第288話 炎のエリアを順調に攻略して行く件



「それにしても、萌も炎系の敵の相手は全然へっちゃらだったね。レイジーに負けない位に活躍してたし、今回は相性のいいエリアみたい。

 これで自信つけて、ガンガン前に出て欲しいけどなぁ」

「だからまだ萌は子供なんだってば、香多奈。今もMP節約のために《巨大化》を解除してるじゃん。

 あんまり期待して、プレッシャー掛けたらダメだって」

「そうだな、ただ1層では数減らしに貢献してくれたのは確かだし。2層もレイジーと組んで、前衛で頑張って貰おうか。姫香は悪いけど、ルルンバちゃんと茶々丸ペアのフォローを続けて頼む。

 後衛の護衛役は、俺とミケで担うかな?」


 その通知に了解と声をあげる子供達、レイジーも心得たとばかりに萌に目配せして先頭を進み始める。2層の雰囲気も上の層とほぼ同じで、遺跡タイプのフロアが拡がっている。

 炎の仕掛けも同じく、篝火かがりびやマグマ溜まりが一定の距離を置いて配置されている。相変わらず油断のならないフロアで、ハスキー達の動きも慎重だ。


 萌も再び巨人のリングを使用して、ハスキー軍団並みに体格を増加させている。その動きはしなやかで、子供とは言えさすがドラゴンと言った感じ。

 今まで香多奈の足元で隠れていたのが噓のよう、やれば出来るとの少女の言葉は本当だった模様。それでも姫香辺りは、積極的な萌の前線参加は批判的みたい。

 そもそも茶々丸に関しても、実践投入はまだ早いと思っているっぽい。


 意外と心配性な姫香だが、護人からすれば普通の感性だとの認識ではある。むしろ香多奈を始め、ホイホイと危険な探索に付いて来る方が変じゃ無いのかと思う次第。

 それでもえて止めないのは、チームに降りかかる“危険”を分散させるためである。チームで補い合う事が出来れば、ダンジョン探索の安全度が増すのではないかとの考えだ。


 動物と人間を較べると、動物の方が圧倒的に成長の度合いは早いのだ。草食動物の仔ヤギにしたって、産まれて数時間も経たずに自分の足で歩けるのだし。

 そう言う意味でも、嬉々として探索に同行してくれる茶々丸と萌の可能性を閉ざしたくは無い。まぁ、本音を言えば春の異変に向けて、戦力は幾らでも欲しい護人である。

 それこそ、猫の手も借りたいと思う程には。


 実際のミケは、しっかりと手を貸してくれるし、実は来栖家チームのエース格だったりする。そこまで上り詰めなくても、茶々丸と萌には前衛の一角位は担って欲しい。

 そうなれば、チームとしても一段階は成長出来るだろう。そんな護人の思いも知らず、萌は呑気にレイジーに同行して先頭を進んでいる。


 茶々丸に至っては、姫香にかまって貰えて浮かれ模様。ルルンバちゃんも同じく、珍しいトリオの結成にヤル気はみなぎっている様子で見ていてホッコリする。

 今回の炎属性エリアでは、あまり活躍出来そうも無いのがちょっと不憫ふびんではあるけど。とは言え、壁役はどの戦闘シーンでも必要な存在には違いない。

 後衛を守る通せんぼ役でも、とっても助かっているのが実情だ。



 そんなこんなで、2層も先程と同じ布陣で順調に進んで行く。この層に出現する敵も、さっきと同じく炎のヘビとトカゲがメインの様子。

 ただし、それに混ざって新たに燃えるパペットが出現して来た。コイツも設置された大き目の篝火から、ゾンビの様に這い出て来る仕様でちょっと怖いかも。


 素早くも無いし耐久性も低い敵だが、近付かれると燃焼の継続ダメージが酷い。それは炎のトカゲやヘビと同じだが、腕が付いている敵の相手は割と厄介。

 ところが姫香の号令で、ルルンバちゃんと茶々丸が積極的にこの敵の相手を始めてくれた。そこからは終始、こちらの有利で戦況は進んで行く事に。

 実体があれば、例え燃えていてもルルンバちゃんの独壇場だ。


 何しろ彼も、炎ダメージを受け付けない鋼の期待の持ち主なのだ。アームを器用に動かして、向かって来る燃えるパペットを行動不能へと追い込ん行く。

 そうやって転がり果てた敵を、姫香と茶々丸での止め差しの分担作業。何度か試す内に、心臓か頭の部分を破壊すれば魔石に変わってくれる事を2人は学習に至った。


 それを学習したら、炎のトカゲやヘビ退治より、燃焼パペットはずっと楽な対戦相手に。炎のトカゲとヘビに関しては、レイジーと萌にほぼ丸投げの形で進んで行く来栖家チーム。

 効率重視で、やっぱり雑魚モンスターの出現率の高い2層を進んで行くと。遺跡型の通路の支道を発見して、その奥には松明が照らす小部屋があるみたい。

 その部屋の中心に、結構なサイズの宝箱を発見。


「あっ、ようやく宝箱を発見したよっ! 敵の姿は見えないけど、このダンジョンの仕掛けだと不意打ちが怖いよねぇ?

 お姉ちゃん、ちょっくら回収して来てよ」

「ちょっくらって何よ……仕方ないわねぇ、それじゃあ行くよツグミ」


 末妹のご指名に、割と素直に応じる姫香である。それに自然とレイジーとコロ助も付いて来て、遺跡の室内はすぐに満杯状態に。何しろ6畳も無い空間に、中央に宝箱と言う図式である。

 ツグミが開けてオッケーのサインを出してくれ、姫香はすかさず中身の確認に移る。最近は相棒の言いたい事が、割とスンナリ把握出来てしまう姫香である。


 まさか香多奈みたいに、変なスキルが生えて来る心配は無いとは思うけど。ツグミとの絆なら、まぁ別にいいかと内心では割と呑気に構えている姫香である。

 それより、心配そうに見守る他のメンバーが部屋前の廊下に詰めて割と窮屈きゅうくつそう。部屋へと一緒に入る手もあるが、それだといざと言う時に全員が身動き出来ない破目に。

 それを含めての、或いは罠の仕掛けだったのかも。


 つまりは罠はやっぱりあって、それはツグミがあらかじめチェックした宝箱とは全く違う箇所だった。部屋の4隅の松明が突然派手に燃え上がって、モンスターへと姿を変えて行く。

 それはバランスボール大の、炎をまとった巨大ダンゴムシだった。空中から炎の球の様にぶつかろうと迫るそいつを、姫香は咄嗟とっさの判断で『圧縮』スキルでブロックする。


 ツグミとコロ助は、そこまで器用に避けれずに被弾してしまった。炎に耐性のあるレイシーなど、逆に頭突きで敵の不意打ちを跳ね返している。

 香多奈の驚き声がやたらと響く中、それでも持ち直した室内チームは反撃を開始する。護人の掛け声で、どうやら火傷を負ったコロ助は萌と交代する模様。

 姫香もとにかく接近を許さないよう、スキルの維持に必死。


「敵の止めまでは無理しなくていいぞ、姫香っ! 攻撃はレイジーと萌に任せて、とにかく防御に徹してなさい。

 ミケっ、部屋の中のみんなのフォローを……」

「うわっ、ミケさんってば容赦ないな~」


 チームの慌てた雰囲気を感じ取ってか、紗良の肩口から先頭にいた護人の肩の上に飛び乗っていたミケ。そして姫香のピンチをその目にすると、容赦の無い助け舟を出してくれた。

 いつもの『雷槌』と《刹刃》の合わせ技だが、ほぼ本体が炎の敵にも効果はあった模様。雷の矢弾に晒された巨大ダンゴムシは、4匹の内の3匹が射抜かれて消滅の憂き目に。


 残りの1匹はレイジーが噛み殺して、これにて狭い室内の襲撃戦は終了。助けにおもむいていた萌など、ミケの無慈悲なヨコ槍に戦慄の表情を浮かべている。

 子供には少々刺激が強過ぎたのかもと、香多奈が何となく萌をフォローしているけど。当の本人は、仕事は済んだわねとばかりに元の位置へと戻って行く。

 そのしなやかな動きは、どことなく満足気。


 そしてひと段落着いたのを見計らって、姫香がようやく室内に置かれた宝箱を開封する。中からはポーション800mlとMP回復ポーション800ml、それから木の実が3つ出て来た。

 他にもオマケ的に束ねられた薪の束が3つと、匂いからしてガソリンっぽい液体が2ℓほど。現代では原油の輸入は滞っているが、発電機や自動車で使う場面も多い。


 たった5年で、魔石のエンジンや発電機がここまで流通したのは驚きではあるけど。ガソリンの品薄で、他に選択肢が無かったと言う単純な理由が存在するのだ。

 もちろん、その魔石流用技術の進歩を、一番に褒めるべきなのだろう。今では値段も落ち着いていて、来栖家でもほぼそちらへの移行は終了している。

 まぁ、電気自動車も現役で頑張っているけど、パワーの差は歴然である。


 それらを魔法の鞄に移し終えて、さっさと本道へと戻って行く一同。機体が大き過ぎて置いてけ堀だったルルンバちゃんが、熱烈にみんなを出迎えてくれた。

 茶々丸がお兄ちゃんをあやすように、その座席に乗り込んでご機嫌な仕草。姫香もただ今と今回の相棒の機嫌を取って、さて次の層の階段方向へと進み始める。


 この層も大体40分程度の探索時間で、次の層への階段をハスキー達が発見してくれた。ほぼ1本道ではあるけど、敵が多いのでこのペースは致し方が無い感じ。

 以前に攻略したダンジョンと同じなら、ここが炎の階層の最後のエリアとなる筈だ。ボスがいるかもだから慎重に進もうと口にする護人に、何かメッチャ暑くなって来たと言葉を返す香多奈。

 どうやら、耐火ポーションの効果が切れて来たらしい。


「あっ、1時間くらいしか持たないと思ってたけど……あと1回分は、何とかあるかな? レイジーちゃんと萌ちゃんと、それからルルンバちゃんは必要ないんだよね。

 それなら何とか、残りの量で足りるかなぁ」

「試作品にしては良く出来てるよね、この耐火のポーション……飲む前と飲んだ後じゃ、全然暑さの感じ方が違うもん。

 火傷もそんな酷くならなかったし、凄い効果だね、紗良姉さんっ!」

「そうだねっ、レモン味で美味しいし!」


 そんなオチを付け加えて、姉に渡された耐火ポーションを口にする香多奈。ハーブも加えてるからねと、家族に褒められて嬉しそうな紗良はペット達にも配膳してあげている。

 その後に、何とか量が足りた事にホッと安堵のため息などついてみたり。何しろ試作品なので、改良の余地もあるかもとそれ程には作っていなかったのだ。


 その効果は覿面てきめんで、程無く暑さが引いたよと報告して来る姫香。香多奈も同じく、これで3層もへっちゃらだねと護人に先をうながす素振り。

 それを確認して、皆を先導して進み始めるレイジー。この層も雰囲気は同じく、至る所に篝火やマグマ溜まりが散見する遺跡型のフロアとなっている。


 そして、そんな場所から不意に出現する敵の仕様も変わりなし。相手取るのは大変だが、相変わらずレイジーと萌の即席コンビは無双状態で頼りになる。

 萌は装備してるリングの《巨大化》スキルに、段々と馴染んで来ているみたい。巨大化しての戦闘も滑らかな動きで、さすが子供でもドラゴンと言った感じ。

 まぁ、来栖家の誰もドラゴンの本質など知らないけれど。


 一種の偏見と言うか、竜だから平気でしょみたいな無茶振りが主に飼い主の香多奈から。それを飄々ひょうひょうとこなす萌(生後2ヶ月)は、割と大物なのかも?

 それはともかく、ツグミやコロ助も少しずつ炎を纏うトカゲやヘビの相手に慣れて来た感じ。コスパは悪いが、敵の中央の核を器用に魔法攻撃で破壊し始めている。


 それが無理な姫香たちは、たまに出て来る炎上パペットの相手をこなすのみ。それでもルルンバちゃんと茶々丸は、張り切って探索に従事している。

 ある程度の作業分けがなされて、順調に進む3層フロア探索も10分が経過。ここでも新たなモンスターが出現して、ハスキー軍団並みの体格の炎の獣が篝火から躍り出て来た。

 それに反応したレイジーと、まさに獣同士の戦いを繰り広げ始める。


 つまりは急所への咬み付き合いで、何と言うか見応えのある肉弾戦である。ちなみに出て来たのは2匹で、もう1匹のタゲは萌が取ってくれていた。

 ツグミとコロ助のフォローで、首筋を咬まれた萌は一転フリーに。その後に香多奈の『応援』を貰って、仔ドラゴンの反撃が始まる。どうやら咬まれた事で、プライドを傷つけられた模様の萌は珍しくヤル気モード。


 間違いなくそのフレアビーストは、このダンジョン内で一番の強敵である。ソイツに向けて、萌は至近距離からいきなりのブレスを放っての仕返しを見舞う。

 それを見た家族の面々はビックリ、フォローしようと思っていた不利な状況が一転して有利になった。紫色の炎の竜ブレスを受けた敵は、オレンジ色の炎ががれて明らかに弱体していた。

 そこに咬み付くコロ助、その時には既に軍配は上がった感じ。


「わっわっ、萌が炎のブレスを吐いちゃったっ! 新しく覚えたスキルのせいかな、これは凄い威力かもっ!?」

「おおっ、何か本物のドラゴンみたい……格好良いね、まだ子供なのに」


 その攻撃に盛り上がる子供たち、萌の家族内評価が一気に上がった瞬間だった。その勢いのまま、萌の相手をしていたビーストは魔石(小)へと姿を変えて行く。

 そしてレイジー側の戦闘だが、何と力技で勝利を勝ち取るリーダー犬。しかも良い戦いだったなと、満足げな表情で悠然とたたずんでいる。


 さすが来栖家チームの大エース、スキルなど無理に使わなくても強いと言う。姫香が褒めるために近付いても、ドヤ顔など見せない大人の対応振り。

 逆にツグミとコロ助が、母ちゃんスゴイと舞い上がっている感じ。親とは手本を示す者を、地で行くレイジーは確かに凄い存在なのかも知れない。

 それでも護人が近付いて撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振る愛嬌も持っていて。





 ――どの方面にも最強のレイジーは、来栖家に無くてはならない存在なのは間違い無し。







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