第342話 久し振りに移動販売車が来栖家にやって来る件



 ようやく協会での換金作業をこなしての翌日、朝食のデザートに『虹色の果実』とHPが上昇する『魔法の果実』を切り分けたモノが出ると言う異常事態が。紗良の苦肉の策で、これなら公平に分配出来ると言う寸法である。

 もちろんハスキー達の朝ごはんにも、きっちり細かくしたものを混ぜ込んである。これで異世界で大量に入手したアイテムの一部は、昨日の魔石の販売分も含めて片付いてくれた。


 魔法アイテムも、ムッターシャチームに報酬として分配したり、姫香が使うと宣言した『白百合のマント』や『真紅龍の鱗鎧』は無事に所有者を得た。

 それから疲労軽減効果のある『魔羊革のブーツ』は香多奈に、矢弾の補充がいらない『霊木の弓』は護人のサブ武器に。射程が無限っぽい『無限の魔鞭』も、ルルンバちゃんのサブ武器に無事決定した。


 他の魔法アイテムも、ぼちぼちどう使うか決めて行く予定。何しろ“属性ダンジョン”で回収した魔法アイテムも、新たに増えてしまったのだ。

 紗良が悲鳴をあげるのも当然で、姫香と香多奈もお片づけを手伝っている。そして魔法の家具類は、どうしてもスペースを取るので仕方無く一時納屋なや行きとなった次第である。

 高性能の家具だと言うのに、何とも勿体無い話である。


 その他の品については、今日のお昼過ぎに企業の移動販売車が来る事になっている。そこで属性ダンジョンで入手した魔石を含め、必要ない魔法アイテムもこれを機に処分する事に。

 もちろん必要とされるなら、お隣さんのチームに融通も視野には入れている。とは言え、過度な保護は彼らの自立の邪魔になるとの判断もあって。


 その辺の加減は本当に難しいが、確かにそれについては反論のしようもない。護人は特に、性格的に過保護な部分があるのは本人も自覚している。

 とにかく前日の協会もうでに続いて、今日の企業への販売で何とか手元の品々は片付きそう。そう言えば、先日の協会への魔石の販売で、護人がうっかりA級条件をクリアしてしまった。


 これは本当に笑えない事態……ちなみに探索免許を持つ紗良と姫香の2人も、とっくにB級ランクに昇格済みだ。だからどうやっても、他のチーム員にポイントは分散出来ないと来ている。

 これは協会のランク条件のやり方にも問題があるのだが、それは今更文句を言っても仕方のない事。魔石のみの換金が条件では、確かに不正も横行しそう。

 今後これで問題が出れば、改革は為されて行く筈だ。


 つまり現状では、どうにも手の施しようが無い事態って事でもある。護人は何とか、その事実の流布るふを防いでくれるよう仁志に頼み込むのだが。

 仁志も困った顔で、本部の通達を遅らせる事は可能だが、根本はどう仕様も無いですよと返されてしまった。それもこれも、こんな大量に魔石を溜め込んだのが悪いんですと、能見さんのお叱りの言葉。


 どうやら1度の探索で、これだけゲットしたとは信じては貰えなかった模様である。1千万超えの魔石の量なので、それも当然なのかも知れない。

 それでも子供達が割と必死に、宝物庫を探し当てたんだよと動画の映像込みで説得してくれた。それで何とか汚名を着ずに済んだのだが、やっぱり来栖家チームは破天荒だとの認識は揺るがなかった様である。

 まぁ、その程度の汚名なら甘んじて受けるべし?



 そんなごたごた騒ぎのあった翌日、午前中の農作業を家族総出で終えて、晴れやかな気分で午後の用事を済ませて行く。妖精ちゃんも協力的で、属性ダンジョンで得た魔法アイテムの仕分けも順調。

 結果、大ボス戦の戦利品も加えるとなかなかの量が出てしまった。魔石は大きいサイズを除くと、だいたい160万程度だと思われる。


 ちなみにスキル書とオーブ珠の相性チェックは、異世界探索のと合わせて既に済ませてある。これも一応は売り候補だが、向こうに現金不足で勘弁してくれと言われる可能性も。

 協会で散々に叱られているので、その辺の塩梅あんばいはとても慎重な子供達である。アイテムの片付けをしながら、買う方も良い品があればガンガン行こうねとか話し合っている。


 溜め込むだけでは経済は回らないのだと、そんな当たり前の事に気付いた子供たち。それはともかく、前回の属性ダンジョンでは武器と盾が比較的多く出た気が。

 凄い良品は混じってないが、萌の防御用には良さそう。



【透明な衣】使用効果:一時透明&強靭・布素材

【風の大鎌】装備効果:切裂&敏捷up・中

【勇猛のほら貝】使用効果:気分高揚&ステup付与・小

【土竜のシャベル】装備効果:頑強、腕力up・中

【土の大盾】装備効果:頑強&魔法耐性up・中

【土のハンマー】装備効果:破砕&石礫・中

【光の長剣】装備効果:HP吸引&光耐性up・大

【闇の短剣】装備効果:MP吸引&闇耐性up・大

【闇の丸盾】装備効果:不壊&闇耐性up・大

【土竜の鋭爪】使用効果:強靭&掘削・骨素材

【安眠のアイマスク】使用効果:安眠&吉夢・小


その他:『強化の巻物』(攻撃)×2、(防御)×2




 萌の特攻も、茶々丸が率先して行っているので、萌はどちらかと言えば被害者である。その被害を最小限に留めるには、やはり防具が必要ではある。

 幸い萌は『騎乗』スキルのお陰で、両手が塞がっていても茶々丸に乗っかっていられる。実際に茶々丸と萌の揃ってのチャージ技は、物凄く強力なのだ。


 それを放棄するのは勿体無い、そんな訳での部分的な強化である。出来れば鎧も上等な物に替えたかったが、何しろ萌は半人化変化で茶々丸に騎乗しているので。

 早着替え機能のある魔法装備で無いと、色々と支障をきたすのだ。


 とは言え、今回獲得した『真紅龍の鱗鎧』は姫香が貰って行ってしまった。その代わりに、萌は『土のハンマー』と『闇の丸盾』を今後は使って行く事に。

 ハンマーはもちろん、硬い敵が出た時用の予備武器である。


 それから護人も、予備の武器に『土竜のシャベル』を貰える事に。子供達は張り切って、このシャベルを強化の巻物で上物に仕上げてくれた。

 とは言え、コイツは飽くまで予備の武器だし、そこまでして貰わなくてもと思ってしまう護人である。まぁ『掘削』スキルは、シャベル系の武器でないと発動が難しいのも事実。

 そんな訳で、今後も使う機会に関しては多い筈。


 そんな訳で、護人の装備も随分以前と様変わりしてしまった。今や黒い鎧を着込んで赤いマントをたなびかせる、長剣を持つ戦士風なテイストである。

 その点で言えば、姫香もかなりイメージチェンジを果たしてしまった。竜の朱色の鱗で出来た鎧を着込んで、マントは純白に金の刺繍入りと言う贅沢さ。


 武器こそ変わっていないが、更なる巻物での強化で、もはやくわの面影は全く無い。見た目は完全に長鎌で、使い込んでいるお陰で本人も扱いやすい様子だ。

 ちなみに紗良と香多奈の後衛陣は、特に装備の変化は無し。香多奈は『魔羊革のブーツ』を貰ったくらいで、後衛陣で最大の補強はミケが戻って来てくれた事だろうか。


 紗良に関しては、新たにオーブ珠で覚えた《異界言語》でザジと会話を楽しむくらい。それから異界で獲得した錬金テーブルや用具類を、温室の片隅に設置していたりして。

 これはリリアラも興味を示して、新たな用具の使い勝手を試したりしている。錬金レシピ本も増えたし、異界の料理本と共に読み進めるのも楽しいかも。

 里で貰った果物や野菜も、まだまだストックはたくさんある。


 それに関してはリリアラもとっても協力的で、作業を一緒に楽しんでいる。薬草やハーブ類も大量にゲットしたので、その処理も一緒に行う感じ。

 それと並行して紗良が取り掛かっているのは、布素材での茶々丸や萌の装備製作である。両者とも《巨大化》や半人化でサイズが変わるので、この製作はなかなか難しい所がある。


 それでも怪我の多い茶々丸の新装備は、出来るだけ早く仕上げてあげたい。そんな思いで、チームの回復役とお母さん役を担う彼女は日々の努力を怠らない構え。

 ただ、それが報われるかどうかはまた別の話。




 そんな感じで、来栖家の面々が各々の仕事をこなしている中。午後の暖かな日差しを浴びながら、峠道を企業の移動販売車がゆっくりと登って来た。

 それを見てはしゃぎ始める香多奈、話を聞いていた凛香チームの子供達も表に出て来る。ついでに異世界チームの面々も、何か面白そうと集まって来た。


 『四葉ワークス』の販売車は相変わらずの大きさで、運転手兼護衛の顔ぶれも以前と同じだった。販売人も同じで、この人は青空市でも御用聞きによくやって来る人だ。

 それに加えて、今回はもう1台黒いバンが付随して来ていた。色々と売りたいし買いたいとのこちらの要望に、しっかり応えてくれた結果みたい。


「来栖様、わが社を毎度ご贔屓ひいきにありがとうございます……前年に比べると、山の上のチームの数が倍増してますね。

 本当に見事な手腕です、聞けばギルドも設立されたとか」

「いやまぁ、色々と成り行きでね……これ以上協会のランクを上げたくないんで、魔石も売って構わないかな? 後は素材やら宝石やら、魔法アイテムもあるかな?

 そちらが欲しければ、薬品もストックはあるけど」


 それを聞いて、馴染みの販売人は喜色満面な表情を浮かべた。どうも協会と探索者のパイプが太過ぎて、魔石や薬品系が企業まで回って来難くなっているそうな。

 思わぬ弊害だが、スポンサーになって探索者を募るのも最近は難しいそうで。やはり地元密着型で、地域の危険に対処する探索者チームが今の流行らしい。


 企業チームが駄目って事は無いが、モチベーションの問題も大きいみたい。危険な探索業に、取り組む意欲が小さいと長続きはしないようだ。

 そんな世間話をしながら、紗良が次々と品物をスタッフへと手渡して行く。黒パンにもサポート要員が3名ほど乗っていて、何だか至れり尽くせりな様子。


 紗良が渡したのは、まずは属性ダンジョンで獲得した魔石とポーション類だった。それから高級系の中級エリクサーや上級ポーションも、向こうが欲しいと言うので大盤振る舞いする事に。

 それぞれ数リットルほど融通して、これだけでも百万以上円は稼げたかも。それからミスリル製の武器防具に、重オーグ製の武器&防具も結構な数が揃っている。

 そしてやっぱり、企業のスタッフの顔が段々と蒼褪あおざめて行く結果に。


「えっと、加減した方がいいですかね……こちらも探索用品の買い物をして、お金を消費する予定ではいるんですが。

 まだまだ売りたいものがあるけど、控えましょうか?」

「いっ、いえ……大丈夫です、何しろ来栖様はお得意先ですからね! こんな事もあろうかと、現金を大量に持参して参りました。

 アイテムをさばく取引先は、本当に幾らでもいるんです。限界まで買わせて頂きます、遠慮せずにどうぞ!」


 向こうもプロ根性を発揮していて、そこはまぁ有り難い限り。凛香チームと異世界チームが、販売車に展示されている売り物をあれこれと眺める中。

 来栖家チームは、遠慮せずとの言葉を真に受け、ひたすら回収品を売りに出す事に。鉱石やインゴット、純金の置物や銀の食器類、ガラクタ同然の武器類から素材に至るまで。


 そうこうしている間に、取り敢えず魔石の販売値段がこちらの予想通りだったとスタッフが告げて来た。まだ販売価格的には余裕があるのならと、紗良が容赦なく不要な品物を並べて行く。

 宝珠《狂戦士》は、危な過ぎて家族の誰も使いたがらない品なので。これもキッパリ売り候補に、ついでに相性チェックで合わなかったスキル書も同じく。


 オーブ珠はさすがに自重したが、実はこれも家に結構貯まっている。出来れば売りたいが、2日続けての1千万円超えの売りはこちらも感覚が麻痺してしまいそう。

 それでも武器や防具の値段をはじき出されるに、確実にそのボーダーラインに近付いている。姫香と香多奈は、凛香チームの子供達と欲しいモノを物色している。

 とは言え、探索で回収する以上の良品はさすがに置いてなさそう。


 結果、追加のロープやら照明用具、予備の戦闘スーツにキャンプ道具系の消耗品などと、安い商品の買い足し程度に収まって。こちらは不要な魔法アイテムを、幾つか追加で売りに出す流れに。

 最近入手した『勇猛のほら貝』は、何だか敵にも効果を及ぼしそうで戦術に入れにくく売りに出す事に。そもそも香多奈が試してみたけど、コツが必要で音が上手く鳴らなかったのだ。


 『闇の短剣』や『怪力の手斧』も、性能は良いのだが使い手がいないので売る事に。昔の探索で回収した品もあるのだが、後は青空市で何とかって感じ。

 異世界チームに関しては、移動販売車が珍しいのか舞い上がって色々と買い込んでいる。特に猫娘のザジが暴走気味で、香多奈が商品説明に大忙し。


 それでも向こうには、とっておきの宝珠《異界言語》のストックが1個だけあった模様で。これで姫香の分も確保出来て、来栖家的にも万々歳である。これが120万なんて、問題にならない安さ。

 その朗報に、紗良はにこやかに追加で売りに出す品を吟味し始める。





 ――勝ちの決まったこの攻防は、もうしばらく続きそう。









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