第325話 カメ型移動要塞の上に何とか移動を果たす件
超巨大カメの移動速度は、幸いにも思ったよりは早くは無かったようだ。有り難い事に30分も掛からずに、来栖家チームはその移動に追いつく事が出来た。
それより驚いたのは、ダンジョン内の仕組みだった。何と
さすがダンジョンである、モンスターの補充と言いエリアの修復と言い素早い事この上ない。これで安心して破壊活動が出来るねと、香多奈の言い分には賛同しかねるけど。
まぁ、それもある意味本当で、後腐れなく暴れる事が出来るのは嬉しい報せかも知れない。それは良いのだが、さてどうやってあの甲羅の上へと登るかだ。
これは難問で、何しろ目的の塔は地上から約300メートル上なのだ。
「カメさんの脚は物凄くでっかいねぇ、顔が見えないのは残念だけど。どうやって上へ登ろうか、姫香お姉ちゃん?
やっぱり見付かったら、私たち踏み潰されちゃうのかなっ」
「そんな目には遭いたくないから、ここは慎重に作戦を練ろうか。紗良姉さん、宝の地図情報ってどんなだったっけ?
確か、鍵の場所も地図に書かれてたんだよね?」
「鍵がカメの左後ろ脚の上の方に記されてて、星マークが多分あの塔の場所だと思うな。どっか不自然な場所無いかな、ここからじゃ良く分かんないかな?」
意外と大きな目標に対して、森の木々も邪魔なので視覚情報は余り当てに出来ない現状である。それでもスラスラと、事前の地図情報を口にする紗良はさすがと言う他ない。
それより、300メートル上方の塔にどうやって登るのか、作戦は未だ不明と言う。鍵もゲットしないと駄目みたいだし、先行きは今の所真っ暗である。
香多奈が考え込みながら、レイジーは問題無いよねと言う顔付きに。確かに『歩脚術』なら、垂直の壁も問題無く登って行けるだろう。
それを言えば、元から飛んでるルルンバちゃんも平気。
茶々丸も壁登りは得意だが、垂直となると難しそう。萌は翼を有しているけど、飛んでいるのを見た事が無い。とは言え、現状では一番の切り札になり得るかも。
それから唐突に、叔父さんは飛べないのとの香多奈の質問に。確かに薔薇のマントによる飛行術は、特訓場でも何度か挑戦した事はあった。
だからと言って、人を抱えて飛べるかとなると話は全く変わって来る。そもそも自分1人でも、人の身長以上飛べるかも判然としないのだ。
まぁ、ここまで来てべそべそと泣き言は言ってられない。あの塔に秘薬素材がある確率は、決して低くないと思って行動した方が良いのは確かなのだ。
それならあの絶望的に、高い場所まで何とか登って行くしかない。ついでに鍵の在りかを見付けないと、そもそも塔に入れないかも知れないと言う難作業。
とか思っていると、またもや大きな衝撃が地面を伝って来た。今の所この超巨大カメの移動感覚は、2分に1歩程度であるらしい。
歩幅はしかし、その1歩で数十メートルを進む巨体振りである。
「うわっ、また移動したよっ……早く追いついて、あの上に登らないとっ! 萌っ、アンタ巨大化してみんなを乗せて飛びなさいっ!
そしたら、この問題は全て解決だよっ」
「……何かモジモジしてるけど、萌にはまだ無理そうじゃない? そんな訳で護人叔父さん、どうしよう?」
「うん、ロープを用意してくれ……俺が何とか登れないかやってみよう。勢いをつけて飛び上がれるよう、姫香に発射台を頼もうかな?」
香多奈の相変わらずの無茶振りは、萌には受け入れて貰えなかった様子。それより現実的な、姫香に『身体強化』込みの発射台になって貰って、護人が飛び上がる作戦が採用された。
これで超巨大カメの上部に届けば良いけど、最悪届かなくても薔薇のマントで怪我はしない筈。その程度の『飛行』能力は、恐らくは操れるようにはなっている。
作戦も決まって、この護人の単独作戦にレイジーとルルンバちゃんもフォローにと先行して行く。ただしロープの長さは、地上までは全然足りてない。
ロープを使ってペット達を引き上げるのも、それはそれで苦労しそう。ただし他に手段も無いので、取り敢えずやってみる事に決定した。
そんな訳で、姫香が超巨大カメに背を向けて、両手を組んでバレーのレシーブの構え。そこに香多奈の『応援』まで貰って、万全の態勢で護人が軽い助走からそこへ足を掛ける。
次の瞬間、護人の身体は上空高く跳ね上がっていた。その高さは軽く超巨大カメの体長を超えて、目的地の塔を見下ろす位置まで到達している程。
さすがにこの勢いは予想外で、一気に顔が
そしてそれは、薔薇のマントも同じ気持ちだった様で。急に訪れた緊張と
両者揃って大慌ての状況で、初めて機能するモノもある。生存本能とは、それ程に何にも置いて最優先される事柄なのだろう、多分きっと。
まさかこんな荒治療で、30センチ浮く程度しか出来なかった『飛行』が習得出来るとは。宙でクルッと宙返りをして、護人はダンジョン上空を優雅に飛翔する。
地上では、驚いてそれを眺める子供たちの視線が。
小さい影にしか見えないが、ぴょんぴょん跳ねて興奮しているのは恐らく香多奈だろう。姫香はひょっとして、やり過ぎちゃったと呆然自失の
申し訳ないが、この飛行状態に慣れるまで上空の散策をもうしばらく続けさせて欲しい。ただ宙を飛んでいて分かるのは、このダンジョン空間はやはり有限だと言う事実。
空の高さもそうだけど、フィールド内もきっちりと限定された空間に限られているようだ。そんな事を考えながら、しばらく薔薇のマントの補助を頼りに空中遊泳を楽しむ護人である。
その後ようやく、地上で待っていたチームの元へと華麗に着地を決める。途中から追っかけていたルルンバちゃんが、一緒に飛行を楽しむように
いやいや、確かに空を飛ぶのって物凄く楽しい。
「叔父さん、凄いよっ……完璧に空を飛んでたよっ! これならみんなを、亀の上まで運ぶのも楽勝だねっ!」
「ごっ、ごめんなさい、護人叔父さんっ……勢いつけ過ぎて、吹き飛ばしちゃったかと思って凄く心配しちゃったよ。
良かったぁ、ちゃんと戻って来てくれて」
「済まんスマン、アレが荒治療になって薔薇のマントが『飛行』のコツを覚えてくれたよ。ただこのスキルは、あまり燃費が良くは無いかな。
俺のMPだか理力だかを使ってるみたいで、凄く疲れるよ」
などと話している最中にも、超巨大カメの行進は止まらない。一行は慌ててそれに追随しながら、簡単に上陸作戦を修正して実行に移す事に。
そんな訳で、まずは姫香が護人に抱かれて一番乗りの栄光に。何故か真っ赤になる少女だが、護人は燃費の計算に必死で気付いていない。
大亀の甲羅の大陸の端は、樹も生えていてそれ程危なっかしくは無い。とは言え、モンスターがいないとも限らないので、すぐさまレイジーとルルンバちゃんが追い付いて来た。
そして何故か、ツグミも姫香の影から参上してコスト削減のお手伝い。ビックリする姫香は、相方がこんな能力に目覚めていたのを知らなかった模様。
護人はすぐに地上に戻って、次は小さくなった萌を抱えた香多奈を運びに掛かる。サイズ変更出来るペットは、こんな時に本当に便利である。
まぁ、自力で飛べたらもっと良かったのだが。とにかくこの往復も、邪魔が入らず成功に
飛行モンスターの襲撃だ、翼を持つ大型サイズの蛇が数匹、護人に追い
慌てたのは、運ばれてる最中の紗良も同じくで。何とか魔法で撃退しようと焦るのだが、こんな事態に集中も途切れがちで。頼りの
空中で蛇独特の動きで迫り来る敵は、護人より大きくてとっても強そう。ただし遠隔攻撃の類いは無いようで、接近戦を挑んで来たのが
護人の発動した《奥の手》は、完全に敵の不意を衝いて手刀での斬撃で相手を真っ二つにした。それに驚いて宙に停滞した後続に、ルルンバちゃんが襲い掛かる。
彼の魔銃の乱射は、全く容赦の無いレベルで相手を撃ち抜いて行った。
ホッとした護人と紗良は、何とか無事に皆の待つ合流地点へ。
そこでも戦いが起きていたのは、まぁご愛敬と言った所か。そちらは姫香とレイジー、それからツグミの頑張りで事態は既に終焉に近付いていた。
出て来たモンスターはカメ獣人が数匹で、甲羅を背負った直立二足歩行の敵はどこかユーモラス。実際に戦うと、硬過ぎる外皮で倒すのは割と大変だった模様。
ただし急所を狙えば、何とか魔法無しでも倒すのは可能な感じだろうか。こちらに気付いた香多奈が、敵が急に出て来たよと律儀に報告して来る。
そんな戦闘も間もなく終了して、周囲にこれ以上の敵影は見当たらない様子。チームが分断している現状は
そして残ったコロ助と茶々丸だが、どちらから運ぶべきかちょっと迷う所。まぁ、落ち着きのない茶々丸を独り残すと、とんでもない事になりそうで怖い。
そんな訳で、コロ助を言い含めて茶々丸を先に巨大カメの甲羅の上へと運ぶ事に。飛行中はとことん大人しい茶々丸は、度胸だけは一人前に育っている気がする。
そして最後の往復で、コロ助も無事に本隊へと合流を果たした。
「ふうっ、疲れたな……済まんが紗良、MP回復ポーションをくれないか? 塔はどの方向だったかな、先に鍵を回収するんだっけか?
疲労がきつすぎて、頭が良く働かないな」
「塔の入り口を確認してから、鍵を探しに行っても良い気がするけど。多分巨大カメの左脚の辺りに、鍵の手掛かりがあると思うんだけど。
運ばれてる最中にパッと見た感じじゃ、良く分かんなかったねぇ?」
「はいどうぞ、護人さん……この甲羅の上にも、普通にモンスターもいるみたいですし。不用意に動き回るのは、あんまり得策じゃ無いかも?」
姉の紗良の言葉に、それもそうだねと素直に同意する姫香と香多奈。塔はどっちだったかなと、それでも茂みからそっと顔を出して周囲を探う子供達。
休憩の時間を挟んで、どちらのチェックを先にするかと話し合う来栖家チームの面々。その時、ルルンバちゃんが不意に飛び立って偵察に行って来るよの仕草。
レイジーも同じく、巨大カメの左脚の付近に鍵があるとの言葉を聞いて。ちょっと言って来る的な、優秀な偵察要員ぶりを提案してくれた。
それならツグミも行って来てと、姫香のお願いに即座に反応する2匹と1機である。それは無茶だろうと突っ込む護人だが、当人は先程の消耗からまだ完全に回復し切れておらず。
どうもMPだけじゃなく、
斜面を駆け降りる2匹は、重力を完全に無視して周囲を観察しながら進む。ルルンバちゃんがその上空を、律儀に偵察してくれているのが心強い。
そうやって、2匹と1機で怪しい場所を探索するのだが、何が怪しいのか定義があやふや過ぎる。探査系のスキルも持っていないペット達は、完全に野生の勘頼りの偵察チームだったりする。
そもそもここ自体が巨大生物の上である、怪しくない訳が無いではないか。それでも主人に喜んで貰うため、何かしらの発見を持ち帰ろうと頑張る一行。
そんな甲斐甲斐しさが、或いは当たりの確率を引いたのだろうか。ルルンバちゃんが、右前方に薄く光る1本の怪しい樹木を発見した。
いや、光っているのはそれに
そして分かり易く、それを守護するようにトラックのタイヤ程の大きさの亀が、樹木の下に鎮座していた。ソイツの甲羅には、何故か砲台が乗っかっており。
近付く一行に、何の前触れもなくドカンと一発大砲を撃ち込んで来た。
それを華麗に避ける2匹のハスキー犬、反撃はしかし先行していた頭上のAIドローン機から。魔銃から放たれた魔玉がキレイに砲の中に吸い込まれ、派手な炸裂音が響き渡る。
それだけで、手強そうだった敵は魔石へと変わって行ってくれた。後に残ったのは、立派な樹木と淡く光を放つ長く伸びた蔦である。砲台亀のドロップ品は、ツグミが何事もなく回収する。
そして顔を見合わす2匹と1機、怪しい目的地が偶然にも見付かってしまった。このまま報告に行っても良いし、試しにこの蔦にちょっかいを掛けても良い。
一行のリーダーであるレイジーは、どうやらちょっかい掛けの方を選択した模様。その方法だが、根元に咬み付いたかと思ったら、何と力任せに引き抜きに掛かる。
それを見て、なるほどとツグミとルルンバちゃんもお手伝い。皆で力を合わせての、良く分からない綱引きだか芋の収穫みたいな風景がしばらく続いた後。
唐突に、スポンと勢い良く地中から引き抜かれるナニカ。
――引き抜かれた蔦の根っこには、やっぱり淡く光る鍵がくっ付いていた。
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