第296話 異世界チームや熊爺家のキッズに対応する件



 その翌日は平日だったので、香多奈は残りわずかな3学期を消化するため小学校へ。車を出す護人も、ついでに協会の土屋さんを連れて来るよと家族に伝言しておいて出発する。

 そんな感じで、再訪した異世界チームへの対応を、順々にこなして行く来栖家である。その当人たちは、来栖邸でまったりと賓客ひんきゃく扱いだったり。


 実際、今回は服やらお茶碗やお皿やカップやら、隣町のお店である程度買い揃えて貰っていた。どれも新品で、有り難いやら少々申し訳ないやらである。

 異世界チームの面々は、ズブガジだけが普段と変わらず庭先で寛いでいる。そんな彼も、様子を見に来たキッズ達に大人気で、昨日からペタペタ触られっ放しと言う。

 そんなコミュニケーションは、異界では全く経験が無いズブガジである。


 つまりは何と言うか、新鮮な心持ちになっている現在の魔道ゴーレムの心境だったり。ルルンバちゃんとの意思疎通そつうと言い、この地は刺激に溢れていて面白いとの認識だ。

 他のチームの面々に関しては、それぞれに貰ったスマホに夢中な様子。紗良と姫香に使い方を教わりながら、主要なアプリやら動画の見方を覚えている。


 その作業は、護人が送迎から戻って来ても続いていた。特に人気なのが探査者のアップした動画で、こちらの世界の探索者の実力や、ダンジョンの雰囲気は為になっている様子。

 通訳第一人者の香多奈がいない現在、彼らが動画にまってるのは有り難いかも。ただまぁ、護人としてはそろそろ向こうの新居を見たりとかして欲しい。

 そんな訳で、移動しようと異界の居候いそうろうを誘ってみるのだが。


「もうちょっと待つニャ、今いい所なんだニャ! モリトは気前がいいニャ、こんな高価な魔法アイテムを、1人1台ずつ用意してくれるニャんて。

 チームの資金をゼンブ持って来たから、そこからお礼出すニャ!」

「確かにお礼は大事だな……魔石でも金貨でも他の魔法アイテムでも、そちらの望み通りに支払おう。リリアラの欲しがってた拠点の塔も、こちらの地なら建てられるかも知れないな。

 少なくとも、その位のたくわえはチームとして持っている筈だよ」

「そちらのスマホは、交流を祝ってのプレゼントと思って貰えればそれで構いませんよ。服や食器も同じですが、とにかく拠点の建物を見に行きましょう。

 気に入らなければ、また候補地を考えないといけませんし」


 リリアラに通訳して貰って、何とか動いて貰おうと異世界チームの面々に催促さいそくする護人である。その願いよりも、紗良のお昼の呼びかけの方が早かったりしたのだが。

 食事中も動画に夢中な猫娘に、紗良がピシャリとお行儀が悪いとお叱りの言葉。それで反省してスマホを片付ける面々、家長の面目めんもく丸潰れではある。


 それでもようやく、お昼過ぎにお隣の空き家へと一行を連れ出す事に成功して。凛香チームやゼミ生達も見守る中、新居予定地のチェックが行われる。

 そして何とかオッケーを出して貰って、これで肩の荷の半分が降りた気のする護人。それじゃあお布団やら予備の家具やらを、家の中へと搬入しようかと張り切る来栖家の子供たちである。


 そんな微笑ましい引っ越しも、荷物もそんなにないので1時間で片が付いてしまった。次いでの問題は、やはり大事の際の移動手段アシだろうか。

 こんな田舎の山の上では、例えばダンジョンに稼ぎに行くにも車が無いと何も出来ない。ちなみに護人が乗せて来た秘書の土屋だが、異世界チームを前に声も発せない様子である。

 一緒に昼食を食べた今も、空気と化してまるで目立っていない有り様。


 まぁ、確かに気持ちは良く分かる……彼らの発するオーラは、探索上級者であるほどハッキリと感知出来てしまう代物なのだ。一度格の違いを感じると、委縮してしまうのも仕方がない。

 その点、年少組は庭先のズブガジと物凄い打ち解けようで、思わずホッコリしてしまう。今も魔導ゴーレムの上によじ登って、キャッキャと騒ぎ回って遊んでいる。


 そんな彼だが、実は舗装地なら時速80キロは楽に出るそうな。いざと言う時は、チーム全員で彼に乗って移動も出来るのだとか。とんだハイスペック振りで、移動手段はある意味解決かも。

 いや、それでも車の運転くらいは出来るようになった方が、こちらで生活するには便利な筈。ムッターシャに確認すると、それならザジが覚えると言う。


 どうやらそっち系の役割は、チーム内で厳格に取り決めが為されているよう。と言うよりは、若い猫娘ザジの方が物覚えは良いせいかも知れない。

 オートマ車の運転など、操作を覚えれば子供でも可能である。車の幅に慣れさえすれば、外を走るのだってそれ程に危険ではない。

 もっともそれは、スピードを必要以上に出さない事が前提だけど。


 幸いにも、ザジは来栖家の姫香みたいな乱暴な運転では無いようで何より。1時間もすれば来栖家の白バンを上手に乗りこなし、これなら麓まで降りても平気かも。

 と言うより、協会所属の土屋の案内で町の地理を早めに覚えて欲しい所だ。土屋との交流を深めて欲しいのもあるが、こちらの生活に慣れるのが何よりも先決。

 まぁ、土屋女史がこの町に全く詳しくないのはアレだけど。


 最終的には、向こうが望むならキャンピングカーを買い与えても良いかも。凛香チームは、現在頑張ってそのお金を貯めている最中だとの話である。

 こちらのレベルに換算すると、彼ら異世界チームは既に楽々A級探索者に相当する。そんな実力者たちが移動手段を有しても、何も悪い事は無いと護人は考えている次第である。


 秘書の土屋が運転手を兼任すれば一番良いのだが、どうやら彼女はバイクしか運転経歴は無い様子。とは言えザジの能力は素晴らしく、試しにこのまま麓まで降りて行くのも良いかも知れない。

 ついでに町を案内したり、協会に挨拶に寄るのも1つの手ではある。


「いいんじゃないかな、そんじゃ私もついて行くよ……ついでに学校帰りの香多奈も拾って、熊爺の所にでも遊びに行こうよ。

 スキルを使える子がいるんでしょ、ちょっと見てみたいかも?」

「そうだな、それならお土産持って町中をドライブと洒落込もうか。何が良いかな、2人で家にある物を適当に見繕ってくれ。

 無ければ仕方無いから、途中で買い足して行こう」

「分かりました、それじゃあ出掛ける準備しますね、護人さん」


 そんな訳で、ドライブに行くって話は異世界チームにも好意的にとらえて貰って、一部はしゃぐ者も出る始末。反対に同行する破目におちいった、土屋女史は顔面蒼白状態に。

 何も律儀に、運転が素人のザジの隣に座らなくても良い物をと護人は思いつつ。彼女の職業倫理を否定する訳にも行かず、先頭でキャンピングカーを走らせ始める。


 その後を追走する、来栖家の愛車の年季の入った白バン。運転するのは運転歴1時間ちょっとの猫娘ザジで、土屋女史が助手席に座っている。後ろの席には、同じチームのムッターシャとリリアラも。

 魔導ゴーレムのズブガジは、驚いた事にその後ろから同じ速度で追走していた。これなら万一車が事故っても、咄嗟とっさにフォローしてくれそうなフォーメーション。

 さすが優秀なチームである、リスク管理が素晴らしい。



 そんなご機嫌なドライブは、無事に熊爺の屋敷に着くまで事故らず続いた。予定通りに今日は早めに学校が終わった香多奈を拾って、町を案内しながらの珍道中。

 猫娘の運転する白バンに乗って、その案内役を買って出たのは香多奈だった。その恐れ知らずの行動は、色々と波紋を呼んだけどまぁ仕方がないと言うか。


 何しろ言葉の問題もあるし、コミュニケーションが上手い者が誰か1人、白バンに乗る必要もあったし。そんな訳で、土屋女史に代わって助手席に座った、香多奈による町の案内が始まった。

 賑やかな道中だったのは、目的地で降りた時に丸分かり。きゃいきゃいと笑いながら車を降りる香多奈とザジ、初めてのドライブにも物怖じしていない様子。


 そして初めて会った熊爺キッズ達にも、フレンドリーに接するその態度。何と言うコミュお化け振り、それに負けずと猫娘ザジも積極的に挨拶をして行く。

 それどころか、お土産にと自分の所持アイテムを見せびらかして。欲しいのあったらあげるよと、子供達との距離を短時間で詰めるその手腕。

 何故かその輪に加わる、来栖家の子供達は少々図々しい?


「わっ、スキル書まであるよ……これ本当に貰っていいの、ザジちゃん? そっちの子たちも遠慮せず見てごらんよ、探索での回収品だから便利な魔法アイテムも入ってるかもよ?」

「えっと、最年長の川村君に、星野兄妹が紀夫のりお君と妹の須惠すえちゃんね。それから双子が、お姉ちゃんの天馬てんまちゃんに弟の龍星りゅうせい君と。

 よっし、覚えたよ……よろしくね!」

「色んな経験をさせたいんなら、今週末の青空市で売り子とかもさせてみたらどうかな、熊爺。うちの子たちが面倒見てくれるから、初心者でも安心だと思うよ?」

「そりゃええな……売り物は何がええじゃろか? 今は野菜も無いし、鶏の卵か牛の乳くらいしか毎日とれるもんはないぞ」


 それなら卵を売ろうかと、そっちの話も勝手に盛り上がって行く中。どうやら熊爺キッズ達には、周囲の人々も助けの手を存分に差し伸べてくれているようで何より。

 何しろ町で話題のイベントだ、高齢の熊爺だけに手をわずらわせてはおけないと。親戚のお手伝いの関根さんや、使用人の40代のけんさんのりさんも同じ考えらしい。


 簡単な読み書きを教えたり、田舎での過ごし方を伝授したり。家畜の世話は積極的に手伝ってくれているし、キッズ達の順応性も高そうだ。

 熊爺に関しては、やっては駄目な事を中心に教えているそうだ。家畜の扱いや田舎での生活では、知識不足で不意の危険に見舞われる事も多々ある。

 例えば町中にはまずいない、毒蛇や毒蜂の扱いとか。


 他にも牛に足を踏まれても、驚いて急に足を抜いたらダメだとか。蜘蛛を室内で見付けても、殺さず外に逃がしてあげるとか。お米には神様が宿やどっているから、1粒残さず食べなさいとか。

 熊爺は頑固者に見えて、子供達からの何でとの質問には丁寧に答えているようで。両者の関係は、幸いな事に良好にはぐくまれている様子で何より。


 春先から農家は忙しくなるが、子供達の学力が小学生レベルに達していないのは問題だ。護人と熊爺は話し合って、曜日で山の上に通わせようかと言う話に。

 農家の手伝いも、生きて行く上で立派な勉強である。それと同時に、来栖家の隣家での勉強会に通わせるのも悪くないねと熊爺の意見に。


 ついでに夕方の、秘密の特訓も参加すればいいよと香多奈の呑気なお誘い。スキル持ちの双子は、それには揃って興味を示した様子。何しろつい今しがた、2人ともプレゼントのスキル書から新スキルを取得したのだ。

 これには他の面々も驚いた様子、贈ったザジもセンスあるニャとビックリ顔。覚えたからには修練をしないとと、彼女も双子の特訓には前向きな模様である。

 どうやら異界では、子供の戦士団への参加も普通らしい。


 子供達がそんな異世界戦士団を見る目は、ナニこの変わった人達って感じだろうか。特に猫娘や魔導ゴーレムのズブガジなどは、好奇の視線を集めている。

 そしてエルフのリリアラと年上の紗良は、別な意味で少年たちの視線を集めているみたい。それはそれで健全な反応だ、特に注意する程の事でもない。



 それから異世界交流やら地元の懇談会的な集まりは、ペットを愛でたり今週末の青空市について話を詰めたり。探索の話をしたり、スマホで動画を一緒に観たり。

 賑やかに交流を続けながら、初対面同士で親睦を深めて行って。保護者の立場の護人と熊爺は、そんな面々を温かい目で眺めている。


 ハスキー軍団も、主人の周りに寝そべってリラックス模様。その内に熊爺キッズの須惠すえが、自分達のペットだと“変質”した小型犬を連れて来た。

 それは可哀想な程に毛が抜け落ちていて、元の犬種が分からない程のみずほらしさ。さすがにそれを見た香多奈は絶句して、その症状は治せないのと素朴な疑問を口にする。


 姫香がそれを受けて、キャンピングカーに戻って中級エリクサーを取って来た。これで治療出来ればいいけどと、高価な薬品の提供にはまるで無頓着な様子。

 熊爺キッズ達は、ウチの子治るのと途端に望みを得たような表情に。半ば諦めつつも、ずっとお世話をしていたのだろう……弱って行くペットを見捨てられずに。


 姫香が優しく投与してあげた中級エリクサーは、劇的な効果を及ぼした。小型犬の禿げあがった肌に茶色い毛が生え始め、弱っていた瞳に活力が芽生え始める。

 抱っこしていた須惠は、驚いて小型犬を地面に離す。今や綺麗に毛の生え揃ったその子は、周囲の人たちが見守る中、元気に辺りを駆け始めた。

 それは、長年の願望が叶ったかのような喜びようで。





 ――その奇跡に、思わず胸をホッコリさせる面々だった。







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