第316話 古代深緑の森のエルフの里に辿り着く件
こちらの出現に真っ当な態度で警戒する、2人の若い見た目の護衛エルフ達。ところが、交渉役の妖精ちゃんの言葉攻めには、何故かタジタジと腰砕けな様子で。
見ていてちょっと可哀想、何しろ彼女の要求はほぼ
護人と姫香は、ハスキー達が飛び出して攻撃しないように、しっかり手綱を引く役目を担っていた。それからエルフの集落を熱心に撮影する香多奈に、あまり刺激しないよう釘を刺しておく。
まぁ、現時点で一番失礼なのは妖精ちゃんみたいだけど。この位置からは巨大な木製の柵と正門しか見えないので、香多奈もすぐに撮影に飽きてしまった様子。
ルルンバちゃんに対して、中を見て来てとこちらも無茶振り。
「だから変に刺激しちゃ駄目って、今さっき護人叔父さんが言ったばかりでしょうが! それより妖精ちゃんは、どんな交渉してるのか訳しなさいよっ。
何だか向こうも困ってるっポイね、あっ……1人が奥に引っ込んで行った。誰か、エルフのお偉いさんを呼んで来てくれるのかな?」
「えっとね……妖精ちゃんは、ここに秘薬素材の1つがあると思っているみたいだね。さっきからそれを差し出せって怒ってるけど、それじゃ強盗だよね?
近付いて売って下さいって下手に出たら、交渉も上手く行くんじゃないかな、叔父さん」
香多奈の言う事は、子供にしてはもっともである……いきなり差し出せって態度は、確かに不味いと言うか
そこで相談した結果、護人と姫香が武器を置いて近付いて行く事に。紗良と香多奈は、ハスキー達を引き止めて置く役目でこの場に待機。
何かあってもスキルもあるし、まぁ変なコトにはならないと信じたい。話せば分かるとの思いで、護人は言葉が通じる有り難味を噛み締めつつ。
門まで近付いて、敵意は無いと大声で相手に知らせて様子を窺う。
次いでその妖精の近親者だと言うと、向こうは明らかにたじろいだ模様。エルフの門番は、木の棍棒と弓で武装しているが、あまり強そうには見えない。
とは言え、リリアラみたいに優秀な魔法使いなのかも知れない。そもそも若者に見えるけど、数百歳と言う可能性だってある訳だ。
異世界だなぁとか内心で思いつつ、こちらの言葉が分かるかと改めて問い掛けると。向こうは分かるから、これ以上近付くなと神経質に言葉を返して来た。
妖精ちゃんは完全におカンムリ、その態度は何だと完全に八つ当たりな小さな淑女。そこにようやく、この場を
それから何事かと、この場の珍事を取り締まり始める。
「これは、はるばる異界から訪れたお客様に失礼をしました。ですが、幾ら“妖精の姫”からの要望とは言え、簡単に我らの集落の秘薬を差し出す訳には参りませぬ。
その辺は、どうぞ理解して頂きたく存じます」
「えっ、妖精ちゃんはお姫様だったの!?」
「香多奈……アンタいつの間に、こっちまで来てたのよっ!? 本当に言う事を聞かない子だねっ、仕方無いから妖精ちゃんを
偉い人との交渉は、護人叔父さんに任せればいいよ」
「そうだな、そうして貰えると有り難いんだが」
姫香と護人の提案に、了解っと片手をあげて軽く応える末妹。それから宙を飛んでる妖精ちゃんを見事にフン捕まえて、自分の前ポケットに仕舞い込む。
そして、それを目撃して目が飛び出んばかりに驚いている、長老と門番にニコッと愛想笑い。
護人は今度は別の冷や汗、不敬罪とかで捕まったらどうしよう的な考えが脳裏をかすめる中。何にしろ、妖精ちゃんがお姫様なのは知らなかったが、位の高い者の同伴は心強い。
この地と縁のない来栖家チームも、邪険には扱えなくなるだろうし。その思い通りに事は運んで、エルフの長老は自分達を里の中へと招き入れてくれるそう。
ただしその前に、透明なオーブ珠のようなモノを全員で触れてくれと妙な注文をされてしまった。恐らくは、敵対感情などを感知する魔法装置なのだろう。
それはこちらも願ったり叶ったり、ちなみにハスキー軍団やペット達は免除された。その試験も全員でパスして、ようやく一行は里の中央の広場へと通される。
エルフの集落は、文明度で言うと控え目に言って自然寄りと言わざるを得なかった。とは言え魔法文明の度合いなど、推し量る事など不可能だけど。
とにかく周囲の風景は、一言で説明すると異世界の雰囲気が充満していた。案内された子供達も、興奮してあちこち視線を彷徨わせている。
そこは確かに、自然に溶け込むエルフの集落だった。
ポケットに収納された妖精ちゃんは、今は完全に大人しくなっていた。エルフの長老は一行を案内しつつ、しかしその存在を忘れてはいない様子。
つまり取り引き相手は、この我が儘なお姫様と言う認識らしく。困り顔を張り付かせながら、どうしたモノかって雰囲気で何事か考え込んでいる様子。
そうして一行は、雰囲気の良い
それでも周囲には見た事の無い花や植物が植え込んであって、落ち着けるスペースである。ハスキー達もご主人の側に寝そべって、傍目にはリラックスした表情だ。
とは言え視線は、抜け目なく周囲を窺ってはいるけど。
「どうやらこの場所に、秘薬素材の1つがあるのは間違いないみたいだね、護人叔父さん。後は何とか、売って貰うように交渉に持ち込みたいよね。
紗良姉さん、お金になりそうなものはたくさん持って来たんでしょ?」
「うん、魔石も魔結晶も大きい奴は全部持って来たし。後は金貨とか、売らずに持ってたのは魔法の鞄の中に入ってるよ。
でも、向こうの雰囲気だとどうなんだろうねぇ?」
「そうだな、まぁ最初の妖精ちゃんのやらかしがどっちに作用してるか不明だけど。何とか穏便に事を片付けたいな、高い値段でも買い取れるなら御の字なんだが」
東屋のような場所に通されて、向こうは突然の客人にバタバタしている様子。その隙を突いてのヒソヒソ話、まずは集落に入る事が出来て良かったと思いつつ。
そんな当の妖精ちゃんは、香多奈にお説教されている際中である。ただし全く懲りた感じは無いので、またやらかす可能性が無いとも言い切れない。
その内に若いエルフの女性が、お盆を持ってやって来た。それから全員にハーブティーのようなモノを
こちらを遠巻きに眺めているエルフの住人達も、少なからずいるようだ。ただし今の所は、こちらに近付いて来る酔狂な者はいない様子である。
お説教に飽きた香多奈は、そんな集落をスマホで撮影し始める。エルフはリリアラで見慣れているとは言え、集落に入り込んだのは初なのだ。
そんな事をしていると、ようやく向こうに動きが見えた。
「待たせて済まなかった、異界の冒険者よ……妖精の姫君の近親者であるそうだな、取り敢えずは我ら“ヨトの里”はあなた達を歓迎しよう。
以降、自由に集落の中を見て回って貰って構わない。妖精の姫君と共に、泊まる家もこちらで準備する事にしよう。そちらのペット達は、庭にでも放しておいてくれ。
おっと、自己紹介がまだだったかな。私は“ヨトの里”の若長フィルドーと言う」
「そちらの歓待の意には感謝します……我らは異界の冒険者で、家族で探索活動をしている者です。この里に来たのは、友人である妖精の姫の導きに従って、秘薬素材である『霊薬エルク草』と『熟した虹色の果実』を入手するためです。
大事な物とは思いますが、出来れば売って頂きたく……」
護人の返事を聞いて、途端に“ヨトの里”の若長フィルドーは渋い顔に。確かに『霊薬エルク草』は里にストックはあるし、『熟した虹色の果実』の採れる場所も知っているそうなのだが。
秘薬素材だけに、おいそれと見知らぬ相手に譲る事は出来ないとの事で。どうしてもと言うなら、親睦を深めてそちらの性根を示して欲しいとの提案。
それを香多奈が、姉達にこっそり通訳しながら話に割って入る。つまりは、妖精の姫君の近親者でも、譲る対象にはならないのかと。
それを耳にして、やっぱり苦々しい顔になる若長フィルドーである。さきほど門までやって来た、長老レムリア辺りなら圧に押されて頷いてしまうかもだけど。
最近の若者たちは、実力主義に偏る傾向があるそうで。
つまりは、自分の腕を知らしめて余所者に大きな顔をされたくないと。そんなプライドが見え隠れしていて、どこの町の若者も血気盛んなんだなと思う護人。
逆に言えば、提示された力比べに勝利すれば、こちらの意見も通りやすくなるって事でもある。それなら分かり易くていいねと、姫香などは乗り気な様子。
血の気の多さでは負けない少女は、その戦いを受けて立つよと勇ましい限り。飽くまで友好的に行きたい護人としては、渋い表情で承諾しかねるのだが。
橋渡し役の妖精ちゃんからして、やっちゃれやーと広島弁で騒ぎ立てる始末。どうも香多奈との付き合いが1年にも及んだせいで、ガラも少々悪くなってしまった模様でちょっと笑える。
いや、広島弁=ガラ悪いって訳では決して無いのだが。
若長の後ろには、これまた血気盛んな顔付きのエルフが数人、こちらを見遣ってニヤニヤしている。どこの集落も、若者と言うのは余所者に過剰に反応するらしい。
それでも、妖精ちゃん効果かこの集落での自由と泊まる場所は何とか確保出来たのだ。後は交渉なり対決など行って、こちらの望むカードを得ろと言う事か。
驚いたのは、若者の大部分が割と立派な装備を着込んでいる事。こんな場所に住んでいるので、日常的に戦う事は当たり前の風景なのだろう。
だとしたら、剣や魔法の腕自慢が住民にいたとしても不思議ではない。なるほど、それなら余所者に対する反骨心が強いのも頷ける。
さて、そんな戦士達を打ち破っても果たして良いモノか?
改めて若長フィルドーと、それから長老のレムリアと話し合って、現在『霊薬エルク草』の在庫がしっかりある事を確認して。長老から今夜は持て成して貰う約束を取り付けて、後は時間まで寛いでくれとの事。
ついでに案内役を付けると言われ、1人の若い女性のエルフを紹介されてしまった。モリーと言う名の少女は、どうやら長老のお孫さんらしい。
彼女は異界の冒険者を初めて見たそうで、ハスキー達の迫力にややビビっている様子。猛獣使いですかと尋ねられた姫香は、皆いい子だよと
そして相変わらずのコミュ力で、ハスキー達を撫でさせてあげたり。言葉の壁を打ち破る馴れ合いで、あっという間に仲良くなって行く。
香多奈も姉達に翻訳しながら、向こうのエルフ少女の情報を色々と得て行く作業。長老の孫のモリーは、どうやら中立の立場であるみたいでまずは良かった。
その後の工作で、仲良くなるために渡したチョコのお菓子が、殊の外効果を発揮したらしい。同じく妖精ちゃんも噛り付いているが、これでモリーはこちらの勢力に取り込めたっぽい。
そこから更に色々と事情聴取、さっき若いエルフが言ってた力比べとは、一体どんな事をさせられるのかと。モリーはちょっと考えて、恐らく普段の訓練で若い連中がやってる事だろうと推測を話してくれた。
それから成人の儀で行われる、度胸試し的なアレコレとか。集落の血気盛んな若者たちは、己の勇猛さを示すために時期を問わずに開催しているとの事。
少女は、里の若い娘へのアピールでは無いかと邪推しているみたい。
「まぁ、そう言うのってあるよね……男って、幾つになってもバカ騒ぎが好きだし」
「あっ、そっちの世界でもそうなんだ? 本当に困り物よね……精神的な成長が遅いのよね、男達はみんな」
酷い悪口の言い合いで、また距離を縮める姫香とモリーである。隣で聞いている護人は、ひたすら肩身の狭い思い。ちなみに今は、全員で里の見学ツアー中だ。
巨大な木の柵で覆われたエルフの集落は、思ったよりも広かった。住民は軽く1千人を超すだろう、所々に密集した風変わりな建築物が目に入って来る。
それを熱心にスマホで撮影しながら、翻訳に忙しい末妹の香多奈である。モリーの年齢だが、香多奈よりは上で姫香よりは下かなって感じ。
とは言えそこはエルフだし、実年齢は不肖である。話し方からも、幼いような物知りなような感じを受けて、判断は不可能である。とは言え長老のお孫さんなので、キチンと教育は受けてる筈。
エルフの里は、異世界の情緒と言うフィルターを差し引いてもとても美しく作られていた。それを感心して眺めながら、来栖家チームは散策を楽しんで行く。
やがて他の建物から離れた場所に、一軒の大きな建物が見えて来た。ここがどうやら、長老家族の住んでいる屋敷であるらしい。今夜泊めてくれる家でもあるらしく、ひたすら感心して眺める子供たち。
そんな来栖家を、モリーが自慢げに中へと招き入れる。
――こうして来栖家チームは、異世界最初の寝床を確保したのだった。
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