第251話 3つ目の扉を攻略するか議論する件



 休憩後、長閑な田舎道を丘へ向けてハスキー達の先導で進む事約3分。この扉フロアの構成が全て同じならば、中ボスがいるかなぁとか思っていたら。

 予想はピタリで、宝箱を守って丘の頂上に居を構えていた中ボスたち。今回も3匹編成で、香多奈の予知通りにしっかりと大熊もその中にはいた。


 ただし3メートルを超える巨大サイズ、そして他の2匹はこれまた3メートル超えの大猿と大鹿で。見た目は強そうだが、果たしてその辺はどうかなって感じ。

 姫香もこのダンジョンは精々がC級と評していたが、中ボスも見た目ほどには強くは無かった。だからと言って、ここで相手を見縊みくびって痛い目を見てもつまらない。

 気を引き締めて行くよと、まずは対戦カードの取り決めから。


「あの大鹿って、前に戦った奴は雷だったか魔法を角に帯びてなかったっけ? 実は一番強いのは、大鹿ってパターンは無いかな、護人叔父さん?」

「なるほど……まぁ、大熊は何度も対戦あるし怖いって程じゃ無いな。コイツはルルンバちゃんとコロ助に任せるとして、俺とレイジーで大鹿に行こうか」

「それじゃあ、私とツグミで大猿だねっ! パワーはありそうだけど、武器も持ってないから楽勝だと思うよっ。

 でも香多奈、応援だけは頂戴ねっ!」

「姫香お姉ちゃん、そうやって大口を叩いた後は決まってあたふたするんだから! 勝手にフラグ張って困らないでよね、相棒のツグミが苦労するんだよっ?」


 妹の香多奈のお小言に、大丈夫だよと相手にしない姫香である。護人も軽くたしなめるのだが、最初の扉の中ボス戦で敵の強さが判明してるのが大きいみたいで。

 サッと近付いて一撃で仕留めるよと、変に自信満々な少女だったり。取り敢えず呆れつつも、果汁ポーションと香多奈の『応援』で戦いの準備は完了。


 それじゃあ行くよと、勢いの良い姫香の号令で動き出す来栖家チーム。丘の上に陣取る連中は、まだ動かずでちょっと不気味。とか思ってたら、大鹿が角を立てて坂を突進して来た。

 それを前に進み出てしっかり受け止め……ようとした護人の目の前で、何かにぶつかったように衝撃を受けてる中ボスの大鹿である。


 アレッと硬直する護人だが、どうやらミケが《魔眼》でちょっかいを掛けたらしい。そのまま首をひねって地面に激突……しそうな直前に空中で体勢を立て直す大鹿。

 驚異の身体能力で、護人の背後で見事に四肢で着地を決める大鹿である。それを見て、コイツやるなと嬉々として突っ込んで行くレイジー。

 どうやら、戦いはもう少し続きそうな気配。



 次いで突っ込んで来たのは、3メートルを超す大熊だった。それをルルンバちゃんが、アームを振り立てて牽制しての足止めを敢行。

 まんまとその作戦に乗ってくれ、2本脚で立ち上がる大熊の横を華麗にすり抜けて行く姫香とツグミ。反応しそうになる大熊に、コロ助がハンマーを咥えて突っ込んで行く。


 ルルンバちゃんも同様で、自分より大柄な中ボス相手に両者とも怯む気配を見せない勇猛振り。派手な打撃音と威嚇の雄叫びが、戦場にスパイスの様に響き渡る。

 それにちゃっかり加わっている茶々丸だが、相手が大き過ぎて急所には届かない。得意のジャンプは、その間に回避行動が出来ないのを知って控えている。

 そんな訳で、虎視眈々と止めの一撃の機会を窺う茶々丸であった。



 フラグを立てたと批難された姫香だったが、それが早くも当たり掛けていて思わず舌打ち。自分の相手と指定した大猿は、丘のてっぺんから動かない作戦らしく。

 その場から、割と大きな岩やら木の棒やらを投げつけて下手に近付けない現状である。幸い右側から大回りして来たので、背後には味方は誰もいなくて助かっているけど。


 相手は武器を持っていないとの推測は大外れで、何と言うか末妹の香多奈に腹を立てつつ。あの子が心配したせいで、変な未来を引き寄せたんじゃと勘繰る姫香である。

 大猿はニホンザルと言うより、もはやキングコング染みていて凶悪そうな面構え。ツグミも闇を操って向こうの邪魔をしているが、相手のパワーは相当で成果は上がっていない様子。

 投げる得物が無くなるのを、待つしかないかなと思った瞬間。


 ツグミが《空間倉庫》から銀の毛皮を取り出して、一瞬で闇の狼のデコイを作り上げ。それを突進させて、姫香が駆け寄る隙を作り出してしまった。

 それを逃す少女では無い、愛用の鍬を振りかざしながら『身体強化』込みで一気に中ボスの大猿と間を詰めて。デコイの接近を気にしている敵の死角から、《舞姫》込みの一撃。


 荒々しくも洗練されたその一撃で、何と大柄な大猿の胴体の半分に切れ込みが。とんでもないパワーを発揮して、接近してからの勝負は一瞬だったと言う。

 それでも気を抜かず、敵が魔石に変わるまで戦闘態勢を崩さない姫香。隣に相棒のツグミがスタっと位置に着くまで、周囲に気を配っていたのは素晴らしいけど。

 これ以上末妹に、変に突っ込まれない為と言う理由が何とも。



 一方の護人とレイジーのコンビは、麓近くで大鹿の抑え込みに取り敢えずは成功していた。イレギュラーだったのは、向こうが突っ込んで姫香が後衛の支援を受けれない事。

 そしてこの大鹿も、実はそんなに強くは無かったと言うオチ。角の雷撃も使って来ず、振り回す大振りな角が少々厄介かなと言う程度である。


 それでもレイジーもいるし、すぐ背後には後衛陣も控えている。ミケも今回はやる気を見せており、既に相手の中ボスは傷だらけの有り様である。

 護人も十八番の“四腕”を発動して、追い込みに加勢するけど。それより先に、ミケの《刹刃》が作動して敵の大鹿の首を撥ねてしまった様子。

 この大鹿も3メートルを超えていたので、首もそれなりに太かったのだが。


 全く意に介さずのスキル扱いは、さすが老練と言うしかないレベル。余り戦闘参加しないイメージのミケだが、一度ヤル気スイッチが入ると容赦無いのはいつもの事だ。

 それを見て、喝采を上げている香多奈はいつも通りに元気。そして丘の中腹では、コロ助とルルンバちゃんが大熊相手に押せ押せの戦いを繰り広げていた。


 これは手出しも不要かなと思っていたら、茶々丸がルルンバちゃんを土台に派手な跳躍を見せ。思い切り脳天に、長槍をブッ刺しての完全勝利。

 どうやら新スキルの《刺殺術》も、段々と馴染んで来ている模様の茶々丸である。止めを取られても余裕のコロ助とルルンバちゃんも、しっかり褒めてあげないとねと香多奈の弁。

 それはとっても大事である、年長者は常に立てないとむくれるので。



 そしてドロップ品をみんなで回収しつつ、丘の上の姫香とツグミと合流。今回もスキル書のドロップは無かったが、鹿の角や熊肉などは回収出来た。

 そしてお楽しみの宝箱だが、こちらにはやっぱりスキル書が1枚入っていて子供達もご満悦。それから鑑定の書が3枚に魔石(中)が4個、魔玉(水)が7個と定番が並んで。


 後は大猿の毛皮や革素材や獣の牙が幾つか、毛皮のマントや革製のブーツと素材系や装備品が。最後に出て来た獣の意匠の鍵を見て、これで2個目だと騒ぐ香多奈。

 つまりは折り返しなのだが、ここまで掛かった時間が既に3時間越え。もう3時間も探索に費やすのは、さすがに労力オーパとなってしまう。

 しかもそこまでやっても、鍵が4つ揃うだけなのだ。


 鍵付きの扉の奥には、恐らくダンジョンボスが待ち構えているとしたら。どこかで今日は探索を終えて、仕切り直しと行くべきだろう。

 ここも丘の裏側にワープ魔方陣があって、帰りの心配はいらない様子。そこを潜って、再び推定0層へと家族で戻って来てホッと一息。


 それから家族で話し合い、残りの扉に同じ時間が掛かりそうだけどどうしようかと。いったん外に出て、おやつにしましょうかと呑気な紗良の意見が最初に通って。

 ここは敷地内ダンジョンの良い所と言うか、いつもやっている農作業の合間の休憩時間みたいに。着替えが面倒なので中庭の外テーブルに陣取って、温かい飲み物を紗良に振る舞って貰う事に。

 寒いのが玉に瑕だが、そこはまぁ仕方がない。


「それでどうするの、護人叔父さん……今日中には完全攻略無理だよね、行けたとしてあと扉1つか2つかなぁ?」

「茶々丸、それクッキーだよ? 食べれるんなら食べて良いけど……お腹壊さないでよ、まだ探索は続くんだから!」


 香多奈の中では続くらしい、護人も腹を決めてそれじゃあ今日は残り扉1つを攻略しようかと口にする。2つだとさすがに、夕食時間が大幅にずれてしまうので。

 子供達も、その決定に異議は無い感じである。


「そしたら残りは来週かな、でも日曜は青空市だな。行けるとしたら土曜だけど、ちょっと忙しなくなっちゃうな」

「平日でもいいんじゃないかな、訓練の時間を実践に当てる感じ?」


 色々な意見は出るけど、それも毎日学校のある香多奈などは大変そう。それでも置いてっちゃイヤだからねと、自分の探索権利を主張する末妹である。

 ハスキー達も、のんびりとご主人たちの足元で今は休憩中。妖精ちゃんだけは、おやつタイムに張り切ってテーブルの上で暴れている。


 それに突っ込む者は、もはや誰もいないと言う。唯一ミケが虎視眈々と狙っているが、姫香にしっかり抱っこされて手出しは出来ない状況である。

 そんな感じの30分程度の休憩で、探索疲れをリフレッシュして。それからもう一仕事しようかと、護人の号令では~いと動き出す子供達&ハスキー軍団。

 もちろんルルンバちゃんや新人ズも、それに従って。


「ダンジョンが近い立地って、休憩するには凄く便利だよねっ? ここはお肉も取れるみたいだし、定期的に入ったらダメなの、叔父さんっ?

 小鳩ちゃんとか、凄く喜びそうだけどなっ!」

「あぁ、それは面白い案じゃない、香多奈……でも妖精ちゃんのお題は、5つのダンジョンの完全制覇だったんじゃなかったっけ?」


 あっそうかと、頭の上を飛んでる妖精ちゃんを眺めながらの末妹の相槌である。それは絶対にしなきゃダメなのとの少女の問いに、妖精ちゃんも律儀に答えてくれて。

 コアを破壊すれば、それだけ経験値も入るからナと肩を竦めてフランクに応じる彼女。そうなんだと、香多奈も納得してそれを姉に伝えている。


 要するに、強くならないと妖精ちゃんの言う『ダンジョン穴を封じる方法』にも、恐らくは辿り着けないのだろう。春先に不穏な予言の件もあるし、護人としても強くなるのに否は無い。

 とは言え、リミットを決められると焦りもある程度生じる訳で。そんな中、どの位強くなれば良いのか指針も無いので戸惑いもあったりして。

 護人も無理はしないつもりだが、皆を強くしたいと言う使命感も当然あって。


 それ以上に、あの厄介な場所にある“裏庭ダンジョン”は、自分の生きている内に塞いでしまいたい。その為には、多少の無茶もする所存である。

 もっとも、その無茶を子供達にも押し付けてしまっては本末転倒なのだけど。出来れば自分の及ぶ範囲で、裏庭に空いた穴を封じる手段を講じたい所。


 そんな事を思いながら、一行は再び“鼠ダンジョン”の2層へと到達する。ここもすっかり、通常のモンスターには出遭わなくなってしまった。

 入る度にハスキー達が雑魚を狩ってたので、恐らくは枯れてしまったのだろう。そして最初の支道へと入り込んで、ダンジョン内ダンジョンと再びご対面。


そして階段を降りて行って、5つの扉の存在する通称0層へと降り立って。今回も適当に、残った2つの扉からレイジーに行き先を選んで貰って。

 彼女は左から2番目のスイングドアを、今度は選択した模様。それに従うツグミとコロ助、当然の如く姫香や香多奈も続いて入って行く。

 ルルンバちゃんも、窮屈そうだがその扉に身を潜らせて。


 そして本日3つ目の扉の先のフロアは、またガラリと様相を変えての遺跡タイプとなっていた。そして対面するモンスターは、今度は獣人の群れらしい。

 扉に描かれていた紋様から、何となく見当をつけていた子供たち。やっぱりねとの言葉と共に、厄介な弓矢や魔法使いが混じって無いかをチェックして。


 いないと分かると、武器を振りかざして向かって来る獣人たちを蹴散らしに前へと進み出る。ルルンバちゃんを中心に、右サイドを姫香とツグミがカバーして。

 そして左サイドは、レイジーとコロ助と茶々丸が既にカバー済み。出遅れた護人は、仕方なく弓を取り出しての後方援護の態勢へとシフトして行く。

 今回も、ゴブリンやコボルト兵が50匹以上の大群だ。





 ――少なくとも、今回も魔石はガッポリ稼げそうな気配。






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