人と姫香の斬撃も、憎たらしくもスルリと
それを辛うじて
ハスキー達に関しては、動きの鈍り具合が酷いレベルで中ボス相手はとても無理。そんな訳で、たくさん出て来たカサゴ獣人相手に、スキル技での
茶々丸と萌のペアも、仕方なくそれに追従している。
異変が起きたのは、そんな不利な攻防に追われて数分後の事だった。異様に長く感じた中ボス戦だが、ハスキー達が踏ん張って雑魚のカサゴ獣人を半分に減らした頃。
突然、大ウツボの余裕のある動きが、宙でのたうっている感じに変化した。それはまるで、お腹の中で呑み込んだ異物が暴れているような所業。
恐らくその通りなのだろうと、見当をつけた護人は姫香に合図を飛ばす。それを正確に受け取った姫香は、敵に背を向けてバレーのレシーブの構え。
武器はその場に放り投げて、その身を完全に発射台へと転じて護人に目配せ。駆け寄った護人は、長剣を構えて敵の長く伸びた首を見据える。
「いくよ、護人さんっ……てあ~~っ!!」
「うあっ、叔父さんとお姉ちゃんの合体技だっ! 頑張れ~~っ!!」
香多奈の『応援』も乗ったその飛翔は、水エリアの制限も何のそのの威力を発揮した。つまりは物凄いスピードで中ボスに迫った護人が、
そして魔石へと変わって行く大ウツボのお腹の部分には、しっかりとルルンバちゃんの姿が。呑み込まれてもしっかり暴れてくれていたのは、ある意味目論見通りだっただろうか。
とにかく紗良や香多奈から褒められて、ルルンバちゃんは有頂天。そしていつの間にか、動き難かった感覚も消え去っていて、あれは中ボスの能力だった模様だ。
つまり水の精霊のおまじないは、まだ消えておらず一行はホッと一安心。とは言え、あとやる事と言えば宝箱を開けてこの部屋を出て行くのみ。
そんな訳で、ツグミのチェックの後に姫香が銅色の宝箱を開けての回収作業。隣に控える紗良に、まずはエーテル600mlと浄化ポーション700ml、それから解毒ポーション700mlを渡して行く。
それから鑑定の書(上級)が4枚に木の実が6個、魔結晶(中)が5個に強化の巻物が2枚。武器では短槍が1本と篭手が1つ、妖精ちゃんによるとどちらも魔法アイテムみたい。
それからリングが6個に、メダルが10枚ほど。
後は良く分からない品々が少々、ワカメの束とか綺麗な貝殻がゴロゴロ入っていた。価値がありそうなのは、恐らく真珠と珊瑚の飾りくらいだと思われる。
ちなみに中ボスのドロップは、魔石(中)とスキル書1枚だった。そちらは香多奈が回収して、これでこの部屋でする事は全て終了した事になる。
部屋内にはやっぱり次の層への階段は無いし、あるのは奥の壁の扉のみ。最後に何故か、水の精霊が出現して一行にバイバイとお別れの挨拶をしてくれた。
子供達も、ありがとうと感謝の言葉と共に手を振って扉を潜って行く。これで何とか10層クリアだ、ノルマは無いけど体面は保てる数字かも。
そんな事を思いつつ、出たのはやっぱり“アビス”の回廊だった。
「あっ、やっぱりここに出るんだね。って事は、どっかに下に降りる階段がある筈」
「そこじゃないかな、灯りが少ないから見えにくいよね……あっ、やっぱりあそこが一番近いかな、反対側にも多分あるかもだけど」
そんな事を言い合いながら、10層出口の回廊から11層入り口の回廊へと降りて行く面々。少し休憩しようかと、他の探索者がいるか窺うけど階段脇の広場に人の気配は無し。
その休憩場は、やっぱり寛げるようなスペースで端には魔方陣が。ただしそれは起動しておらず、隣にポールのようなモノがにゅっと突き出ているのみ。
少し不安になった護人は、これじゃあ地上に戻れないなと魔方陣の解析を妖精ちゃんに頼む。戦闘力は全く無いけど、知識を持つ小さな淑女の同行は頼もしい。
そして判明、どうやらポールに動力を注げばワープ魔方陣が起動する仕組みらしい。その起動のパワー源が、さっきダンジョンで回収したリングとの事である。
「なるほどっ、ようやくリングの使い道が分かったね。えっ、じゃあ……これを1個も持って無かったら、やっぱり地上に戻れなかったって事!?
酷いね、一歩間違ったらここに閉じ込められちゃうよ!」
「本当だね、思ってたよりは難易度の高いダンジョンかもねぇ。この情報を持ち帰ったら、ここはBとかA級認定されるんじゃないかな?
でも出て来る敵は弱いから、そうでも無い?」
敵も潜るにつれ、どんどん強くなりそうな雰囲気はある。取り敢えずリングの使い方は判明して、メダルは恐らく景品交換的な装置がどこかにありそう。
そんな他愛のない事を、休憩しながら話し合う一行。
――“アビス”の回廊は、ただ静かにそんな家族を深淵へ誘うのだった。
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