第291話 何とか氷の陣の中ボスまで辿り着く件



 後は3層への階段を探すだけかなと、呑気な子供達は再出発の準備オッケーのサイン。それを受けて、ハスキー軍団は張り切って雪原を進み始める。

 それを追うルルンバちゃんは、チームの為に雪きまでしてくれて本当に至れり尽くせり。お礼を言いつつ、彼に搭乗する紗良と香多奈も楽ちんだねと無邪気に笑っている。


 その辺は、いつものチームカラーなのか集中力が切れて来た証拠なのか、今一つ判然としない。続けてカボチャの杖を持つ紗良は、その威力を体感して感心し切り。

 各自で覚えるスキルだけじゃなく、この手の魔法アイテムを揃えるのもチーム力アップになるねぇと。それは確かにそうだねと、他のメンバーも賛同の構え。

 と言うか、実は他のチームにとっては定番の手段でもあるのだが。


 来栖家チームはペット勢の威力の強さもあって、魔法アイテムでガチガチに固めるとの発想は余り湧かなかったとも。それでも強化系の補助アイテムは、武器や防具にふんだんに使ってはいる。

 アイテム強化をお座なりにしていたと言う訳では無く、ただ探索業が本業の者達より認識が甘いだけなのかも。それでもやって来れたのは、ある意味凄い事ではある。


 そんな2層目の探索だが、階段の前にハスキー達は妙なオブジェを発見して歩みを止めた。妙と言うか、ある意味見慣れたかまくらが、前方の丘の上に幾つか存在していた。

 その穴の中には、大振りの宝箱が設置されているのも窺える。さすがにこれは罠かなぁと、呑気な香多奈まで素直に近付くのを躊躇ためらう仕草。


「それじゃあ一応、戦闘準備をしておこうか。敵の待ち伏せか、それとも罠が設置されているか……充分気を付けて、俺とルルンバちゃんで近付いてみようか。

 他のメンバーは、万一の時のフォローを頼むぞ」

「了解、護人叔父さんっ……宝箱の中身がショボくても、やっぱり無視は出来ないもんね! ハスキー達も、何か出たらしっかり対応するんだよっ!?」


 そんな姫香の激入れに、勇ましい顔つきで応じるハスキー軍団である。そして進み始める護人とルルンバちゃんのペア、向こうの仕掛けは割と呆気なく判別した。

 雪原にカモフラージュしていたのは、畳2畳分はあろうかと言う雪エイの群れだった。うっかり踏みつけたルルンバちゃんに腹を立て、数匹が宙に飛び上がって襲って来る。


 真っ白で巨大ななその敵は、鋭い尾を鞭のようにしならせてルルンバちゃんの機体を打ち据える。ところが、そんなダメージなど屁でも無い彼は、同じく鞭とライフルでの反撃を開始。

 すぐ側にいた護人も、突然出て来た敵の群れにすかさず反応する。“四腕”を発動させて、すぐ側に出現した巨大雪エイの討伐へと掛かって行く。しかしその作業は、エイの身体に視界が遮られて意外と大変。

 何しろ、そこかしこから地面が震える感覚が襲って来るのだ。


「叔父さんっ、エイだけじゃ無くてかまくらがいっぱい雪の中から生えて来てるっ! これって中から敵が出現するパターンかもっ!?」

「うわっ、意外と大仕掛けだったね……両端の敵は、紗良姉さんとレイジーでお願いっ。中央の護人叔父さんは、私たちで助けに入るよっ!」


 大声でチームに救出指示を出す姫香は、真っ先に護人を救うために敵の群れの中に飛び込んで行く。それに続くツグミは、お転婆なあるじに負けない位に気合い充分。

 そして周囲に生えて来たかまくらから、香多奈の推測通りに新たな敵が這い出て来た。その大半は2メートルを超す雪男で、手には棍棒を持っている。


 出現したもう半分は、さっきも見掛けた雪ウサギだった模様で。この混成軍も、かまくらを上手く隠れみのにしてこちらにウザい感じで仕掛けて来る。

 その集団に向けて、遠距離から火の玉を放つ後衛の紗良である。しかしこの攻撃は、障害物のかまくらが邪魔をして敵を効率よく殲滅出来ない始末。

 それは反対側の、レイジーのブレス攻撃も同じ結果に。


 中心部で奮闘している、護人とルルンバちゃんも雪エイに視界をふさがれて苦戦気味。しかも羽ばたきからの氷属性の吹雪が飛んで来て、地味にHPにダメージが入っている。

 こんな密集戦は予想外だが、突っ込んでみて駄目でしたでは話にならない。ルルンバちゃんも、アームで空飛ぶ雪エイを全部撃ち落とそうと奮闘している。


 ところが敵は、魔法攻撃に切り替えて距離を無理に縮めようとしない有り様。そこに突っ込んで来た姫香とツグミ、吹雪攻撃も何のそのと制空権を奪おうと奮起する。

 具体的には、『圧縮』で足場を作っての敵の撃ち落としである。ツグミもそれを、《闇操》でお手伝い、途端に護人の周囲の地面が賑やかになって来た。

 なおも暴れる敵の雪エイを、護人とルルンバちゃんが止めを刺して行く。



 かまくらの穴の中から出現した、雪男はワイルドな顔付きでなかなかに強そう。その大半は、飛んで来た火の玉をかまくらの影でやり過ごして、反撃の機会を窺う周到さをみせている。

 そいつ等は、飛んで来たコロ助と茶々丸のコンビに、接近戦を挑まれててんてこ舞いの憂き目に。それは雪ウサギも同じく、ペット勢のスピードに乗った攻撃は、止む事を知らずの勢い。


 あっという間にその数を減らして行って、せっかくの障害物も使いこなせていない有り様。逆にコロ助と茶々丸は、こんな乱戦にすっかり慣れていて即席コンビも上手く回っている。

 雪男の振り回す棍棒を華麗に避け、逆に茶々丸の黒槍が敵の喉元を貫く。雪ウサギの蹴り技にも、すっかり慣れたコロ助が対応して狩りまくって行く。

 そんな感じで、左翼は段々と制圧されて行く流れに。


 一方の右翼は、ほむらの剣を咥えたレイジーの独壇場となっていた。思い切り弱点属性のその剣は、次々と容赦なく氷属性の敵をほふって行く。

 それでも、やはりたった1匹で敵の軍勢を相手取るのは厳しかったようで。結局は、全ての敵を駆逐するのに20分近く掛かってしまった。


 来栖家チームの面々も、雪エイの魔法でHPを削られた者も少なくなかったようだ。ようやくの事休息を取れて、ボコボコになった雪原を見ながら一息つく。

 そして回収した宝箱の中身は、相変わらず薬品と木の実程度と貧相な詰め合わせと言う。苦労して罠にまった甲斐も無いねと、香多奈も少し不満そう。

 ただし、今回は逆にドロップ品が豪華だった。


 魔石(小)が幾つか混じっていたし、ウサギ肉やらエイの皮などもあちこちに転がっていた。それを拾うツグミやルルンバちゃんも、心無しか楽しそう。

 それらを何とか手分けして回収して、ようやくハスキー軍団の見付けた階段を下って行く一同。ようやく雪のフロア3層目だけど、インしての時間は結構経っている。


 MP回復休憩を挟みつつ、さて中ボス戦のフロアだと気合いを入れる来栖家チーム。この層も景色は変らず、綺麗な雪景色だが空模様は良好なのが有り難い。

 下手に吹雪いていたりしたら、移動だけで大変になってしまう。そんな事を思いながら、休憩を終えた一行はハスキー軍団の先導で再び進行を開始する。

 そして5分もしない内に、雪狼と雪ウサギの群れとの遭遇戦。


「近くの森に雪だるまもいるよっ……叔父さんっ、引き付けてやっつけるでいい?」

「そうだな、火の玉を撃ち込んで森が火事になるのも怖いしな。向こうが近付くまで、下手に手出しをしないでおこう」

「了解っ、それまでに狼とウサギの数を減らして行こうっ!」


 姫香の音頭で、すっかり慣れた雪狼と雪ウサギの相手を始めるいつもの前衛陣。後衛陣はそれを応援しながら、飛んで近付いて来る雪だるまにも目を光らせている。

 そんな半ダースの雪だるま軍が、雪玉を射出し始めた時にはさすがに驚き声をあげた紗良と香多奈。ただし的にされたのは、巨体を誇るルルンバちゃんだった。


 その程度の被害でははケロリとしているAIロボ、何とも悲しい敵の戦法だったり。逆に小さい的よりは、大きな雪だるまの方が相手をしやすいと気付いたルルンバちゃんは思い切り方向転換。

 そこからの接近戦で、容赦の無いアームの一撃を喰らわせて行って。接近までの魔銃の射撃でも、香多奈に炎の魔玉を詰めて貰っていて無双状態のAIロボ。

 弾に当たった敵は、たった1発で解けて行く始末。


 さすが弱点属性、香多奈も後ろからやったぁと大声ではしゃいでいる。それに勇気付けられたルルンバちゃんは、たった1機で雪だるまの群れを駆逐して行く。

 前衛陣も、同じく優勢なまま雪狼と雪ウサギの群れを次々と減らして行って。10分程度の熱戦で、何とか最後の集団戦は終了の運びに。


 厄介だった雪エイや雪男は、どうやらこの層には潜んでいなかった様子。それはそこから5分程度進んで、中ボスの間を目にして判明した。

 中ボスの間は、針葉樹の拓けた広場みたいな場所で、そこに控えていたのは大柄の氷の魔人だった。顔は羊で、一見すると魔族に見えなくも無い。


 4メートル近い身体は真っ白で、その巨躯に似合った大振りの大剣を手にしている。お供は何と3メートル級の雪だるまで、それが5体並んでいた。

 中ボスの間と言うか、彼らが控えているフィールドはとっても広い仕様だった。先制攻撃の魔法の撃ち込みでも、複数を巻き込むのはちょっと大変そう。

 とは言え、動かない敵には先制打が有効なのも事実。


「やっぱり紗良姉さんの火の玉と、香多奈の魔玉投げは有効だと思うな。反対側から、レイジーの炎のブレスを撃ち込んで貰おうよ。

 あんな大きな敵と、馬鹿正直に殴り合う事無いよ、護人叔父さん」

「そうだな、持ってる剣も威力がありそうだし……雪だるまは遠隔攻撃での反撃があるかも、それだけ注意するようにな」

「了解っ、叔父さん……ルルンバちゃん、反撃怖いから盾になって?」


 香多奈にお願いされたルルンバちゃんは、素直にそれに従って右側に展開して行く。それを見てレイジーは左側へ、正面はおとり役も兼ねて護人と姫香が担う事に。

 針葉樹に隠れて移動する来栖家チームに、向こうはやっぱり無反応。この辺のダンジョンのゆるさは、何なんだろうなと毎回護人は思うけど未だに不明である。


 敵のルーズな面に頼り過ぎるのは危険だが、弱点ならば積極的に突くべきだ。そんな思いの中、護人は両サイドの仲間に号令を出す。

 その途端、左右からの先制攻撃の炎の攻撃が見舞われて行った。立ちん坊の前衛役の雪だるま達は、まだ何もしない内に割と悲惨な状況におちいって行く。

 反応して一斉に動き出すも、時既に遅しな感じ。


 いや、ボスの氷の魔人は雪だるまに守られてほぼ無傷な様子。攻撃と共にフィールドに突っ込んだ護人と姫香は、そんな中ボス目掛けて突き進む。

 さっさとタゲを奪わないと、紗良と香多奈に攻撃の矛先が向いてしまうとの思いの中。しかし予想に反して、やって来たのは派手な範囲魔法だったと言うオチ。


 しかも、どこかで見た事のあるようなエフェクト……紗良の《氷雪》と見紛みまがう吹雪が、周囲に吹き荒れて行った。大剣など持っているから、中ボスは前衛だとの読みは大外れ。

 結果、範囲に入っていた護人と姫香は継続しての魔法ダメージを喰らう破目に。視界も塞がれて不味いと思った次の瞬間、その猛吹雪はレイジーの突入で霧散する。

 いや、何だか彼女に吸い取られて行ったような!?


「えっ、あれっ……今レイジーが何かした、紗良お姉ちゃんっ!?」

「何だろう、良く分からないけど敵の吹雪魔法を撃ち破ったのかなっ!?」


 味方の後衛2人が混乱する中、前衛陣はそんな事も言ってられず。不意に訪れた好機に、瞬時に反応して中ボスへと襲い掛かって行く。

 護人と姫香の接近戦に、しかし氷の魔人も武器を構え直して受けて立つ構え。魔法も使うが、どうやらこの中ボスは接近戦も可能らしい。


 とは言え、護人と姫香のコンビネーションは4メートル級の敵すら翻弄ほんろうする。振り下ろされた大剣を華麗に避けて、左右から重たい一撃での反撃を見舞ってダウンを取って行く。

 ツグミがフォローをするまでもなく、膝を屈する氷の魔人。護衛の雪だるまもいつの間にかフィールドから姿を消し、この層も気付けば圧勝の流れに。

 最後は姫香が止めを刺して、動く敵は全ていなくなった。


「あっ、気付いたら終わってた……叔父さんっ、何かレイジーが敵の魔法を撃ち消してたよっ? 何だったんだろうね、新しいスキルかな?」

「ああっ、あれって自然に魔法が終わったんじゃ無かったんだ。レイジーのスキルって、最近覚えたのが確かあったんじゃなかった?

 何て名前だったっけ、魔法に関係してた気が」

「えっと……『魔喰』とか、そんな名前だった気がするかな? レイジーちゃん、ずっと使いこなせてなかったもんね……ようやく使い方が分かったんだ、良かった!」


 紗良の言葉に、なるほどと納得のいった感じの香多奈の相槌。レイジーもますます死角が無くなっていくねと、末妹のテンションの高いお褒めの言葉。

 それを聞いた姫香も、凄いねと寄って来たレイジーを撫で回している。そう言えば新しいスキル、ミケさんも1個覚えてたよねと香多奈がもう片方のエースを窺ってるけど。


 その日ほとんど活躍しなかったミケは、少女の言葉に無反応。子供たちがたくましく育ってるなら、自分の出番は無いわよと言いたげなスタンスなのかも。

 それから、最後に設置された宝箱のチェックをみんなでこなして、しっかり2つ目の鍵をゲット。奥にあったワープ魔方陣で、家族仲良くゼロ層へと戻って来れた。

 話し合った末に、今日の探索はこれにて終了する事に。





 ――またもや半端な攻略に、続きの探索時間の捻出ねんしゅつが大変そう。







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