第339話 無事に帰還パーティをお隣さんと開催する件



 さすがに大ボスの光の魔人は、茶々丸のバレバレの突撃を素直に受けてはくれなかった。そのチャージはかわされたけど、ただし騎乗した萌の槍の一撃は避け切れずに被弾した。

 大きく態勢を崩したところを逃さず、姫香の攻撃が加速する。ツグミの闇スキルでのフォローは、相手が光属性と言う事もあって上手く働かないのが辛い所。


 相性って本当に大事、それでもそれを吹き飛ばす程の姫香の猛攻は凄まじい勢い。さすがの大ボスも、ペースを握らせて貰えずタジタジの状態に。

 ツグミもすかさず、『土蜘蛛』でのフォローに切り替えての頭脳プレー。最初の突撃を躱された茶々丸も、しつこくUターンしての再攻撃に踏み切っている。

 そして今度こそ萌とのWチャージが決まり、吹き飛ばされる光の魔人。


 戦闘要員の多さも、実は来栖家チームの初期からの利点だったりする。ほとんどのチームが4人~6人編成で探索をこなす所を、来栖家はペット勢で水増ししての倍の戦力である。

 もちろんそれは意図しての事では全く無いけど、その中からエース級の戦士が生まれている現状は素晴らしい。何と言うか、他のチームが羨むのも当然には違いなく。


 そして将来的には、大化けしそうな仔ドラゴンの萌の存在など、有望戦士も控えている始末。こんなチームは世にも珍しいが、本人たちは恐らく自覚はして無さそう。

 とにかくそんな数の暴力で、思い切り不利な状況に追い込まれた光の魔人。そのポーカーフェイスにも、多少の焦りの感情が現れているかは不明だけど。

 利き腕にツグミが咬み付いて、更に不利な状況に追い込まれて行く。


 そして最後は、萌の槍の攻撃と姫香のくわの一撃に沈んで行った大ボスの片割れ。弓矢や魔法召喚などで、遠距離からの支援に徹していられたら被害も大きかった筈。

 それを許さなかった来栖家チームの、作戦勝ちと言った所だろうか。そしてその片割れの闇の魔人との戦いも、そろそろ佳境を迎えていた。


 護人とレイジーのペアは、今や来栖家チームの中でも最強に近い組み合わせである。攻守ともに危なげない護人の刀さばきで、じりじりと削られて行く敵の大ボスの闇の騎士。

 レイジーもその削りには、遠慮なく加わって敵の反撃もことごとく不発に終わっている。ツグミの良く使う闇の金縛りを、前もって察知して華麗に避ける1人と1匹は戦闘巧者ではある。


 剣の技量も、何度かの斬り合いで護人の方が上だとの感触を得ていた。敵のダメ元での魔法での反撃も、それを察知したレイジーが前段階で潰してくれている。

 そしてレイジーのほむらの魔剣が、容赦なく敵のHPを削り取って行き。とうとう止めの一撃が、護人の《奥の手》から派手に見舞われた。

 考えてみれば、この“四腕”の嵩増かさましも相手からすれば反則級かも?


 最後は特に見せ場もなく、2体の大ボスは魔石(大)へと変わって行った。後ろから応援を飛ばしていた香多奈は、それを見て飛び上がって無邪気に喜んでいる。

 紗良も明らかにホッとした様子で、《結界》を解いての怪我人チェックへと行動を移して行く。香多奈はルルンバちゃんと、ドロップ品の確定作業へ。


 それからもちろん、宝箱も部屋の奥にちゃんと置かれてあった。そこに最初に突進したのは、珍しい事にまだ戦闘の余韻に荒ぶっている茶々丸だった。

 そして何も無い空間に向けて、鋭い角の突き上げを敢行する。驚いた事に、それに反応するように空間が束の間歪んで行った。騎乗していた萌も、これには一瞬驚いた表情。

 何とシャドウ族の待ち伏せが、最後に罠として控えていたみたい。


「わっわっ、まだ奥の方に敵がいたみたいっ……茶々丸、しっかり頑張って!」

「うわっ、シャドウ族の待ち伏せだっ……油断してたら危なかったね! ツグミ、残っている奴がいないか一緒に調べるよっ!」


 その姫香のセリフに、何故かミケまでが乗っかってくれた。それから部屋の端にほとばしる雷光に、こんがり焼かれたシャドウ族が追加で2体ほど。本当に容赦の無い、ミケの毎度の横槍である。

 茶々丸はしばらく周囲を走り回っていたが、追加の敵がいないのを知って少しガッカリした様子。香多奈がそれを見て、褒めてあげようと近付いて行く。


 姫香は最後に残った宝箱をチェック、それからダンジョンコアがあるのに気付いて、そう言えばここは最深層扱いだったと思い出す素振り。そんな訳で、皆を招いての最終作業であるコア破壊をご機嫌にこなす。

 経験値の分配儀式を終わらせて、紗良が宝箱の中身の回収作業。中からは鑑定の書(上級)が4枚にオーブ珠が1個、魔結晶(大)が5個に魔玉(光)と魔玉(闇)が8個ずつ。


 それから薬品がエーテル800mlに中級エリクサー900ml、虹色の果実が3個に強化の巻物が2枚。武器では白っぽい長剣に黒っぽい短剣、それから盾は真っ黒のベース型の奴が1個だけ。

 どれも魔法アイテムらしく、妖精ちゃんは大量だなと喜んでいる。ただしその他の生活用品は、普通のランプや懐中電灯、ロウソクなどとありきたり。


 他にも暗幕布やらそば殻の枕やら、こっちは闇に関係したアイテムだろうか。この中で唯一の魔法の品は、アイマスクただ1つだけだった模様である。

 それから高価そうな、白と黒色の宝石が数個ほど。


「これはちゃんとした宝石かな、碁石とかが入ってなくて良かったけど。紗良姉さん、欲しいのあったら私たちで分けようよ。良いでしょ、護人さん?」

「それは構わないけど、分配はダンジョンを出て安全な場所でしてくれよ。コアを破壊したから、もうこれ以上の敵は出て来ないとは思うけど。

 香多奈ももう拾うモノは無いな、それじゃあ戻ろうか」

「は~い、ボスのドロップしたスキル書もちゃんと拾ったよ! 2体いたのに、1枚しか落とさなかったのはアレだけどさ。

 萌が使えそうな盾も出たし、収穫はアリかなっ?」


 そんな軽口を叩きながら、香多奈も上機嫌でチームに合流して帰路につく。護衛についていたコロ助は、最終戦で活躍出来ずにやや不満そうではあったモノの。

 帰ったら、ワイバーンのお肉でパーティだよとの言葉に呆気なく上機嫌に。実際、来栖家では夕方からお隣を招いて豪華な夕食会を行う予定である。


 要するに「異世界からの無事な帰還とミケの完全復活を祝う会」をしようと、お昼休みに子供達が発案して。お隣さん全員を招いての、夕食会をする事に。

 無事にダンジョンをクリアして、その願いも無事に叶いそう。




 そんな訳で家族で家へと帰還してすぐ、香多奈が早速コロ助や萌をお供にお隣さんを招きに出掛けて行く。紗良と姫香は、大急ぎで大量の夕食の準備に取り掛かる。

 護人はペット達をねぎらいつつ、いつもの怪我が無いかの入念なチェック。探索を始めてHPを得てから、大きな怪我や不調は引きらなくなってるのだが。


 それでも大事な家族の体調は、常にしっかり管理はしておかないと。特に茶々丸は、まだ子供だけあって探索中の無茶もしたがりの性格だったりする。

 最近は、レイジー辺りがしっかりかじを取ってくれて一応は安心だ。


 そんな茶々丸は、最近は厩舎での就寝は免除されている次第である。ハスキー達と一緒に来栖邸の警備をしたり、縁側沿いの裏庭の東屋の下で気儘きままに眠ったり。

 まるで自分もハスキー犬だと思ってるかのよう、まぁさすがに一緒に肉は食さないが。それで本人が楽しいのなら、護人もそんな生活をとがめる事も無い。


 実際に探索への参加で、チームも助かっているので両者がお得な関係である。今もハスキー達と一緒に探索後のチェックを受けて、護人に褒めて貰ってると思ってとっても嬉しそう。

 レイジーはその点は冷静で、まだ自分達のお仕事は終わってないぞの表情だ。探索は一区切りついたけど、家の警護に関しては気を抜く暇など無いのだ。


 そんなやり取りの中、香多奈がご機嫌にお誘い任務から戻って来た。みんな参加するって言ってたよと、元気に護人に報告して来る。

 それから家へと入って行って、姉達へと同じ報告を行う末妹。その際に、姫香にアンタも手伝いなさいと、夕食の支度要員へと昇格させられてしまった。

 ただそれも、美登利が手伝いに来るまでの話で呆気無く解除される始末。


 その後はリビングの片づけを、護人と一緒に頑張って行う作業に駆り出され。何しろ迎えるお客さんの人数は、3家庭10人以上と大量なのだ。

 それをリビングに座らせるだけで、ある意味大仕事である。ただまぁ、ゼミ生チームと凛香チームを招いての食事会は、何度か行って来ているので不安は無い。


 それに異世界チームの3名分の席を、何とか都合付ければ良い感じである。それはそれで大変なのだが、とにかく頑張って詰め込むしかない。

 香多奈も毎度の子供席を、少し離れた毎度の場所に作りながら。のんびりと日向ぼっこをしているミケに、今回の主役なんだからねと言い含めている。

 当のミケは、我関せずな様子でおざなりに2本の尻尾を振り返している。


 この身体的な変化だが、茶々丸や萌に慣れてしまった家族には特に何の感慨も与えなかった。それより元気になった愛猫に、家族の雰囲気も元通りに明るくなってそちらの方が数段大事。

 今も台所では、賑やかな笑い声が響いている。香多奈もルルンバちゃんや萌を急かしながら、会場の設置や飾りつけを頑張っている。


 そうこうしている内に、凛香チームが全員揃ってやって来た。差し入れにと、家で作って来たお握りが大皿にいっぱい乗っかっている。

 それを見た紗良は大喜び、何しろどこのチームの男性もよく食べるしよく飲むのだ。特にムッターシャは、底なしかと思う程の大食漢だったり。


 和香と穂積が来た事で、香多奈も一気にテンションアップ。一緒にパーティの準備をお願いと、2人を巻き込んでミケの特等席まで用意する始末。

 一応は今日の主役とは言え、多少やり過ぎな演出な気もする。それでもお気に入りの座布団の上に丸まって、持て成される素振りのミケは子供の所業にはとことん甘いのかも。

 そんな事をしている間にも、続々とお隣さん達は集まって来る。


 料理も何とか形になって来て、あちこちで雑談が始まるのはいつもの事。護人がお酒を配り始めて、用意されたテーブルには湯気を立てている料理も並んで行く。

 メインはワイバーン肉の竜田揚げに、卵料理や汁物も並んでおり。ミケ用のお皿も用意されていて、そこにはカツオ節が綺麗にデコレートされていた。


 紗良の手腕によるモノだが、感心したのは周りにいた子供達だけと言う。当のミケはそんな苦労も、関係無いねとばかりにむしゃぶりついている。

 喜んで貰えて紗良も本望だろう、他の場所でも乾杯からの夕食会は始まっていた。テーブルを別枠に置かれて作られた子供席には、何故かザジとリリアラまで座って歓談している。


 どうやら両者はお酒を飲まないので、自主的に避難して来たらしい。和香と穂積も、この異世界から来たお隣さんとは、すっかり仲良くなっている模様で何より。

 ザジも相変わらず、お握りの具のルーレットに熱心な模様。これはおかかだよと、和香に勧められたのにようやく口をつけてご満悦の表情を浮かべている。

 どうやら梅干しショックは、あれ以降も後を引いている模様。


 酒の入った大人席の方でも、賑やかに会話は行われていた。探索系の話題では、ムッターシャチームの毎日の“喰らうモノ”ダンジョンの報告とか。

 島根のA級チーム『ライオン丸』は、春の雪解けと共に1度地元に戻って行ったとの事。リーダーの予知騒ぎが落ち着いた事もあって、その後の動向は未定らしい。


 その反面、協会所属の土屋女史のサポートに本部から応援要員が追加で派遣されるそう。異世界チームとの橋渡しは、かなり協会にとっても大事な案件なのだろう。

 その土屋女史も夕食会に誘ったのだが、本人は報告があるからとさっさと帰ってしまった。異世界旅行の際には、置いて行かれたショックで厩舎でボーッと佇んでいたらしいけど。

 それならもっと仲良くすればいいのにねと、物怖じしない姫香の言葉。


 その辺は異世界チームにしても、視察係がついてるなぁ位にしか思ってない様子。飽くまでホスト役と言うか、雇い人は来栖家との認識は強いみたい。

 彼らも新しい環境に慣れようと、日々頑張っているようである。


 姫香や凛香や隼人辺りは、お酒こそ飲んでないけどお喋りでは負けてない。地元の噂で、新しく日馬桜町に中学校が出来るかもとか、4月も青空市が開催されるみたいとか。

 共通の話題は、以前は探索の事についてだけだったのだけど。最近は地元の話でも盛り上がれるので、姫香としても嬉しい限りである。


 そんな賑やかな夕食会の中を、既に食事を終えたミケが優雅にすり抜けて行く。その表情は満足気で、いつの間にか大きくなった群れに誇らしそう。

 そして移動中を姫香に掴まって、その膝の上にお招きされる破目に。





 ――それはいつもの定位置、家族の温もりを感じられる場所だった。








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