第341話 協会への報告で驚きを通り越して叱られる件



 さすがにこれは溜め過ぎだと、紗良が悲鳴に似た報告を家族にして来た。荷物管理を一手に引き受ける彼女としては、この混沌の事態を打破したいのは当然である。

 たった2度のダンジョン探索しか行って無いけど、その1度の探索中にお宝部屋を探し当てたのが問題で。その回収品だけで、バカみたいな量の未整理アイテムが鞄内にあふれてしまっているのだ。


 しかもうっかりと調子に乗って、エルフの里で屋台など拡げてしまった結果。魔石やら異界のアイテム品が、ここでも結構な量増える事に。

 その一部は、今回のお手伝いの正当報酬として、ムッターシャチームに分配し終わっている。それでも手持ちの魔石や回収アイテムは、悲鳴を上げる量になっている。

 いや、これを一気に持ち込むと能見さんも同じく悲鳴を上げるかも?


「悲鳴と言うか、叱られるかも知れませんね……こんなに溜め込んでどうするつもりとか、そう言われたら言い逃れ出来ませんし。

 まぁ、大半は例の宝物庫の回収品なんですけどね」

「あそこは確かに、魔石のストックも多かったもんね……生前の塔の持ち主の、魔女さんがきっと溜め込んでたのかも?

 だから不可抗力で、仕方が無いって言えば大丈夫?」

「まぁ、叱られるのは護人さんだろうけどね……リーダーなんだから、こんな時は矢面に立って貰わないと。それじゃあ午後は、協会に換金と動画編集依頼に出掛ける?

 香多奈は呑気にしてると思ったら、まだ春休みだっけ」


 呑気って何よと、毎度の売り言葉に買い言葉が始まる前に。叱られるのは同じく嫌な護人だが、嫌な事はさっさと済ませてしまうのがストレスを溜めないコツと割り切って。

 ついでにチーム強化もしなきゃだよねと、魔法の鞄の中身の整理を手伝う素振りの末妹。紗良もその量には参っている様子で、これじゃあ魔法アイテムの選別も大変そう。


 妖精ちゃんは、そんなリビングの家族の様子をはりの上から高みの見物。好きでそうしている訳でなく、やっぱり元気になったミケが怖い様子だ。

 そのミケは、護人の膝の上で満足そうに丸くなっている。


 それでもアイテムの選別を手伝ってよとの、末妹の声掛けに。渋々と天井から舞い降りて、手伝い始めてくれる頼りになる小さな淑女である。

 その正体が、実は精霊界のお姫様とは家族の誰も気にしていない模様。そして実に1時間以上かけて、何とか異世界から持ち帰った品物の選別が終了した。


 惰性で“ダンジョン内ダンジョン”のドロップ品も、終わらせてしまってこれで出掛ける準備は完了した。今回は企業売りの品も多いし、移動販売車を呼んでも良いかもねと姫香の入れ知恵に。

 それは良い案かもなと、護人も破壊されてしまった探索着の予備が欲しい模様。それの予約の電話を入れながら、色々とチーム強化や溜まった品物の振り分け作業など。


 特にオーブ珠やらスキル書の相性チェックは、数が数だけに結構な時間が掛かりそう。それでも紗良の号令の下、張り切った香多奈がペット勢のチェックを行って行く。

 人間はまぁ、適当に各々でこなす事が可能なので後回し。


「わっ、凄いね……これで一体幾つ目だっけ、香多奈? 異世界で入手したスキル書やオーブ珠って、こっちの世界のとは違って特殊なのかな?

 相性チェックでの適合率、みんな揃って半端じゃ無いね!」

「本当だねぇ、これは意外かも……えっと、まずオーブ珠が紗良お姉ちゃんに茶々丸でしょ? それからスキル書が、ツグミにコロ助にルルンバちゃんに、ちゃっかりミケさんも覚えちゃってるし。

 こんな大当たりは今まで無かったよね、まぁこれだけ大量にスキル書揃えたら当然かもだけど。これでウチのチームは、大幅に戦力アップ間違いなしだよっ!」


 そう上手くは行かないだろうが、こんな大量のスキル獲得者が一気に出たのは確かに初の出来事である。子供達が盛り上がるのも分かるが、使いこなすのはまた別の話だろう。

 スキルへの慣れも必要だし、戦闘に使うには訓練もしなければ。妹にそんな感じで諭す姫香は、残念ながら今回の取得は無しに終わりそう。


 今回の相性チェックの進行役の香多奈も、このまま行けば取得ナシに終わりそうな気配。護人も同じくで、最初の頃の適合無しの時期の疎外感を思い出して何となくソワソワしてみたり。

 探索者になり立ての頃は、護人だけスキルが取れない時期がずっと続いていた。あの頃からハスキー軍団は献身的で、しかも継続的に強かった。


 そんな1年前の事を思い出しながら、子供達と妖精ちゃんの報告を聞く護人。まずは紗良が、オーブ珠で念願の《異界言語》を取得したそうだ。

 宝珠で家族分揃えようと協会に発注を掛けてたけど、意外なところで欲しかったスキルを入手してしまった。これもリリアラと、ほぼ毎日コミュニケーションを取っていたお陰かも。

 案外とそんな行為が、スキル取得の切っ掛けになる気が。


 ちなみにオーブ珠2個目の取得は、茶々丸で《成長緩和》系のスキルだとの事。妖精ちゃんの解説は相変わらず意味不明だが、オーブ珠スキルだけあってレアスキルの模様。

 それからツグミは念願の『探知』系のスキルで、コロ助も同じく『剛力』と言う使い勝手の良さそうなスキル。妙な攻撃系スキルより、チームの役割的には欲しかった能力である。


 そしてルルンバちゃんは『電子制御』と言う妙なスキルで、ミケも『透過』と言う変テコなスキルを取得した。ミケに限っては、鑑定の書を使っての確定作業である。

 こんな贅沢が出来るのも、最近は鑑定の書が余り気味になっているから出来る事。魔法アイテムが出てない訳じゃなくて、それ以上に鑑定の書が回収出来ているのだ。

 他のチームも、鑑定の書は毎回余り気味だそうで。


 ハスキー達や茶々丸はともかく、ミケに関しては新たに取得したスキルに興味は無い様子。相変わらずのマイペース振りで、家族で賑やかな縁側の雰囲気を楽しんでいる。

 スキルが1つもかすらなかった姫香や香多奈は、明らかにガッカリした様子。ただまぁ、チームの戦力アップには素直に喜んでいる感じである。


 特にお互いの相棒の強化は、手放しで喜んで褒めたたえている。当然ながら、ツグミとコロ助も上機嫌、今から探索に行こうよとその力を試す気満々だ。

 ただし、今日は既に家族の予定は決まっているので、そんな無茶なスケジュールは組めない。そんな感じで1時間近く掛けて、何とか全員の相性チェックは終了の運びに。

 こんな時は、人数の多いチームはとっても大変だ。



 ちなみに、異世界のダンジョンで回収したたくさんのアイテム類の顛末てんまつだけど。換金性の高い金品関係は、秘薬素材&宿泊の代金としてエルフの里へと寄付して来た。

 向こうはそれよりも、バトミントンのラケットやシャトルをもっと欲していたけど。また来る時に持って来るよと、姫香などは簡単に安請け合いをしていたり。


 それから魔法アイテムは、妖精ちゃんの手助けを得てようやく鑑定が終わった。余りに多過ぎたので、異世界旅行と属性ダンジョンのとは分けての鑑定となった次第。

 主要な魔法アイテムは、生活用品系もそうだが探索用の品も極上品が多い気が。特に白百合のマントは、薔薇のマントに次ぐ意思を持つ魔法装備品である。

 『真紅龍の鱗鎧』も、ムッターシャも太鼓判を押す魔法装備である。



【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《心話》を習得

【獣の宝珠】使用効果:使用者はスキル《獣化》を習得

【霊木の弓】装備効果:矢弾要らず&射程up・大

【怪力の手斧】装備効果:不壊&鋭刃&腕力up・中

【魔羊革のブーツ】装備効果:サイズ補正&疲労軽減・中

【無限の魔鞭】装備効果:無限範囲&器用up・大

【白百合のマント】装備効果:防御&全ステup&全耐性up・大

【神木の弓】装備効果:聖属性付与&命中up・大

【大砲型魔導ゴーレム】設置効果:拠点防衛&自動防御・永続

【魔女の帽子】装備効果:魔力回復&魔力up・大

【魔女の杖】装備効果:不壊&魔力up・大

【魔女のローブ】装備効果:隠密&魔力up・大

【夢幻のタンス】特別効果:空間収納力・大

【安寧のソファ】使用効果:安寧&快眠・中

【雪幻獣の毛皮の敷物】使用効果:安寧&清浄・中

【真紅龍の鱗鎧】装備効果:瞬間脱着&身体強化&不壊&防御up・特大

【魔法の果実】使用効果:接種者のHPを1割up・永続

【守護の大剣】装備効果:剛力&不壊&防御up・中

【神木の枝】使用効果:魔力up&理力up・木製素材


その他:『強化の巻物』 (攻撃)×3、(防御)×3、(耐性)×4、『鑑定プレート』(薬品)×1、(木の実)×3、『魔大亀の甲羅』(防御up)×3、『魔法の指輪』(器用up、敏捷up、腕力up等々)×10、『魔法の首飾り』(魔力up、MP回復、防御up等々)×8、『秘薬素材』(液体素材)×4種各数リットル、『属性の護符』(風耐性)×2、(水耐性)×3、(土耐性)×3




 必要なら融通するとの護人の申し出に、彼は驚き半分の呆れ顔半分。欲が無さ過ぎると言いたいのだろうが、それだけ今回の探索同行は来栖家にしても助かった証拠である。

 ザジはその点遠慮なく、宝珠の《獣化》が欲しいとのアピール。猫獣人の彼女にはピッタリと言うか、来栖家で欲しがる者はいないのでこの取引は簡単に成立した。


 魔女の装備シリーズは、それならとリリアラが貰って行く流れに。エルフの魔女が使っていたとの話だったので、そう言う点ではこれまたピッタリかも。

 『白百合のマント』は、姫香を使用者に選んだのでスンナリ決定。『大砲型魔導ゴーレム』には弱い意志があるみたいだが、これを鍛えるのは骨だそうだ。

 つまりは最初は、簡単な命令しか理解しないそうで。


 もっとも、香多奈はこれをルルンバちゃんの新ボディパーツにと画策している模様。弾の入って無い砲台型ゴーレムは、そんな強くはないとは思うのだが。

 形が格好良いからと、少女のツボは良く分からない。


 異世界チームも交えての魔法アイテム分配会は、結局そんな感じの幕引きに。ズブガジも大量の魔石(大)を貰って幸せそう、そしてムッターシャは鎧の融通を辞退した。

 その理由は単純で、ホストの来栖家チームの実力を一刻も早く上げて貰いたいから。どうやら“喰らうモノ”ダンジョンの攻略には、強いチームがあと3チームは必要そうなのだ。


 最低でも、その攻略に不便の無い実力をつけて欲しいってのが本音らしい。そう言われると、前回の探索失敗を思い出して耳が痛い護人である。

 子供達も、地元に生えたダンジョンだけに何とかしたいと言う思いも強い。今度は頑張るよと口にする香多奈だが、それには確かにより一層の成長が必要な訳で。

 そんな意味でも、魔法アイテムの分配には熱が入るのだった。




 そして少し間を置いての、チーム全員での協会への換金&動画編集依頼である。案の定と言うか、持ち込んだ魔石の量にとんでもなく驚かれる始末。

 ウチを潰す気ですかとのお怒りの言葉はもっともなのだが、実はこれでも加減したのだ。持ち込むにはどうも多いなぁと、前もって属性ダンジョンの回収分は次に回す事に決めて来たのだ。


 それでもやっぱり多かったようで、ひょっとしなくても換金額は過去最高になりそうな気配。何をすればこうなるんですかと、能見さんはやっぱり呆れ顔。

 子供達は、やや及び腰ながらも素直に異世界旅行の顛末を語り始める。動画チェックも同時に行いながらで、これはチェックも長引きそう。


 そしてやっぱり叱られる子供たち、いや護人も管理不行き届きの罪は重そう。香多奈など特に、コロ助にまたがってレースに出るなどと危ない真似をしちゃダメだと雷を落とされる破目に。

 そう言われると、ごもっともですと言い返す言葉も無い一同である。


「そうだよね、お調子者の香多奈の暴走を止めるのは私たちの役目だもんね。エルフの人達と何とか仲良くなろうと思って、香多奈に頼り過ぎてたかも。

 コロ助だって、飼い主に似てチョーお調子者だもんね」

「ま、まぁでも……あれはあれで、結果オーライとして良かったと思うけど。あの時はゲームの勝敗よりも、場を盛り上げるピエロ役が必要だったんだし。

 あっ、別に香多奈ちゃんがピエロって言ってる訳じゃないんだよ?」


 モロにそう言ってる紗良だが、能見さんを何とか取り成してくれているのは有り難い。護人も同じく、確かに香多奈が吹っ飛んで行ったのを見た時には肝が凄く冷えた。

 管理不行き届きと言われても仕方がない、香多奈も探索に同行してHPをまとっていたから軽傷で済んだのだ。ひたすらかしこまる一同に、気の毒に思ったのか仁志支部長が取り成すと言う妙な構図。


 しかしそれも、職員の江川が魔石とポーションの換金結果を報告しに戻るまでだった。大方の予想通り、その額は過去最高を大幅に更新していた。

 何と1千万オーバーの査定額に、取り成していた仁志支部長もプッツン来た模様で。本日2度目の、ウチを潰す気ですかとの絶叫が小さな建物内に響き渡る。

 紗良の肩の上のミケが、コイツうるさいなと関心無さげな視線を送り。





 ――その日常を取り戻せた家族は、揃って叱られながらどこか誇らしげ。







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