第302話 ピンクの骸骨団が避難拠点を守る件



 日馬桜町の自警団チーム『白桜』は、あわただしく町内サイレンを鳴らした後に訓練通りの流れに乗って出撃の構え。そして住民の避難のサポートと、オーバーフローを起こしたダンジョンの特定を始める。

 細見団長の指揮の下、ほぼ全団員が消防署の駐車場へと集合する。それから特殊車両を総動員して、町内にある20以上のダンジョンの確認に向かう。


 既に住民の報告で、確定済みの場所も3つ程あった。そちらは探索者を派遣して、モンスターの駆逐に当たって貰うのがセオリーであるのだが。

 如何いかんせん、日馬桜町を拠点として活動している探索者は、ダンジョンの数に較べてとても少ない。去年から今年にかけて、それでも倍増してくれたとは言うモノの。

 やっぱり、全てのダンジョンをフォローには到底足りない現状である。


「オーバーフロー報告のあった“駅前ダンジョン”と“学校前ダンジョン”は、避難場所に近いから真っ先にフォローに向かうぞ!

 それから携帯電話と車両2台で、各所のダンジョン状況を把握して行く。各自で情報の共有はしっかり行って、住民の安全は最優先で行うように!」

「細見団長、林田兄妹と神崎姉妹と連絡がつきました! どこに向かえば良いか、指示が欲しいそうです。ちなみに、一番近い“神社ダンジョン”から敵が湧き出ているのを、れん君が確認したそうです。

 ただし、敵が多過ぎて兄妹2人での処理は難しいそうですが」

「……思った以上に事態は深刻ですね、細見団長。これで確認出来たオーバーフロー騒動は、全部で7つですか。避難場所に近いと言えば、“落合川ダンジョン”のオーバーフロー処理もしなければならないし。

 来栖家チームと凛香チームには、連絡はついたんですか?」


 そちらからは連絡は無く、どうやら向こうも敷地内のダンジョンに非常事態が訪れたのかも。連絡もなかなか繋がらないそうで、つい今しがたようやく凛香チームのリーダーがコールに出てくれたそうな。

 とは言っても、対応してくれたのは非戦闘員の和香と穂積である。どのチームの主力探索者も、現在は着替えとか戦闘準備に手が離せないそう。


 つまりは向こうも、拠点近くの3つのダンジョンがオーバーフローを起こしているっぽい。その対応は、例えゼミ生チームを合わせても大変だと思われる。

 ところが和香の話だと、今は異世界チームもいるから平気じゃ無いかなと余裕の素振り。ズブガジちゃんとか、メッチャ強いんだよと良く分からない話題を振られて困る団員さん。


 とにかくそんな子供の話を総合すると、山の上の4チームは現在3つのダンジョンのオーバーフローに対応中で。それが収まったら、香多奈ちゃんのいる小学校に向かうんじゃないかなって話だった。

 やはり敷地内にダンジョンを抱える家族は、対応が早いなと団員達が呑気に話す中。そりゃあ生活と言うか、人生が掛かってるんだからそうだろうと内心で思う細見団長である。

 彼ら4チームの足止めは痛いが、そんな理由なら致し方が無い。


「来栖家チームが何とか手すきになったら、小学校の避難所に向かってくれるそうだ。下条地区と大畠地区に、偵察車両を1台ずつ出そう。

 小学校のある上条地区はそのまま来栖家チームに任せて、駅と集会所のある中条地区は我々本隊と林田兄妹、それから神崎チームで対応しよう。

 おっと、そう言えば島根から来たA級チームもいるんだっけ?」

「あっ、そう言えば……完全に忘れてましたね、存在感はあるけど何でだろう? 連中とも、すぐに連絡を取ってみましょう。

 確か協会の敷地で、キャンピングカー生活をしていた筈」


 そんな感じで、情報収集と住民の避難の補助を最優先にと動き始めた自警団チーム『白桜』である。とは言え団員は、消防団員と町の有志の若者からなる十数名の集まりだったりするのだが。

 自治体の援助やら来栖家からのサービスによって、ここ1年で戦力は格段に向上しており。それでも専属探索者のレベルには遠く及ばず、この災難に対応出来るかは不透明な次第である。

 そんな彼らだが、地元の安全を確保するため必死に立ち向かう心積もり。




「うへっ、今山向こうを飛んで行ったの、ひょっとしてモンスターじゃ無かった? さっきの地震の後に鳴ったサイレン、やっぱ避難しろって合図じゃ無いかな。

 ウチは避難しなくて大丈夫なの、熊爺?」

「この辺の下条地区は、町の集会所なんかありゃせんからの。ウチの屋敷が避難場所じゃ……ほれ、座敷部屋を地域住民のために開放するぞ。

 ふすまを外して、続き部屋にするのを手伝っておくれ」

「えっ、この家にいっぱい人が来るの? それは大変だね、熊爺……僕たちはどうしよう、家の片付けも大事だけどモンスターを撃退する人も必要じゃない?」


 熊爺は落ち着いた顔で、そんな危ない事は子供はしなくて良いと口にする。とは言え、過去の辛い生活で荒事には慣れ切った元ストリートチルドレンの面々である。

 双子は強いし、モンスターを追い払うくらい訳無いよと最年少コンビを推薦するリーダーの正樹まさき。実際、立派な石垣に囲まれた熊爺邸は、住民が避難するには持って来いではある。


 とは言え、モンスターの襲撃に完璧に持ちこたえられるかと問われれば。決して万全では無いし、その辺の不安は確かにあったりもする。

 そんな双子の姉の天馬てんまは、以前から持っていた『自在針』と言うスキルに加えて。来栖家のスキル書の融通で、で新たに『おぼろ』と言うスキルを覚えていたり。


 それから弟の龍星りゅうせいも、昔からの『伸縮棒』に加えて、新たに『辣腕』と言う名のスキルを習得していた。そんな双子は、田舎って何でも大らかなんだなと、ただでスキル書を貰った経緯を思い返す。

 その理由も、その力で町や大事な人を守ってくれとの意思がこもっていて。香多奈たち同い年の友達と交流を深めた双子は、割とヤル気満々だったり。

 少なくとも、この新しい住処を守る気概は充分なキッズ達である。


 そんなキッズ達を尻目に、最初の発見以降は周囲にモンスターの影は見当たらず。逆にポツポツと、避難して来る住民が田舎のあぜ道に散見されるように。

 リーダーの正樹は、そんな彼らが安全に屋敷に辿り着けるか見張る役目に就任する。もし何かに追われていたら、有志を募って助けに向かう手筈である。


 しばらくは何事も無かったが、そんな避難活動についに暗雲が立ち込め始めた。その家族はやや遠方からの避難だったのか、老夫婦で軽トラでの移動だった様で。

 その後部の荷台に、明らかに異形な影が見え隠れしていたのだ。どうやらモンスターに絡まれて、必死にこうと四苦八苦しながら運転中の模様である。

 スピードも出し過ぎでフラフラしていて、今にも用水路に落っこちそう。


「あっ、緊急事態かも知れない……軽トラがこっちに向かって来てるけど、モンスターが荷台にくっ付いてるみたいだ。あれを救出に行けるかい、天馬に龍星!?」

「「わかった!」」


 探索者経験のない双子の戦い方は、いわば我流で独特である。自分達が逃げ延びるための能力の使い方であり、以前はそれで問題無かったのだが。

 香多奈や異世界チームに出会って、その考えにも変化が訪れ。敵を倒して魔石を得て、そうやって生活費を稼ぐのもアリかなって思い始めている次第。


 それは別に攻撃的な考えに至った訳でなく、将来の夢を得た感じの前向きな思考だった。特に香多奈だ、小学校に通いながら家族で探索をしつつ、しかも家は農業をしていて1年中食べ物に困らないと言う。

 何と言う贅沢で、充実した生活だろう……みんなでこの大変な時代を、家族で力を合わせて生きて行く。忙しいながらも、子供にもちゃんと役割がある。


 1日中食べ物を探して、空き家を巡ったり釣りをしたりするよりよほど有意義だ。この地での新生活は、本当に刺激にあふれていて面白い。

 双子は新たな役割を担うべく、敷地内から飛び出して敵の迎撃準備。子供が門から飛び出した事に驚いて、軽トラが急ブレーキをかけて停止してくれる。

 それが双子に幸いした、さすがの彼らも軽トラを安全に止める手段は無いので。


 そして荷台に乗ってたモンスターが判明、インプみたいな小悪魔形態の奴が2匹だ。天馬が素早く得意の『自在針』を使って、敵を地面に縫い付けて行く。

 これで向こうは、得意の飛行能力も使えなくなった。そこに龍星が近付いて、いつもの双子コンビの連携に持って行く。つまりは『伸縮棒』スキルで武器を出現させてのぶん殴りだ。


 最近覚えた『辣腕』が、この攻撃に上手く作用してくれた。新スキルのお陰で、子供の腕力でも小さな生物なら倒せる威力になってくれている。成長してレベルを上げて行けば、もっと威力は増すだろう。

 天馬の『おぼろ』に関しては、防御系のスキルで今の所出番は無し。無事に追い掛けて来た敵を倒した双子は、満足げに魔石を回収して熊爺邸に戻って行く。

 これも探索者の流儀、倒した敵の戦利品は自分達のモノなのだ。


 避難住民はこれで二桁に達して、熊爺の話ではまだまだ増えるだろうとの事である。いつもの親戚のおばちゃんが、それを受けて炊き出しの準備を始めている。

 正樹や星野兄妹もそれを手伝って、敷地内は避難住民で賑やかな程。不安そうな空気もあるが、お互い無事な姿を確認して喜び合ってもいて。


 再び戦いに備える天馬と龍星だけど、戦闘準備に関して抜かりは無い。来栖家に貰ったエーテルは、まだ使わなくても平気だろう。

 軽トラの老夫婦は、何とか無事に荷物を持って避難を完了した様だ。助けて貰ったお礼を言われて、双子も何だか不思議な気分に。

 確かにそうだ、危険な探索者も感謝されるなら悪くない――




 その頃、恐らくは“学校前ダンジョン”から溢れて来た敵に、孤軍奮闘で立ち向かうコロ助である。そのフォローに、何とか仲間を増やそうと香多奈はようやく『鶏パペット兵』の作動に成功する。

 この兵士の起動にも、実は黒色の割と大き目の魔石が必要だった。そんな魔人ちゃんの説明を聞きながらの、ようやくの戦力補充と相成って。それを見ていた担任は口をあんぐり、リンカ達は拍手喝采かっさいの盛り上がり。


 それから続いて、こそっと持ち出した『不死者の骨壺』の作動に踏み込む腕白少女。こちらはもっと凄い、何しろスケルトンのを召喚出来るみたいで。

 とは言え、それを自分が行うのはちょっと怖い。そんな訳で、その辺の細かい召喚業務や指揮は、魔人ちゃんに丸投げする事に決定した。

 そんな魔人ちゃんは、師匠から指揮官に昇格して満更でも無さそう。


「あっ、これにも黒の魔石がいるんだった……えっ、魔石の投入の数で兵団の数も決まるの? えっとね、透明な奴が3つで、黒の魔石(小)は残り5個しか無いや。

 これで足りるかな、魔人ちゃん?」

「香多奈ちゃん、ひょっとして橋下のダンジョンも溢れてるかも? さっきカエル男がいたよ、コロ助がすぐに退治してくれたけど。

 これって、近くのダンジョンが全部氾濫はんらんしてるかも……」

「そりゃ凄いな、てっきり氾濫したのは“学校前ダンジョン”だけかと思ってたけど。それより校門の所まで戦力を押し上げないと、避難して来た住民がモンスターに襲われちゃうぜ?

 どうするべきかな、香多奈ちゃん」


 リンカにそう質問された香多奈は、度胸一発で渡り廊下から前進を提言して。それを命令と受け取った、鶏顔のパペット兵士が2本の足で進み始める。

 コイツは顔こそ愛嬌があるけど、パペットにしてはがっしりとした体躯で割と強そう。手には短槍と盾を装備していて、確かに兵士と言って差し支えない。


 その前進に合わせて、魔人ちゃんも骸骨兵の召喚に踏み切ってくれた。その途端、地面に置かれた骨壺から、むくむくと黒い霧が出現し始めたと思ったら。

 割と立派な身長の、骸骨兵が10体ほど出現してくれた。こちらも武器持ちで、サーベルや長槍が多い感じ。さすがにその召喚術に、キッズ達も驚き顔。

 香多奈に限っては、テンション高くスマホで撮影を始めてる。


「これは凄いかも、それじゃあ校門の所まで進んで行って、避難して来る住民のサポートを頑張ろうっ! あっ、でもでも……骸骨兵の色は、ピンク色が良いと思うの、魔人ちゃんっ。

 だってこんな悪役みたいな兵士じゃ、住民のみんながビックリするでしょ!?」





 ――そんな少女の我がままに、紳士な魔人ちゃんは肩をすくめて応えるのだった。






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