第250話 獣のフロアも敵が大量に出て来る件



 後悔よりも攻略が先だと、張り切って次の扉を潜る来栖家チームの面々だけど。適当に決めた2つ目のフロアは、一気に変わって何とフィールド型ダンジョンだった。

 入った途端に面前に拡がるのは、丘と小川と雑木林の風景で。広い道の側には、木の柵と石の塀まで設えて人工物まで存在している始末。


 長閑のどかで良い風景なのだが、しばらく進むと敵はやっぱりいた。それもたくさん、どうやらこのダンジョンの定番のパターンらしい。

 武器を構えて、戦線を構築に動き出す前衛陣。それ以上に興奮しているのは、実はハスキー軍団ズだった。何故なら、敵の大半が野犬の群れだったから。

 武器も持たずに、己の牙で立ち向かうハスキー達。


 敵は野犬が大半で、それに大イタチや大猪がスパイス的に混じっていた。蟲の集団と違って動きの速い敵が多く、後衛にも敵の牙が及びそうになりそうな場面も何度か。

 それを何とかしのぎ切って、約10分後に敵の集団は綺麗にいなくなった。蟲と違ってタフで、集団で襲い掛かられそうになるピンチもあったけど。


 こちらもお互いカバーし合って、集団戦を勝利する事に成功。そして魔石に混じって、恒例の猪肉や毛皮や牙類がドロップしているのを発見した香多奈は大喜び。

 ここは敵も多いけど、ドロップも良いねとご機嫌模様である。


「本当に敵が多いよね、今日中に全部回れるか心配になって来ちゃうよ。フィールド型だけど、階段はどっちにあるか分かる、ツグミ?」

「最初の扉で1時間半くらいだっけ……そしたら5つ回ったら、確かに夜中になっちゃうね!」


 そんな事を話し合ってる子供たち、まだまだ元気なのは助かるけれども。確かに夕ご飯までには帰りたいよねと、お母さん役の紗良はちょっと心配そう。

 そしたら2つか3つしか回れないねと、1つの扉に1時間半は確定な感じでの話の流れに。話の途中に、新たな敵の群れがハスキーの先導する道の先で発見。


 今回は鹿の群れらしく、何十頭もの集団は宮島のお参りの際に見慣れている面々だったけど。アレに突進されると、文字通りに地響きを感じる恐怖体験だ。

 ルルンバちゃんが勇んで前に出るけど、それだけで角の突進は抑え切れそうもない。護人と姫香も前に出て、とにかくスキル込みで抑え込むぞと声を上げる護人に。

 子供達も、はいっと元気に返事をしての戦闘開始。


 鹿モンスターの突進は、密集していただけに強烈ではあったけど。護人の薔薇のマントの棘ガードと、姫香の『圧縮』ガードで敵の自爆を誘いつつも。

 勇ましいルルンバちゃんの動く要塞ガードも、多少揺らぎはしたけど無事に乗り切った模様で。怒りの反撃で、吹っ飛んで行く突進が不発に終わったモンスター達。


 香多奈も魔玉をばら撒きに掛かって、その混乱に乗じてハスキー軍団と茶々丸も動き出して。犬達より巨体の鹿の群れが、何と押し返される珍事が発生。

 特訓によって、モンスターに負けないパワーも得ていたハスキー軍団。茶々丸もそんな先輩たちに負けじと、身体に似合わぬ大振りな槍を片手に躍動している。

 この戦いも、10分以上に及ぶ大激戦に。


 そして戦いが終わって、後に残るのは大量に散らばる魔石と鹿肉、それから毛皮と角素材が割と目立って地面に転がっていた。

 それを手分けして回収しながら、向こうに階段あったよと報告して来る姫香。最初の層から激戦だったが、何とか次の層には無事に到達出来そう。


 今回はコロ助や茶々丸に怪我が生じて、紗良も回復に忙しく動き回っている。入り口が狭くてギリギリだったけど、ルルンバちゃんを小型ショベル形態にして良かったねぇと。

 香多奈の戦闘後の感想も、まぁ納得のコメントには違いなく。何しろそれだけ、鹿モンスターの突進チャージの威圧感は凄かったのだ。

 これはルルンバちゃんのパワーアップも、今後は必要かも知れない。


「小型ショベルで空を飛んだりとか、色々出来たらねぇ……あっ、魔銃を取り付けたら良かったね、パワーあるから必要無いって思っちゃったよ!

 ルルンバちゃん、戻ったら魔改造しようねっ!」

「アンタはルルンバちゃん担当なんだから、しっかりお世話しなきゃダメだよ、香多奈。最近は茶々丸と萌ばっかり構ってるから、ルルンバちゃん寂しがってるよ?」


 実はお兄ちゃんと言われて我慢しているルルンバちゃんだが、やっぱり構って欲しいのは本当で。戻ったら改造して貰えると聞いて、ウキウキな彼である。

 治療とMP回復休憩も終わって、長閑な風景でまったりから探索モードへと気持ちを切り替える一行。間引きは関係ないのだが、とにかく進むには敵を倒すしかないこのエリア仕様。


 まさに特訓用のダンジョンと、鬼が言うだけの事はある。ドロップが良いので子供達も楽しんでいるが、ちょっと密度が濃過ぎると思わなくもない護人。

 次の層も、やっぱりそんな感じで敵がこちらを見付けて襲い掛かって来た。今回は野犬が半分に、大アナグマが半分の巨大な群れ。それに大猪と、大熊も後ろに混じっている。

 今回も結構な数の敵の群れで、前線の構築は大変そう。


 そんな訳で、護人はチームの作戦を大胆に変更する。敵は幸いにも、密集して突っ込んで来てくれるのだ。接近するまでの数瞬で、範囲魔法を撃ち込む時間はある。

 そんな訳で紗良に大役が回って来て、まるで度胸試しみたいな先制打を言い渡され。緊張しながら、殺気を放って突進して来る野生の敵に対峙する。


 そしてフっと一息ついでの、《氷雪》スキルを前方に向けての発動。紗良のイメージで、氷の暴風が一行の前方に出現。ついでの様に、ミケが雷の雨を追加してくれて。

 それにビックリする前衛組、ミケの気紛れには慣れていた家族だったのだが。前衛が働き過ぎとでも思ったのか、そのちょっかいになんと大半の敵が吹き飛んでしまった。

 相変わらず、小柄な猫とは思えないパワーである。


「よしっ、取り敢えず残った敵を倒してしまおうか!」

「了解っ、護人叔父さん!」


 掃討戦はほんの3分余りで終了、ハスキー軍団と茶々丸で大熊も倒してしまって。今回も魔石(小)が数個混じっていたけど、まぁ雑魚の群れには違いなかった。

 この辺りで、既に探索時間は2時間を突破していた。普通の探索なら、そんなに疲労を感じる時間帯でも無いのだけれど。何しろ今回は、エリアを歩くより戦闘時間が異様に長いのだ。


 休憩時間も、一応は長めに取った方が良いかなと護人も悩むのだが。子供達もハスキー軍団もまだまだ元気で、先に進みたがっている素振り。

 今回のボスも獣だから熊かなとか、ルルンバちゃんをどんなふうに強化しようかなぁとか。香多奈を中心に、呑気にあれこれと話し合っている。

 また、それが似合う長閑な風景なのが何とも。


 道の奥には雑木林が拡がっており、広葉樹の割合が比較的多い感じで視界も悪い。休憩後にそちらの方向へと向かうと、今回も林の中に敵の気配が複数。

 そして前の扉のフロアでも見掛けた、石の台座とその上の宝箱のセットが。それを見付けてテンションが上がる子供たち、とは言えやっぱり待ち伏せの敵は皆が感じている様子。


 護人の《心眼》では、頭上にサル型のモンスターが、下の茂みには大イタチや大猪が潜んでいるようだ。そう説明すると、今回は魔法でドカンは無理だねとの姫香の返事。

 そんな訳で、樹の上の敵は護人とレイジーが、その他は残りの面々が担う事で作戦は決定。そんな訳で、まずはレイジーが『歩脚術』を使って樹上へとお邪魔する。

 その下では、ルルンバちゃんが前へと進み出て敵を威嚇。


「そら出て来たっ、行くよツグミっ!」

「お姉ちゃん、コロ助頑張れっ!」


 釣られて出て来た敵たちを見据えて、残りのメンバーも行動を開始。樹上でも大猿たちが吠え立てて、接近して来たレイジーに襲い掛かって来る。

 それを『射撃術』で、遠隔からサポートする護人。射抜かれた敵は樹から落ちる途中で、早々に魔石に変わって行く。こちらのコンビは、全く心配はいらない様子。


 地上メンバーも、盾役を堂々とこなすルルンバちゃんが無敵状態。逆に突進してダメージを受けている大猪を、茶々丸が止めを刺して回っている。

 姫香とツグミのペアも、咬み付いて来る大イタチを華麗に避けて処理して行っている。それから不意を突かれての、大フクロウの襲来にも慌てずに対処して。

 逆に後衛から、紗良と香多奈がビックリした感じの悲鳴が。


 平気だったよと手を振る姫香は、何だかんだと戦闘慣れし過ぎている気も。戦況が落ち着いくと、萌も香多奈の指示で度胸試しにと出陣して行って。

 最後に出て来た、大熊に思いっ切りビビる場面も。


「おっと、アレがここのボス格かな? 結構大きいな、俺が行こうか……」

「大丈夫だよ叔父さんっ、コロ助がサポートに行ってくれてるみたい。コロ助ったら、あのハンマーが物凄くお気に入りだよねっ……おもちゃだと思ってるみたい」


 白木のハンマーを割と軽々と振るうコロ助は、大熊の脳天もこの武器でカチ割りに掛かって。恐らくは《韋駄天》も使用しているのか、瞬間移動で敵をほふるその能力。

 そして雑木林での戦いも、程無く終了してのドロップ品の回収。宝箱からはポーション800mlと初級エリクサー800ml、それから木の実が3つとどこかで見た内容。


 そして割とすぐ側に、次の層への階段を発見する姫香。香多奈は魔石やドロップの拾い残しが無いか、ルルンバちゃんと確認に余念がない。

 この辺の勤勉さは見習いたいレベルだが、護人はちゃんと休憩も取りなさいと小言で少女をたしなめる。は~いと返事をする少女の手の中には、大振りの灰色の羽が。

 大梟のドロップ品らしい、妖精ちゃんがこれは魔法アイテムだと請け合うが。


 護人の《心眼》では、その辺の事は全く分からない。恐らく扱う技術は、全くの別系統なのだろう。ちょっと残念だが、そこは致し方が無い。

 それよりも、妖精ちゃんの言葉がハッキリと分かる違和感の方が半端ないと言うか。そんなにぺちゃくちゃ喋らない彼女だが、どうも皆が思うより長生きしている様子である。


 意外な知性の発露を感じる事があり、そのギャップに驚く事もある護人だったり。どちらにしろ、来栖家には悪感情を持ってないのが有り難い。

 このまま良関係を続けて行きたいし、ダンジョン穴を塞ぐ技術は是非とも教えて貰いたい。そのために今日も探索を頑張る予定なのだが、ここに来て雲行きが怪しくなって来た。

 もうすぐ3時間が経過するのに、潜ったのが通算でまだ6層目と言う。


 とにかく敵の密度が濃いのが特徴の、この訓練ダンジョンなのだけれど。休憩を終えての獣エリアの3層目も、やっぱりいきなりの出迎えは盛大だった。

 それを見据えて、魔法の用意をしていた紗良とレイジー。範囲の先制打を見舞うのは、時間短縮にとっても重要。紗良も慣れて来たのか、割と度胸がついて来た様子で。


 一網打尽とまでは行かないが、生物型のモンスターには程よい効きが証明されている。レイジーの『魔炎』も同様で、出て来た野犬や大鹿の混合軍はダメージに右往左往。

 そこに突っ込むルルンバちゃんと、それを盾にしながらの前衛陣。混乱する敵の群れを片付けながら、じりじりと前へと進んで行く。

 統率力の無い獣の群れなど、もはや怖くなどない。


「さすが勉強熱心な紗良姉さんだねっ、実地訓練も合わさってどんどん魔法の威力も上がって来てるんじゃないかな? これは、日馬桜町の賢者の称号を得る日も近いかもっ?」

「やめて、姫香ちゃん……でも本当に実地訓練は大事だねぇ。何となくだった発動のコツが、完全に呑み込めた気がするよ。

 宝珠で覚えた技能だから、私には向かないかもってのは思い込みだったね」


 そう話す紗良は、ちょっとだけ誇らしそうで頬が紅潮している。座ってMP回復ポーションを飲みながら、姫香とにこやかに話し合って。

 肩の上のミケも、子供の成長に至極満足げな表情。姫香も思わず撫で始めて、そうなると癒しの連鎖はもう止まらなくなってしまう。


 それよりこの層にも中ボスいるのかなと、香多奈が護人に話しかけている。どうせ熊でしょと、先読みが楽しくて仕方がない感じの末妹。

 その膝元には萌が丸くなっていて、活躍出来なくてちょっと申し訳なさげな表情。それをよしよしと撫でながら、ドラゴンってどの位で大人になるのかなと夢見がちな少女。

 護人だって知らないが、大きくなったら外飼いだからねとそこは譲れない家長。


「可愛いのと強いのと、どっちも大切だと思うんだけどねぇ、萌?」

「萌については、ゆっくり育成してあげよう……先月生まれたばかりだしな、スキルを持って生まれただけ優秀じゃないか」

「だよねぇ……仕方無いから、当分は茶々丸に頑張って貰おうかなぁ」


 護人が春までにチーム強化案を打ち出したため、末妹の香多奈もそれなりに思いはある様子。とは言え、さすがに生まれたばかりの仔ドラゴンに期待をかけ過ぎるのも可哀想。

 突攻撃に最初から相性の良い、茶々丸が今の所は抜け出て即戦力だ。跳躍系の特性も、素早い動きに直結して敵の攻撃を避けるのも上手だし。


 何より教官役のレイジーが、絶妙にチームプレーを叩きこんでくれている。個人技だけじゃすぐに行き詰まるが、チームでの役割をこなし始めれば息長く活躍出来る。

 それを茶々丸も、感じ始めている筈。





 ――後は強敵相手でも、そのコンビプレーを発揮出来れば言う事無し。







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