第307話 並列攻略式ダンジョンの3層へ辿り着く件



 ハスキー軍団が見付けた階段は、ゴースト3匹が守護していたようだ。その門番共は割と手強い手応えで、さすが特A級と護人は改めて思い直す。

 ただし子供達の関心は、そいつ等が落としたスキル書やレア素材に他ならず。レア素材としてドロップしたのは、血塗られた布系の素材だったみたい。


 妖精ちゃんが興奮しているので、恐らくは魔法アイテムだと思われる。まだ1層目だと言うのに、ここまでスキル書2枚に魔法アイテム1つとは、さすが新造ダンジョンである。

 などと浮かれるのは1層まで、2層は出現する敵の大きさが並の騒ぎで無い有り様。ゴーレムは全て3メートル級、しかも肌の黒いトロルまで混ざっている。


 装備も良い物を着込んでいて、武器も切れ味の良さそうなモノが目に付く。しかも最初から魔法使いトロルやら、ナイト装備の奴まで出現する始末である。

 この1ダース余りの敵を片付けるのに、約15分も掛かってしまった。幸い怪我人は出なかったモノの、2層を進む前にこの足止めである。

 明らかに、今までのダンジョンとは難易度が違う。


「みんな、怪我は無いか……しかし参ったな、これは5層に辿り着くのも苦戦するかもな。とは言え、他のチームと約束した手前、時間内に辿り着かないと不味いし」

「ベースアップはしたいけど、ちょっと無理かなぁ……さっきのトロルは強かったね、ゴーレムも今まで以上に硬かったし。

 でもまぁ、進めない事は無いと思うよ、護人叔父さん」

「そうだよっ、茶々丸と萌のペアもトロルを1匹倒してたし。でも本当にビックリするよねぇ、萌の騎士モードの戦い方ってば。

 堂々としてて、まるで本物のナイトみたいだったよ!」


 そう香多奈に褒められた茶々丸と萌は、満更でもない様子で少し照れている様子。萌が着ているのは忍者服で、見た目はナイトとは程遠いのだけれど。

 実際、その強さは3倍以上身体の大きなトロルに全く引けを取らなかった。前衛としての壁役もこなせるのなら、来栖家チームの弱点の緩和にもなりそう。


 何しろ、幾ら強いと言ってもハスキー軍団は総じて体重が軽いのは否めない。足止めしての壁役となると、巨大化したコロ助が何とかって感じ。

 茶々丸と萌のペアも、その点で言えばどっこいではあるモノの。茶々丸のチャージ技は、巨大な敵を押し返す程の威力を発揮するのだ。

 そこに萌の竜パワーと、黒槍の攻撃力が加われば強力ユニット誕生かも。


 事実、巨体を誇るトロルの亜種も、思わず怯んでくれていた模様。いや、結局はこのペアで1匹ほふってくれたので、それ以上の成果と言えよう。

 小休憩中にそんな話をするけど、あまり褒め過ぎて調子に乗られても困るので。程々に声を掛けつつ、チームの方針としてはやっぱり行ける所まで進むしか無いかなって感じ。

 2チームとの約束もあるけど、まだ階段を1つ降りただけなのだ。こんな浅い場所で泣き言など言ってられないと、子供達は意気も高く続行を申し出る。


 ところが、2層の中盤で予期せぬ出来事が来栖家チームに襲い掛かった。まずはツグミが、珍しく罠を解除し損ねたみたい。降り注ぐ槍の罠が作動して、それをモロに浴びるコロ助。

 先頭集団のみ、この罠の範囲に入っていたのはある意味僥倖ぎょうこうだったのだろう。何しろレイジーとツグミは、抜群の運動神経でその大半を避けてしまっていたのだ。


 コロ助にしても、反応はしていて浴びた槍も2本で済んだみたい。とは言え、それを見ていた護人と子供達は思わず大きな悲鳴を上げてしまう破目に。

 槍の雨の作動はほんの一瞬で、遅まきながらルルンバちゃんがアームを伸ばして保護の構え。護人もダッシュで近付いて、コロ助を抱え上げると子供達に治療の指示を飛ばす。


「ベストで弾いたのもあったのかな、カバーされてない首筋の2本が厄介だな。俺が槍を抜いたら、すぐにポーション振りかけて治療を開始してくれ」

「了解です、いつでもどうぞ!」

「コロ助っ、痛いだろうけど頑張って……!」


 香多奈の半泣きの声援に、コロ助は尻尾を振って応える余裕はある模様。どうやらHP効果が作用して、酷い怪我に見えてもそこまででは無いのかも。

 実際、護人が刺さった槍を抜き去った後に、姫香が素早く上級ポーションをぶっ掛けて。それに加えての紗良の『回復』スキルに、流れ出ていた血は一瞬にして止まってしまった。


 そして数分後には、何事も無かったように立ち上がるコロ助。ホッとした安堵の空気の中、コロ助の首筋に抱きついてマジ泣き一歩手前の末妹である。

 とは言え、この結末は和やかとも言えない微妙な空気が流れる始末。いやしかし、こんな怪我は今までレア種との遭遇以外では無かった気が。ツグミは申し訳なさそうに耳も尻尾も垂れているけど、彼女のせいとも責められない。

 何しろツグミの斥候役は、飽くまでスキルの代用でしかないのだ。


「参ったな、こんな殺意の高い罠はダムダンジョン以来かな……あそこのチーム分断の罠も、今思えば酷かったよな。

 ここではそれだけは避けて、とにかく慎重に進もうか」

「あっ、護人叔父さん……地面が揺れてる、敵が近いかもっ!?」

「そこの角から、またゴーレムと肌黒トロルが接近中です! 今度は初っ端に、私のスキルで先制しますねっ!」


 そう掛け声をかけて、一歩前に出る勇ましいオーラの紗良。実際に長女は、家族を傷付けられて秘かに怒りゲージが溜まっていたのだ。

 それも作用しての《氷雪》スキルに、ミケの『雷槌』も混ざって周囲は大変な事に。毎度の併用だが、ミケも家族を傷付けられてかなりご立腹だったのかも。


 その威力は、角を曲がって姿を現した3体を、一気に戦闘不能に追い込んでしまった。ついでに続く4体にも、少なからずの打撃を与えた模様。そこに混じってた厄介な魔法職トロルに、すかさずレイジーが接近戦へ持ち込んで行く。

 護人と姫香もすかさず参戦、残りの面々もサポートにスキルを振るい始める。茶々丸と萌のペアも、騎士モードからのチャージで戦闘参加。

 この辺りから、ハッキリ来栖家チームが有利に。


 そして5分後には、曲がり角での戦いは完全に終止符が打たれていた。ホッと一息の護人は、家族に怪我した者が無いかと安否確認。驚いた事に、終盤はコロ助も参加していた模様で。

 そんなコロ助は完全復活をアピールして、今も元気に尻尾を振って周囲に愛想を振りまいている。それを見て、香多奈もホッと安堵のため息。紗良もMP回復ポーションを用意しつつ、皆に休憩をうながしている。


 それにしても、急に罠やモンスターの圧が強くなったこの第2層。それをどう解釈するべきかと、護人は休憩しつつも頭を悩ませる。

 香多奈はゴーレムとトロルのドロップを、ルルンバちゃんと一緒に回収に向かっていた。そして何か良さげな武器や鉱石が、いっぱい落ちてるよとご機嫌に家族へ報告して来る。


 中には明らかにオリハル製の剣や手甲も混じっていて、これだけでひと財産である。魔石も既に極小サイズは存在せず、魔石(小)がメインの有り様だ。

 このまま進むべきか、かなり怖い選択になって来そうな勢いだけど。約束もあるし、2時間は全力で進まなければ他の2チームに迷惑が掛かってしまう。

 何より、ペット勢も子供達もまだまだヤル気充分。


 リーダーとして舵取りが難しいけど、ここはやはり進むべきだろう。ハスキー軍団は相変わらずの先行偵察で、宝箱と階段を既に見付けている模様である。

 宝箱についてはこのダンジョン初だけど、素直に喜んでいいのか悩ましい所。それは支道の突き当たりの小部屋にあって、全員で入るのはとても無理な大きさだった。


 相談した結果、護人とレイジーと姫香とツグミのダブルペアでチェックに入る事に。ツグミは罠の確認に必要だし、何か出た時には護人が盾になるつもりである。

 そして案の定の罠は、どうも毒霧の噴射だった模様。その瞬間に、ツグミが闇を操作して何かを封じ込める仕草。咄嗟に姫香も、『圧縮』を使ってそれをお手伝い。

 必ず罠があると、張って備えていたのが大当たり。


「やった、毒だか何だか分からないけど、出て来た仕掛けを空気ごと『圧縮』してやった! これならもう漏れないし、安全だねっ!

 ツグミもナイスフォロー、本当に賢い子だねっ!」

「やれやれ、そんな事も出来るようになったのか。凄いな、姫香とツグミのペアは……それじゃあ開封作業は、俺がスキルを使ってしようか」


 そう言って護人は、《奥の手》を伸ばしての遠方からの開封作業の続き。正面に立つといかにも危ないので、さっきもこうやって仕掛けを騙していたのだ。

 それにしても、今までの罠レベルならツグミが何事もなく解除してくれていたのに。このダンジョンの殺意は、今までのそれとは比では無い感じ。


 それでも宝箱の中身に関しては、ダンジョンの本能要素が勝っていたと思われる内容だった。つまりはなかなかの品揃えで、数もそれなり。朱色の宝箱の中からは、まずは薬品がポーション1400mlにエーテル900mlに解毒ポーション800mlが。

 解毒剤まで入っているとは、何とも洒落が効いているけ。他にも鑑定の書が8枚に木の実が7個、魔結晶(中)が7個に 魔結晶(小)も14個入っていた。


 ついでのように底の方には大金貨が百枚単位で、それから高級そうな朱色の布素材が。それからやっぱり高級そうな酒瓶や香水瓶が何本かずつ。

 それより紗良が喜んだのが、同じく高級そうな食用油とシャンプーやトリートメントのセットだった。それらは箱入りで、まるでお歳暮の贈り物のよう。


 妖精ちゃんが宙から眺めながら、朱色の布素材に反応を示す。つまりは魔法アイテムらしいけど、同じく7個入っていた木の実にも反応して。

 それって毒入りだぞと、香多奈に向けて衝撃の告白をして来た。


「うわっ、毒の木の実とか酷い……今までの木の実と、ほとんど見分け付かないじゃん! 本当に殺意高いかも、このダンジョンってば。

 今まで以上に気を付けなきゃ、油断が命取りだよっ!」

「そう言うアンタが一番気をつけなさいよね、香多奈。毒の木の実はどうする、紗良姉さん? 錬金術の研究に持って帰るなら、分かるように仕訳けて持って帰るけど。

 いらないなら、この部屋に置いて行くかな?」


 紗良はいらないと言ったので、姫香はそれを宝箱に戻して小部屋を後にする。最後に『圧縮』スキルも解除して、毒霧も部屋に置き去りに。

 そうしてそそくさと、ハスキー達が教えてくれた階段方向へと移動を果たす。そこにはガーディアンのように、2体のゴーレムが待ち構えていた。


 そいつを護人とコロ助のハンマー持ちに加えて、ルルンバちゃんのゴリ押しで討伐する。終始こちらのペースでの戦いの結果、怪我人もなく無事に勝利にぎつける事に成功した。

 こうしてようやく3層へ、ここまで1時間掛からない程度だ。やや遅れ気味な気もするが、そこは致し方が無い。無理してペースを上げて、被害が出ては元も子もないのだ。



 そうしてMP回復休憩を挟んで、いざ3層の探索を開始する一行。そこも広めの遺跡仕様の通路で、ルルンバちゃんも余裕で進めて不便は無いのだが。

 さっきのダークトロルや、大型のゴーレムが敵として出て来るって事でもあって戦闘は割と大変。それを踏まえて、油断せずに歩を進める一行である。ハスキー達も、本体とそんなに距離を取らずの真剣探索モードである。


 彼女達も、このダンジョンの難易度をキッチリと把握している様子。そしてやっぱり出て来るダークトロル、しかもペアを組むモンスターが今回はエグかった。

 ソイツは初見の敵で、一言で表現すると“浮遊する目玉”だった。バスケットボール程の大きさで、見た目は血走って飛び出た眼球そのもの。

 そんなのが半ダース、宙に浮いて迫り来る。


「わっわっ、何アレっ!? 叔父さんっ、空飛ぶ目玉がこっちに来てるよっ!? アレもモンスターなのかなっ、初めてみるけど不気味だねっ。

 どんな能力持ってるのかな、目が合うと負けとか?」

「何だありゃ、紗良は知ってるか?」

「えっと、確か……イビルアイとかそんな名前で、遺跡型ダンジョンにたまに出没する敵だったかと。香多奈ちゃんの言う通り、目が合った敵を金縛りにしたり眠らせたり、そんな攻撃をして来る筈です。

 魔法耐性が強くって、弱点は物理で殴るか発光系の魔法かな?」


 さすが来栖家の誇る秀才、ダンジョンの予習はバッチリである。それよりその能力を知らずに遭遇した、ハスキー軍団の様子が明らかにヘン!

 護人は咄嗟に“四腕”からの『射撃』スキルで、噂のイビルアイを撃ち落とそうと躍起になる。その隙に、一緒にいたダークトロル3匹が、フリーなままに武器を振り上げて近付いて来た。


 そして固まったままのハスキー軍団に接近して、一撃で仕留めようと武器を振り下ろす。それを見た子供たちの悲鳴と、何とかそれを阻止しようと走り寄る姫香。

 護人の弓矢で目玉を2匹を倒したが、未だにハスキー達の金縛りが解けるきざしは無し。





 ――3層最初の遭遇戦は、そんな悲惨な状況から始まった。







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