第329話 そろそろ魔女の研究成果に手が届きそうな件



 フロア環境の変わった11層の捜索だったが、塔は4階層が最上階だったようだ。そこに到着するまで約1時間、なかなかにハードなフロア探索ではあった。

 出て来た敵も主にホムンクルスとキメラばかり、その強さはさすが深層だけはあった。癖も強くて、ホムンクルスのウィッチタイプはとても厄介。


 キメラの蟲型も相当にタフだけど、スタンダード? な動物タイプも強敵で厄介。途中に出て来たライオンとヤギと蝙蝠こうもりの合成獣は、倒すのに5分以上も掛かってしまった。

 そしてそれは、12層へのワープ魔方陣を発見して、次のフロアに進出しても似たような感じで。ついでに言えば、フロアの形状も4階層構成でほぼ一緒と言う。


 探索する側としては楽で良いのだが、ちゃんと覚えておかないと自分達が今どこの層にいるのかうっかり忘れてしまいそう。ただまぁ、来栖家チームではそれを記憶するのは紗良の役目である。

 しっかり者の長女がいれば、その辺は抜け目なく覚えていてくれて安心だ。そして12層での発見と言えば、宝箱が1つに手強いキメラを倒してのスキル書のドロップが1枚。

 回収品も、まずまず順調に増えて行ってくれている。


 とは言え肝心の目的の品は、未だに見付かっていない有り様である。妖精ちゃんの話では、このフロアで錬金レシピの冊子と秘薬素材は高確率で出現しそうとの事。

 その言葉を信じて、フロアの隅々まで探索を行う来栖家チームである。13層フロアになると、出現するホムンクルスもかなり個性的になって来ていた。


 例えば、トンボの羽根を背中に生やした、大鎌持ちの集団が襲って来たりして。相変わらずフード姿のウィッチも厄介で、そのコンピプレーで一度姫香とツグミのコンビが大怪我を負う破目に。

 炎の鞭が3方向から振る舞われ、その対処に一瞬の硬直時間が生じてしまったのだ。炎の攻撃はへっちゃらなレイジーはともかく、姫香をかばおうとしたツグミも巻き込まれる破目に。


 慌てたルルンバちゃんがウィッチに特攻を掛けるも、フリーの敵の妨害も半端ではない。コンピプレーは、自分達がすれば気持ち良いけど敵にされると超厄介である。

 その時は、茶々丸と萌のペアの無理やりのチャージ技と、護人の射撃で何とか突破口を作り上げて。姫香とツグミへの追撃は、辛うじて防ぐ事は出来たのだった。

 とは言え、やっぱり深層の敵は手強くて、冷や汗を掻く場面も出て来てしまう。


「もうっ、あんまり心配を掛けさせないで、姫香ちゃんっ……他に痛い所はない? ツグミちゃんが庇ってくれなかったら、もっと酷い火傷になってたかもだよっ!」

「ごめんなさい、紗良姉さん……ツグミには本当に感謝だよ、今回は敵の群れに突っ込み過ぎた私のミスだね。

 護人叔父さんもごめんなさい、無理に叱ろうとしないでも分かってるってば!」

「分かってくれればそれでいいよ、無茶だけは頼むからやめてくれよ、姫香。ミケだって、自分のために頑張ってくれて大怪我しても、決して喜んじゃくれないぞ」


 リーダーの護人にそう釘を刺されて、ションボリ反省した姫香である。それでも13層を突破する頃には、既に元気を取り戻していると言うポジティブ少女。

 そして14層に出現した、馬の下半身と融合した長槍持ちのホムンクルスにも大いに手古摺てこずった。何しろ、コイツ等のチャージは茶々丸に負けない位に強力で、油断すると後衛にまで穂先が届きそうな勢い。


 それに加えてウイッチタイプが4体、騎士タイプも8体と言う強力な布陣の出現である。ちょっとした中ボスより、組織立ったこの相手は強いかも知れない。

 こんな連中と、馬鹿正直に消耗戦などしたくない護人は咄嗟に作戦変更。戦線を思いっ切り下げて、紗良とレイジーの範囲魔法攻撃に思いっ切り頼る事に。

 その後に、紗良には速攻で結界内に籠るように指示を出す。


 その作戦は半分は上手く行ったけど、敵を全滅させるまでには至らなかった。こんな時には、ミケの暴虐スキルがたまらなく懐かしい来栖家チーム。

 それが無い今は、とにかく前衛陣で踏ん張るのみ。


「……ふうっ、結局最後は消耗戦になっちゃったな。敵を倒すのに、10分以上掛かったのは仕方無いけど被害が無くて良かったよ。

 紗良、レイジーと一緒にMPを回復させておいてくれ」

「了解しました、護人さん……本当に厄介な敵ばかりですね、早く目的の品物が出てくれれば嬉しいけど」

「あっ、妖精ちゃんが出たかもって言ってる……! 敵のウイッチタイプのホムンクルスだっ、そいつが何か冊子を落としたって!」


 その報告に、おおっと盛り上がる来栖家チームの面々。朝からの探索で、かなり疲れも蓄積していたのだが、それも吹っ飛ぶ勢いでドロップ品に群がって行く。

 それは確かに古くて貴重な冊子に見えて、紗良も『解読』スキルですかさず中身の確認作業。難しい内容だけど、書かれているのは間違いなく錬金レシピに他ならず。


 ついでに半人半馬のホムンクルスは、ミスリル製の長槍をドロップしていた。スキル書も1枚落ちていて、ここに来て運が向いて来た様子。

 そんな事を話し合う子供達だが、実は14層はチーム最深層の更新である。その辺の事情も、ドロップの確率に関与しているのかも知れない。


 ついでに同じフロアの小部屋から、宝箱を発見して盛り上がる一行。ここで目的の品を出して、そろそろ地上に戻りたいのが偽らざる本音である。

 しかし残念ながら、運の向きはそこまで強烈に作用せずの結果に。中身については相当良かったのだが、肝心の秘薬素材はかすりもしなかった。

 妖精ちゃんも、この結果には珍しく散々悪態をついてる。




 かくして、とうとう一行は異界のダンジョンの15層へと辿り着く破目に。ここの途中に出て来た半分スライム状のホムンクルスは、天井から奇襲して来てとっても厄介だった。

 恒例の蛇と鳥のキメラも、中ボスでも無いのに数匹まとめて出て来る始末で。難易度は格段に上昇していて、リーダーの護人も気が気ではない。

 もちろんミケは大事だが、その為に心の目を曇らせてチームに無茶をさせては本末転倒である。引き際は間違えてはならない、例えそれで今回の任務が失敗しようとも。


 子供達は、恐らくそんな決断には反対するだろうし、護人を恨むかも知れない。それでも子供達を失うよりは、自分が悪役になる方が数倍マシには違いない。

 それでも、15層の中ボスに挑む余裕は辛うじてある感じのチーム状況である。ただし、それ以上の探索となると一度家族会議を挟まないとならないだろう。

 今更言うのもアレだが、つくづく自分の実力不足が恨めしい。


 今はそんなボスの間を前にして、休憩がてら家族でお昼ご飯を食べている所。昨日に続いて簡易的なスープや即席麺だが、こんな場所なので仕方は無い。

 朝からの探索で、主に子供達に疲労の色は隠せない。朝からと言うより、昨日からずっとダンジョンにこもっているのだ。疲れない方がどうかしている、現在はそんな状況。


 それでも次の宝箱に、目的のお宝が入っていると信じて進むのみ。元気を絞り出すようにして、威勢良く号令を掛ける姫香である。ミケのために頑張ろうと、その言葉に一点の嘘も曇りもない。

 恐らく一番疲れている筈の香多奈も、姉の言葉に乗っかって頑張ると声を張り上げる。どちらにしても、この戦いの後には大き目の休憩を取った方が良さそうである。


 そんな感じで体調を整えての、このダンジョン3度目の中ボスの間へのアタック開始である。例によって、速攻を念頭に入れての作戦を立てて、なるべく疲れが溜まらない短期決戦の予定。

 そうして家族揃って入った室内だが、結構な広さにかなりの違和感が。何故か部屋の中央に大きな樹が1本生えていて、そのせいなのか敵の姿が見当たらない。速攻を仕掛けようと、狙いを定めていた紗良や姫香はキョトンとした顔に。

 その時、部屋の中央の巨木と後ろの扉に大きな動きが。


「うわっ、あの樹が敵ってパターンかなっ!? 大きいけど、どの程度動けるのかな……紗良姉さん、遠くからの攻撃で完封出来るならやっちゃって!」

「わ、分かった……それじゃあ最大出力で行くよっ! みんな、魔法を撃ち終わるまで前に出ないでねっ!?」

「私も爆破石を投げようっと……コロ助、取りに行っちゃダメだからねっ! あと、後ろの扉が閉まって行くけど平気かな、叔父さん?」

「えっ、マジか……ひょっとして、閉じ込め系の罠パターンかな。あんな大きな扉、いったん閉まったら人間の力じゃ開けられないぞ!?」


 護人が驚いている内に、後衛陣の遠隔魔法攻撃は順調に見舞われて行く。その間も中央の大樹モンスターは、ゆっくりとその動きを開始しており。

 主に蔦を伸ばしての、こちらを絡め捕る作戦を開始する。


 その大樹は全長20メートル以上で、塔の最上階の天井に頭の枝がくっ付く程の大きさである。ただし幸いにも、部屋の広さのお陰でこちらがタゲられるのには時間が掛かりそう。

 その運の良さも、残念ながら最初の魔法アタックでは作用しなかった。紗良の《氷雪》も香多奈の魔玉アタックも、巨大トレントには大きなダメージにはならず終い。


 姫香がついでに『身体強化』込みで投げた、銀のシャベルも表皮を少し削っただけ。逆に大人の胴体もありそうな蔦が、こちらに波打ちながら数本近付いて来た。

 それを姫香のくわで迎撃して、護人も神剣で容赦なくブッた斬る。とは言え、そんな攻撃では本体に少しの痛痒つうようも与えていないのは丸分かり。

 いや、果たして巨大トレントに苦痛の感情は存在するのだろうか。


 そう思っていた護人だけど、姫香が幹の一部分に相違点を見付けた。樹の精霊が浮き出した感じで、不気味な人の上半身が浮き出ている場所がある。

 アレが巨大トレントの弱点だとは、かなり安直な想像ではあるけど。試してみるのも悪くは無いと、ルルンバちゃんが勇ましく魔銃での攻撃に踏み切る。


 それを蔦の動きで呆気無くガードされて、しかも敵の特殊技が発動した。幹の揺さぶりで、ボトボトと床にこたつサイズの蟲型モンスターが落ちて来たのだ。

 それらが一斉に来栖家チームへと襲い掛かって行き、場は一気にパニックへ。特に毛虫タイプは、刺されたら毒状態になりそうでとっても怖い。


 他にも甲虫やカミキリ虫タイプもいて、奇襲に腹を立てたレイジーが一気に丸焼きにして行く暴挙に。まぁ、樹系モンスターの弱点は、思い切り炎だろうけど。

 これには本体の大樹も、ビビッて蔦を引っ込める仕草。やっぱり相性って大事、レイジーがいなかったらと思うと冷や汗が止まらない護人である。

 そして中ボス戦のプランも、この一撃で決まった感じ。


「レイジーのスキルを中心に、敵を追い詰めるぞ! 雑魚は俺たちで倒すから、姫香とツグミでレイジーのサポートに回ってくれ。

 ただし、狭い空間だから炎の取り扱いには気をつけろ!」

「了解っ、護人叔父さん……ツグミ、例のランプをレイジーに出してあげて! それから中ボスを、部屋の隅に釘づけにしておくわよっ!」


 下手に動き回られて、燃焼が変な場所に飛び移られると困るのはこちらである。そんな指示を相棒に出しつつ、レイジーの必殺アタックのフォローに奔走する姫香&ツグミペア。

 そして出来上がった炎の狼兵団は、統率の取れた動きで巨大トレントへと突っ込んで行く。悲鳴を上げたのは、恐らく浮かび上がった樹の精霊だっただろうか。


 そこからの攻勢は、ほぼあっという間で敵は目論見通りに火炙ひあぶりり状態に。部屋に大き目の窓はあるが、延焼する巨大樹木のせいで部屋内は何だか酸欠状態。

 姫香が機転を利かせて、窓の前で武器を『旋回』させての手動空気ファン代わりの役割を担う。後衛陣は、念の為にと紗良の《結界》での完全ガード。

 いや、その魔法が酸欠状態まで守ってくれるかは全くの不明だけど。


 それでも我慢比べには何とか勝って、巨大な樹木モンスターは最後には一瞬で消え去った。それと同時に、背後の扉が再びゆっくりと開き始める。

 部屋の奥には、恒例の2つのワープ魔方陣を確認出来た。元からあったのか、それともたった今出現したのか。1つは次の層へ繋がっていて、恐らくもう1つは出口に戻れるルートなのだろう。


 その近くには銀色の宝箱が鎮座していて、中身も期待出来そうだ。何しろ中ボスは強かったし、ここはチーム最深層更新の15層である。

 その中ボスだが、どうやらドロップも豊富だった模様である。まずは魔石(特大)はチーム的に2度目の取得だろうか、子供の手からはみ出しそうな大きさで色も澄んでいて綺麗である。

 それからオーブ珠が1つに、木材系のレア素材が3本ほど。最後の1つは、何と言うか今まで見た事の無い変わった色合いの木の実だった。


 そのドロップを見て、途端に興奮し始める妖精ちゃん。どうやら目的の『熟した虹色の果実』が、ようやくの事ドロップしてくれたようだ。

 思わず気が抜けそうになる護人だが、それを拾った香多奈はひたすら嬉しそう。これで昨日からの努力が報われたのだ、それも当然と言えるだろう。

 後は宝箱の中身を回収して、このダンジョンを脱出するだけ。





 ――長かった異世界探索も、もうすぐ終焉が近付いている模様。









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