第321話 唐突な壁画鑑賞から宝物庫探しが始まる件
今や3層の小部屋の壁際では、子供達が詰めての熱心な議論中。先ほどの動画を観直して、全員で目の前の派手な壁画と重ね合わせる作業をこなしている。
目の前の派手な壁画は、遠くから見ると何となく巨大なカメに見えなくもない。周囲の景色から推測すると、海や川でなく陸ガメだと思われる。
その絵に2層の鍵のマークを重ね合わせると、どうやら左脚の付け根辺りとなるらしい。そこに何があるのか不明だが、大カメは塔を背負っているように見える。
そんな巨大な生物はいる訳無いので、恐らくは彫像なのだろう。それなら探索中に見落としは無いよねと、呑気な香多奈の迷推理である。
それを聞いて、それもそうだねと姫香も納得した表情で返事をする。
「なるほど成る程っ……2層の壁画に、鍵のマークと星のマークが描かれてたのが気になってたんだけど。どうやら塔に入るのに鍵が必要で、星のマークの場所が宝物庫なのかもね?
つまり塔の3階部分だね、縮尺があってればの話だけど」
「おおっ、さすが紗良姉さんっ! 頭いいねっ、そっか鍵が必要な建物なんだ……それに気付かなかったら、宝物庫を前に地団駄を踏んでたかもね。
……主に香多奈が」
「何で私だけなのよっ! 姫香お姉ちゃんなんて、多分大泣きして悔しがってたよっ! そんで塔の周りをウロウロ走り回って、最後はバターになっちゃうんだ」
綺麗に締めた末妹の反撃の悪口だが、それを想像するとちょっと笑える。紗良が喧嘩しないでと、護人の代わりに仲裁に入ってスマホで壁画を改めて写真に収める。
ついでに2人で撮ってあげるよと、良く分からない撮影会が始まってしまった。まぁ、それで姉妹が仲直りしてくれるなら、時間の無駄では無いなと護人も思う。
今度はどんなお宝があるのかなと、末妹の機嫌は綺麗に直っていた。夢見がちに未来予想して、ミケさんに見せたら喜ぶかなぁと殊勝な所も見せている。
姫香の方は、暇そうにしていた前衛陣を再び取り仕切って、探索を再開していた。4層への階段は、既にハスキー達が見付けてくれて場所は判明している。
そして続いての4層の探索も、特筆すべき点も無い程には順調だった。ゴブリンの群れに、体格の良い奴や弓兵が混じり始めた程度である。
そんな奴らの相手も、何度もこなしている来栖家チーム。厄介な遠隔持ちは、ツグミの急襲で先に始末しておく毎度のパターン。後は悠々と、残った兵士を始末するだけである。
本当に順調過ぎて、思わず気が抜けそうになってしまう。
そんな時に限って、小部屋から宝箱を発見してみんなで舞い上がる空気になってしまった。それでも気を引き締めるべく、開封作業は護人が進み出て行う事に。
そして罠も無く開く宝箱、中からはポーション800mlと上級ポーション600mlが綺麗な瓶に入って出て来た。それから魔石(中)が8個に、木の実が何と各種14個も。
やたらと多い木の実だが、肝心の『熟した虹色の果実』にはかすりもせず。その代わり、異界の料理本が2冊と、調理道具が色々出て来た。
食器も異国風と言うか、異界風のが何枚も入っていてちょっと素敵。ついでにランチョンマットも、異世界風の奴が数枚ほど。魔法のアイテムは、妖精ちゃんによると蟲の意匠の指輪1個のみ。
微妙な中身だが、回収した品数は割と多くてまずまずの結果に。
そして4層は、それ以上のイベントは存在せずに探索終了。見落としが無いように全ての部屋を見て回ったが、3層の壁画以上の発見は無かった模様だ。
小部屋にいる蟲型の敵も、大ムカデが今の所は最強みたいだ。この調子では、5層もそんな大物が出て来そうな気配は皆無である。
その予想は大当たりで、5層の探索を始めて10分程度で中ボス部屋を発見した。適当に休憩を挟んで、いつものフォーメーションで室内へと殴り込む来栖家チーム。
その中にいたのは、4本腕の2メートル級のパペット兵士だった。それぞれの手に剣や盾を装備して、それなりに強そうだ。お供はゴブリンの一団で、魔術師や弓兵も混ざっている。
そんな事は関係ない姫香は、自らの『身体強化』と末妹の『応援』を受けてのシャベル投げを敢行。見事に中ボスにヒットして、敵の胸元に風穴を開ける事態に。
レイジーも炎のブレスで先制攻撃、接敵するまでに既に大勢は決していた感じ。コロ助と茶々丸と萌が突っ込む前に、魔石に変わる敵もチラホラ。
やっぱりこのダンジョン、ランクはかなり低いかも?
宝箱は嬉しい金色で、中ボスも魔石(小)とスキル書を1つずつドロップ。中からはMP回復ポーション900mlと初級エリクサー800ml、そしてやっぱり木の実が20個と大量に出て来た。
中には虹色の果実も3つ混ざってたけど、これは目的の品では無かったみたい。妖精ちゃんに問い質してみたが、それは間違い無いらしい。
他にも魔結晶(大)が7個に宝珠が1個、まぁこれだけでも大当たりである。魔法アイテムも妖精ちゃんによると3つ、木の弓と手斧と革製のブーツがそうみたい。
他にも雑多な装備品が数点、それから価値の高そうな装飾品や芸術性の高い陶器なども色々。さすが金の宝箱だが、目的の希少な秘薬素材は入っておらず。
つまり、この先にも進むのが決定した訳だ。
「残念っ、ここで出てたらすぐに引き返して、後は異世界チームが戻るのを待つだけだったのに。探し物を求めてダンジョンに潜るって、企業依頼でしかやった事無いかもね。
何層潜るべきか分からないのって、意外と大変かも?」
「確かにそうかもねぇ……ひょっとしたら、ダンジョンの中でお泊りになっちゃうかもなんでしょ?
一応キャンプ道具や食料は持って来たけど、なるべく早く戻りたいよね」
「そればっかりは、アイテム次第だからなぁ。幸いなのは、このダンジョンの難易度だな。敵も強くないし、広さもそれ程じゃないから階層更新は楽かもな。
ここまで2時間くらいだし、なるべく早く目的を達成したいのは確かだけどね」
護人の締めの言葉に、そうだよねぇと賛同の姫香。お泊りの心配をしている紗良だけど、実際にそんな事態はやって来るのかも知れない。
それよりお腹空いたと、お昼の催促を始める末妹の香多奈である。その辺は全くブレておらず、異世界での探索にもマイペースを貫いて心強い限り。
そして、そんな少女の要望がスンナリ通るのも来栖家チームではいつも通り。主のいなくなった中ボス部屋で、風変わりなランチタイムに突入する。
とは言え、異世界への旅行中の身なので前準備などは出来ていない。来栖家にしては珍しく、お湯を沸かしてのカップ麵やみかんやジャーキーのみの昼食である。
ジャーキーに関しては、主にハスキー軍団に消化される事に。
これもまぁ、キャンプっぽくて子供達は文句は無いみたいではあるけど。紗良だけは、ちゃんとした食事を用意出来なくて少々不満げな表情。
魔法の鞄のお陰で、この手の非常食はまだストックは充分にある。とは言え、なるべく早く目的の品はゲットしたいのが偽らざる本音の護人だった。
そんな訳で、お昼休憩を挟んで元気を取り戻した一行は、再び午後の探索に挑み始めた。5層の上り階段を歩いて、来栖家チームは6層の地を踏みしめる。
そして揃って唖然とした表情に、何しろそこにはどこかの森の中と見紛う景色が拡がっていたのだ。つまりこの“魔女のダンジョン”は、6層からフィールド型になってるみたい。
聞いてないよと文句を言いたいが、誰に言うべきかも分からない。それより広域ダンジョンだと不味いねと、探し物を考えると姫香の言い分はごもっとも。
ハスキー軍団の鼻を当てにしようにも、見た事も無い秘薬素材の匂いなんて分かる訳も無い。それでも行き先を求めて、ハスキー達は自然と動き始める。
つまりは、次の層への階段探しに集中する事にした模様。
「うわぁ……これは途端に厄介だねぇ、護人叔父さんっ。いきなりフィールド型ダンジョンなんて、完全に予想外だよ。さっきまでは、この難易度なら10層でも15層でも可能かなって思ってたのに。
これは次の層の階段探すのも、大変になって来たかも」
「そうだねぇ……でもウチのチームも、広域ダンジョンに何度か潜ってるよね? その経験からすると、階段が幾つかあるダンジョンが多かったしさ。
ここもひょっとすると、案外あちこちにあるかもよ?」
「なるほど……でも今回の目的は、奥に進むんじゃなくて秘薬素材の入手だからなぁ。どの層にあるか分からないし、その辺はどうなんだろう。
妖精ちゃん、どの層が怪しいとかあるのかな?」
その護人の問いに、深い層の方が可能性はあるかなとのいい加減な返答が。とにかく難しい事は考えず、ガンガン進めと良く分からない
素直な子供達は、それじゃあ気にせず進もうかと改めて森林タイプのフィールドを見渡す。拓けた丘の部分もあるけど、敵の姿は今の所見掛けない。
とか思っていたら、いきなりツグミが警戒の唸り声を発した。途端に周囲を見渡すチームの面々、姿は見えないが敵の存在を疑う者は皆無である。
その辺りのチームワークは、一朝一夕で
『射撃』で遠くの茂みを撃ち抜いたかと思ったら、その反対側に斬撃を討ち込む。その動きは
入院中に人が変わったのかと思われるが、実は呪いの副作用と言うか。脳内で繰り返された襲撃によって、自己トレーニング効果が強烈に作用したのが原因なのだ。
気配を隠して接近していたのは、どうやら大カマキリだったようだ。護人の《心眼》は、その隠密効果を見事に打ち破った事になる。
確かに《心眼》と《奥の手》に関しては、閉鎖空間で何度も使いまくって使用慣れした感も。あんな思いは二度としたくは無いが、自己の強化には満足の護人である。
「凄い、護人叔父さんっ……武器を刀に変えてちょっと心配だったけど、完璧に使いこなしてるよねっ!
さすがだなぁ、いつの間に特訓したの!?」
「いやまぁ、隠れてこっそりとな……それより隠密を使う敵も、この層から紛れているみたいだ。注意しながら、集中して探索に励もうか」
「了解っ……叔父さん、ルルンバちゃんが退屈してるから偵察に出て貰っていい?」
5層までは後衛の護衛で、全く出番の無かったルルンバちゃんだけど。飛行ドローン形態なら、この広いフィールドでも活躍の場は大いにありそう。
そう言う事ならと、護人も気軽にオッケーを出すのはいつもの来栖家のノリである。その代わり、自らは護衛役に後衛陣と一緒のペースに。ハスキー達も動き出し、本格的に6層の探索が始まる。
ルルンバちゃんも、ようやく自由行動を許して貰って浮かれて空へと飛び出して行く。そしてその高性能の人工視力で、フロアの怪しい場所をチェックに掛かる。
ハスキー軍団は、最初に拓けた丘の方へと進んでいるようだ。そこで程無くオークの兵士団と遭遇して、激しい戦闘へと移行し始めた。
この層から、敵のレベルも一段階上がっている気もする。それでも敵を圧倒しているハスキー軍団は、まだまだ余力があるようで心強い。
そして今回も前衛を任された姫香は、茶々丸と萌のペアと共に壁役を見事にこなしている。背後に1匹も敵は通さないぞと、指揮を執る姿はまさに戦姫と呼べるかも。
こちらも余力があるようで、オーク獣人の群れを程無く一掃してしまった。
またもや戦闘のお手伝いに間に合わなかったルルンバちゃんは、別の手柄を求めて探索を続ける事に。空から見る6層フロアは、とっても広々としていてまるで本物の森林だ。
パッと見た目には、特に怪しい拠点や階段などは見当たらない。その代わり、モンスターは色んな種類が各所に点在して配置されているみたい。
下手にうろつき回ると、発見されてターゲットにされる恐れも。それは嬉しくないルルンバちゃんは、森の樹木の高さギリギリを飛行してのステルスモード。
仲間の移動する姿は、キッチリと見失わないように気をつけて。とにかく褒めて貰いたい年頃のルルンバちゃんは、チームの役に立とうと奮闘を誓っての偵察続行。
その機動力で、異界のダンジョンの大空を
――その勇姿は頼もしい限り、例え探索の目的が良く分かってないとしても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます