第328話 いよいよ魔女のダンジョンの深層へと踏み込む件



 多分アレで間違い無いねと、姫香がキッパリと断言した通りに。何度もこのフィールドで見掛けた塔は、やっぱり中ボスの間で間違いはない様子。

 何度かオークの群れと遭遇戦を果たして、ようやく塔の前に辿り着いた来栖家チーム。それで分かったのは、護人の体調は完全に戻っているとの嬉しい報告だった。。


 これはチームにとっては物凄い朗報で、同じくチーム内に体調不良の者はいない様子。それも良い知らせには違いなく、心置きなく中ボス戦に臨めそう。

 遠目から見た限り、塔の門を守る敵はここにはいなかった。そして近付いてもやっぱりいないみたいで、その点は有り難い報せである。後は中に乗り込んで、中ボスを撃破すれば良いだけ。


 探索開始からここまで、暇をしていた紗良は魔力も満タンの状態である。そんな訳で、先制攻撃も行けますよと張り切って進言してヤル気をアピール。

 ただし、今の所は敵の数も種類も分からずに、誰が戦うかは保留状態である。姫香もバッチリと、シャベル投げの準備を進めてこちらもヤル気はたぎりまくっている模様。末妹の香多奈も同じく、魔玉の種類選びに忙しそう。

 この辺は、速攻で勝利を築き上げて来た反動とも言えるのかも。


「敵が多くても、紗良姉さんが範囲魔法で始末してくれるかな……私かボスを速攻で仕留めるから、作戦はそんな感じでいいよね、護人叔父さん?

 香多奈もボスを巻き込んで、投擲お願いね」

「オッケー……扉開ける前に、姫香お姉ちゃんに『応援』掛けておくね? 茶々丸と萌は、秘密兵器だから特攻掛けるの少し待つんだよ?」


 その秘密兵器に、果たして出番はあるのかなと護人は内心で2匹を不憫ふびんに思いつつ。皆の準備が整ったのに合わせて、中ボスの間の扉を開けに掛かる。

 護人の役目は、万一の敵の反撃に備える壁役である。それを念頭に置きながら、開いた扉の隙間から素早く敵のチェック。視界に入ったのは、紫の巨大な物体だった。


 それはドクロを撒いた巨大な蛇で、真っ白な翼を有していた。全長の長さは一体幾らになるのか、とにかく塔内での戦闘で良かったかも。

 幸いにも、中ボスが大き過ぎてお供の類いは全くいない模様。そして作戦通りに、姫香の強化込みの投擲と紗良の《氷雪》が速攻で見舞われた。

 それに少し遅れて、末妹の雷の魔玉の投擲が。


 姉妹の時間差攻撃は、見事に全部ヒットした模様である。どの攻撃も酷い有り様だったが、姫香のシャベルは敵の身体を突き抜けて反対の壁にめり込む始末。

 ダンジョンの壁って、確か不壊では無かったか……呆れる護人だが、幾ら待っても中ボスの反撃はやって来ず。紗良の冷気攻撃で、かなり弱り切っている模様だ。


 香多奈の魔玉は完全にオマケだが、贅沢にも一気に3つも投げ込んだらしい。そのダメージのせいで、中ボスの左側の翼が悲惨な事になっている。

 そして止めを刺そうと部屋に入り込んだ茶々丸は、敵の余りの大きさに思考停止。体格差のせいで、どこに突っ込んでも確かに致命傷は与えられそうもない。

 ところがルルンバちゃんは、そうは思っていない様子。


 魔銃を放ちながら、果敢にも接近戦を挑もうと挑発するAIロボは勇ましい限り。その翼はまがい物かと、掛かって来いよと果敢に攻撃を仕掛けていたりして。

 ただ、ここでちょっとした悲劇が……魔法でのダメージが大き過ぎたのか、ルルンバちゃんが挑発で撃ち込んだ魔銃の一撃で、何と中ボスがノックダウン!


 珍しく挑発なんて慣れない事をやったのに、接近戦での見せ場なし……。魔石(中)になった中ボスを、寂しそうな目で眺めるルルンバちゃんであった。

 それに構わず、香多奈は忙しく宝物の中身チェック。ツグミにお伺いを立てて、安全確認の後に姫香がカパッと箱を開け放つ。ちなみに宝箱は虹色で、中身はかなり期待が出来そうだ。


 出て来たのは鑑定の書が6枚に木の実が16個、中級エリクサー800mlに解毒ポーション1200ml。魔玉(雷)と魔玉(水)が、合計で20個以上。

 そして魔結晶(大)が4個に魔石(中)が7個、強化の巻物が4枚にスキル書が1枚。更にはオーブ珠が1個入っていて、かなり豪華な中身である。

 他にも、魔法アイテムと思われる装備品も色々とてんこ盛り。


 魔女のかぶるような帽子や杖が、セットで入っていてさすが魔女の塔って感じ。他にも黒いローブもあって、それも魔女仕様なダーク色で格好良いかも。

 後は金貨や銀貨が割とたくさん、良く分からない素材系も入っていた。とは言え、昨日の宝物庫に較べると、どうしても質も量も見劣りしてしまう。


 贅沢な悩みを抱えつつ、それでも宝箱の中身は全部回収して行く子供達。それからポロッと、そろそろ魔法の鞄の容量が不味いかもとの呟きは、やっぱり贅沢な悩みなのかも知れない。

 それからまだまだ元気な一行は、少しの休憩の後に次の層へと向かう事に。側にあったワープ魔方陣を確認して、未知の11層へと移動を果たす。


 区切りのフロア移動だったけど、果たしてその予感は大当たりとなった。一行が出た先は、ここから再び遺跡タイプとなっている模様である。

 古めかしい床や壁は、苔むした岩で組み上がってなかなかおもむきがある。ただし、1~5層の造りより遥かに広いようで、塔の形も古いなりに辛うじて保っているようだ。


「わおっ、フィールドタイプよりは随分とマシかもだけど、今度は広い遺跡タイプかな? 敵もきっと強くなるよね、気を引き締めて行かなくちゃ」

「そうだな……しかし、相変わらずガラリと様相が変わるんだな、ダンジョンって。さて、これは上へと向かうのが正解なのかな?」

「手すりも何も無いあの階段、上がって行くのちょっと怖いよねぇ……あんなところで敵と出くわしたら、姫香お姉ちゃんとか戦うのが大変だよっ!?」


 それは確かに大変かもと、姫香は小首をかしげて思案顔。何しろレイジーは壁を歩けるし、ルルンバちゃんは最初から空を移動しているし。

 最近は護人も、マントで飛行能力を手に入れたりと、来栖家チームの移動状況はかなり風変わりである。まぁ、いざとなったら姫香も『圧縮』の足場作りと言う非常手段は一応ある。


 そう口にすると、それってズルくないとの末妹のむくれた返事。要するに、自分が怖いので姉を茶化したのがバレバレ。そんな感じで姉妹の口喧嘩に発展する前に、しかし敵の襲来が。

 ワープ魔方陣で出た先は、体育館程の大きなフロアだった。壁の向こうには小部屋も幾つかあるようで、フロアの端に例の回廊が2階フロアへと続いている。

 こんな立体遺跡ダンジョンも、考えてみれば珍しいかも。


「わっ、いきなり変な敵が出て来たよっ……ゴブリンやオークみたいな獣人とも違うね、何だろうこいつ等?

 とにかく後衛には近付けさせないよ、みんなっ!」

「何だろう、人間タイプには違いないけど……遺跡タイプにたまに出現する、ホムンクルスってモンスターかなぁ?

 キメラかも知れないね、どっちも人造生物って設定なんだけど」


 姫香の戸惑っての言葉に、情報担当の紗良が推測を口にする。そんな感じのモンスターが、壁際の扉から次々に排出されて行く。一番多いのが、地を這う大サソリに人間の上半身が生えたようなタイプである。

 人間の上半身は槍や剣を持っているが、その顔は一様に無表情で均一化された型から生まれたよう。確かに製造された生物っぽい臭いが、その敵からは漂って来ている。


 そんな事は全く気にしないハスキー軍団だが、フードを被った完全人間タイプの敵には警戒しているようだ。案の定、ソイツの魔法が飛んで来るようになって状況は一変する。

 有利に敵を倒していたのに、統制された動きで逆に来栖家チームは押し込まれ始める。それを見て、護人が射撃でフードの敵を倒そうとするも、前衛の盾持ちがそれをすかさず阻止して来る。

 その統制力は、まるで全体で1つの生物のよう。


 それでもツグミの《闇操》の奇襲で、魔法使いタイプを倒してからは再びこちらのペースに持ち込めた。1ダースほどの敵を全て倒し切って、やっぱり手強かったねとの感想が姫香の口から。

 さすが高ランクダンジョンの11層である、簡単に先へは進めさせては貰えない感じ。魔石のドロップは魔石(小)が標準で、護人もちょっと嫌な顔を見せている。


 ただしハスキー達は、その程度の敵の強さは誤差の範囲と判断したのだろう。まずはこのフロアの偵察だと、他の小部屋を勤勉にチェックに回って行く。

 それから数分も経たずに、何も無かったよと結果を報告して来た。


「ご苦労様、ハスキー達っ……敵は結構強くなってたけど、そんなに頻繁には襲って来ないみたいだね、護人叔父さん。

 それじゃあ次は、2階層の探索かなっ?」

「了解、それじゃあアレを登るとして……問題は隊列かな、ハスキー達は頼まれなくても先頭を進んでくれるだろうけど」


 家族で相談した結果、まずはハスキー軍団と茶々丸と萌のペアの先行は当然として。その次が姫香とルルンバちゃんで、最後に後衛の紗良と香多奈をフォローしつつ護人が続く事に。

 回廊は本当に壁から生えた飛び込み板みたいで、しかも欠けてたりしている箇所もあって隙間は飛び移らないといけない。いかにも意地悪なアスレチック仕様で、前までの塔には無かった仕掛け。


 香多奈が怖気付くのも仕方がない、紗良も少し不安そうで上へと伸びている回廊を眺めている。行動派のハスキー軍団は、特に不安そうな様子も感じさせずそれを登り始めた。

 敵の気配は今の所無いけど、慎重に歩を進めて行く先頭集団。特に1層の天井、つまりは2層の床部分は、一瞬の死角が出来るポイントもある。

 当然の如く、敵の潜んでいる確率が非常に高い。


 そして案の定の敵の待ち伏せが、今回は蟲型のキメラがお出ましの様子。甲殻の鎧をまとった、4本鎌の大カマキリが2体ほど待ち構えていた。

 攻撃力もそうだが、硬い甲殻を纏った防御力も持ち合わせた強敵が2体である。これにはハスキー軍団も速攻で退治とは行かない様子。レイジーの『魔炎』で牽制しつつ、向こうの得意な距離に近付けないように戦いを進めて行っている。


 その喧騒は当然ながら姫香も感じ取って、後衛陣へと敵の待ち伏せを知らせる。用心をうながしながらも、自身はルルンバちゃんと共に2層フロアへと駆け上がる。

 そして思ったより大きな敵影に、一瞬驚きつつも戦線に参加する姫香。敵の大鎌を防ぎながら、反撃のくわの一撃をお見舞いする。


 ルルンバちゃんのフォローも、なかなか堂に入っていて素晴らしい。敵の顔面へ鞭を振るって、思い切り敵対心をあおりつつ離脱を繰り返している。

 最近は飛行ドローン形態にも慣れて来て、その華奢な機体でも接近戦を学び始めているAIロボである。周囲の心配をよそに、その技術にも磨きが掛かっている気が。

 そんなルルンバちゃんの作ってくれた隙を、上手に利用して姫香が《舞姫》を発動させて懐へと突っ込んで行く。このスキルは、愛用の武器を手足の如く優雅に使いこなす能力があるらしく。

 普通の斬撃が、必殺の一撃レベルへと華麗に昇華して行く。


 その剛腕の一撃は、恐らく自然と《豪風》も乗ったのだろう。姫香の所有するスキルの並びは、どれも相性が良過ぎて制御してないのに勝手に発動する事が良くあるのだ。

 『旋回』辺りは意図して使えるけど、《舞姫》や《豪風》は勝手に悪戯をする事が間々あったりして。そんな訳で、刃の届いていない箇所までスパッと真っ二つの哀れな敵キメラである。


 もう片方の蟲型キメラも、ハスキー達の手腕によってほぼ同じタイミングで撃破されていった。そうしてようやく、2階層の入り口付近の安全は確保された。

 そこは20畳くらいの踊り場スペースで、塔の外周に沿って左右に通路が通っていた。中心部分は部屋が幾つか存在しているようで、壁の仕切りで詳しくは分からない。

 今までとは随分違う造りで、それを見た姫香に戸惑いが広がる。


「護人叔父さんっ、この先の構造だけど、いきなり左右に分岐があるね……敵は始末したけど、その後の探索は大変かも。

 探し物があるって事は、部屋を全部見て回る必要もあるって事だもんね」

「妖精ちゃんが、出来れば錬金レシピの本も何冊かゲットしてくれって……若返りの秘薬のレシピは大体知ってるけど、細かい所で間違うかもだって。

 本当に困ったちゃんだねぇ、妖精ちゃんってば!」

「確かに細部でも、間違えられたら困るな……取り敢えず手抜きはせずに、どの階層も1つずつしっかり部屋チェックして回ろうか。

 時間は気にしなくていい、疲れたら休憩を取りながらゆっくり進もう」


 了解と声を出す香多奈は、2階層フロアに無事に到着してホッとした表情。特にアスレチックが苦手な訳では無いが、さすがに高い場所への移動は肝が冷えた模様。

 それは紗良も同様で、末妹の手をぎゅっと握って離さない構え。こちらも明らかにホッとした様子で、護人もフォローは大変だったみたいである。


 次の層の階段だが、視界内にはまだ見付かっていない。12層へのゲートも然り、もはやどっちを探すべきなのかも混乱してしまいそうで困ったモノだ。

 これも11層以降の難易度と受け止めて、探索を再開する来栖家チームである。と言うか、ハスキー達は何も考えず、敵の発見とルート確保を忠実にこなすだけ。

 そして彼女たち程、熱心に仕事をこなす護衛犬も滅多に存在しない。





 ――ハスキー達の信念は常に1つ、チームの安全を守る事。







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