第322話 突然の広域ダンジョンに手古摺る件
6層に突入して既に30分、来栖家チームの探索はあまり上手く進んではいなかった。
結果、オークの兵士団に遭遇する事2回、見通しの良さが仇になった感じで余計な戦闘をする破目に。とは言え、見通しの悪い森を進むのもそれなりに勇気が必要。
隠密タイプの敵の存在は、既に判明していて不意打ちは喰らわないかも知れないけれど。注意に神経を削られるのも事実で、果たしてその価値が森林探索にあるかどうか。
そんな訳でハスキー軍団は、見晴らしの良い丘陵地帯を敢えて進んでいる次第である。ところがどうも、次の層への階段の類いは見える範囲には存在していない様子。
勝手の違う異世界ダンジョン、そう言う事があってもおかしくは無い。
「う~ん、なかなか見つからないねぇ……ひょっとして、幾つか次の層への階段があるって仮説は間違ってるのかなぁ?
それともワープ魔方陣が、どこかにこっそり置かれてるのかも?」
「ああっ、それだと探すの大変かもねぇ……獣人の拠点があれば、見付かる確率が上がりそうなんだけどね。ルルンバちゃんは別動隊で動いてくれてるのかな、さっきから森の樹の上を見え隠れしてるけど。
この視界の悪さじゃ、空を飛べても有利とは言えないかもね」
「そうだな、まぁこの距離なら
護人の言葉に、姫香も敏感に反応してハスキー達に進路変更を通達する。ルルンバちゃんの動きは、樹の枝に阻まれて見えにくいが護人はしっかり確認していた模様。
その動きは明らかにさっきとは違っていて、何かを見付けたのか見付かったのか。暫くして、どうやら後者だと判明した……ルルンバちゃんの背後には、十数匹の大きな蜂の群れが。
どうやら不用意に巣に近付いて、敵対心を
それを器用に空中で
それを見て、隣の香多奈がルルンバちゃんに避ける様に指示を飛ばす。
「ルルンバちゃんっ、上か下に避けてっ! 紗良お姉ちゃんの魔法が飛んで行くよっ!」
この咄嗟のコンビプレーは、何と初披露にも関わらずとっても上手く
それはまるで、強力な殺虫スプレーを浴びせたみたいで見事な一撃ではあった。敵は落ちる端から魔石に変わって行って、まさに一撃必殺の荒業である。
それを見て、やったぁと
ハスキー達は、見せ場が無かったと不満げに追加の敵の気配を探っている。しかし、森の中からこれ以上の蜂の群れは出て来ず、代わりに騒ぎを聞きつけて出て来たのは大猪が3頭だった。
どうやらこちらは、末妹の大声に釣られて出て来た模様。
それに嬉々として向かって行くハスキー達、茶々丸と萌のペアも出番を取られてなるモノかと突っ込んで行く。両者のチャージ技は、角と牙を互いに突き合わせて物凄いコトに。
ひゃあっと驚き声を放つ後衛陣、護人も思わずフォローにと前に出て行こうとする。目を回す両者はともかくとして、萌は冷静に大猪に止めを刺す巧者ぶりを見せてくれた。
他の2頭も、無事に荒ぶるハスキー軍団の餌食になった模様で何より。魔石を回収するツグミと、もっと敵が出て来ないかなと期待の目で森を見詰めるコロ助。
茶々丸だけは、尚も目を回したままで慌てて紗良が治療に向かっている。凄い音がしたねぇと、香多奈も驚き半分で茶々丸を案じている様子。
幸いにも、茶々丸の角がどうにかなった感じも無く、おでこ同士が派手にぶつかっただけなのかも。『回復』スキルによって、茶々丸のダメージも何とか抜けてくれたようで家族もホッと一安心。
そんな騒ぎの中、ルルンバちゃんに何か見付けたのかと尋ねる姫香。何しろこっちは、30分以上も丘を
自然と森林地帯の探索に、期待を持ってしまうのも当然だ。
そんな姫香の期待に応えるように、ルルンバちゃんは一行を森の奥へと導く構え。おおっと驚きながらも、一行は隊列を組み直してその後に続いて進み始める。
ただしチームの隊列は、多少の変更を余儀なくされていた。姫香が後衛の護衛に下がって、不意打ちの危険のある森林内では護人が先頭を歩く事に。
後衛陣は、姫香と香多奈の姉妹喧嘩がとっても心配ではあるけれど。それは紗良の舵取りに任せて、《心眼》と《奥の手》を発動してひたすら先頭を行く護人である。
そして5分後には、ルルンバちゃんが見付けた物体を全員が目にする事に。それは巨大な蜂の巣で、具体的には来栖家のキャンピングカー程には大きかった。
その物体が、大きな樹にくっ付く形で存在している。
近付いて分かるのは、巣の中から聞こえて来る不気味な鳴動。大蜂の羽音なのだろうが、凶悪な機械の作動音と言われたら信じてしまいそう。
これを外から破壊するのは、ちょっと骨が折れそうな気がする。ところがツグミは母親のレイジーに、ハイッと『炎のランプ』を収納から出して手柄を譲る構え。
レイジーも心得たもので、自分の眷属を半ダースほど呼び出したと思ったら。チラッと主人の護人を窺って、ヤッちゃうよとの最終確認。
護人は後衛までそっと下がると、念の為にと紗良に魔法の準備をして貰う。それからレイジーにゴーサインを出し、事の成り行きを後ろから見守る。
それは何と言うか、ほぼ一方的な蹂躙だった。巣には必ず出入り口があって、それは容易に外敵に侵入されないよう決して大きくは無い。
そこから入り込むのは、今回は炎の化身の狼の群れである。巣の内部は、外からは確認出来ないけど恐らく大惨事に違いない。事実、蜂の巣をつついたような騒ぎはその音で判別出来る。
しかしその音も、レイジーのダメ押しで完全に静かになる始末。
「うわっ、レイジーってば容赦無いなぁ……ご丁寧に、巣の入り口からブレスを吹き込んじゃってるよ。中は悲惨だろうなぁ、羽音もいつの間にか止んじゃったよ」
「さすがウチのエースだよね……ミケも早く復活させてあげたいなぁ。あっ、蜂の巣がぐらついて、落っこちそうになってるね」
姫香の言う通り、巨大な蜂の巣はレイジーに内から焼かれた衝撃で
そして驚いた事に、眩い光と共にワープ魔方陣へと変わって行った。おおッと驚く一同、なるほどこんな仕掛けなんだと、子供達も納得した感想を漏らしている。
ついでに魔石(大)とオレンジ色の宝箱も出現しており、発見したルルンバちゃんは大手柄である。ツグミがそれに鼻を近付けて、開けても大丈夫のサインをご主人の姫香に送る。
それを疑いもせず、早速その箱を開け放つ姫香。中からは鑑定の書(上級)が4枚と木の実が大量20個以上、乾燥した匂いの強い葉っぱもこれまた大量に入っていた。
妖精ちゃんの話では、薬草の類いらしいがレアでは無いらしい。他にもスキル書が1枚に魔玉(風)が18個、木製やら鋼製の大小の槍が10本以上。
矢束も色んな種類が100本近く、何と言うか蜂の巣に掛けた品が多い気がする。それに止めを刺すように、鉢蜜入りの瓶が8個に蜜蠟のキャンドルが8本。
8縛りも、何と言うか作為的な気がする。
それでもようやく見つかった次の層への入り口に、一行はようやく安堵のため息。これが閉じない内にさっさと先に進もうと、休憩もお座なりに進む事を決定する。
もっともMPを消費したのは、レイジーだけだったりするけれど。紗良が宝物を魔法の鞄に仕舞い込むと、来栖家チームはワープ移動を果たして次の層へ。
そしてレイジーのために、MP回復ポーションを取り出す紗良である。このフロアも先程と同じ森林フロアらしく、視界は余り
ルルンバちゃんが次もポイントを上げるぞと勇ましく、早くも宙に浮きあがっている。香多奈はそれを見て、頑張ってねと呑気に声援を送っている。
護人と姫香は、さっきのワープ魔方陣の出現を踏まえて、何を探せば良いのか審議中。この層にも巨大蜂の巣か、それに相当するモノがあれば疑ってかかるべし。
もしくは獣人の拠点だろうか、前の層には無かったけど経験上あっても不思議ではない。賢いハスキー達は、さっきの出来事を完全にインプットしてくれている筈。
だからまぁ、探索は丸投げでも構わないって事でもある。
「つまり要点は、大まかに分けて2つかな……次の層への取っ掛かりとなる拠点の発見と、それから秘薬素材のありそうな場所の探索と。
それを踏まえて進もうか、ハスキー達もルルンバちゃんも頼んだぞ」
「もう1個探さなきゃダメな場所が抜けてるよ、叔父さんっ! 宝の地図に書かれてたカメの塔も、一緒に探して貰わないとねっ。
多分だけど、異世界のお宝がたくさんあると思うんだ!」
「ああっ、そうだった……香多奈のナンチャッテ予知も、そんな平和な感じの奴ならジャンジャンして貰って構わないからね。これもきっとミケ効果だよね、絶対に治療薬の素材を持って帰ってあげなくちゃ。
さあっ、ハスキー達……張り切って進もうっ!」
姫香の号令で、張り切って怪しい場所を探しに進み始めるハスキー軍団。今度は最初から、森の中を重点的に探索するつもりらしい。それを考慮に入れて、引き続き護人が前衛組に。
ルルンバちゃんも宙へと飛び立って行き、7層の探索は本格的に始動した形に。前の層は
そんな探索の途中に、やっぱり出て来た隠密型の待ち伏せモンスター。今度は巨大なカメレオンだったようで、体長は何と3メートル以上と言う大きさ。
ワニみたいだねぇと、呑気な香多奈の呟きも頷けるそのサイズ感。その伸ばした舌に捕まったら、ひょっとしなくても丸呑みされてしまうだろう。
ただし、護人の《心眼》の発動で先手が取れたのが大きかった。
もちろんハスキー達も気付いていて、熾烈な先手の取り合いが繰り広げられる。敵の数も割と多くて、その戦闘音にオーク兵が誘われて出て来るに至って。
後衛の護衛役の姫香も大忙し、香多奈も魔玉を放り投げて戦闘のお手伝い。ルルンバちゃんも舞い戻って来て、それが丁度オーク兵の背後を突く形に。
魔銃と鞭で、ルルンバちゃんがオーク兵に紛れていた魔術師を片付けると、戦闘は一気にこちらのペースに。前衛組も潜んでいた大カメレオンを全て片付け、この場の争いは滞りなく終焉へ。
落ちていた魔石には、小どころか中も混じっている有り様である。一気に層の難易度が上がった感はあるが、ダンジョンに文句を言っても仕方が無い。
魔石をみんなで拾って、さて探索の再開だ。
「カメレオンが鞭を落としたな、あと肉は……カメレオンって、食べられるのか?」
「どうなんだろう……後で焼いてみようか、護人叔父さん? こっちのオークの集団も、スキル書とか杖とか色々落としたよ。
ここに来て、ドロップ率がやたらと良くなって来たね」
「本当だねぇ、エルフの里の人もこのダンジョンはほとんど入った事無いって言ってたし。特に6層から上は、地元でも人気は無かったのかもねぇ?
私たちは、遠慮せずにどんどん進んじゃおうっ!」
香多奈の言う通りなのかもだが、遠慮なんて言葉はハスキー達には関係ない。ドロップ品を拾い終えたら、ルルンバちゃんに負けないぞと森の中を進み始める。
探索に真剣に打ち込むのは、ハスキー軍団のいつもの姿勢には違いない。自主的に特訓も行う事から分かるように、それが楽しくて仕方ないのだろう。
その理由が強くなる事なのか、ご主人に褒めて貰う事に起因してるのかは判然としないけど。今回はルルンバちゃんに先んじて、ハスキー軍団の方が怪しい拠点を発見するのが早かった。
それはやっぱり森の中にあって、傍目から分かるような異様な形状をしていた。具体的に言うと、地面から巨大に盛り上がった土の突起のような感じ。
アレは何だろうとの香多奈の疑問は、周囲に
つまりはアリ塚じゃ無いかなと、姫香の推理は恐らく間違ってはいないと思う。ただその大きさが、モンスターサイズになると半端ない感じである。
果たしてこのモンスターの巣、さっきみたいに壊せるだろうか。
――もっとも、レイジーは再びヤル気満々みたいだけれど。
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