第343話 ルルンバちゃんの新ボディを画策する件



 先日の『四葉ワークス』の移動販売車での売買でも、やっぱり8百万近く黒字を出してしまった来栖家。儲け過ぎは良くないなと反省しつつ、香多奈などはご機嫌である。

 その儲かった分、何か買い物に行こうよと春休み中の末妹は常にアクティブ。とは言うモノの、農家の春の行事はてんこ盛りで遊びに出掛ける時間など無いのも事実。


 植松の爺婆も、今日は朝から峠を登って来て田畑のお手伝いをしてくれている。その分、こちらが落ち着いたら今度は向こうの敷地の田畑の面倒を見るのだ。

 お手伝いの辻堂つじどう夫婦にも、今年はもっと頼る事になりそうだ。それこそ出荷作業だけでなく、育成管理にも手を回して欲しい所。


 何しろ今年から、凛香チームも家の前の荒れ果てた耕地を管理すると息巻いているし。そっちのお手伝いと言うか、教えたりする人手も必要である。

 もちろん来栖家もお手伝いするけど、自分の田畑の管理に自治体の会合やらに加えて。探索業まで行うとなると、やっぱり時間が取れない可能性も出て来る。

 今年は耕作地を拡げる予定だし、そろそろ玉ねぎの収穫も控えている。


 そんな家のお手伝いも終わって、いい汗いたなとぐったりしている大人達に較べて。子供達はまだまだ元気、香多奈もコロ助とルルンバちゃんを引き連れて外を跳ね回っている。

 そこに和香と穂積も合流して、家の前の荒れ地の様変わりを熱心に報告して来た。初の農業チャレンジに、子供達もヤル気に満ちている様子。


 ちなみに凛香チームの町内パトロールも、最近はようやく落ち着いて来たそうだ。3日に1回程度で済むようになって、それだけ野良モンスターの脅威は治まって来た感じ。

 4月の青空市も、これで安全に開催されそうで何よりである。その空いた時間を農地開拓に使って、お隣さんの家の前の荒れ地は今や見違える程になっている。


 それを午前中手伝っていた和香と穂積は、現在も満ち足りた表情。家族で一緒の作業をしたってのもあるし、最年少でもちゃんと役に立ったと言う自負もある。

 そしてお昼ご飯を食べ終わって、今は香多奈と合流してのお遊び会議。何をして遊ぼうかとの話し合いが、いつもの納屋の秘密の場所で行われる。


 ここは彼女たちのお気に入りの場所で、最近は異世界から持ち帰った家具も詰め込まれ、居住性は倍増している場所でもある。そんな訳で、ミケも良く遊びに訪ねるようになって来た。

 そして子供達とたわむれたり、気ままに時間を過ごすのだ。


「ミケさんも、お薬飲んで元気になって良かったね! 穂積も最近は、“変異”の発作がずっとないんだよ。やっぱり田舎のパワーなのかな、引っ越して来て本当に良かったよ。

 後は農作業を覚えれば、食べ物も自給自足出来て完璧だね!」

「ミケさんってばね、最近また新しいスキル覚えたんだよっ! どんなスキルだっけ、ちょっとお披露目して見せてよっ。

 ついでにコロ助とルルンバちゃんも、何かやって見せて!」


 毎度の末妹の無茶振りに、コロ助は素直に近くの農機具を咥え上げ。勢い良くブンブン振り回して、子供達をビックリさせて歓声を得ている。

 負けていられないルルンバちゃんだが、彼の覚えた『電子制御』は電子製品をある程度自在に操るスキルなのだ。全く派手ではないスキルなので、ションボリ模様なAIロボである。


 ミケもコロ助に関心を奪われて面白くなかったのか、珍しく素直に新スキルをお披露目してくれた。彼女の覚えた『透過』は、何と物体をすり抜けられると言う珍しいスキル。

 ミケがお化けになっちゃったと、穂積はその姿を見て驚きまくっている。香多奈も驚いているが、これなら敵に踏み潰されずに済むねと、有効性をすぐに理解して。

 ミケさん前衛デビューかもと、やっぱり無茶振りを口にする。


「そんなの可哀想だよ、ミケさんは探索中も抱っこしてあげといてね、香多奈ちゃん。それより茶々丸と萌は、スキル覚えなかったの?

 異世界に冒険に行って、随分とチームも戦力アップしたんでしょ?」

「そう言えば、今日は茶々丸と萌がいないね……この時間は、2匹ともお昼寝してるのかな?」


 穂積の言う通り、お昼過ぎのポカポカしたこの時間は、決まってお昼寝をする育ち盛りの茶々丸と萌である。そして茶々丸の取得した《成長緩和》は、文字通りのレアスキルで。

 言ってみれば、成長の速度が遅れる代わりに寿命も延びると言う。垂涎すいぜんモノのスキルを、何と仔ヤギが引き当ててしまったらしい。


 まぁ、その辺は若い香多奈や和香には、あまり興味の無い話題ではある。『安寧のソファ』に腰掛けながら、ワイワイとそんな話に興じる年少組。

 その他の世間話としては、お隣の異世界チームの付き人が土屋女史から変更になったとか。一応挨拶は交わしたが、追加の2人は子供相手には不愛想との事。


 その点、土屋女史にはまだ見込みがあったのにと和香の言葉。つまりは子供チームに引き込めて、一緒に遊べる素質があったとの見立てらしい。

 香多奈も自宅の大きく変わった点を、2人に向けて報告する。2階の壁に、姫香の装備品の白百合のマントが居着いてしまった話は割と面白がって貰えた。

 このマント、実は先住の薔薇のマントと仲が悪いらしい。


 いじめられた挙句、とうとう2階へと追いやられたみたいである。縄張り争いは、やはり先住権を持つ者が圧倒的に有利なのかも。もっとも、薔薇のマントは他のマントを喰いまくって今や芸達者の域にあるけど。

 白百合のマントに、そんな機能があるのかは今の所不明である。仲良くすればいいのにねと、平和主義の穂積の呟きに。本当にそうだよねと、香多奈と和香も同意する。


 それからしばらく、3人は水晶や化石を観賞したり秘かに持って来た宝珠《心話》をこっそり覚えようかと企んだり。さすがにそれは、良識派の和香が止めてくれた。

 この《心話》も、使い方次第ではヤバいスキルだと、家族の誰も取得したがらなかった宝珠である。それならばと、次に香多奈が関心を示したのは『大砲型魔導ゴーレム』だった。


 これは自立動作が可能だとの話なのだが、魔力切れなのかウンともスンとも言わない。それならルルンバちゃんの新ボディにと、秘かに画策している香多奈である。

 幸い、この魔導ゴーレムは自走用に車輪もついている。これの運用に関しては、異世界チームに相談すれば良い案を出してくれるかも知れない。

 そうと決まれば即行動、とっても元気なキッズ達なのであった。




「むうっ、確かにこれを自在に操れたら強力な戦力になるかもね、護人さん。動かなくっても、ルルンバちゃんのパーツには関係ないし。

 香多奈の思いつきにしては、案外と良い案じゃ無いかな?」

「リリアラさんの話だと、この砲塔は魔石からパワーを引き出してエネルギー弾を撃つタイプじゃないかって。だとしたら、ルルンバちゃんがそれを操れるようになったら凄いかも?

 何よりそんなに大きくないし、タイヤが付いてるから自走も出来るし」


 来栖家の夕食後に、そんな話で盛り上がる子供たち。護人も二番せんじで小型ショベルを購入するより、新しい可能性を模索するのは割と賛成ではある。

 ただまぁ、砲塔がモロに目立つ機体を連れ歩くのは、客観的に見てどうなのだろうか。行く先々でヤバい団体と認定されるのは、やっぱり面白くはない。


 そうは言っても、チームの戦力アップを第一に考える方が建設的であるのは良く分かる。香多奈の考えでは、砲塔型魔導ゴーレムの上に今のドローンを合体させて、昔の合体ロボみたいにしたいらしい。

 それは夢があって良いねと、何故か姫香もノリノリな様子なのは置いといて。その改造は誰がするのと、紗良の突っ込みには返す言葉の無い2人である。


 護人も溶接をして貰うなら、早川モータースくらいしか伝手は無い。協会職員の江川にでも相談すれば、またパーツを分けて貰えるかもだし作戦自体は広がって行く気もする。

 とは言え、やっぱり基本の設計図はこの場の誰も描けない模様で残念な限り。


「そう言えば、協会から“アビス”の調査で大規模レイドを組むから参加してくれと打診があったんだよ。その代わり、その後に“喰らうモノ”の探索に協力してくれるって話なんだけど。

 田植えのシーズンだからと、本当は断りたかったんだけど仕方が無いよな。地元に生えたダンジョンとの絡みもあるし、ここは受けようと思う。

 そんな訳で、みんな1泊2日の探索旅行いいかな?」

「それは全然構わないよ……それより、3月の終わりに怜央奈や陽菜が遊びに来たいって言っててさ。田植えや青空市の売り子も手伝うって言ってくれてるから、この際頼っちゃっていいかな?

 もちろん、女子チームで探索にも行く予定だけど」


 それを聞いた香多奈は、お姉ちゃんばっかりずるいとの毎度の抗議。これまた何度目だろうか、またまた護人がご機嫌取りをする破目におちいりそう。

 それはともかく、瀬戸内海に突如出現した“アビス”への情報収集には参加の方向で決まりそう。姫香も耳聡みみざとく、岩国チームのヘンリー辺りから戦艦に載せて貰えるかもと聞き及んでおり。


 つまり岩国チームも、今回の遠征には参加する方向でチームは動いているらしい。噂では、瀬戸内沿岸地域のB級以上のチームは、軒並み参加を促されているよう。

 その辺の情報は、どうやら姫香の方が先にキャッチしていたようである。能見さんとか市内の知り合いとか、ライン友達の多さは子供の方が上みたい。


 それじゃあそれに向けて準備しなくちゃねと、子供たちの意気が高いのは有り難い。ただし、それにはやはりルルンバちゃんの新機体の用意も必須ひっすな訳で。

 結局は香多奈の意見が通って、明日の午前中に職員の江川に時間を取って貰う事に。それから魔導ゴーレムに詳しい異世界チームにも、意見を聞こうと話は決まった。

 つまりはおおむね、末妹の思う通りの流れに。


 この辺はいつもの来栖家の伝統? で、香多奈の我が儘がまかり通るのを誰も疑問に思わないと言う。明日は忙しくなるぞと、張り切る末妹もいつもの事には違いなく。

 そんな訳で、紗良がスマホで能見さんへと明日の予定をお伺い。ついでに江川さんを貸し出して欲しいと、多少我が儘な交渉もこなしてみたり。


 リビングでは、相変わらず薔薇のマントがその存在を派手に主張中。はりの上では、妖精ちゃんがバスケット籠の自室で寛ぎ模様で過ごしている。

 ミケは若返って、夕食の量も割と増えたみたいで家族もひと安心である。そんなミケを抱えて、姫香が探索動画のチェックをしようよと紗良を誘って来た。

 そんな訳で、リビングの隅で姉妹揃っての探索関係の情報集めが始まる。


「何とか“アビス”の情報が欲しいけど、まだ誰も潜った探索者はいないんだっけ? それじゃあ仕方がないか、ぶっつけ本番になっちゃうね」

「代わりに“浮遊大陸”の動画はいっぱい上がってるね、全部ロングショットだけど。ラピュタみたいって言ってた人いたけど、お城とかは遠目じゃ見えないね。

 あの大陸も、ひょっとして飛行石で浮かんでいるのかなぁ?」

「そうかもね、ちょっとずつ動いてるって話だし……あんなのが上にいられたら、日差し遮られて農作物が育たなくなっちゃうよ。

 噂じゃ、異世界のモンスターも生息してるんでしょ?」


 怖いよねぇと、ミケを抱いたままの姫香のぶりっ子が炸裂する。偶然通り掛かったルルンバちゃんが、何の話とお掃除をしながら寄って来る。

 そんな姉の様子を幾分めた目で眺めている末妹、その手には紗良に温めて貰ったミルクカップが。3月とは言え、山の上の気温は夕方からズンと下がってまだまだ寒いのだ。


 動画を探す手を緩めずに、紗良も本当にねぇと相槌を打つ。“大変動”以降に出て来た新常識に、ため息をつきながら何とかならないモノかと思案顔。

 それを言ったら、来栖家のリビングも相当なカオスな状況だったりする。しかし実際に住んでいる本人たちには、その実感は全く無いと言う。

 子供たちもペット達も、心から寛いでいるのが何よりの証拠。





 ――いやしかし、ここよりカオスな場所は日本中探しても無いかも?






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