第289話 炎属性のフロアをクリアしてお昼休憩に至る件



 3層フロアは、強敵のモンスターが結構な数出現して大変だった。そんな中、レイジーと萌の炎耐性高いペアが、踏ん張って道を切り開いてくれた。

 他のメンバーも、耐火ポーションのお陰で癖の強い炎属性フロアを何とか切り抜けられている感じ。とにかく他のダンジョンと勝手が違い過ぎて、色々と大変だった。


 何とか役割分担で、大きな怪我も火傷も負わずに3層まで来る事が出来た。一番の強敵のフレアビーストも、レイジーと萌で相手取るのも慣れて来た様子。

 ただし、お楽しみの宝箱は2層で1個しか見付かってなくて、香多奈はブー垂れている。ツグミがこのフロアで、炎の属性石を大量に発見するも、末妹にとってはただの赤い石ころである。

 どうせなら魔石を拾って来てと、いつもの無茶振り発言を発動。


「アンタね、ツグミを困らせるんじゃないわよ! こんなにチームのために頑張ってくれてるのに、勝手な文句ばっかり言って!

 そんなに欲しいなら、自分で取って来なさい」

「わ、分かってるよっ……つい口から不満がこぼれちゃっただけで、意地悪言うつもりじゃ無かったもん!

 ゴメンねツグミ、いつもありがとうね?」


 いつもの姉妹喧嘩に思えたけど、さすがに香多奈も悪いと思ったのだろう。すかさずツグミに謝って、自分の我がままを撤回する素振り。

 取り敢えず、いつもの険悪な雰囲気にはならなそうなので、仲介役の護人もホッとした表情。ツグミも同じく、ご主人にかばって貰えて嬉しそう。


 ツグミはハスキー軍団の中でも、一番の探索系能力にひいでている子である。しかも罠感知から解除まで、チームが知らない内にこなしてくれていて。

 そんな優秀な相棒に、文句を言われたら姫香だって黙っていないのも当然である。いつにない剣幕だったせいで、香多奈も思わず速攻で謝ったと言う理由も。

 どちらにせよ、壮大な喧嘩に発展せず何より。



 そんなやり取りを挟みつつ、3層フロアを順調に攻略して行く来栖家チーム。紗良は相変わらず、縮小版の《氷雪》を発動するのに苦労している。

 その他に関しては、割とスムーズに攻略出来て中ボス前の広場へと到達出来た。このフロアも、おおよそここまで30分程度で辿り着く事に成功。


 その肝心の突き当りの広場だが、マグマの吹き出し口で暑さが半端ない。そんな灼熱の危険な広場に、当然ながら誰も近付こうとはせず。

 さて、ここはどうやって攻略しようかと相談する一同。


「やっぱり、レイジーと萌に行って貰うのが一番かな? 敵の出現に合わせて、紗良の範囲魔法で先制もアリかもだけど」

「紗良姉さんの魔法攻撃は良いかも、絶対に弱点属性だと思うし。MPは持ちそう、紗良姉さん……ここまで火傷の治療で、結構回復にも使ってたでしょ?」

「うん、まだ平気だけど……途中の敵を倒すのにも、本当は《氷雪》魔法をお試しで使いたかったんだよねぇ。

 範囲指定って、まさか縮小する方が大変だとは思わなかったよ」


 魔法って、案外何も考えずにぶっ放した方が楽だよねと、その言葉に姫香も同意の素振り。細かな指定を入れ込むと、途端に発動すら危うくなる魔法スキルの難しさ。

 今回に限っては、最終中ボスエリアの周囲一帯を凍らす勢いでオッケーな筈。ついでにマグマの流れも止めて貰えれば、その後の宝箱探索も楽になるかもと香多奈もノリノリ。


 果たして《氷雪》スキルとマグマの熱、どちらが優勢なのかは紗良本人にも分からないけど。他の面々も、取り敢えずはフォロー役にとスタンバイを終えて、さあどうぞのサイン。

 そんな感じの作戦で、まずはレイジーがおとり役にとエリア内へと侵入を果たす。その途端、マグマが勢い良く噴火して、中ボスの炎の魔人が登場した。

 ソイツは身の丈4メートルの、推定イフリートだった。


 迫力のあるその存在感に加えて、お供にこれも体格の良いフレアビーストが2体追加される。レイジーと萌の前線では、この3体はとても支え切れそうもない感じ。

 それを見越した訳では無いが、中ボスのタゲを取っていたレイジーが華麗に転進。チームの元へと舞い戻って、紗良の射線を確保する。


 護人も時間稼ぎにと、『射撃』スキルで敵の足止めを敢行して。香多奈も水系の爆破石を投擲して、中ボスの注意をそちらへと引き付ける作業。

 その後の紗良の渾身の《氷雪》は、まさに溶岩エリアを凍り付かせる程の勢い。中ボスのイフリートも、その護衛のフレアビーストもしかり。

 敵の炎の軍団は、目の前にいる相手への何と接敵もままならず。


 たっぷり15秒以上は吹き荒れた吹雪は、敵を粉々に粉砕するのに充分だった。止めを刺そうと待ち構えていた、ハスキー軍団と萌はエッと言う表情。

 それより幾分か冷静を保てていた、ルルンバちゃんと茶々丸のコンビがゆっくりと前進を開始して。それから転がっている魔石を、粛々しゅくしゅくと拾い始める。


「わあっ、敵の弱点を突くのって本当に大事だよね、護人叔父さん。こんなに簡単に、強そうな中ボスをやっつけられちゃったよ。

 紗良姉さんも容赦無いなぁ、レイジーと萌に少しくらい手柄を残してあげても良かったのに」

「あぁ、うん……ここまで活躍出来なかったから、つい力が入っちゃったかな? でも安全に倒せたんだし、結果オーライって事にしておいて、姫香ちゃん」

「姫香お姉ちゃんのシャベル投げの速攻も、いい加減容赦無いもんね。人の事をとやかく言えないの、全然分かってないよ」


 確かに香多奈の言う通りだが、先程の意趣いしゅ返しかやや言葉がきつい気が。それに反応して目付きが鋭くなる姫香、再びの喧嘩の雰囲気を察してすぐ割って入る護人。

 幸いにも紗良の《氷雪》効果で、厄介なマグマの噴出こうは冷やされて固まっていた。その安全はいつまで続くか分からないので、アイテム回収はさっさと終わらせたい所。


 帰還用の魔方陣もすぐ側に出現しており、この辺は以前のダンジョンと一緒で有り難い限り。護人にうながされた姉妹は、大人しく休戦したまま宝箱のチェックに向かう。

 その辺は素直というか、口喧嘩も一種のコミュニケーションなのだろう。そして機嫌の悪さも、宝箱の中身を確認して両者あっさりと回復すると言う。


 宝箱の中身だが、鑑定の書が4枚に魔結晶(中)が4個、魔玉(炎)が7個にスキル書が1枚。それから赤い扇子に立派なランプ、そして木炭が2箱入っていた。

 バーベキューを良くする来栖家には、木炭は良いプレゼントかも。そして当然のごとく、最後に炎の意匠の大振りな鍵が1つ出て来てくれた。


 つまり今回も、4つの扉を潜って鍵を4種類集める感じらしい。心得たように、紗良がそれを鞄の中へと仕舞い込む。ちなみに中ボスのイフリートは、魔石(中)と赤い石を落とした。

 この石だけど、両手で抱えるほどの大きさで触ると結構熱い。果たして鞄に入れて運んで良いモノかと、ちょっと躊躇ためらってる紗良だったけれど。

 ツグミが自分の《空間倉庫》に仕舞い込んで、この件は終了。




 今回の1つ目の扉の探索は、2時間ほど掛かって無事に帰って来れた。正午まで1時間余裕はあるけど、残りの扉の数を考えるとさっさと次に進むべきか。

 とは言え、別に攻略のタイムリミットが決まっている訳では無いのだ。急ぎ過ぎて、疲労が溜まったまま探索を続けるのも愚策には違いない。


 そんな感じで子供達に伺う護人だが、香多奈のお腹空いたの言葉で呆気なくお昼休みが決定した。近場のダンジョンなので、皆で歩いて来栖邸へと帰宅する。

 それから楽な服装に着替えての、キッチンでの食事と相成って。紗良と姫香の共作の、うどんとお握りでの賑やかな食卓でのランチタイムが始まる。

 そんな中、主に喋りまくるのは末妹の香多奈の役割である。


「次はどんな所かなぁ、最初が炎だからやっぱり水か氷か……後は土とか? 多分だけど、今回のダンジョンはそんな感じの扉分けだよね?」

「前は何だっけ……確か蟲とか獣とか、魔法生物とかの仕分けだったんだっけ? そしたら、香多奈の言う通りなのかもねぇ」

「う~ん、属性に役に立つ武器や装備は何かあったかな?」


 来栖家も1年近く探索をしていて、その間に集めた魔法アイテムも相当な数に上っている。売ってしまった物もあるが、いつか使えると仕舞い込んでおいた品も倉庫に多々あった筈。

 そんな品々だが、肝心な時にどんな物があるかが把握し切れてないと言う。あるあるネタだが、こればっかりは紗良も即答は出来ない模様で残念な限り。


 結局はあれこれとアイテムを探す手間を惜しんで、この件は有耶無耶うやむやに。それよりゆっくり英気を養って、次の扉奥の敵に全力で立ち向かうべし。

 紗良は空いた時間を使って、3時のおやつの支度を簡単に済ませている。姫香は今日は機嫌の良い、ミケを膝の上に乗せてのご機嫌取りに忙しそう。


 護人は食後のお茶を飲みながら、まったりのんびりと寛ぎ模様。それを破るように、諦めず魔法アイテムを物色していた香多奈が嬉しそうに声を上げた。

 少女の執念と言うか、以前勝手に持ち出してこっぴどく叱られたアイテムの発掘に成功。それは『カボチャの杖』と言う棒状のアイテムで、試しにと“炎の玉”Lv4を込めていた奴だ。


 その威力は、素人が使っても山肌を軽く焦がして危うく山火事になろうかと言う程。叱られるのも当然だ、周囲に燃える物が無くて本当に良かった。

 連帯責任で姉に叱られた、和香と穂積には本当に気の毒だったけど。モンスター相手ならば、気兼ねなくブッ放せるねと懲りない口調の末妹である。


 だがしかし、炎属性が苦手な敵のいるフロアがあるなら、この武器はかなり有効だ。末妹の香多奈に持たせるのは論外だが、紗良か姫香が扱えるのなら良い手かも。

 そう護人が言うと、せっかく見付けた功績をマルっと無視された香多奈は不服そう。そんな妹を無視して、姫香は交代で使おうかと紗良に提案している。

 自分も混ざるよとの香多奈の言葉は、しかしやっぱり相手にされず。


「アンタね、こっそり持ち出して危ない事した癖に、まだ懲りてないのっ!? 子供は危ない武器を持っちゃダメなの、大人しく撮影役こなしてなさいっ!」

「そうだよ、香多奈ちゃん……みんなも意地悪で、使ったらダメって言ってるんじゃないんだからねっ?

 せめてもう少し大人になって、状況判断が出来るようになるまでは我慢だよ」


 優しい紗良姉にまでダメ出しされて、さすがには~いと引き下がるしかない香多奈。姫香はそんな妹をひとにらみした後、護人にマントの新機能を訊ねてみる。

 薔薇のマントの食欲と言うか、成長への欲望は容赦の無いレベルで。吸血機能に続いて、“ナタリーダンジョン”で入手した飛行マントまで食べてしまったのだ。


 これで飛べるようになるのかなと、興味津々な子供達の質問への返答はとっても曖昧あいまいだった。どうやら馴染むまで時間が掛かるのか、それとも相性が悪かったのかそんな機能は現在まで発動せず。

 厩舎裏の訓練でも、一応は薔薇のマントを装備して臨んでいるのだけれど。新スキルにしても魔法のアイテムにしても、得たから簡単に使えますとは行かない模様。

 不便ではあるけど、それはまぁ仕方のない事なのかも。




 そんな感じでお昼休憩は終了、一行は再び探索着へと着替えて家の外へ。そして張り切って迎えてくれたハスキー軍団の先導で、敷地内ダンジョンへと向かう。

 時刻はもうすぐ正午で、見上げると天候はすこぶる良い感じ。相変わらず2月の山の上は肌寒いが、真冬の年末年始程では無い。


 春の訪れは、ひょっとしてもうすぐそこなのかも。そんな予感を抱いたまま、来栖家チームはワイワイと雑談を交わし合いながらダンジョンへと潜って行く。

 相変わらずのんびりムードだが、出来れば今日中に2つ目の“ダンジョン内ダンジョン”をクリアしたいねぇと。そんな事を話し合いながら、一行の士気は高めをキープしている模様だ。


 それはハスキー軍団や、ペット勢も同様らしく。先頭を跳ねる様に進みながら、早く探索の続きをしようとみんなで仲良く急かして来る。

 その勢いは、探索を始めた頃とちっとも変わっていない。





 ――共に獲物を狩る、その喜びの共有が仲間の証なのだ。






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