第337話 土のフロアで硬い敵相手に無双する件



 この土属性のフロアは相性もあるので、前衛は護人と姫香とコロ助とで担う事に。フォローはレイジーとツグミに任せて、茶々丸と萌のペアは後衛の護衛役に。

 ルルンバちゃんも同じく、彼は聞き分けも良いので特に問題は無かったのだけど。茶々丸は暴れ足りない様子で、多少ゴネたのはご愛敬。


 まぁ、護衛役なら復活したミケに任せておけば全く問題は無いとも言える。そんな賑やかになった後衛陣で、香多奈の元気な仕切り声が響き渡る。

 要するに、ちゃんと隊列を整えて行儀良くしなさいとの命令に。萌はそれを当然の事と聞き入れて、半竜半人スタイルで末妹の隣に位置している。

 茶々丸も、渋々ながらその位置を受け入れる。


 その間にも、ハンマー片手の前衛陣はサクサクと出て来る雑魚敵を片付けて行く。土属性のフロアと聞いて、ゴーレムやロックの出現は予想していた面々。

 そして、まさにそんな感じの敵が十数体ほど一気に出現して来た。ダンジョンのフロアは薄暗い洞窟タイプで、その点もほぼ予想通りだろうか。


 一行は魔法の灯りを用意して、周囲に気をつけながら最初のフロアを順調に進んで行く。今の遭遇戦に、かかった時間はほんの5分程度である。

 順調な午後の探索の走り出しに、後衛陣も満足そうに労いの声を掛けている。そして魔石を拾いながら、香多奈はしばらく1本道だねと呑気に向かう先を眺めて一言。


「さっきの風のフロアを感じた後じゃ、随分と楽に感じるよね。でもまぁ、相性もあるからこの先も私と護人さんが前衛だからね!

 茶々丸達は、柔らかい敵が出るまで休んでていいよ」

「お姉ちゃん、叔父さんの事を名前呼びにするようになったんだ……ふ~ん、まぁ別に良いけど」

「こらっ、香多奈ちゃん……そう言う事は茶化さないのっ!」


 末妹に指摘されて、急に真っ赤になる純情な姫香である。実は前から紗良の名前呼びに憧れていた彼女は、護人が若返ったのを機に自分もそうしようと心に決めていたのだ。

 それを、先ほどからようやく自然に口に出せていたのに、末妹の香多奈の混ぜっ返しである。護人もどうしたモノかなぁと言う顔をしているが、えてそれには触れずに探索再開を促す構え。


 そんな訳で、この件は有耶無耶うやむやに……家族内の空気が、多少ぎくしゃくしたのは仕方がない。そんな空気など読まないコロ助が、敵はいないかとズンズン進んで行く。

 そして出て来た大ミミズ、ロックイーターはレイジーにこんがり焼かれて速攻でお陀仏。敵の強さ的には風のエリアと変わらない筈だが、やっぱり相性って大事かも。


 単調な1本道の洞窟タイプのフロア構成も手伝って、何とモノの10分で一行は次の層の階段前に到着してしまった。そこにいるのもゴーレムとロックの混成軍、奥に土蜘蛛が数匹いる程度。

 土蜘蛛はこたつサイズで、最初から地面で待機している。岩で出来たゴーレムも、それ程大型サイズは混じっていない。ロックも同じく、それでも転がる際はゴロゴロと低い音を響かせている。

 数は全部で20体程度、まぁ想定内と言うべきか。


 紗良の魔法での先制打も考えたけど、倒し切れずに後衛がヘイトを取った場合がやっぱり怖い。そこでここは大人しく、前衛3人で壁を作って潰して行く作戦に。

 護人を真ん中に、その右手には『恐竜の骨のハンマー』を手にした姫香が陣取る。そして左手には、巨大化して白木のハンマーを咥えたコロ助が。


 護人はシャベルだが、『掘削』スキルが土属性のモンスターと相性が良過ぎて大活躍。面白い程に、硬い筈の敵を柔らかな土塊へと変えて行く。

 その殲滅スピードは、何と言うかA級ランカーに引けを取らないレベル。若返りの影響もあるかもだが、呪われた間の自己鍛錬が効いているのかも。


 『身体強化』を掛けた姫香も、重いハンマーを振るうスピードは負けてはいない。ただし一撃で倒せるかと問われれば、そこはなかなかに難しく。

 上手く急所に入れば、何とかって感じだろうか。とは言え、ツグミのフォローも手伝って、今の所危ないシーンは皆無である。その点は『応援』を貰っているコロ助も同じで、破壊の権化と化している。

 パワー任せにハンマーを振り回し、戦略ってナニ? って感じの戦い振り。


 そして5分も掛からず、階段前の広場の敵は姿を消してしまった。土蜘蛛も見せ場の1つも無く、魔石(小)を落として退場の憂き目に。

 それを拾う香多奈とルルンバちゃん、戦闘をこなした前衛陣は特に疲労の色も無い。昼食の腹ごなしに丁度良いって感じで、まだまだ余裕の表情だ。


 そんな訳で、軽く休憩を取った後に第2層へと下って行く事に。そこも歩き難い洞窟タイプで、ほぼ1本道の通路が多少うねって続いている。

 敵の出現もいつも通り、それ程広くない通路を塞ぐように毎度の敵が。ゴーレムやロックの数はかなり多く、それに混じって土蜘蛛も数匹いる様子。


 それを嬉々として退治に向かうコロ助、レイジーもほむらの魔剣をツグミに出して貰ってそれに続く。さすがに自前の牙で、硬い岩に噛り付くのは嫌みたいである。

 魔剣でもあまり効率は良くないが、持ち前のスピードと戦闘センスはそれを補って余りある。そんな訳で前衛を担う数も増えて、戦型も程よく安泰で来栖家チームは探索を続けて行く。


「ここはさっきの風のフロアと違って、探索は順調だね……ミケさんも飽きて来たのか、手伝わなくなっちゃった。茶々丸くらいだよ、懲りずに岩の塊に頭突きかましてるの。

 いい加減、効率が悪いって気付けばいいのにね?」

「まぁ、そのガッツは買うけどねぇ……確かに、無駄に怪我とかしたら可哀想かな? 茶々丸、萌から《変化》のペンダントと忍者服を貰ったら、このハンマー貸したげるよ?

 戦闘に参加したいなら、そっちにしなさい」


 そんな姫香のアドバイスに、割と素直に従う茶々丸である。どうもペアを組んで戦った相手の事は、素直に尊敬している感じの仔ヤギだったり。

 そんな訳で、茶々丸は久々の人間モードに……穂積ほづみの姿を借りて、嬉々としてハンマーを両手持ちにして前線へと駆けて行く。萌は逆に、子竜姿で香多奈の側で警護モードへ。


 姫香は愛用のくわに持ち替えて、スキル多めで対応する事に。それでも不意を突いて出現するロックイータは、鍬の方が倒すのに効率が良い。

 そんな感じで隊列を組み替えながら、気付けば2層フロアの階段前へ。ちなみに途中の分岐の穴から、小さめの宝箱を1つ回収し終わっており。


 中からはポーション800mlと上級ポーション800ml、魔結晶(小)が3個に魔玉(土)が4個。それから木の実が3つに強化の巻物が2枚、綺麗な水晶の塊が幾つか出て来た。

 水晶は宝石ほどの価値は無いだろうが、子供達は何故か嬉しそうと言う。どれが一番形が良くて綺麗かと、姉妹で変な議論に発展しそうになる有り様。

 そこを護人が促しての、ようやく探索の再開である。


 そして階段前の広場には、既に見飽きたゴーレムたちに混じって大蟻モンスターの姿が。これも裏庭ダンジョンで見飽きている一行は、さほどの驚きも無く。

 慣れた陣形でのアタック開始、人型変化の茶々丸も張り切って戦線に参加していった。護人と姫香も、さっさと数を減らすべくそれぞれに武器を振るう。


 結果、あっという間に数を減らして行く敵の群れ、所詮は数が多いだけの烏合うごうの衆である。しかもボス級の敵も混じっておらず、割と拍子抜けの戦いの場となってしまった。

 いや、少し強固な素材のゴーレムが、実は群れの中に混じっていた様子。コロ助がコイツ硬いなと、ちょっと驚いていた奴がボス格の敵だった様だ。


 ソイツも色合いが雑魚と似ていたので、気付かれずにそのまま倒されて行くと言う悲劇が。まぁ、魔石(小)を落としたので、拾う際に香多奈かルルンバちゃんは気付いてくれるだろう。

 そのルルンバちゃんは、硬い敵にはドローン形態は不利とハッキリ認識していて戦闘には不参加。小型ショベルが懐かしいなぁと、思いをせながらの後衛警護中である。

 真面目な彼は、それでも与えられた役目はしっかり果たすのだ。


 そんな感じの戦闘も、波乱も無くモノの5分で全て片付いて行った。安全を確保したのを確認後に、魔石の回収班が元気に仕事を始める。

 それから小休憩から、恐らくは最終フロアの第3層へと降りて行く来栖家チーム。再突入から1時間も掛かっておらず、さっきに較べると良いペースである。


 そして同じ形式の洞窟タイプのフロアに、変わり映えしないねとか文句を言いながら。同じくワンパターンのゴーレムやロックの群れを、迎撃に向かう前衛陣。

 紗良の魔法の《氷雪》は氷属性で、この手の敵には効きは余り良くない。レイジーの炎のブレスも同じく、相性ってやっぱり大事である。


 そんな訳で、定番のハンマー攻撃と護人の『掘削』で、出て来た敵の数を順調に減らして行って。この層から出て来たモグラ獣人は、姫香とツグミが張り切って迎撃に向かう。

 最終フロアの敵だけあって、コイツは割と歯応えがあったようだ。ただし、ルルンバちゃんもフォローに入って、レイジーにまでタゲられると割と悲惨な運命に。

 彼女も秘かに、硬い敵ばかりでストレスが溜まりまくっていた模様。


「わわっ、向こう側はやけに派手な戦闘になってるね……レイジーかな、大暴れしてるの? ルルンバちゃんがせっかく出番と思って飛んで行ったのに、宙にたたずんで戸惑ってるよ。

 たまに大人気ないよね、レイジーってば」

「それを言うなら、ミケちゃんもそうだねぇ……まぁ、ミケちゃんは長老だから、敵を横取りしちゃっても誰も文句は言わないけど。

 やっぱりいつものポジションにいてくれると、安心感が違うなぁ」


 そう言う紗良に、ミケは心配掛けたなと尊大な感じのニュアンスでニャーとの返事。頬に顔をり寄らせたのは、彼女からの最大の謝礼なのだろう。

 それだけで紗良も笑顔になってしまう、猫って何ともずるい生物には違いなく。そんな呑気な後衛の遣り取りの間に、敵の群れは蹴散らされて行った。


 多少は強かったモグラ獣人は、魔石(小)の他にもシャベル型の武器をドロップした。なかなか良さそうな武器に見えて、愛用のシャベルを失った護人は興味を示している。

 それから何故か安全ヘルメットと、爪素材みたいなのが幾つか。ここに来てドロップが増えたけど、ゴーレムやロックは変な石しか落とさないので美味しい狩場では無い。


 コロ助だけはやたらとご機嫌で、愛用のハンマーを誰にも渡そうとはしない。もっとも巨大化の恩恵が無いと、この武器はレイジーやツグミには上手に使いこなせそうにはない。

 それは良いのだが、茶々丸もハンマーの扱いには手古摺てこずっている様子。体格に思い切り合ってないので当然だが、さっきの撃破数もそんなに多くなかった。

 それが悔しいのか、少々むくれ模様の茶々丸である。


「もうっ、茶々丸ってば仕方が無いなぁ……紗良姉さん、腕力が上がる木の実か果実ポーションを、茶々丸にあげてくれない?

 どうせもうすぐ中ボスの間だから、全員で飲んでも良いよね、護人さん?」

「む、そうだな……それじゃあそうしようか、MPの回復もしっかりとな」


 そんな2人の遣り取りを、ニマニマしながら眺めている末妹の香多奈である。どうも護人は、姫香の突然の名前呼びに未だ慣れていないよう。

 そのせいで挙動不審な感じになるのが、ことほか面白いみたいである。姫香自体は既に照れも無く、むしろ堂々と叔父との距離を詰めに掛かっている。


 こればっかりはどう仕様も無く、紗良もこの事態の成り行きはこっそり見守るのみ。自分は男性不信気味で恋には臆病なのだが、他人のそれを見守るのは割と面白い。

 もちろんそのせいで、家族が変に分裂する事になってしまっては本末転倒だけれど。その点に関しては、姫香も慎重なようで安心ではある。

 とにかく今は、果汁ポーションを飲みながら家族の行く末を思うのみ。


 そして肝心の中ボスだ、事によったらそのまま5つ目の扉へとアタックを掛ける事になるだろう。4つの鍵が揃ったら、時間もあるし大ボスへの挑戦は当然の流れだ。

 “ダンジョン内ダンジョン”は2つ目の攻略なので、その辺の計画が立てられるのは嬉しい点ではある。最初は簡単とは言え、そんな謎解きが混じっていたのだ。


 そして休憩を終えて、薄暗い洞窟内を進む事数分あまり。洞窟の奥に見えて来たのは、一行を待ち構える巨大な石で出来た扉だった。

 普通の力では、例え探索者の腕力でも開きそうもない大きさである。ところが護人が近付いて手を添えると、それは呆気なく内側へと開いてくれた。

 まるで一行を、次の戦闘へといざなう様なきしみ音と共に。





 ――さて、それでは土のフロアの最後の戦闘の時間だ。








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