第338話 2体の属性のボス級相手に連続で挑む件



 扉の大きさからして、中の敵も大きいのかなとの予想は大当たり。洞窟の突き当りの広場の中央には、5メートルを超す大物の土の魔人が待ち構えていた。

 その左右には、これまた小型トラック程の大きさのロックゴーレムと土蜘蛛のセットが2組ほど。最終決戦に相応しい、敵の布陣に来栖家チームの意気も高い。


 今回の作戦では、護人が珍しく中ボス担当となっての戦闘突入となった。サポートするのは相棒のレイジーで、その左右の雑魚は姫香とコロ助が担う形だ。

 もちろん姫香とペアを組むのはツグミで、コロ助は人型に変化した茶々丸を従えての参戦である。それだけでは少し心配なので、ルルンバちゃんがこちらをフォロー。

 萌は後衛の護衛役、元気になったミケも同じく。


 もっともミケの魔法の射程は、思ったより長いので侮れない。気を抜くと、サポートとか関係なく手柄をひっさらわれてしまうのは周知の事実。

 そんな訳で、姫香とツグミのペアはともかく、コロ助と茶々丸は時間に迫られるかのようなせっかちなアタック。その脚力で、一目散に右辺の敵へと襲い掛かる。


 一方の護人は、シャベルの感覚を確かめつつも、今後のメインの武器はどっちにしようか悩んでいた。先ほどドロップした奴が使えそうなら、強化して私用にするのも良いかも。

 異世界探索で使っていた神剣も、使ってみたら意外と悪くはなかった。ただし硬い敵相手には『掘削』スキルも乗らないし、使い分けが良いのかも?


 幸いにも、護人には薔薇のマントの空間収納機能もあるし、その点は楽に武器の選択が可能だ。家に戻ったら、その辺の装備関係の強化も進めるべきだろう。

 もっとも今は、目の前の中ボス戦が大事ではあるけど。土の魔人は体格もマッチョで、どうやらパワータイプの敵らしい。土属性の魔法も、恐らくは使って来る筈。

 決して油断は出来ないし、さっさと倒してしまうに限る。


 その予感は大当たりで、地面からいきなり石礫いしつぶてが舞い上がって体にぶつかって来た。驚く護人と側にいたレイジー、その攻撃魔法は割と広範囲に振る舞われた。

 護人は何とか、防具と『硬化』スキルでこの投石ダメージを抑え込む。しかしレイジーの方は、初手から結構なダメージを負ってしまった様子。


 呑気に構えている場合では無いと、遅まきながらも護人にスイッチか入る。そして土の魔人へと急接近して、インファイトでの殴り合いが始まった。

 護人の代名詞の“四腕”が、ガシガシと中ボスの硬い表皮を削って行く。土の魔人の、ゴーレムのような無表情の顔が、束の間苦痛に歪んだように見えたのは錯覚か。

 押せ押せムードの護人は、相手に魔法を使わせないよう必死。


 その頃、両サイドの雑魚戦はまずはコロ助&茶々丸チームが、ハンマー所持の有利で押し切る事に成功した。速攻が効いて、土蜘蛛と2メートル越えのゴーレムをあっさりと撃破。

 コロ助は最近覚えた《防御の陣》も使って、被弾も無く危なげない勝利を収めた。このフロアで何度も対戦した敵なので、攻撃パターンもしっかり把握している。


 それから少しして、姫香とツグミのペアもこの敵セットに無事勝利。作戦も何も無く、くわ先を強引に『身体強化』の腕力で敵へと突き刺す、まぁ割と力任せな戦法だった。

 こちらもツグミのフォローで、敵の攻撃を受ける事無く見事な勝ち名乗り。ただそうなると、唯一傷を負ったレイジーのプライドがめらめらと燃え上がって行く。

 文字通り、ほむらの魔剣を咥えたレイジーは紅蓮の炎と化す。


「おおっ、レイシーのお怒りモードが発動だっ! 敵の攻撃を喰らって、いたくお怒りだよっ、レイジーってば!」

「ええっ、怪我を負ったら治療しに下がって欲しいんだけどなぁ、治療師としては。レイジーちゃんって、意外と怒りの沸点低いのかな?」


 戦いを見守る後衛陣は、割と呑気にボス戦を見守って感想を口にしている。ミケも同じく、手を出す程の窮地とは思っていない様子。

 事実、お怒りモードのレイジーが敵の死角から物凄い跳躍で首筋へと飛び掛かって行った。そして燃え盛る魔剣で一薙ひとなぎ、炎が土の魔人の顔面を包み込む。


 たまらず顔を覆う中ボスに、護人は躊躇ためらいも無く『掘削』込みの突きを喉元へと見舞う。それが止めの一撃となって、巨大で硬質の肌を持つ敵は、ようやくの事倒れて行ってくれた。

 後衛陣は、土属性の敵を燃やしちゃったよとレイジーの暴挙に呆れる素振り。相性って大事だけど、その垣根を超える押しの強さも存在するらしい。


 とにかくドヤ顔のレイジーは、中ボスを倒してようやく落ち着いた模様。紗良が駆け寄って、遅まきながらの『回復』スキルでの治療を行い始める。

 香多奈はルルンバちゃんと、洞窟の奥にある宝箱のチェックに向かう。それに姫香とツグミも合流して、姉妹揃っての宝箱の中身チェックが始まった。

 ちなみに宝箱は黄土色、中身に期待は出来ないかも。


「あっ、盾が入ってるね……スキル書も1枚入ってた。中ボスのドロップが渋かった分、こっちでカバーって感じかな?」

「鍵も入ってるよ、姫香お姉ちゃん……えっと、これで4つ全部揃ったんだっけ? あっ、そしたらこの後大ボス戦が出来るじゃん。

 時間もあるし、全然今日中に回れるね!」


 姉妹で中身の確定をしながら、そんな言葉を呑気に掛け合う。つまりは、『土の鍵』がしっかり宝箱の中に入っていて、これで大ボスと戦う権利を得た感じ。他にはスキル書が1枚に大振りの盾が1つ、それからやっぱり大振りのハンマーも仕舞われていた。

 後は鑑定の書が4枚に魔石(大)が3つ、魔玉(土)が7個に小粒の宝石が少々。妖精ちゃんの鑑定によると、盾とハンマーは魔法アイテムみたいである。


 とは言え、戦利品的にはショボいよねぇと、こんな時には息ピッタリの姉妹である。大ボス戦に期待しようよと、末妹はポジティブ思考の発言を口にする。

 姫香の方は、ペット達の体調や消耗具合の確認が先だよと、冷静にそれを切り返す。その辺りはチームのリーダー資質というか、成長が窺える点ではある。

 そう言われて、香多奈は慌ててミケの具合を窺いに走り去って行く。


「そうだった、ミケさんは病み上がりだもんね……無茶をさせちゃダメじゃん、具合はどんな感じかなっ、ミケさんっ!?

 あっ、元気そう……えっ、まだ暴れ足りないの?」

「茶々丸はどんな、人間形態は割と久し振りでしょ? MP不足にならないように、ちゃんと紗良姉さんにMP回復ポーション貰いなさいよ?

 萌は全然消耗してないわね、アンタは本当にマイペースよねぇ」

「萌ちゃんは探索には付いてきたがるけど、戦いはそんな好きじゃないんだよね? 性格も穏やかだよね、ドラゴンってみんなそうなのかなぁ?」


 不思議そうな顔付きの紗良だが、誰もその問いには答えられず。何しろ他のドラゴンなど、敵としてダンジョンで遭遇した奴くらいしか知らないのだ。

 とにかくハスキー軍団を含め、どうやらペット勢に大きな疲労は窺えない模様。その点は何よりだ、何しろまだ時刻は3時になったばかり。


 そんな訳で、後1フロアの探索をこなして切り良く今日を締めたい所。しかも大ボスとの対戦は確定で、盛り上がるシチュエーションが控えていると来ている。

 一行は宝箱の側に湧いていたワープ魔方陣で、土の陣のフロアから脱出を図る。それからゼロ層フロアに舞い戻って、小休憩を取りながら大ボスの推測に掛かる。


 中に入るまで分からないけど、扉に描かれた彫刻はそれなりにヒントになる。左右の4つのフロアも同じくで、要するに何らかの属性のくくりはあるだろうねと姫香。

 光か闇じゃ無いかなと、彫刻を眺めながら香多奈も推測を口にする。他の者も、概ねそれに同意の構え。何しろ、壁画には光輝く存在と、それによって出来る影が描かれているのだ。

 末妹の推測は、大いに的を射ている気が。




 そんな推測からの、休憩後の4つの鍵の使用に踏み切る来栖家チーム。代表して紗良が鞄から鍵を取り出して、扉の前にかざしてやると。

 前と同じに、勝手にそれぞれの配置について行く4つの魔法の鍵たち。それの終了と同時に、重々しい音と一緒に中央の扉が開いて行く。


 ハスキー達が、いつも通りの動きで先行して中へと入って行く。そこにあるのは篝火かがりびに囲まれた、広い遺跡風のタイル張りの広間だった。

 その中央に待ち構えている、意外と小さな影が2つ。それは色合いからして、恐らく光と闇の魔人のペアだった。白と黒の鎧をまとった、人型のモンスターが武器を構えている。


 光の魔人は弓使いらしく、装備は軽装だが後衛なのは厄介かも。その攻撃は、容赦なく紗良と香多奈も巻き込む恐れがあるからだ。

 一方の闇の魔人は、スタンダードに盾に剣を装備していた。こちらも強そうで、防具も立派なしつらえとなっている。般若のような表情は、まるで怒気をはらんでいるよう。

 逆に光の魔人は、平静そのもののスンとした顔付きだ。


「うわっ、2体もいたよ……光と闇なのは合ってるかな、やっぱり大ボスだけあって強そうだよね、護人さんっ! 弓矢使いが厄介だな、私とツグミで相手しようか?

 下手に紗良姉さんで速攻掛けると、思い切りタゲ取っちゃいそうだし」

「そうだな、速攻は取りやめで紗良は《結界》で香多奈を守ってくれ。香多奈は『応援』しながら、ペット達が危なくなったら下がる様に指示を出すように。

 レイジーも、今度は怪我したらちゃんといったん下がるんだぞ?」


 主にそう言われて、一瞬だけシュンとなったレイジーだけど。頼りにしてるぞと再度の声掛けに、すぐにヤル気を取り戻す。他のペット勢も、最終バトルに気力は充実している模様。

 対応もだいたい決まって、とにかく弓の的にならないようにとの大雑把な作戦が言い渡される。しかし、いざ始まった途端にイレギュラーな事態が次々に勃発した。


 まずは光の魔人が、周囲にバスケボールサイズの光ホタルを召喚する。その数3匹、それが真っ直ぐに飛行して後衛へと襲い掛かって行った。それをブロックすべく、コロ助と茶々丸が動く。

 護人とレイジーのペアは、真っ直ぐに闇の魔人へと直行。コイツも何か、闇系の魔法を使って来そうで怖いので、間違ってもフリーにすべきでは無い。


 姫香も同様で、まずは距離を潰して弓矢を使えなくしたいのだけど。ツグミの隠密からの奇襲も軽くいなされ、逆に光系の魔法を浴びてしまった。

 侮れない能力は、さすが大ボスである。


 ただし、その隙に姫香が何とか光の魔人の前に陣取って、接近戦へと持ち込む事に成功。召喚された光ホタルは、後衛に辿り着く前にミケによって丸焦げにされてしまった。

 勇ましく通せん坊をしていたコロ助と茶々丸は、また獲物を取られたと憤慨するも。ミケ相手なので何も言えず、そっと目に見えぬ涙を流すのみ。


 それより闇の魔人も特殊能力を発揮して、護人を闇の沼に吞み込もうとして来た。それを華麗に薔薇のマントの浮遊スキルでかわして、斬撃を見舞う護人。

 その落ち着きと戦術の組み立て方は、正に堂に入って素晴らしいレベル。戦闘においては、一皮むけたと言うか一段上のランクに達した感のある護人である。


 そんなあるじに追従するように、レイジーも負けずに敵を翻弄する動きを見せる。先ほどの油断からの苦い苦痛の記憶は、まだ記憶に新しい彼女である。

 同じてつを踏まないように、慎重に敵の死角から死角へと高速で移動しながら。口に咥えたほむらの魔剣で、牽制するように下段から斬り掛かる。

 炎ダメージ込みのその斬撃は、決して無視出来るモノでは無い。



 一方の姫香は、目論見通りに光の魔人の懐へと飛び込めたまでは良かったけれど。まさか弓装備で殴り掛かられるとは、思ってなくて意表を突かれてしまった。

 相棒のツグミは、リーダーの言いつけを守って一旦下がっての治療中。代わりにルルンバちゃんが、宙から魔銃と鞭でのフォローをしてくれている。


 それが鬱陶うっとうしいのか、光の魔人は光の矢弾の魔法を仕切りに使って来る。それを姫香は、至近距離ながらも『圧縮』スキルで何とかガードしての攻防戦。

 ツグミの分まで頑張るぞと、相棒思いの姫香は孤軍では無いけど奮闘中。ルルンバちゃんは、逆にダメージを受けながらも踏ん張りを見せている。


 ドローンの機体には浅くないダメージが蓄積されていて、これを失うとルルンバちゃんもピンチである。姫香も攻撃に転じたいのだが、接近戦もこなす弓矢使いはそれを許さない。

 じりじりとした時間が過ぎる中、とうとう仔ヤギ姿に戻った茶々丸に騎乗した、半人半竜モードの萌が参加を決め込んだ。そのヤンチャコンビは、後方から物凄い勢いで槍を構えてのチャージ技を敢行!

 敵は上空に居座るルルンバちゃんのせいで、それに気付いていない。





 ――はてさて、このペアの得意戦法は大ボスにも通用するや否や!?






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