第324話 巨大なカメの移動する姿を発見する件



 護人とコロ助が塔の方へ進み出ると、2体の塔の守護者はすぐに反応した。鋼色のリビングメイルは、2メートル超えの巨体だが動きはスムーズの様子。

 手強さに関しては、恐らく中ボス級ではなかろうか……そう考えると、その奥の塔は5層や10層と同じで次の層への入り口なのかも知れない。


 護人の単なる推測だが、この奥の塔が宝物庫の可能性も無くはない。取り敢えずは2体のガーディアンを始末して、塔に入って見れば全て分かる筈だ。

 そんな訳で、まずはコロ助が地面を蹴っての急接近からの襲撃を披露。それに合わせて、護人ももう1体の敵へと静かに接近する。

 これで一応は、1対1のタイマンの態勢は整った。


 コロ助の力任せのハンマー攻撃は、勢いだけは凄くて相手もタジタジ状態だ。護人を狙いに定めたリビングメイルは、重そうな両手剣を振り回して調子よく攻撃して来る。

 両極端な両者の攻防だが、その遣り取りは暫くの間続いた。攻撃も守りもハイレベルな敵の甲冑騎士、とは言えその動きは予想の範疇はんちゅう内だった。


 コロ助の動きが加速したのは、これ以上手古摺てこずると仲間に手柄をさらわれると思ったせいかも。勢い良く打ち付けたハンマーの衝撃で、相手がバランスを崩したと思ったら。

 そのまま塔の壁際まで追い込んで、鮮やかなフィニッシュブローを叩き込むのに成功する。時間はそこそこ掛ったけど、危なげのない勝利を勝ち取った。


 一方の護人は、途中から『勇者の盾』と《奥の手》で相手の攻撃に強引に割り込みを掛けて行く。そしていつの間にやら攻守交代、その場から動かぬ不動の構えを披露する。

 “四腕”の相方である薔薇のマントが、積極的に攻撃参加しているのは護人の予想外だったけど。その勢いもあって、《奥の手》の攻撃も比例して増して行く。

 そして気付けば目の前の甲冑騎士は、その張り手攻撃でペチャンコに。


「やったぁ、護人叔父さんも圧勝だったね……攻防の安定感が増してるって言うか、《奥の手》の使い方が随分とスムーズになってたね!

 いつの間に訓練したの、剣さばきもそうだけどさ」

「勢いだけのコロ助や姫香お姉ちゃんと、明らかに動きが違うよね! 省エネって感じの動きだった気がする、お姉ちゃんも見習ったらいいよ」


 何よと即座に反応する姫香だが、香多奈の感想はまさにその通り。倒しても復活する呪い空間で、省エネを心掛けるしか無かったゆえの、副産物的な先程の動きである。

 若い姫香にしろ、余りある体力と言う訳には行かない場面も出て来る筈。出来ればそんな動きを身につけて欲しいが、そればっかりは性格もあるし困難かも。


 ちなみに守護者のリビングメイルは、魔石(中)を2個とスキル書を1枚、それから立派な大剣を1本落とした。妖精ちゃんによると、一応は魔法の品らしく儲けモノだ。

 それを喜ぶ子供達だが、やっぱり塔の中の方が気になる様子。早速入ろうと急かす末妹にうながされ、ハスキー達が先陣を切って突入して行く。

 そして判明、最初のフロアは全くのがらんどう空間だった。


 外側の壁に沿って、回廊が設置されて2階へと続いているのみ。倉庫のような薄暗い空間は、しかし敵の姿も無くて寂しい限りである。

 ハスキー達も探索を取り止めて、すぐに回廊で上へと上がって行く。手すりも設置されていない階段は、傍目に見ると危なっかしい感じで登るのが少し怖い。


 ところが子供達は、ワイワイと騒ぎながらハスキー軍団に続いて2階へと上って行く。ルルンバちゃんが宙を飛びながら、頑張れと隣でそれを見守っている。

 そして見えて来た2階部分だが、ここも1層ぶち抜きの倉庫のような造り。お宝の影も形も無くて、あるのはやっぱり上へと続く回廊くらい。


 何も無い空間を目にして、明らかにガッカリ模様の香多奈である。それでもめげずに、まだ上があるねと階段へと進んで行く。それに待ったを掛ける、忠犬レイジーとツグミの2匹。

 どうやら次の階段には、トラップが仕込まれていた模様である。壁から出て来たのは、大量のスライムと階段の一部にふんしていたイミテーター。

 騒ぎまくる香多奈を余所に、局地的な戦闘が勃発する。


「わっ、ビックリした……ありがとうね、レイジーにツグミ! ひあっ、壁が物凄く気持ち悪い事になってるよ。

 こんなのにたかられたら、一瞬で溺れ死んじゃうところだったよ」

「もうっ、気をつけてよね香多奈ちゃんったら! でもミケちゃんがいないのに、2匹とも良くイミテーターに気付いてくれたよねっ。

 いないとやっぱり、凄く寂しいけど」

「そうだよねっ、探索するのにミケは絶対に必要だよね! 頑張って素材集めて、ミケのためにお薬作ろうね、護人叔父さんっ!」


 うつむいてしまった長女を励ますように、姫香が元気にフォローの声掛け。その間に壁から湧いたスライムは、レイジーの炎のブレスで丸焦げに。

 階段のイミテーターも、奇襲が失敗すればただの賑やかしである。ツグミの『土蜘蛛』で簡単にお陀仏だぶつして、敵の奇襲攻撃はこれにて全て終了。


 姉妹喧嘩になりそうな遣り取りも、今回ばかりは香多奈が素直に謝って沈静化した模様。護人もホッとしつつ、先行して3階の様子を窺ってみる。

 それを見て、ルルンバちゃんがいち早く3階へと進み入ってしまった。それに続くハスキー軍団と茶々丸と萌のペア、3階にもどうやら敵はいなさそうだ。


 それを確認して子供達も後に続き、恒例のお宝探しモード。今度は部屋分けがしてあるようで、最初に目に入ったのは真っ直ぐに続く通路だった。

 明かり取りの窓もなく、ここの層は一際薄暗い。魔法の灯りを発生させて、家探しは続く。ハスキー達は呑気に、先行して開けっぱなしの部屋を覗いて回っている。

 この層には階段は無く、あるのは3つの部屋だけみたい。


「あっ、こっちとその向こうの部屋にはワープ魔方陣があるね……どこに通じてるのかな、妖精ちゃんだったら分かるかな?

 廊下の反対側の部屋は、誰かが生活してた部屋みたいな造りだね」

「う~ん、お宝部屋は無いのかぁ……予想と違ったね、残念!」

「そもそも宝の地図の条件の、亀の姿の無い塔だったもんね、ここ。多分だけど、別の場所にお宝の塔があるんだよ!

 次くらいかなぁ、きっと巡り合えるよっ!」


 香多奈のナンチャッテ予知が出た所で、安心して居住区の家探しを始める子供たち。大部屋の半分は、何かの研究施設のような造りになっていた。

 恐らくは、薬草や何やらの調合をする場所なのだろう。長年の放置による劣化なのか、使えそうな品はほとんどない有り様となっている。


 生活空間の戸棚からは、鑑定の書が6枚とエーテル600mlにポーション900ml、解毒ポーション800mlに初級エリクサー700mlと割と大量に薬品をゲット。

 さすが隣に調合施設があるだけはある、更には薬草の素材みたいなのが結構たくさん。薬草の種も数種保存されているみたいで、紗良と妖精ちゃんは喜んで回収している。

 これで向こうに戻っての錬金も、大幅にはかどりそうな予感が。


 薬草調合用のアイテムも、すり鉢や調合皿辺りはまだ使えそうなのが結構あるみたい。その辺も遠慮なく頂く事にして、さてこの部屋でやる事はもうない。

 ハスキー達は家探しに参加せず、休める時に休むスタイルで揃って休憩中。茶々丸と萌もそれを見習って、同じ場所で寛いでいるみたいだ。


 護人と子供たちがワープ魔方陣の部屋へと移動し始めると、彼女達もスイッチを入れ替えて探索モードへ。妖精ちゃんの話では、片方はやはり帰還用の魔方陣らしい。

 そんな訳で9層への魔方陣を選んで、チーム全員でその中へと入って行く。視界が暗転して、不愉快なノイズが全員の脳内へと降り注いで行った。


 そして唐突に、視界が開けたような感覚が訪れて、次の瞬間には全く別の場所に一行は舞い降りていた。魔法の仕掛けとは言え、あまり慣れたくない移動方法である。

 そしてすぐに動き始めるハスキー軍団と、やっぱり周囲を窺い始める子供たち。さっきまでは森の中⇒森の中の移動だったけど、今回は塔内からの移動である。

 ところが、出たのは広い空の下で戸惑う一行。


「あれっ、ここは本当に9層だよね……? 周囲の瓦礫は、ひょっとして塔の名残なのかな……周りは丘が見渡せるし、ダンジョン内には間違いないよね?」

「こっちの塔は崩れてましたってパターンなのかな、魔方陣の書かれてる床はしっかりしてるけど。あっ、オーク兵に見付かったみたいだよ、お姉ちゃん!

 ハスキー達が突っ込もうか迷ってる、今回の群れはかなり多いよ!」

「確かに多いな、紗良と香多奈はこの瓦礫の影に隠れて……いや、先に紗良に一発範囲魔法を撃ち込んで貰おうか。

 その後皆で突っ込もう、2人は身を潜めていてくれ」

「わっ、分かりました!」


 護人の作戦を聞いていたハスキー達は、突っ込むのを自重して待ちの体勢に。さすがの優秀さを披露しつつ、敵の殲滅に全能力を注ぐペット勢。

 紗良の《氷雪》魔法も容赦ない、オーク兵団20体以上を巻き込んでの先制打。そしてすかさずの護人の号令に、一転有利を勝ち得た来栖家チームが躍動する。


 そんな訳で、9層の敵の兵団も5分足らずで壊滅に導いての勝利。ドロップ品の中には、魔石(小)もちらほら存在する敵のレベルにも関わらずの圧勝である。

 それに気を良くしていた姫香だが、ふと森の奥の異変に気付いて警戒の声を仲間に発する。前の層のような、隠密系のモンスターでもいたのかと慌てる護人。


 ところがどうやら違ったようで、異変はもっと大規模な感じらしい。確認のために身を潜ませて、姫香とツグミを伴って護人が確認に向かってみると。

 何と、奥の森の木々が大範囲に渡ってぎ倒されていた。


「何だこりゃ……局所的な暴風でも起きたのか、嫌な予感しかしないな」

「樹が倒れた方向が、何だか大物が通った後みたいな感じがしない、護人叔父さん? こう……こっちから向こうに、巨大生物が進んで行ったみたいな」

「いや、それだと軽く200メートル級のモンスターって事に……うおっ、今確実に地面が揺れたな!」


 蒼褪めた顔で見つめ合う護人と姫香、ツグミが何か気付いたように主人に鼻面を近付ける。遠く森の木々の倒れた方角の、小高い丘をツグミはじっと見つめていた。

 その意味に気付いた姫香が、アレがその原因かなと小声で叔父へとささやきかけた。アレとは小高い丘の事で、破壊された木々の終焉の場所を示している。


 その小山との距離は、少なく見積もっても1キロ程度だろうか。破壊された森からびょこっと飛び出た丘の上には、塔のような建築物も建っているように見える。

 まさかあの小山が動いてるのかと、じっと観察を始める護人と姫香。その時、余りに時間が掛かってるのを心配した、紗良と香多奈がペット勢を引き連れて合流して来た。


 そして広範囲に倒れている木々を見て、さっきの2人と同じリアクション。怪物が通った跡みたいと、感想も似た感じの末妹のリアクションである。

 その時、先程と同じ揺れが再びやって来て慌てる一同。今度は小山に注意を払っていた護人は、確実にその小山が動いているのを目撃する事となった。

 つまりアレは、子供達の言う通り大型モンスターに違いない。


「今動いたな、あの小山……ひょっとして、本当に大型モンスターなのか? いや、この樹が倒れてる幅から計算すると、横幅だけでこの大きさって事になるぞ?」

「あっ、だとすると……超大亀かも知れないねっ! 見て見て、甲羅のてっぺんに塔も建ってる……多分、あの塔が秘密の宝物庫になってるに違いないよっ!」

「あっ、そうか……香多奈、アンタ冴えてるねっ! それなら急いで追いつかないと、あの巨体だと一歩の幅が凄く広いだろうからねっ」


 いや、アレに追いつくとか本気で論じているのかと、護人は1人顔を蒼褪めさせる。子供達はどうやら本気のようで、追うルートについて熱く論議を交わしている所。

 木々の薙ぎ倒された道は、倒木が邪魔をしてどうしても早く移動出来ない。少し横に逸れた森の中を、なるべく急いで進もうって事で決定した。


 こうなるともう、さすがの護人にも止めなさいと制止は出来ない。宝物を探し求めるのは探索者の本能だし、あの塔に探し求める秘薬素材があるかも知れないのだ。

 それどころか、次の層へのワープ魔方陣がある可能性だって存在する。問題はただ1つ、黙々と移動を続ける超大型の亀モンスターが敵対的か否かである。

 コイツがただの、移動する要塞的なギミックであれば良いのだけれど。





 ――追う準備を整えながら、ひたすらそう願う護人だった。






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