第287話 チーム強化の時間があまり残ってないと焦る件
前回の“ナタリーダンジョン”から1週間、2月最後の週末がやって来た。子供たちは元気に、前の日から土日の探索計画を叔父の護人に持ち掛ける。
最近は護人も、春先の物騒過ぎる予言に敏感になっている事もあって。チームの強化に関しては、子供達と同じ位には積極的になっているって事情が。
それはギルド『日馬割』に関してもそうで、凛香チームも毎週のように探索に出掛けていた。この土日も、町内のC級ダンジョンへと赴くとの話である。
子供達も負けていられないと、どこに行こうかとあれこれ相談した結果。前回の続きと言うか、“ダンジョン内ダンジョン”へと出掛ける事に話はまとまった。
理由は色々とあるが、まぁ一番の理由はとっても近いから。
それから妖精ちゃんが、これを5つクリアしたらご褒美をくれると口にしたって理由もある。それへの期待も大きくて、週末に2つ目のダンジョンへと挑む次第。
前回の手応えとしては、雑魚のモンスターの数が多くて割と大変との認識だった。こちらも目の前のニンジンは願っても無い状況、それに乗っかるのも
そんな理由での、朝から頑張るぞ的な雰囲気が子供達から発散されるに至って。ペット達もそれを感じ取って、テンション高くヤル気に満ちている。
それを取り
情報担当の紗良も、今回は困った顔で探索準備を進めている。
「今回の探索は、ちゃんと萌にも活躍させてあげてね、レイジー? 動画のコメントで散々働いてないねって書かれて、萌も傷付いてると思うの。
今日は茶々丸はルルンバちゃんと組ませるから、レイジーが萌の面倒見てあげてねっ。戻ったらいいお肉あげるから、しっかりお願いね?」
「香多奈、あんたレイジーに無理なお願いするんじゃないわよ……探索は遊びじゃないんだし、レイジーだって毎回あちこちフォローして大変なんだからね!」
庭先でのそんな一面を挟みつつ、何とか朝の9時過ぎに来栖家チームの準備は整った。そんな感じで、2月最後の探索へと張り切って臨む一同である。
護人にしても、3月を前に割と切迫感に
もっとも、まだまだ山の方は寒さが居残っていて、多少和らいでいるかなって程度だけど。暦の上では2月から既に春に移行しており、つまり来栖家チームの強化期間は限られて来ている。
子供達もその事は理解しているようで、午前中からの探索開始に何の文句も無い様子。元気なのは有り難いけど、疲労の度合いを見て区切りは間違えないようにしないと。
頑張り過ぎるのも、効果的でないのは当然の
そんな感じで、2つ目の敷地内の“ダンジョン内ダンジョン”へ向かう来栖家チームの面々。先導するハスキー達は、今日も元気でレイジーを先頭にチームを導いている。
妖精ちゃんも、末妹の肩に乗ってチームの活動に満足気な表情。5つクリアしたら、ちゃんと約束は守るからなと香多奈に胸を張って話し掛けている。
ひょっとしたら、鬼たちも何か報酬を用意してくれてるかもと、何とも思わせ振りな発言も。そこまでは期待してないけど、“裏庭ダンジョン”の出口を塞ぐ方法は何としても知りたい護人である。
そんな話を挟みながら、敷地内の“鼠ダンジョン”へと潜り込む一行。既にこの辺りは、ダンジョンと言う認識でも無く庭の一部みたいな認識の来栖家である。
さほどの警戒心も、それから遠慮も無く中へと入って行く。
そして向かうは、2層の2つ目の新しく生成された入り口前。姫香が言うには、たまにツグミがとんでもない量の魔石(微小)を差し出す事があるそうな。
恐らく夜中の特訓で、この内のどれかに入ってるんじゃ無いかなと少女は推測していて。それは大いにあり得る話で、ハスキー軍団は家族内で一番、自己強化に貪欲かも知れない。
その割には、前回の鑑定の書(上級)でのチェックでは、差は無かったようにも思うけど。レベルは高い程上がり難くなるのなら、実は結構な差があるのかも。
その辺は専門家でもないし、定かではないとは言え。今回もガッツリ経験値を稼いで、来たるべき春先の異変に向けて対応したい思いの護人と子供たちである。
いや、子供達はそこまで深く考えてないっぽいけど。
「今回はどんな仕掛けのダンジョンかなぁ……前はどんなのだっけ、確か3層仕立てでたくさん敵が出て来たよね?」
「獣とか獣人とかがたくさん出て来て、鍵を4つ集めて大ボスに挑んだんだっけ? 確かに、3層で4セットだったような記憶があるわね。
かなり変則的なダンジョンだったのは覚えてるよ」
「今回も、そんな感じなのかもなぁ……最初のフロアの見た目も、扉が5つな所とかそっくりだし」
確かに護人の言う通り、取り敢えず入って見た感想は前のダンジョンの造りと瓜二つ。真ん中に立派な鍵付きの扉と、その左右に2つずつのスイング式扉がある。
西部劇に出て来るみたいに、胸の高さにしか扉が無いので、ハスキー達なら入り放題だ。ここなら確かに、敵も多いし夜中の特訓場所にピッタリかも。
ただし彼女たちは、どの扉からとか自己主張は一切ナシ。そんな訳で末妹の香多奈が、右端の扉から入ろうよと叔父にお伺いを立てた結果。
姫香が扉に刻まれた紋様を見て、何か燃えてるエリアかなぁと推測を口にする。それを受けて、耐火の果実ポーションの試作品が実はありますと紗良も口添えする。
それを聞いて、おおっと驚いた様子の姉妹の反応はそっくりかも?
それを用意して貰って、試しに入って見た右端の第1層の感想だけど。姫香の推測通り、あちこちに篝火が用意された、蒸し暑い遺跡型のエリアが拡がっていた。
それどころか、少し行った場所にはマグマ溜まりまで見える始末。あんな場所に落っこちたら、例えルルンバちゃんだろうとひとたまりもない。
これは要注意だと、家族で紗良の用意してくれた『耐火の果実ポーション』を回し飲みする。もちろんペット達にもお皿を準備して、念の為にと摂取して貰う事に。
どの程度の効果があるのか、残念ながら作った紗良にも分からないそうなのだが。姫香や香多奈から、何となく体から暑さが引いた気がするとの発言が。
護人も同意して、なるほど体感だが効果はあるっぽい。
「良かったぁ、錬金レシピは本当に手探りで分からない事ばかりだから。妖精ちゃんのアドバイスも、香多奈ちゃんの通訳を通してだから難解だし。
あっ、今のはディスってるわけじゃ無いからね?」
「紗良お姉ちゃんも、翻訳の宝珠みたいなの使えればいいのにねぇ? 今回の探索で出て来ないかなぁ、そしたら異界のお客さんとも自由に話せて便利なのに」
「アンタの特殊能力で、ダンジョンの中の人にお願いしなよ、香多奈。ちなみに私も欲しいから、何とか2個お願いね?
ツグミとも話したいから、出来たらそんな感じの奴でお願いね」
お願いねと言われても、果たしてダンジョンに中の人など存在するのかも不明だ。少女の《天啓》と言うスキルは、そもそも簡単な予知であって、偶然を引き当てる類いのモノでは無かった筈。
それでも姉のお願いに、香多奈の物欲も合わさった結果。紗良が瓶やお皿を片付けてる時間を利用して、無垢な(?)願いが発信される事態に。
それを冷めた目で見つめるハスキー軍団、割と武闘派の彼女たちはドロップより経験値の方が大事みたい。そんな訳で、護人の号令と共に毎度の
目指すは敵の群れと、それから次の層への階段を見付ける事だ。まぁ、ご主人の期待に
ツグミやルルンバちゃんは、実は割とそっちにも重きを置いていたり。
普段と全く勝手の違う、炎の遺跡の探索は最初から大変だった。難航しているって程では無いが、紗良の耐火ポーションが無かったらもっと大変だったかも。
何しろ出て来る敵が、既に傍目に分かる程炎属性なのだ。触れば火傷しそうだし、そんな炎のヘビやトカゲやダース単位で出現して来る酷い難易度。
そいつ等には、明らかに核となる場所への打撃以外は無効打となる仕様らしい。最初の遭遇では、それになかなか有効打を与えられず苦労する破目に。
それは護人や姫香ばかりでなく、ペット達にしても同様で。唯一レイジーだけは、炎を
炎属性同士、彼女だけはどうやら力の勝負に持ち込めているらしい。
後衛の紗良は、こんな敵こそ《氷雪》の出番だと魔法の行使に励むのだが。いつも広範囲に開放している術式を、狭い範囲に特定して放つのに苦労している様子。
その調整が上手く行かず、MPばかりが
他の苦労している前衛組を
巨人のリングの《巨大化》でのカサ増しと、新たに覚えたスキルを駆使して敵を殲滅して行っている。今まで香多奈の足元で、保護されていた姿が嘘のよう。
その勇姿には、タッグを組んだレイジーも満足気な表情。
逆にルルンバちゃんと茶々丸のコンビは、パワーと俊敏さが空回りしている感が。それを修正してくれる者もおらず、終いには姫香がフォローに入る破目に。
ここを狙ったら倒しやすいよと、核を狙うアドバイスを貰えて以降は多少マシになったかも。その点、万能選手のツグミはソツなく影を操ったり、『土蜘蛛』で倒したりと抜かりなし。
コロ助も、香多奈の『応援』を貰ってのパワープレイに終始してまずは順調。その体格差で、無理やり敵の自由を奪って『牙突』で止めを刺すってやり方を編み出していた。
多少の火傷は無視出来る胆力と、後半は着用してるベストの恩恵まで駆使する頭脳プレー。紗良によって強化された犬用ベストは、過酷な運用にも耐えてくれる。
それに気付くとは、ノリで戦うコロ助にしては賢いかも?
そんな感じで、2ダースは湧いていた炎のヘビやトカゲの群れは、5分程度で全て退治が出来た。攻撃魔法ではあまり貢献出来なかった紗良が、『回復』スキルを火傷した面々に掛けて行く。
香多奈もポーションを手に、茶々丸やコロ助の治療に忙しい。ペット達に
周囲に拡がる遺跡は、赤や茶色のレンガ造りで分岐も時折存在する感じ。通路もそこそこ広くて、戦いに不便は無いけど敵の出現場所は割と不意を突いて来る。
例えば
慌てて対応して、そのせいでまたも火傷を負う前衛陣だったり。
「レイジーは火属性まっしぐらなのかな、護人叔父さん? 炎のブレスが使えないから、一番苦労するかなって心配してたんだけどさ。
普通に炎のヘビやトカゲを、咬み付いて倒しちゃってるよ。それから萌も、思ってたより活躍してくれてるよねっ!」
「属性の概念は、装備なんかを見る限りはあるだろうとは思ってたけどな。まさかここまでとは、今日のレイジーと萌を見るまでは確信出来なかったよ。
水耐性の装備品とか、今後のダンジョンの仕掛けによっては活躍するかもな」
「この前ゲットした水着とか、確か水耐性か何かついてたねぇ……でもあれ、ビキニだったよ、叔父さん?」
確かにビキニの水着で戦闘するとか、ちょっと感覚がおかしくなってしまう気がする。それ位なら、護人叔父さんが持ってる《耐性上昇》系のスキルに頼るよと姫香の反論。
男勝りな彼女も、さすがにビキニアーマーでの戦闘は嫌らしい。そもそもアーマーですら無いのだから、護人も許可しないとは思うけど。
何にしろ、レイジーと萌の無双振りは心強い事この上ない。他の面々は戦う度に火傷を負ってしまうけど、幸いにも耐火ポーションのお陰か、そこまで酷くならずには済んでいる。
そんな感じで進む事30分余り、戦闘の回数も4度か5度を数える頃に。ようやく次の層への階段を発見して、ホッと一息つく来栖家チームの面々である。
ただし、その広場は周囲にマグマの流れる溝が張り巡らされて少し不気味。
こんな場所で休憩などして、敵の不意打ちを喰らっても危険である。そう判断した護人は、そのまま2層に進むよと一同を促して階層移動を決断する。
それに元気には~いと答える子供たち、まだまだ元気なのは有り難い。地層的に難易度は割と高めとの認識の護人は、気が気でない顔色である。
何しろ、間違ってマグマ溜まりに落ちたら、それで人生終了のエリアなのだ。慎重に進まないと、ちょっとした油断で事故に遭う可能性もあり得る訳だ。
しかも敵の出現が、完全に篝火などの炎のある場所からランダム出現である。ある程度固まって
つまりは、何とも攻略難易度の高いダンジョンには違いなく。
――こんなエリアなど、さっさと攻略して出てしまうに限る。
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