第314話 若返りの秘薬を求めて異界を渡る件
妖精ちゃんに何とか渡りをつけて、ミケを助ける作戦に加わって貰えたのは幸いだった。そんな彼女
残念ながら、紗良の持っている3冊の錬金レシピには、そんな高度な秘薬の製作法など乗ってはいなかった。ただし妖精ちゃんには、その入手の当てもあるみたい。
この小さな淑女がこんなに頼もしく思えた事など、未だかつてあっただろうか。香多奈など一筋の光明を得たような表情で、頼りにしてるよアピール。
元々ノリやすい性格の妖精ちゃん、少女の見え見えのヨイショにも見事に
どうやらレシピとその素材の、当ては本当にしっかりとある様子。
「叔父さんっ、レシピ本と素材の採集に何日か掛かるかも知れないって。妖精ちゃんが案内してくれるから、野外に泊まる準備とかしてついて来いって!
そしたらミケさんも、薬で元気になるかもって!」
「へえっ、“若返りの秘薬”って本当にあったんだ……噂では聞いた事あるよね、探索で見付けたらウン千万とかウン億円で取引されるとか、そんな都市伝説っポイ奴。
護人叔父さん、妖精ちゃんの話に乗るなら支度するけど?」
姫香のその問いに、何とか体調を回復した護人も悩む素振りを見せる。確かに自分から振った話だが、半信半疑と言うかそんな高価な秘薬を、簡単に作り出せるのかって疑問は大きい。
それでも一緒に話を聞いていた紗良は、ウチの所有する秘薬素材は意外と多いとフォローの言葉。売りに出せば恐らく数百万になる素材が、秘かにストックされているとの事である。
温室で栽培しているハーブやら植物の果実やらと組み合わせると、何と『初級エリクサー』や『初級ポーション』程度なら、家の作業台で出来てしまうそう。その事実にはビックリだが、さすがに紗良も試した事は無いそう。
何しろ秘薬素材はどれも高価なので、勝手に実験に使って減らすのも怖い。ところが妖精ちゃんは、持っているレシピ本の中から
それを含めて、来栖家は朝から準備に大わらわ。
「仕方ないな、孝明先生にも治療の手立ては無いって
姫香、悪いけどお隣さんにしばらく留守にするからって、家と家畜の世話を頼んで来てくれないか。紗良は妖精ちゃんに言われたレシピを頼む、後は出来れば旅行中の食事の用意を。
俺と香多奈で、外泊に備えてのキャンプ道具を準備しようか」
「了解っ……どこに出掛けるか知らないけど、1週間あれば帰って来れるよね、香多奈? もう少し長めに頼んでおこうか、爺婆の所とか協会にも留守にするって伝えた方が良いかな。
その辺はどうしよう、護人叔父さんっ?」
妖精ちゃんの指示は曖昧で、恐らくは本人も確実な日数は分からない模様。紗良も大急ぎで、言われた指令に取り掛かり始めて途端に家の中は賑やかに。
姫香もスマホを手に、さっそく家を飛び出して行く。各所への連絡は護人がすると言ってくれたけど、植松の爺婆の所だけは姫香がすると出掛ける前に約束したのだ。
ただまぁ、馬鹿正直に秘薬素材を取りに行くとか話すほど、姫香も考えナシでは無い。爺婆に心配を掛けないように、上手く本当の目的をぼかしつつ家を空けると説明するのがお互いの為でもある。
フワッと探索関係で、ちょっと遠征に出掛ける事になった感じで
そう電話で話し終える頃には、4軒並んだお隣さんの敷地へ到着していた。
「何だ、話し声がすると思ったら姫香か……護人の叔父さん、元気に退院出来て良かったな! 代わりにミケがダウンしたのは、気の毒だったけど。
獣医の先生が来たんだっけ、それでどうだった?」
「うん、老衰で先生にはどう仕様も無いって……だから別の解決法を探しに、ウチのチームで遠征する事になって。悪いけど1週間かそこら、留守番と家畜の世話を頼まれてくれないかな?
いつも通り、その間の卵と乳牛は全部そっちで貰っていいから」
それは構わないがと、勝手口から出て来た凛香は少し戸惑った様子。姫香の雰囲気が、いつもより思い詰めている感じなのを薄々読み取ったせいかも知れない。
そこに反対側の家屋から、ひょっこりと猫娘のザジが現れた。“春の異変”以降、日馬桜町では全ての業務が
山の上の学習会も、今はもちろん休業中となっている。本当は、異世界チームの言語習得のための勉強会くらいは開こうかと、ゼミ生チームから打診はあったのだが。
今の所はオーバーフロー騒動も、まだ余韻の残る時期だったりする為。少し間を置いて始めようと、ムッターシャ達の了解も取ってあったりする次第である。
リリアラだけは、言語スキルを所持しているので別の勉強になってしまうけど。実は今も、小島教授や学生たちとの勉強会は熱心に行っている模様である。
さすが探索者と言うより、異国の研究者に近い存在ではある。互いの知識を惜しみなく与え合い、こんな田舎の山の上で崇高な研究会が毎日執り行われていようとは。
その内、本当にその辺に彼女の研究塔が建つ日は近いのかも?
当初の目的であるお隣さんへの伝言は果たしたけど、暇なザジは姫香に纏わりついて来た。そして結局は、出発準備に忙しくしている来栖家までやって来てしまった。
そして現在の来栖家の事情を知って、やや驚き顔に。猫獣人の彼女とミケは、どこかで通じるモノがあったのかも知れない。その治療法を探しに行くと聞いて、何とザジも協力を申し出てくれた。
それどころか、チームの皆を連れて一緒に来てくれるとの強引な同行の申し出に。それはリーダーの承認が無いと無茶でしょと、もっともな香多奈の反論である。
説得して来るから待っててと、優しくミケを撫でて物凄い速さで戻って行く猫娘。この好意をどう受け止めれば良いのか、ポカンとそれを見送る来栖家の面々である。
ただまぁ、一刻も早い秘薬素材の収集は、もちろんミケのためにもなる。
手伝って貰えるのなら、それは喜ぶべき事態には違いない。そんな事を話し合いながら、キャンプ道具や必要な物を魔法の鞄へと詰め込んで行く護人と香多奈。
ついでに熟考した挙句、ミケもキャリーバッグに詰めて同行して貰う事に。もしお隣さんや植松の爺婆の元に預けて出掛けて、それが永遠のお別れになったらと思うと悲し過ぎる。
そして“若返りの秘薬”がひょんな事から出来たとして、素早く飲んで貰えるって利点もある。いつもならキャリーバッグに入れようとすると、物凄く嫌がるミケなのだけど。
今は小さく丸まって、抗議の気配も無い悲しさと来たら。
「ミケさん、狭苦しいけど少しだけこの中で我慢してね……妖精ちゃんが、ミケさんに効くお薬を作ってくれるって。
元気になったら、もう妖精ちゃんを
「護人さん、簡単に食べられる軽食と保存食、両方とも多めに揃えましたけど。異世界チームも参加するなら、倍くらいに増やした方がいいですかね?」
「そうだな、どこに向かうか分からないけど、現地で食料が購入出来るかも不明だし。済まないけど頼む、それが整い次第に出発しようか」
護人のその言葉に、元気な返事が子供達から。出掛ける時には、探索着は着ておいた方が良いのかなとの末妹の問いに対して。妖精ちゃんは、当然だと飛翔しながらの喝入れである。
つまりは、どうやら戦闘とまでは言わないけど、危険の待ち受ける道中には間違いなさそう。改めて気を引き締めつつも、出撃準備を進める子供たち。
紗良もようやく、追加のランチの準備が終わって自分の支度にと2階に上がって行く。護人の装備に関しては、実は前回の探索でボロボロになってしまっていた。
替わりの装備を在庫から適当に見繕っての、今回のお出掛けとなった次第である。前回あんな目に遭っておいて、危機管理がなって無いかもと思わなくもない。
とは言え、ミケに残された時間は少ないのも本当で。
背に腹は代えられず、やや慌てながらの午前中の出発に。外で待機していたハスキー軍団は、相変わらず元気にキャンピングカーへと乗り込んで行く。
ちなみにルルンバちゃんも同じく、前回小型ショベルの機体を失ってしまって戦力大幅ダウン中。今回は否応も無く、飛行ドローン形態でのご同伴となっている。
幸いにも、魔銃とかの後付けパーツは前回の探索から持って帰る事が出来ていた。そんな訳で、一応戦力的には大きく減じてはいないのが有り難い。
茶々丸と萌も、ついて行くのが当たり前だとキャンピングカーに乗り込む仕草。そこにフル装備で準備万端の、異世界チーム“皇帝竜の爪の垢”が当然のように参戦して来た。
「えっ、みんな本当に手伝ってくれるのか……どこに行くかは妖精ちゃん任せで、
軽いノリで、手伝って貰うには気が引けるな」
「もちろんそんな軽いノリは、チーム内ではザジだけだ。ウチのチームの雇い主は、飽くまで君達なのは間違いが無いからね。
ならば一生懸命に、君達を守るのが我がチームの役目でもある訳だ。なに、妖精の起こす奇跡は一度しっかりと、この目で味わってみたかったからね。
そこまで重く受け止める必要は無いよ、モリト」
そんな異世界チームのリーダーの言葉に、特にキザったらしい台詞と言う訳では無いのに、思わずジーンとなってしまう護人である。子供達は、素直に彼らの同行に感謝しているみたい。
妖精ちゃんも、自分の弟子がまた増えてしまったなみたいな尊大な態度。特に彼らに対して、同行を否定する気も無いみたいで良かった。
そんな訳で、ようやく出発する来栖家チームのキャンピングカー。異世界チームは、その内装を珍しそうに眺め回している。移動する部屋とも言えるキャンピングカーが、さぞ物珍しいのだろう。
魔導ゴーレムのズブガジも、ちゃんと後ろからついて来てくれているみたいだ。そんな2チームのドライブだが、何とほんの5分程度で終了の運びに。
つまりは麓まで車は進まず、峠道の途中の空地にキャンピングカーは停車させられた。そんなチビ妖精の指示に、香多奈だけはピンと来るモノがあった模様。
ここは1年前に、香多奈が電動自転車でコロ助と通学していた時代の思い出の場所である。つまりはたまに寄り道して、秘密基地を作っていた場所に間違いはない。
そしてそこは、妖精ちゃんとの出会いの場所でもある訳だ。
懐かしさより、香多奈はあの場所が家族にバレたら不味いなと、焦りの感情が先に立ってしまう有り様。何しろこんな時代での寄り道がバレたら、確実に姉と叔父さんから大目玉を喰らってしまう。
それだけは阻止したい末妹だけれど、コロ助はそんな主人を無視して山道へ皆を案内する素振り。割と大荷物の一行は、車から降りての作業にバタバタしている。
案の定、どうやら妖精ちゃんの向かう先も、コロ助と全く一緒の様。ようやく準備が整った一行に対して、ついておいでと案内してくれた先にあったのは。
ああ懐かしの、香多奈の渾身の作であるオンボロ空中秘密基地が。
「……あれっ、これは誰の仕業だろうねぇ、香多奈? どこかの子供の造った秘密基地かな、随分とオンボロだけど。
もう使われてないみたい、妖精ちゃんはここに案内したかったのかな?」
「あらっ、違うみたいだねぇ姫ちゃん……その裏に飛んで行っちゃったね、何かあるのかな?」
何だろうと、真っ先に確認に向かったのは猫娘のザジだった。続いて飛行形態のルルンバちゃんが、宙を
そして次の瞬間には、皆おいでと手招きの合図が猫娘から。素直に従うハスキー軍団は、この2チーム合同探索に特に文句も無い様子。
護人は一応、鑑定プレート(魔素)を取り出して、念の為にと周囲の魔素濃度をチェックしてみる。結果は全く濃くも無いし、ダンジョンの気配は近くには無さげ。
それでもハスキー軍団に続いて覗き込んだ死角には、いかにも怪しい大きな穴が開いていた。護人の直観に従うと、その穴はこちらの世界以外の場所へと続いていて、先を窺う事は叶わず。
背後のリリアラが、その穴を見て光の魔法を唱えてくれた。それで分かったのは、入り口の狭さに較べて中は意外と広く出来ている模様だと言う事。
これなら腰を曲げて進まずに済むが、依然としてこの穴がどこに繋がっているかは不明なまま。そして異世界チームは、何やら背後のズブガジと相談していた。
確かに、ここを潜り抜けるのは彼には難しそう。
ところが、魔導ゴーレムはこんな困難も予測済みだった様子。折りたたむ様に変形したかと思ったら、皆の後に続いて穴の中へと入って行く。
その高スペック振りには、素直に子供達も感心して拍手を送っている。
――それはともかく、この穴はどこへ続いてる?
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