第320話 魔女のダンジョンにレア素材を求め突入する件



 すったもんだの経験をこなした翌朝、来栖家チームは何とか“魔女のダンジョン”と言われる場所の、探索許可を無事に獲得した。一夜明けての翌朝から、そこに入る準備を家族で整えて行く。

 異界初のダンジョン探索だが、今から入る所は来栖家チームも入り慣れた様式らしい。つまりは、中のモンスターを倒せば魔石となってドロップしてくれるそう。


 深さも相当あるそうで、難易度はB級ランク程度だろうとの話である。その辺りの情報は、何とか前もって地元民に聞く事が出来た次第である。

 とは言え、肝心の『熟した虹色の果実』は、どの階層にあるのかは不明。恐らくは深い層だろうと、エルフの里のモリーから辛うじて情報を得る事が出来た。

 ただまぁ、元の世界のダンジョンと差異があるのか少し心配な所。


 神経質になるのは、護人やルルンバちゃんの装備もそうである。前に入った“喰らうモノ”ダンジョンの探索で、大半を失っていたのが地味に響いており。

 ルルンバちゃんはそれでも、飛行ドローン装備があるので助かっている。魔銃も回収出来ていたので、今回も持参出来てそれほど大きな戦力ダウンとはならず。


 問題は護人の強化済みレザー装備で、これはもうどう仕様も無かった。黒い甲冑の騎士にズタボロにされていて、さすがに紗良の『回復』スキルでも修繕は不能だったのだ。

 予備の革装備も持参してるが、一応はその甲冑の騎士が落とした『黒檀の鎧』と、宝箱から回収した『勇者の盾』の使用に踏み切った次第である。

 酷い目に遭った敵の装備なので、着用には躊躇ためらいはあったのだが。


 ミケのためだし、後ろ向きな事ばかりも言っていられない状況である。そう決意して着替えてみたが、何とも言えないフィット感と湧き上がる万能感。

 下手をすると、レザー装備より軽くて動きやすいかも知れない。付属魔法の動作補正(特大)のせいなのか、こちらの動きをサポートしてくれる感じも凄い。


 後は武器だが、これは引き続き『魔断ちの神剣』を使って行く事に。シャベルの運用も考えたけど、愛用してた品は魔法で相当に強化していたモノだったのた。

 今更普通のシャベルだと、さすがに『掘削』スキルは使えても心許ない。どこかで拾えないかなと思うけど、さすがに今までの探索でシャベルを拾った事は1度も無い有り様である。

 いや、金と銀のシャベルはダンジョン産だったっけ?


「おおっ、護人叔父さん……何か格好良いかもっ!? その黒い鎧って、例のいわくつきの奴のドロップ品なんだよね。やけに体型にフィットしてて、全身タイツっぽいのはアレとして。

 性能はいいんでしょ、盾の大きさも良い感じじゃない?」

「そうだな、魔法が掛かっているお陰でレザー装備より動きやすいよ。チームの生存率を上げるために、今後は積極的に優秀装備を探して行こうな。

 前衛の姫香にも、良品の鎧が欲しい所だけど」

「叔父さん、武器はその剣でいいの? 金のシャベル渡しておこうか、薔薇のマントに持ってて貰ったらいいよ」


 香多奈もどうやら、新コスチュームの護人に違和感を覚えまくりの様子。ハスキー達も寄って来て、主の変わり様を眺めてまるで面白がっているかのよう。

 その隣で、茶々丸と萌も探索準備に余念がない。半人半竜化した萌が『黒雷の長槍』を手にして、これは今回自分が使うねと相方と打ち合わせ中の模様。


 茶々丸はどうやら、自分の角を使っての戦闘に味を占めた様子である。局所的に《巨大化》を使用して、萌とペアで戦う予定で行くらしい。

 それにしても、半人半竜化した仔ドラゴンの萌もやっぱり見慣れない。まぁ、下手に大きくなられても、狭いダンジョンでは連れて行けなくなってしまう可能性も出て来るし。


 戦いのスタイルのお手本は、茶々丸と萌にとってはハスキー軍団か人間しか無い訳だ。そして強力な武器を取り扱うには、やっぱり人間の姿の方が便利なのは確かではある。

 結局は《変化》スキルに頼った場合、この姿に落ち着くのかも。



 取り敢えずチーム内での話し合いで、新しい変更点の確認は落ち着いた。護人も、香多奈に渡して貰った金のシャベルを、薔薇のマントに収納して貰ってサブ武器に。

 それから異界のダンジョン探索は初なので、相違点があったら知らせ合おうと口にして。森の中に塔のようにそびえる、“魔女のダンジョン”の入り口を潜って行く。


 ちなみに、ここまでの道のりで既に数時間掛かっており、今の時刻は昼前だ。肝心のミケだが、さすがに危険なダンジョン探索に連れて来る事は断念して。

 モリーに預かって貰い、お世話を頼み込んで来たのだった。


 見上げる塔は、つたが石ブロックを覆っており、雰囲気を醸し出している。そのダンジョン入り口の早速の相違点と言うか、階段は下りでは無く上りとなっていた。

 そんなダンジョンは、元の世界でも割と珍しいかも?


「でも元は魔女の塔だからね、上り階段でも不思議は無いかも? リリアラのお姉ちゃんが、こんな感じの研究塔を欲しがってたんだっけ?

 向こうで造ってあげたいから、中身とか参考にしたいね」

「うん、まぁ……でもこれダンジョンだからね、香多奈。中身は参考にならないでしょ、敵とかいっぱい出て来る筈だし。

 ほら、早速ハスキー達が反応してる」

「最初の戦闘だな、後衛陣はミケがいないのを忘れないように。ルルンバちゃんには、今回は悪いけど後衛の護衛として動いて貰おう。

 もう1人は、俺か姫香が必ず片方は下がっておく事にしようか」


 了解と返事をする姫香と、幾らなんでも過保護過ぎだよと反論する香多奈。姫香がすかさず反応して、叔父さんに楯突くんじゃないわよと姉妹喧嘩の勃発の予感。

 それを余所に、先頭のハスキー軍団は第1層フロアの敵と接敵を果たしていた。まずは出現した、パペット兵士とゴブリンの混合軍を軽く撃破して行ってる所。


 もちろん茶々丸と萌のペアも、それを横からお手伝い。茶々丸の最初のチャージが決まると、敵の群れはボーリングのピンのように倒れて行くのが面白い。

 それだけ強力なのだが、この技はある程度の突進の為の距離が無いと使えない様子。ただし、不意を喰らった敵の群れは面白いほど混乱してくれる。

 今の所、この戦法は上手く行ってる様子で何より。


 1層フロアを改めて見ると、至って普通の遺跡型ダンジョンのようだ。塔の名残を感じさせる、石畳の廊下と片側には小部屋の並びが続く感じ。

 ただし、外から見たより中は随分と広さを備えているようだ。最初の敵は半ダース程度で、強さも特筆する程では無かった。


 そんな訳で、ほんの数分で戦闘は終了。そして散らばる魔石(微小)を見て、何となくホッとする一同だったり。やはり死体が残るのは、血生臭くて精神的に来るモノがある。

 まぁ、ハスキー達はその辺にこだわりは無いみたい。確かに無いのだけれど、やっぱり慣れている事と違う現象が起きるとギョッとしてしまうのは否めない。


 姉妹喧嘩を回避するために、護人に前に出ていいよと言われた姫香なのだが。落ちてる魔石を確認して、ツグミと一緒にそれを拾って頑張るよとチームを鼓舞こぶ

 その声に寄って来た茶々丸と萌を撫でてから、前衛陣の一員で張り切って探索し始める。まぁ、実際はハスキー達が先導して、その後に姫香と茶々丸と萌の布陣である。

 これはこれで、安全に機能しそうな陣形かも。


「護人叔父さん、あちこちに部屋があるけど一応覗いて行った方が良いのかな?」

「そうだな、今回は明確な探し物があるからチェックは必要だな……ツグミの負担は増えるけど、そこは仕方がないか。

 姫香、済まないがフォローしてあげてくれ」


 了解と明るく返事をする姫香は、相棒のツグミに部屋の中も探索するよと告げる。今回は間引き目的ではなく、『熟した虹色の果実』と言う明確な探し物があるのだ。

 こんな探索は珍しいけど、だからこそ全部屋のチェックが必要になって来る。ツグミの「罠感知は実は専門外」と言う問題は、全く解決してないとしても。


 来栖家チームの中では、一番得意なのも確かな事実ではある。そんな訳で、姫香もサポートに回りつつの家探し任務を遂行する手筈に。

 後衛の香多奈は、呑気に頑張ってと声援を飛ばして撮影作業に余念がない。紗良も心配そうに、変な罠に引っ掛からないでねと声を掛ける。

 そんな中、1層フロアの部屋には特にお宝系の品物は無かった模様。


 それもまぁ、当然と言われればそうではある。幾つかあった部屋の中には、大ダンゴムシやら大カマドウマが数匹いただけ。罠も宝箱も無く、簡単な家具が数点置かれていただけだった。

 そんな椅子やテーブル、棚や破れたカーテンなどを持って帰る訳にも行かず。見付かったのは、サイドテーブルの中から魔玉(土)が2個と鑑定の書が2枚のみ。


 ちなみに蟲型のモンスターは、ハスキー軍団が瞬殺していた。そんな小部屋を5つほど確認した後、ようやく見つかる次の層への上り階段。

 それ程造りは複雑で無いのは助かった、1層の探索も30分少々で済んでいる。後方を確認して、ハスキー達はレイジーを先頭に次の層へと進み始める。


 戦闘も少なかったので、休憩は必要無いかなと護人も判断して。そして踏み入った2層も、フロアの景色はさして変わっていない感じである。

 出て来る雑魚のゴブリンやパペット兵士を、今度は姫香も加わって倒して行く。そして小部屋の探索は、姫香とツグミを中心に行う方式になっていた。

 パターンに慣れて来たら、探索も順調に進むのもいつもの事。


「お姉ちゃんばっかりずるい、私も部屋の中で宝探しとかしたいのにっ!」

「文句言わないの、前回の探索失敗で慎重に行こうって決めたでしょ? 今回はミケのためにも、間違っても失敗は出来ないんだからね!

 アンタは大人しく、後衛で撮影してなさい!」

「ほら喧嘩しない……今回は我慢しなさい、香多奈。姫香も用心は忘れるなよ、ツグミのチェックも決して万能じゃないんだからな?

 そろそろ前衛役を変わろうか、2層ごとがいいかな?」


 姫香はもう少し前衛でいるよと返して、その件はお終いに。2層のモンスター分布は、ほとんど1層と変わらずでハスキー軍団にとっては物足りない感じ。

 これではB級どころか、D級ランクかもねと後衛陣では厳しい査定が行われる中。前衛の姫香は、相棒のツグミと一緒に小部屋を次々と探索して回って行く。


 そして見付けたのは、魔石(小)が4個に何かの種が少々。それから異界の筆記用具のようなモノと、文房具がこれまた少々と言った所。

 一部屋だけ、壁が派手にペイントされたところがあって物議をかもしたけれど。恐らくは昔の住人の趣味だろうと言う事で、子供達の話はついてしまった。



 そんな感じで2層の探索も、変な所は無く終了の運びに。今回も20分と少しで3階への階段の前へと到達。小休憩を取って、次の層へと向かう来栖家チーム。

 順調なのは良い事だが、前もって仕入れた情報より難易度が楽なのは少々気掛かりだ。エルフの里の戦士たちの強さは、こちらに劣っているとは思えない。


 感性の違いと言われれば、そうなのかも知れないけれど。今の所、一番強かった敵は2層の部屋にいた大ムカデである。これもコロ助が、『牙突』スキル1発で倒してしまった。

 手強い罠の類いも無いと来れば、ちょっと小部屋の数が多い程度の遺跡型ダンジョンである。探索する時間が他より掛かるかなって印象で、噂の人造生物の影すらない有り様。


 そう、探索前にエルフの里の連中に「人造生物には注意しろ」とのアドバイスを貰ったのだった。てっきり敵として出て来るモノだと思ってたけど、今の所は予想は大きく外している。

 それが何を意味するかは不明だが、とにかく慎重に進むに越した事はない。3層も同じフォーメーションで進む事にして、前衛陣は張り切っている様子だ。

 敵の強さが多少物足りないとしても、探索は楽しそうなハスキー達。


 塔内と思われる遺跡型ダンジョンの造りは、3層フロアも変わらずだった。出て来る敵も、ゴブリンに魔術師が混ざっていた程度で難易度に変化は無し。

 アレが人造生物って事は無いよねと、香多奈も不思議そうに隣の紗良と話している。護人も一応、弓を構えて援助の体勢は崩さぬまま。ただし、その必要も無い敵ばかりでや拍子抜けな表情。


 そして3つ目の小部屋探索で、再び姫香が素っ頓狂とんきょうな声を上げた。またもや壁に派手なペイントが、しかも今回は何だかそれが地図っぽく見えるのだ。

 ひょっとして宝の地図なんじゃ無いとの、末妹の一言で事態は大いに紛糾し始める。でも目印のバッテン印が見当たらないよと、姫香のもっともな言い分。

 そこに、思い出しつつ長女の紗良が口添えしてくれる。


「……確か2層のペイント部屋の壁に、それらしき印があったような?」

「えっ、本当……紗良お姉ちゃんっ!? それじゃあ、見直しに戻らなきゃ!」

「おバカ香多奈っ、アンタ撮影してたじゃん! 映像見直せば済む話じゃん!」


 それもそうかと、慌ててスマホ操作に熱中し始める子供たち。宝の地図はいつ振りかなぁと、すっかりそのペイントは宝の在処ありか認定されている始末である。

 果たして、そんなに上手く事は運ぶのだろうか。





 ――ミケの豪運は、今回不在だと言うのに来栖家に届いている?









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