第306話 4つの扉奥を3チームで攻略する件
「それじゃあ、こっちは3チームしかいないから攻略は不可能って事? あらら、せっかく準備して来たのに、ヤル気は空回りなのかぁ」
「いや……無理すれば3つの扉でも、最低限の通路は開くはずだ。恐らくは5層の中ボスの間だな、その奥に行くのを阻む仕掛けだとは思うんだが……。
3つ同時クリアでは、完全に次の扉が開いてくれないかもな」
「ややこしいんだな、その“並列攻略式ダンジョン”ってのは……ちなみに、その情報は本当なのか?
アンタの推測が間違っている可能性も、全くのゼロって訳でもないんだろ」
そう口にする
セキュリティの高い場所だと、確かに奥へと達せさせない手段を講じるダンジョンもあるかも知れない。それ以前に、難易度も相当高いとの噂もあって嫌な感じ。
中の様子は新造ダンジョンだけあって、入って見るまで全く分からなかった。現状の認識ではどうやら一般的な遺跡タイプらしく、ゼロ層らしきフロアの広さもまずまずと言った所。
それから肝心の深さだが、こればかりはムッターシャも判断を
“喰らうモノ”の悪知恵で、もっと成長している可能性も無くはない。
その点を踏まえて、改めて進むか戻るかを論議するチームリーダーたち。せっかくの人数の多さも、並行攻略に割り振ると全く関係が無くなってしまう。
いや、チームごとに攻略して行けば問題は無いのだし、少なくとも5層までは辿り着けそう。ただしその後に、時間を合わせて中ボス撃破となると、少々困難かも知れないが。
そんな話し合いの結果、それじゃあ5層まで行ってみようとの意見が多数。そして可能なら、中ボス撃破は今からきっかり2時間後に設定する流れに。
そして約束の時間が経過しても、何も変化が無かったら各自戻って来る方向で。護人もそれを承認して、力が及ぶ限り頑張るとの意思表示を行う。
何しろ特A級のダンジョンなど、チーム初の探索である。とは言え自分達には荷が重いかもと、逃げ口上を張るのも情けない。ここは地元のチームなのだし、頑張り所なのも確かである。
ムッターシャも勝柴も、特に気負わずその作戦には同意の構え。それから時計を合わせての、いざ3チーム揃っての後略がスタートする運びに。
なお、異世界チームもこちらの時計の見方は既に習得済みで心配なし。
「結局は私たちだけで探索になっちゃったね、護人叔父さん。まぁ、その方が気が楽かな……ハスキー軍団も、他人の指示出しとか思いっ切り無視してたし。
ウチのチームは、やっぱり護人叔父さんに仕切って貰わないとね!」
「そうだね、ミケさんもさっきまで落ち着きが全然なかったし。茶々丸達も、やたらと人見知りしてレイジーの後ろにばっかり隠れてたし。
人数は減っちゃったけど、ウチはこの方が力を発揮出来るんじゃないかな?」
仕切り直しとなった、今は扉の1つを選択し終えた来栖家チームの状態だけれど。そんな感じで、子供達はチームでの攻略に前向きな感じで何より。
それよりも、扉前のフロアはひょっとしてゼロ層扱いだったのかもと、推測を述べる紗良である。そうすると、いよいよこの先が本格的な第1層となる訳だ。
この薄暗く続く通路も、その奥の構造も見た感じは遺跡タイプのようである。そんなダンジョンを丸ごと呑み込んだ“喰らうモノ”だが、果たして普通に倒せるのかとの疑問も当然ある。
何しろダンジョンは、コアを壊しても休止するのみで死なないのだ。“喰らうモノ”がこの特性を受け継いでいたらと思うと、その心配は至極もっとも。
その点はムッターシャやリリアラにも分からないようで、とにかくコアを破壊すれば全ては判明すると。少なくとも、その状態に持ち込もうとの意欲で、今回の探索は取り掛かる事に。
それは来栖家チームも同じ事、地元のダンジョンなので放置など論外である。出来れば妖精ちゃんにも知恵を出して貰って、この厄介者の処分を手伝って貰いたい。
その当人は、相変わらず同行はしてくれるも呑気な表情。
いつものように香多奈の頭の上に居座るのみで、積極的な発言は今のところ皆無である。末妹も、これでクリアの手順は正解なのと質問はしてくれているのだが。
はぐらかすように、敵が来たぞと知らせてくれるのみ。
実際敵は進行方向からやって来ており、いつものようにハスキー軍団が先行してお出迎え。それに付き従うルルンバちゃん、茶々丸と萌コンビも遅れて参戦。
敵の群れは、さっきも出て来たスケルトン兵士が大半だった。それを見て、さっきはゴーストも混じってたよねと、白木の木刀を準備する抜かりの無い姫香。
護人も魔断ちの神剣を抜刀して、ハスキー達のフォローへと回る。もっとも、骨モンスター相手なら、シャベルで『掘削』で片付けた方が効率が良いのだけれど。
そこは“四腕”を発動して、こちらも抜け目なく戦況を見定める護人である。背後からの応援を励みに、二桁で迫って来る骨モンスターを撃破して行く。
程無く出現した敵は、全て綺麗に倒し終える事に。
「順調だね、護人叔父さんっ……こっちでは、ゴースト2匹やっつけたよ! ちょっと手強かったかもだけと、まだ1層だし余裕だねっ!
他のチームも、多分スイスイ進んでるだろうね」
「そうだな、そう言えば時間合わせ縛りもあるんだったな。余りモタモタしてたら、中ボス戦に間に合わなく恐れもあるしな。
レイジー、今回は分岐を無視して次の層の階段を探してくれ」
「えっ、分岐を無視したら宝箱が見付からなくなるじゃん! ちゃんと探そうよ、見逃して進むのは勿体無いよ、叔父さんっ!」
毎度始まった香多奈の我が
そんな姫香の隣には、茶々丸と萌のペアがヤル気を
つまりはハスキー達とお揃いで、彼はこれを大いに気に入っている模様。さっきの戦いも《巨大化》を少々使いながら、『角の英知』と《刺殺術》で骨モンスターを退治して
とは言え、周囲の面々は見慣れていないだけに、仔ヤギ姿の茶々丸の戦闘シーンは凄い違和感が。それでも自身の角だけでも、その跳躍力と突進力を合わせると結構強い茶々丸である。
ただし、例の強力な黒槍は手が無いので使えないけど。
その武器と『上忍の忍者服』を譲り受けたのは、人型に《変化》した萌だった。人型と言っても、顔は仔ドラゴンのままで半人半竜って感じ。
その身長は、香多奈とどっこい程度で傍目から見たら決して強そうではない。ところがさすが子供とは言えドラゴン、所有スキルの関係かその動きは並では無く。
先ほども、茶々丸に『騎乗』して前線で暴れ回っていた所。この積極性は、今までのドラゴン形態では見られなかった特性だ。まぁ、サイズ感からして無理は駄目と、香多奈も戦場に出すのは今まで控えていたのだけど。
人間形態を魔法アイテムで得てから、茶々丸とペアを組む事によって。家での訓練でのなかなかの奮闘振りに、護人からのオッケーもようやく出た次第である。
もちろん香多奈からの、猛烈なプッシュもあったけど。
そんな両者は、一緒にハスキー軍団に付いて行きたい茶々丸と、香多奈の側を離れたくない萌とで意見が分かれている様子。そして結局は茶々丸だけが、飛び跳ねるように遊撃に参加する流れに。
その辺の性格は、魔法アイテムを交換した今でも変わりはない様子。それを含めてチームの動きは、この特Aダンジョンにもフィットしそうで何よりである。
そもそもここの難易度は、“姫巫女”の予知の内容と異世界チームの供述から弾き出されたモノである。実際に探索してみないと、本当の所は分からないのが前提の算出だったりする。
そして今の所、護人が心配する程には敵の強さに強烈な上昇は見られない。最初の戦力分散の仕掛けにはビビったけど、それに関しても今の所は対応出来ている。
ぶっちゃけて言えば、今回で駄目だったら改めて4チームに揃えて出直せば良い話だ。あまり時間を掛けたら、ダンジョンも成長するので時間の猶予は与えるべきでは無いけれど。
そう思えば、今回の探索も偵察に近いと考えるべきかも。ついでに間引きをしてしまえば、次回以降の挑戦で多少は楽が出来るって寸法だ。
そんな事を子供に話しつつ、護人は遺跡フロアを進む。
「ここのダンジョン、入り口も大きかったけど分岐以降も結構広いねぇ。ルルンバちゃんも普通に進めるし、異世界チームもこれなら安心だね。
ただまぁ、敵も大きいタイプが出て来そうではあるよね?」
「そうだな、道幅もそうだけど天井もやけに高いしな。それから罠の類いも多いかもって話だったな、そこら辺はツグミとルルンバちゃんに頼るしかないんだけど」
「先行したツグミは、もう2つ見付けたって言ってるよ? やっぱり今までより多いみたいだね、私たちも用心してルルンバちゃんの後ろを歩いた方が良いかも?」
香多奈の通訳に、そうなんだと驚いた様子の姫香。そもそも会話している様子も無いのに、ペット達と意思が通じるのがかなりヘン。
そこがスキルの不思議と言うか、ルルンバちゃんも張り切って一行を導いている様子が窺える。敵が再び出て来るまで、この配置で進むべきなのは間違い無さげ。
何しろ他のメンバーは、罠感知やら索敵系のスキルとは無縁なのだ。スキル書では割と取得がメジャーな能力なのに、来栖家チームでは所有者ゼロと言う不思議。
代わりに他のスキルや、挙句の果てに称号の能力で代用しているのがこのチームの現状だったり。とは言え不便は無いし、出来てるなら良いじゃんってのが香多奈の感想である。
他の者も、まぁそんなモノかなって考えで現在に至る。
そしていつの間にか、先行していたハスキー軍団に追いついた後衛陣。どうやら厄介なチーム分断系の罠があったようで、それを案じて待っていてくれたらしい。
どんな罠だろうと、好奇心いっぱいの末妹の呼びかけに。ルルンバちゃんがチームが集合したのを見計らって、床の中央の石畳を踏み込む。
その途端に、遺跡の床や壁や天井が、劇的な変化を見せ始めた。驚いた子供達は、慌ててその場から退避しつつ、何が起きたのか観察する。
結果、今まで通って来た道は、いつの間にか出来た壁に遮断されていた。それから新しく出来た通路が、左右に伸びてまるで迷路型ダンジョンである。
更には、その通路の左右には入り口で見掛けた石像がズラリ。
「うわぁ……こんな大掛かりな仕掛けのダンジョン、今まで無かったかも? しかも迷路タイプみたいだね、ちゃんと戻れるのかも心配になって来ちゃう」
「仕掛けを作動しない事には、正しい通路が出現しない仕掛けなのかな? 確かに厄介だな、帰りの道も含めて。“喰らうモノ”は、生存本能の高い生物らしいし。
それがダンジョンの仕掛けに、どう影響してるのかかなり不安だな」
「あっ、でも……ハスキー達に迷いはないみたいですね。右の道を行くみたいですよ、壁の石像を最初に壊すみたいですけど」
紗良の言う通り、ハスキー軍団は新しく出来た道の1つに狙いを定めたよう。その前に、コロ助は白木のハンマーを準備して貰って、安全に道を通れるようにガーゴイルの駆除を始める模様。
茶々丸も完全にヤル気で、早速動き出した人型サイズの石像に自家製の角でのチャージ技を繰り出す。それを受けて、たった一撃で破壊されて行くガーゴイル。
コロ助もハンマーを振り回し、香多奈の『応援』を貰って無双し始めている。ツグミの『土蜘蛛』のサポートは、完全にオマケ程度で済んでいるほど。
護人も、新しく入手した『恐竜の骨のハンマー』でオマケの手伝いに入る。とは言えどう考えても、ペット勢の勢いの方が遥かに上で始末に負えない感じ。
しばらくすると、周囲は転がる魔石だらけになってしまっていた。その中にはスキル書も混じっていて、魔石(小)の割合もいきなり多い気がする。
さすが新造ダンジョンと、スキル書のドロップに無邪気に喜ぶ香多奈。姫香などは、他のダンジョンとのあまりの違いに少し神経質になっている様子。
敵の強さはともかく、誘い込まれてる感がヒシヒシとするのだ。その感触が姫香の第六感に触れて、警鐘がうっすらと鳴り響いているような感じ。
ただし、どこが変だとは現状ではハッキリ言葉に出来ないもどかしさ。
そして程無くして、2層への階段をハスキー軍団が発見したとの報告が。迷路に見えた遺跡も、実際にはそれ程入り組んではいなかった模様である。
そこも何と言うか、違和感ではある……奥に入って欲しくないのなら、普通はもっと複雑で意地悪な仕掛けを作っておくのではなかろうか?
何とも中途半端な仕様に、思わず裏を
――果たして、姫香のその予感は2層以降で的中するのだった。
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