第334話 風のフロアに家族チームで侵入を果たす件
「やっぱり風のフロアだったね、護人さん……フィールド型ダンジョンなのは、ちょっと計算外だったけど。
これは次の階段探すの、ハスキー達でも大変かなぁ?」
「でも明らかに、あっちの谷間が怪しいよね? ハスキー達もそっちに向かってるし、何かあるとしたらあの亀裂の道なんじゃ無いかなっ?
ちょっと狭そうだから、入るの怖いけど」
姫香と香多奈のそんな会話の最中にも、前衛の戦いは続いていた。とは言っても大鶏がたった数匹なので、ハスキー軍団の敵ではない。
茶々丸と萌のペアの出番すらなく、雑魚は
驚いて上を見る子供達だが、落ちて来たのは魔石(微小)が数個だけと言う有り様。空にも何か敵がいたらしいが、ヤンチャなミケは接敵前に倒してしまったようだ。
その後始末と言うか、落ちて来た魔石を甲斐甲斐しく拾いに向かうルルンバちゃん。彼もミケの復活を、言葉には出来ないがとっても喜んでいる様子。
ミケの早速の活躍を、もろ手を挙げて褒めている紗良と香多奈はともかくとして。ハスキー軍団は、フィールド内で一番怪しい亀裂に向かう事に決めたみたい。
何しろ前方は、15メートル級の断崖絶壁で素人が上るのはとても無理。その周囲は草木もまばらな平原だが、明らかに何も無さそうな雰囲気なのだ。
そんな場所の探索に、時間を掛けても無駄だとの判断らしい。
護人も覚悟を決めて、子供達にそちらへ向かうよとゴーサイン。このフロアは風属性だけあって、飛行タイプの敵が多い気がする。
大鶏がそっち系なのかは不明だが、チームが進んだクラックは狭く見えたのは入り口だけだった。中は意外と広くて、何人かが拡がって歩いても平気な感じ。
そしてその亀裂は、蛇行を繰り返しながらずっと奥まで続いていた。ハスキー達はそれを確認して、確実な足取りで先へと用心しながら進んで行く。
“ダンジョン内ダンジョン”は出て来る敵が多い印象だけど、ここも例に違わずそうだった。亀裂に入った途端に襲って来たのは、大トンボとハーピーと言う女性型モンスターのペア。
これも情報通の紗良が、色んなデータを収集していたお陰で分かった名前である。眠りを誘う歌を歌う上位種もいるし、速度に乗った鍵爪攻撃も侮れないとの解説に。
実際、腕こそ無いけど飛行能力で上を取られて、一方的に攻撃されると詰んでしまう。そんなハーピーの顔立ちだけど、モンスターだけあって美しくは無かった。
情報だと、美しい種もいる事はいるとの紗良の弁である。
「わっ、レイジーとルルンバちゃんが空中戦では無双状態かもっ!? ツグミとコロ助も負けるなっ……えっ、茶々丸も壁登れるのっ!?」
「あまり知られてないけど、ヤギは山岳地帯で壁登りも得意みたいだねぇ! 跳躍力とか突進力は凄いもんね、萌も良く平気で乗りこなしてるよ」
「おっと、これでハーピーは全部片づけたかな……トンボの群れはどうなった、知らない内にレイジーが始末しちゃってたか?」
始末しちゃってたらしい、いや……半数はミケの《魔眼》効果で、無残に地面に落下していた。ニャーニャー鳴いてるのは、どうやら末妹に止めを刺せと催促している模様。
何とも献身的なニャンコであるが、それを行う香多奈は割とへっぴり腰なのは
それを見守る護人は心配そうだが、ミケの心情も良く分かる。母親とは、幾つになっても子供に対してお節介を焼くモノなのだ。姉妹の両親がいない今、ミケの温情を否定するのもちょっと違う気がして。
こうして生温かく見守る護人だが、まぁ香多奈も嬉しそうなので良い事にしよう。せめてレベルが上がって、HPが増えてくれれば探索活動や普段の生活にも安全度は増す筈。
それにしても、広いとは言え谷間での絶え間ない襲撃には参った。レイジーとルルンバちゃんがいなかったら、かなり不利な布陣となっていただろう。
姫香とツグミが、香多奈の止め差し作業の合間に魔石を拾ってくれていた。それからこのフロアで、既に20個以上も稼げたよと報告して来る。
やっぱりモンスターの数は、他より随分と多いダンジョンだ。
「ふうっ、終わったー! ミケさんッたら、随分とスパルタだよねっ……それにしても、トンボの首をシャベルで
普通はやっちゃダメって、叱られる遊びだよ」
「遊びって何よ、香多奈……トンボは神様の使いだからね、農家的にも益虫なんだし。まぁ、こっちの頭に
ハーピーも騒がしかったね、上を取って来る敵は本当に厄介だよ」
そう愚痴る姫香は、今回の討伐数は3体と少な目だった。敵の場所取りが厄介で、いつもの実力を発揮出来なかったのがその主な原因だった。
その分、レイジーとルルンバちゃんが頑張ってくれて、事なきを得た感じだろうか。時点で茶々丸も、なかなかに機動力を生かした活躍を見せていた。
ただまぁ、連続で敵に接近するような、器用な動きは出来ず仕舞いではあった。萌も手の届く範囲しか、敵に対して攻撃しなかった模様である。
彼の持つ『黒雷の長槍』は、招雷も可能なとっても優秀な武器ではある。とは言え、前の持ち主の茶々丸ほどには、まだ使いこなせてはいない様子。
半人半竜の姿にしても、慣れるのにもう少し時間が掛かりそうな雰囲気。
それでも敵の群れを撃破して、意気揚々と先を進み始める一行である。亀裂のルートは1本道で、罠の類いさえなければ迷う事無く進めて時間の節約になりそう。
それでも前方だけでなく、上空も気にしないといけないこのフロア。緊張しながら
そこにも団体様が待ち構えていて、無策で突っ込んで行くと痛い目に遭いそう。とは言え紗良の《氷雪》の射程には足りないし、果たしてこれ以上近付いて大丈夫なモノか。
その広間には確かに階段が存在していて、モンスターの数も結構多かった。大鶏やハーピーが大半だけど、以前に見た風の精霊っぽい奴も混じっている。
「階段の守護してる奴等だけあって、手強そうなのも混じってるね……紗良姉さんの魔法は、どこまで近付いたら射程に入るんだっけ?
あんまり近付き過ぎると、向こうの敵が飛んで来ちゃいそうだよね」
「一本道だし、向こうの移動スピードも速そうだからねぇ……せめてあと半分は、距離を詰めたいんだけど無理かな?」
「どうだろう……中ボス部屋とかだと、こっちに気付いても動かない敵の方が多いけどな。あの数に一気に突っ込んで来られたら、確かに怖いかもな。
取り敢えず、綿密に作戦を立てて挑もうか」
そんな訳で、子供達がメインに張り切っての作戦会議をし始める。そこにミケも割り込んで、自分も手伝ってあげるよアピールに余念がない。
力が有り余っているのか、若返ってからはかなりヤンチャな性格になってる感が。そんなミケの役割も振ってあげて、魔法スキル主体でやっつける作戦の出来上がり。
手強そうな風の精霊は、生き残った場合は護人が相手をする方向に決定。他の雑魚は、こちらから近付いて反応したら、随時倒して行くと言う行き当たりばったり作戦である。
基本は紗良とレイジーの広範囲魔法、それからミケにも参加して貰う手筈である。そして慎重に前進し始めた来栖家チームに、向こうも当然反応を示す。
やはり射程範囲に近付くまで、待っていてくれるほどお人好しでは無かった模様だ。紗良は魔法を撃つのに集中し始めて、それに先んじてレイジーの炎のブレスが空をオレンジ色に焼いて行く。
ミケはまだ動かず、敵が充分に近付いてないと判断したためだろう。実際、炎の渦に焼かれたのはほんの数匹程度だった。しかし、後続を怯ませるには充分な先制打とはなってくれた。
そこに姫香が、谷間の崖の通路に蓋をするように『圧縮』を作り上げる。かなり広範囲の空気の壁だが、何とか飛行する敵の最初の突破は防げた。
あまりに広げ過ぎたため、その接触で呆気無く壊れてしまったけど目的は見事に果たせた。後続と足止めされた敵の群れは、見事に一塊となって後衛の餌食に。
紗良の《氷雪》もそうだが、ミケの《雷槌》も容赦の無いレベル。
お陰で弱った敵を仕留めようと、待ち構えていた前衛陣の出番はほぼない有り様。それでもミケの活躍を再び見る事が出来て、幸せを感じるチームの面々である。
スキルの強さも、若返って確実に強くなっているのではなかろうか。後衛の活躍に味を占めた前衛陣は、その勢いのまま突き当りの広場へと躍り出る。
そこに待ち構えていた風の精霊は、以前と同じく結構な強敵だった。それでも何とか、護人の神剣の斬撃とミケの《刹刃》込みの雷矢で倒し切る事が出来た。
後に残った魔石(中)は、なるほどねって感じで子供達も納得。それから透明な衣とオーブ珠もドロップしていて、その報酬に素直に喜ぶ香多奈である。
末妹の喜ぶ姿を見て、ミケもとっても満足そう。
「ここまで30分以内で来れてるけど、敵は割と強いのが混じってたね、護人さん。今日中に、このダンジョンのクリアが目標なんでしょ?
朝から潜ってて良かったね、ボス部屋に行けるのは多分夕方だよ」
「そうなっちゃうかもなぁ、敵が多いのは分かってたけど。フィールド型ダンジョンが混じってたのが計算外だったな、仕方が無い事だけど休憩を挟みながら進もうか。
香多奈も春休みだし、ミケの復帰祝いも兼ねてるしな」
「そうだねっ、ミケさんがストレス発散し切れるまで付き合うよっ!」
オーブ珠を手にご機嫌にそう口にする香多奈は、ストレスとは全く無縁な模様である。そんなミケは、現在は紗良に用意して貰ったMP回復ポーションを、ハスキー達と仲良く分け合って飲んでいる所。
その姿を幸せそうに見つめる護人と子供たち、苦労して異世界探索に出掛けた甲斐があったと言うモノだ。そして休憩を終えたチームは、第2層へと進出を果たす。
次の層も、やっぱり両側に崖の通路がお出迎え。一見すると洞窟タイプにも感じるが、上に目をやればしっかりと青い空が窺える。
階段を出た場所からは、そんな亀裂の通路が真っ直ぐに続いていた。1本道なのは有り難いが、逆に言えばフィールド型のエリアなのに自由度は無いって事だ。
まぁ、階段を探してうろつくよりは余程マシって考え方も出来る。1層フロアと違って、この層は谷間の通路は風の吹きこみが強い気がする。
何の仕掛けだろうねと、子供達は話し合ってるけど分かる訳もなく。進む方向的には逆風なので、ハスキー達も幾分か進み難そうではある。
ただまぁ、吹き飛ばされる程の強さでは無いので安心か。
そして相変わらず、出現する敵の数は多かった。大鶏や大トンボに混じって、この層からは新たに浮遊する植物系モンスターも登場。
タンポポの綿毛にくっ付き草の種が合体したような、そのモンスターは独特の形状をしていた。棘が強力で、対象にくっ付いたらなかなか離れてくれなさそう。
ハスキー達も咬み付く訳には行かず、スキル技で対処している。
「わっ、コロ助が処理に失敗した奴が、お尻にくっ付いちゃったけど……何だか赤くなってる、アレって血を吸ってるんじゃないの!?
酷い攻撃だっ、早く取ってあげないと!」
「音も気配も微弱だから、接近に気付き難いな、コイツ……おっと、レイジーが燃やしてくれたか。大丈夫だったか、コロ助?
紗良、一応『回復』してやっといてくれ」
「分かりました……アレッ、ひょっとしてコロ助ちゃん、毒を受けてるっ!?」
それを聞いた皆はビックリして、コロ助に集まっての容態チェック。本人は気丈に振る舞ってるが、明らかに舌の色や足取りがヘン。
呼吸も心なしか乱れていて、慌てて紗良は『回復』スキルを掛け始める。それから末妹に、解毒ポーションを鞄から取り出すように指示を飛ばす。
風はさっきからどんどん強くなり、時折それに混じって飛翔する毒草モンスター。酷い仕掛けもあったモノだと、護人と姫香はその対処に大忙し。
治療の終わったコロ助は、何とか元の足取りを取り戻してくれた。ミケも心配そうに、そんなコロ助に頬を
若返った彼女は、明らかに以前より愛情深くなっている気も。
――ミケの復帰戦だが、癖のあるフロアに少々
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます