第323話 広域ダンジョンの中の塔がとっても気になる件



 視界に入っているアリ型モンスターは、裏庭ダンジョンに出て来る奴とはタイプが全然違っていた。元のアリが別種なのだろう、全体的に赤い色合いで腹が異様に太い。

 毒とかあったら嫌だねぇと、隣で身を潜め中の姫香の呟きに。どっちにしろ、またレイジーに燃やして貰うんでしょと、全く容赦の無い末妹の香多奈の返答である。


 来栖家チームには、ワンパターン戦術に対する忌避きひ感なんてモノは存在しないみたい。それが手っ取り早い戦術だと分かれば、ワンパターンでも使い倒すのみ。

 それが来栖家クオリティ、例をあげれば姫香の速攻シャベル投げみたいな。先制の一打は中ボス戦でとっても有効なので、来栖家チームの好んで使う戦術である。


 そんな訳で、レイジーも物凄くヤル気満々なので、今回も任せる事に決定。ただし今回は、巣穴の入り口も幾つもあるし巣の外にいるアリも割と多い。

 ツグミが取り出した『炎のランプ』に、今回は香多奈も魔玉(炎)を数個ほど追加して。さあ頑張ってねと、他力本願とも言える得意の丸投げを敢行する。

 まぁ末妹の言葉には、毎回『応援』効果が乗っかってるのだけど。


「それじゃあ、外にいるアリは俺とルルンバちゃんで始末して行こうか。巣の中の掃除は、全部レイジーに頼むって事で。

 あのアリ塚を潰せば、恐らくこのフロアもクリアだろうからね」

「クリアって言うか、多分ワープ魔方陣出てくれるだろうね。前にやった獣人の拠点攻めと、どっちが難易度高いか良く分かんないけど。

 とにかく頑張ってレイジー、アリの巣退治だよっ!」


 今回は魔玉(炎)込みの炎の狼団が、召喚されたと思ったら足並みを揃えて巨大アリ塚へと突っ込んで行った。それから目の前では、前の層で見た現象と同じシーンが繰り返される事に。

 いや、さっきのは巨大な蜂の巣で、これは巨大アリ塚で多少の違いはあるけれど。護人とルルンバちゃんは、周囲の大蟻を弓と魔銃で次々と薙ぎ倒して行く。


 そうこうしている内に、外にいる敵の姿が完全に無くなった。それを合図に、レイジーがアリ塚の入り口の1つへと、悠々とした足取りで近付いて行く。

 そしてダメ押し的な『魔炎』を敢行して、アリの巣内への追加ダメージをお見舞いする。その約10秒後には、哀れにも崩れ落ちる巨大アリ塚だったり。


 おおっと、呑気に小さく拍手をする香多奈はともかくとして。やる事が無くて見学役だった他のメンバーは、やっぱりレイジーをねぎらうように拍手に加わる。

 崩れ落ちた巨大アリ塚は、いつの間にやらワープ魔方陣を吐き出していた。それからやっぱり、魔石(大)と薄紫色の宝箱が巣のあった場所に出現してくれた。

 それを確認して、喜びながら宝箱に近付いて行く子供達。


「今回は時間掛からずに進めたよね、さっきの半分くらいの時間で済んだかな? この調子なら、ダンジョンに1泊とかせずに済みそうかなぁ?」

「目的のアイテムがどの層に出るか分かんないから、何とも言えないよね。それに帰り道だって、ワープ魔方陣が無かったら歩きが確定してる訳だし。

 広域ダンジョンってやっぱり厄介だよね、護人叔父さん」

「そうだなぁ、まぁ疲労が溜まらないように心掛けて進もうか。こっちばかり急いでも、ムッターシャチームが戻って来るのを待たなきゃならないんだし。

 ミケの容態は心配だけど、皆の体調も同じ位に気を配らなきゃな」


 その言葉に、大人しくは~いと返答する末妹の香多奈である。疲れたらちゃんと報告するねと、その心掛けは確かに立派に聞こえるけれど。

 ダンジョンでのキャンプも、考えてみたら楽しそうかもとの言葉は結構呑気。それに構わず、姫香とツグミのペアは宝箱の中身確定に忙しそう。


 ツグミの嗅覚での判定は、この箱にも問題は無いらしい。それならと蓋を開く姫香、仕掛けは問題無くセーフで中身を拝む事が出来た。

 その中身は、まずは薬品でMP回復ポーション900mlに中級エリクサー700ml、あと不明が瓶で2本分。それから木の実が10個に、魔玉(土)が同じく10個ほど。


 それから甲殻素材が割と大量に、色違いで揃っていてどれも質は良さそう。来栖家の防具の補強にも使っているので、その辺は見る目も多少は肥えている。

 当たりはオーブ珠が1個と、鑑定プレートらしき硬質な板が1枚。もし本当に鑑定プレートだったら、売れば数十~百万コースである。

 ちなみに来栖家は、ほぼ種類をコンプリートしている。


「あっ、こっちは強化の巻物かな……2枚あるね、防御系なら護人叔父さんの新装備に使いたいかな。それにしても、このダンジョンの宝箱には木の実がいっぱい入ってるよね?

 何でだろう、魔女は木の実が好きだったのかな?」

「薬品とかの研究してたのかも、この2本の瓶は多分だけど果実ポーションじゃないかな? 私以外にも、実用化してる人いたんだねぇ。

 まぁ、レシピがあるから当然なんだけど」

「ああっ、力や敏捷がアップとか魔力がアップとかの薬品って事ね! 確かにアレは、中ボス戦とかに便利だよね……味も美味しいし、私は好きだなぁ」


 アンタの好みなんて聞いて無いわよと、姫香の余計な茶々入れに。またもや姉妹喧嘩が勃発しそうな気配に、何故か割り込んで来たのは茶々丸だった。

 香多奈が茶々をれないでと、姉を批難したのを名前を呼ばれたと思ったのだろう。顔を思い切りこすり付けられ、姉妹の怒りの感情も霧散してしまう結末に。


 これには護人も紗良も、思わずホッコリと心を癒されてしまった。喧嘩よりはずっと良い結果だねと、良く分からない流れで褒められる茶々丸である。

 取り敢えず、そんな仔ヤギの茶々丸と萌のペアもまだまだ元気そう。




 それならば探索を続けようと、来栖家チームの面々は続いて8層へと侵入を果たす。そこもやっぱり緑の深い森の中で、見晴らしは決して良くは無い。

 ハスキー達は行く先を決めようと、周囲を慎重に探り始める。それとは逆に、ルルンバちゃんは木々のてっぺんから顔を出しての周囲の確認作業。


 そして何故か、すぐさま降りて来て何かの報告をして来るルルンバちゃん。香多奈がそれに気付いて、その報告をチームに知らせてくれる。

 それによると、この8層フロアには丘陵地帯に大きな塔が建っているらしい。その発見に、子供達は興奮して宝の地図の目的地じゃないかと話し合っている。


 そんな簡単に見付かるかなぁと、護人は不審に思うのだけど。怪しい拠点があれば、探索に赴くのが当然のシナリオで。何しろ探し物の『熟した虹色の果実』が、そこで見付かるかも知れないのだ。

 てな訳で、ルルンバちゃんに聞いた方向に、一行は方向を定めて進み始める。森の中を進む隊列は、変わらず護人が先頭を担って不意打ちに備える陣形である。

 しかし今回の隠密モンスターは、どうやら植物タイプだった様。


 それに気付いたのは、護人とツグミがほぼ一緒のタイミングだった。伸びて来たつたを打ち払って、周囲に警戒を呼び掛ける前衛の護人。

 ただ思ったより、その敵のトラップ群は大掛かりだった模様。ついでのように出て来た大樹モンスターも、周囲の木々に紛れてとことん見分けがつき難い。


 レイジーも山火事の恐れがあるので、炎のブレスは自粛していて苦戦模様。ツグミやコロ助も同じく、植物や蔦に咬み付いてもダメージはたかが知れている。

 それを補おうと、茶々丸に騎乗した萌が孤軍奮闘して槍を振り回していた。切っ先の刃で器用に蔦をぎ払い、チームに脅威が近付かないよう頑張っている。


 護人と姫香も、それぞれの武器を振るって蔦の排除に励んでいた。敵の勢いは意外に激しく、反撃の切っ掛けも今の所は掴めていない。

 そのうちに、レイジーも『ほむらの魔剣』を取り出して貰って、チマチマとした作業を手伝い始めてくれた。お陰で少々余裕は出来たが、敵の本体の場所は判然としない。

 最初に見掛けた植物型モンスターは、再び景色に同化してしまったのだ。


「これじゃ延々とキリが無いよ、護人叔父さんっ……敵の本体はどこか分からないの、香多奈っ!?」

「ええっ、私っ!? 確か、最後に見た時はあっちの方向だったかなぁ?」

「こんな場所じゃあ、レイジーちゃんの炎は使えないから……それなら私が、氷の魔法を撃ち込んでみるねっ!」


 良く分からない理論と計算で、紗良が《氷雪》スキルを末妹の示した方向へと撃ち込む。その途端に派手なエフェクトが森林を覆って、木々が霜にやられたように白くなって行った。

 その一撃で、何とあれだけ厄介だった蔦延ばし攻撃が止んでしまった。どうやら紗良の魔法攻撃は、無事に敵の隠密を打ち破ってくれたようだ。


 やったぁと喜ぶ香多奈だが、安堵の表情の方が大きい様子。ルルンバちゃんが凍った茂みに突入して、魔石(中)とスキル書を1枚取って来てくれた。

 潜んでいた奴は割と大物だったようで、そんなのがいるとは難易度も上がって来ている証拠である。さすが異世界のダンジョンだねと、姫香も感心している。


 ドロップは他にもあって、何と果実が1個茂みの奥に。これもルルンバちゃんが見付けたモノで、妖精ちゃんも興奮してすぐに鑑定してくれた。

 しかし残念ながら秘薬素材とは違うようで、使用者の力とか魔力を永続的にランク上げしてくれる魔法の果実らしい。虹色の果実と似ているが、レア度ではこちらの方が上との事。

 それは確かに、彼女が興奮するのも分かる魔法の品ではあった。


 ともかく、目的のアイテムかもと期待した護人はガッカリ、探索はまだ否応なく続くようだ。そんな訳で態勢を整え直して、来栖家チームは再び移動を開始する。

 ルルンバちゃんが指し示す方向へ、ハスキー達は先頭でチームを導いて行く。暫くそのフォーメーションで進むと、ようやく森を抜ける事が出来た。


 その途端に、何故かオーク兵の一団とバッタリ遭遇する不運。鼻の利くハスキー達にしては珍しい、この距離での敵の一団との唐突な遭遇劇である。

 驚いたのは向こうも同じで、どうも森と丘陵地帯の境界は変な力場が作用している様子。とにかく敵に反応して、荒ぶるハスキー達は勢い良く突っ込んで行く。


 それに遅れじと、茶々丸と萌のチャージが炸裂する。巨体を誇るオーク兵が、派手に吹っ飛ぶその威力は凄いに尽きる。そして茶々丸は勢いを落とさず、敵陣の後衛へと突き掛かる。

 敵のオーク兵達は、あっという間にその隊列を崩して行った。前線にいた護人も、その隙を逃さずに敵の数を順調に減らして行く。

 そして上空からは、ルルンバちゃんの惜しみないサポートが。


 護人とルルンバちゃんのペアも、問題無く機能しているみたいで何よりだ。10体以上と意外と多かったオーク兵団が、組織的な反撃も出来ずに崩壊して行く。

 結局その突発的な戦闘は、5分少々で終了の運びに。


「ビックリしたっ、いきなり前の方で戦闘始めてるんだもん! 出会い頭だったのかな、ハスキー達にしては珍しかったよね」

「そうだな、俺も不思議な事に敵の気配を全く感じなかったよ。何かこっちの知らない、ダンジョン独自のルールがあるのかもな。

 何にしろ、無事に戦闘が終わって良かったよ」

「あれがルルンバちゃんの言ってた塔かな、割とすぐ近くだね。そんなに大きくは無さそうだけど、行ってみる価値はありそうだね、護人叔父さんっ」


 姫香の指し示す方向には、確かに大きくは無いが立派な石造りの塔が建っていた。それはこの“魔女のダンジョン”の造りとそっくりで、入った時の情景を思い起こさせる。

 とは言え、周囲の景色は全く違うしこちらの塔の方が新しく見える。確かに中に、何か特別なモノが置いてあっても不思議では無い感じ。


 一行は期待を込めて、休憩を取った後にその塔へと進み始める。突入してもうすぐ4時間、気分的にはそろそろ何か発見があっても良いんだよって感じ。

 そんな子供たちの期待は、入り口を守る2体の鎧の騎士を目にしていよいよ急上昇。これは明らかに、中にある何かを守護しているに違いないと。

 テンション高く、そう論じる姫香と香多奈である。


「おっと、果敢にもコロ助がヤル気だねっ……白木のハンマー取り出して貰って、タイマン張る気充分だよっ!

 もう1人は誰が行くの、姫香お姉ちゃん?」

「それじゃあ、ここは私が行こうかな……護人叔父さんの剣じゃ、あの鎧相手じゃ不利でしょ?」

「いや、そうでもないよ……実は“喰らうモノ”の敗退騒ぎの時に、ちょっとした奥義を習得してね。この『魔断ちの神剣』の本当の力とか、後は《奥の手》の進化系とか。

 多分あの敵相手にも可能だと思うな、見せてみようか?」


 護人の自信満々の言葉に、子供達からも見てみたいと興味津々の返しが。それなら見せようと、護人は呪いの夢空間での戦闘を思い起こしつつ前へと出て行く。

 その隣では、香多奈の『応援』を貰ったコロ助が、やっちゃるぜいとハッスル模様でハンマーを構えている。その気持ちは分かる、子供とは言え異性の声援に応えるのは男の役目だ。

 特にこのチーム、女性陣のオテンバ率がかなり高かったりするので。





 ――せめてこんな時くらいは、腕前を披露するのがオスの役目?









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