第252話 獣人フロアを何とか踏破に至る件



 その群れを倒すのに、やっぱり10分以上掛かってしまったのは仕方がない。休憩したばかりとは言え、これだけの大群と対峙するとやっぱり疲労の色は濃くなって来る。

 しかも相手は獣人だ、人の形をしているので精神的にも多少来るモノが。それでもドロップ品を回収した子供たちは、さぁ次に進もうと催促の素振り。


 遺跡は天井も高くて異国風の情緒もたっぷり、その分罠とか無いか心配だけど。今までの扉では、あっても精々が待ち伏せ程度だった事を思えば。

 それ程に心配する事も無いのかなと、休憩を終えて進みながら思う護人。それでも子供達に先頭は歩かせず、自分とルルンバちゃんが最前線の布陣である。

 これなら、たとえ何かに引っ掛かっても多少は平気と思いたい。


 遺跡は多少の曲がり角や階段やらの高低差は存在したけど、支道の類いは無い感じ。その点迷ったり、変に時間を取られる事も無いので安心設計ではある。

 ただし、他の扉と同じく敵はとにかくわんさか出る模様で。次に遭遇した敵の数も、やっぱり多くて獣人の混成軍仕様となっていた。


「わっ、今度は弓兵も魔法使いも混じってるみたいだねっ!」

「ゴブリンとオークが、半分ずつくらい……かな? オークの召喚士には嫌な思い出あるけど、今回はどうだろう?」

「それはいたら、真っ先に倒さないとだねっ! あの時みたいに強い敵とか召喚されたら、溜まったモノじゃないよっ!」


 可愛くプリプリと怒る香多奈は、“もみのき森林公園ダンジョン”の事を思い出して憤慨中。その時にはいなかった茶々丸と萌は、少女は何を怒ってるのかと不思議顔。

 とにかく敵もこちらを見初めており、今回も50匹以上の軍団が一直線に向かって来ている。それより到達の早い矢弾や魔法が、前へと進み出るルルンバちゃんに当たるけど。


 それを無視して前進する動く要塞、“四腕”を発動させて護人もその隣へと進み出る。到来する矢や魔法は盾で撃ち落として、逆に《奥の手》での射撃で敵を打ち払う。

 その後ろに従う姫香たちはともかく、レイジーは別ルートで敵兵団の頭上をいち早く取った模様。それを察知して、前進を止める護人とルルンバちゃん。

 一瞬後には、降り注いで来る紅蓮の炎。


 おおっと、感心する素直な子供達……何度かこの光景は見た事があるけど、毎回凄まじい威力である。今回は先制魔法の撃ち込みあるかなと、控えていた紗良も出番なし。

 残りは本当に掃討戦で、あれだけ警戒していたオーク兵の魔術師もいつの間にか息絶えていた模様。弓兵も同じく、『隠密』でツグミがさっさと片付けてくれていたみたい。


 至れり尽くせりのハスキー軍団の援護に、3つ目の扉の第1層は余力を残して突破出来ていた。それでも30分近くは掛かったし、楽勝とまでは言い切れず。

 ドロップは魔石(微小)に混じって、獣人の粗末な武器や装備が少々と言った所。それを拾ってMPヒーリング休憩をして、さて次の層へと降りて行く一行である。

 景色は変わらず、前の層と同じ遺跡タイプのフロアが続いている。


「パターン通りなら、ここはちょっとだけ敵が強くなってる感じ? そんで奥に、1個だけ宝箱が置いてあるのかな?」

「先読みしないでいいよ、香多奈……アンタの妙ちくりんなスキルが発動すると嫌だから」


 妙ちくりんって何よと憤慨する少女だが、さすがに3つ目の扉だとパターン慣れもして来た感じ。忘れられない内にと、今度は自分がと紗良が先制魔法の立候補。

 レイジーだけ重労働は申し訳ないし、こっちも場数をこなして度胸をつけないと。護人も了解と作戦をチームに通達、それじゃあ自分もと魔玉を手に香多奈も前へと進み出る。


 思えば最初の頃は、この香多奈の魔玉投げくらいしか範囲攻撃の手段が無かったのだ。感慨深い思いは取り敢えず脇に置いて、それじゃあ行くよと次のフロアに飛び出す一同。

 そしてご対面、今回はオーク兵とリザードマンの混合軍らしい。敵の団体を視界に収めて、紗良と香多奈の競演が開始される。

 まずは何の情緒も無く、末妹の見事なオーバーハンドスローから。


 派手な爆破音は、たくさんある土の魔玉の破裂する音。それに数秒遅れて、紗良の《氷雪》の氷の嵐が吹き荒れる。戦意も高く突進しようとしていた敵の団体は、思い切り出鼻を挫かれまくって。

 しかもリザードマンは、氷属性は弱点だったらしく。思い切り動きを鈍らせ、あまつさえそのまま倒れて行く兵士が続出する始末。


 その勢いのまま、ハスキー軍団の特攻が敵を切り裂いて行き。遅れるモノかとルルンバちゃんと茶々丸も出陣、護人と姫香は今回は出番が無さげ。

 相変わらず範囲魔法攻撃は、威力も高くて容赦がない。その代わり、休憩を挟まないと連発は無理そうだと紗良の言葉は納得が行く。

 レイジーもあれで、派手な炎のブレスは2~3回が限界っぼいし。


 とか思っている内に、2層の最初の戦闘は終了していた。手強い筈のリザード兵士も、魔法の威力には形無しって感じ。魔石を拾いながら、香多奈もああいう魔法が欲しいねと萌を相手に呟いている。

 萌も派手なブレスでも覚えたらいいのにと、末妹の欲望は止まる事を知らない。困った顔の仔ドラゴンは、何だか表情豊かでいじましい気がしないでもない。


 今回のドロップにも、獣人の武器や装備品が混じっていた。変わった所で、イヤリングなど装飾品が少々。価値があるかは不明だが、妖精ちゃんの反応を見ると魔法アイテムでは無さげ。

 MP休憩を挟んで、次は誰が魔法で先制しようかと話し合う子供たち。順番で良いんじゃないかなと、負担軽減にそんな案が出て直ぐに採用される流れに。

 それじゃあ次はミケさんねと、何故か来栖家のエースも組み込まれそうに。


「ちょっと、香多奈……ミケはウチのエースなんだから、雑魚に引っ張り出すのは勿体無いよ。それなら魔玉を10個くらい、いっぺんに放り投げた方がいいでしょ!?」

「だってミケさんも、敵をいっぱい倒して経験値稼いだ方がいいじゃんっ! 今日はミケさんもノッてるし、お願いしたら手伝ってくれるよっ!」


 いつもの姉妹喧嘩に、ミャーと鳴くミケさんの追従が。それ見なさいと、香多奈が大威張りで胸を張る中。無理しちゃダメだよと、ミケを撫でながら姫香の言葉。

 そんな話をしながら進んでいると、見えて来たのは定番の石の台に乗った中型サイズの宝箱。その周りは水の張ってあるお堀で囲われ、一見して敵の姿は無し。


 ただし、周囲には巨大な柱や遺跡独特の壁の配置やらで隠れる場所には事欠かない感じ。実際、護人の《心眼》でも敵の気配をあちこちに感じている。

 それじゃあミケの為に囮をしようかと、姫香が前に出ようとした瞬間。ミケの『雷槌』がお堀の水に炸裂し、堪らず絶叫して飛び出るリザード兵士たち。

 どうやら水面下に潜んでいたらしい、その数10名ちょっと。


 その悲鳴を聞きつけて、あちこちの柱や壁の影から湧き出る獣人たち。明らかに予定と違うぞって顔なのが、ちょっと微笑ましくも悲しくもあり。

 それを遠目に眺めながら、護人も『射撃』スキルで討伐のお手伝い。香多奈もルルンバちゃんの座席の上に乗って、敵の固まってる場所に魔玉を投げつけている。


 そんなこんなで、前に出た姫香の前に到達したのはオーク兵が3匹のみと言う結果に。左右にお手伝いに参じたレイジーとツグミも、これまた出番なしの結果に。

 ルルンバちゃんも同じく、大人しく魔石を拾う役で長老のミケの顔を立てている感じ。何だかんだで、ミケの雷落としで半数の敵をやっつけていたのだ。

 ミケも案外、“鼠ダンジョン”のネズミが減って寂しいのかも?



 設置された宝箱からは、解毒ポーション800mlとエーテル800ml、それから木の実が3個ほど回収出来た。この辺は定番と捉えて、もう良いかなって感じ。

 再突入から、ここまでもうすぐ1時間……お昼の探索から合計すると既に4時間超えなので、疲労も結構貯まって来ている感じ。子供達も、表情にこそ見せないがそうだろう。


 残りは恐らくあと1層なので、何とか根性で乗り越えたい所。そんな訳で、作戦も単純に今度はレイジーの先制範囲攻撃からと通達して。

 後は各々突っ込んで、大きい敵がいたら護人かルルンバちゃんが引き受けるって事で。そろそろオーガとか、大きい敵が出てきそうだねとの香多奈の相変わらずの先読み。

 それはそうかもと、姫香もそれには便乗の様子。


 そして3つ目の扉の第3層、出て来たのはリザードマンとヤモリ獣人の混成軍だった。その背後には確かにオーガ兵が数体、棍棒や旗を持って指揮官気取り。

 ただし、やっぱり香多奈の魔玉(炎)とレイジーの炎のブレス攻撃で、向こうの統制は一気に総崩れ。そして戦場に燃え上がった炎から、《狼帝》効果で出現する炎の狼たち。


 このコンボ技で、敵の混乱は後戻り出来ない程に。そんな訳でルルンバちゃんは、ひたすら敵の総大将を目指して直進する事に。

 その後ろからついて来た茶々丸が、右往左往する獣人兵士たちを始末して回っている。ツグミとコロ助も、負けじと奥のオーガへと殺到している。

 それをのんびり追いかける、護人と姫香。


 15分後には、総ボスらしき巨体オーガもコロ助に撲殺されて戦闘は終焉。ヤモリ獣人は、忍者タイプなど色々見た事ある気がするのだが、ここに厄介な奴はいなかった。

 リザード兵士も同様で、そもそも装備も全員大した事無い感じ。総大将のオーガも、最後の戦いでは旗を振り回しての戦闘だったねと香多奈は良く見ている。


 これは中ボス戦も楽勝かなと、またもや姫香のフラグ張りに。末妹の香多奈は、姉をじろっと一瞥して今回は敢えて何も言わない事に決めた様子。

 探索も長時間となって、そろそろみんな疲れもピークに達しそう。護人としても、サッと片付けて我が家に戻ってひとっ風呂浴びで寛ぎたい。

 今夜はおでんだよと、紗良も最後の戦いに皆を奮起させる言葉。


 ハスキー達にも、さっき回収したお肉をたんまり上げるからねと、最後の戦いに士気を向上させる紗良。言葉を完全に理解しているハスキー達は、尻尾を振り回して頑張るアピール。

 遺跡の壁や柱の飾りは、進むごとに段々と派手さを増して来た。そしてとうとう突き当りに、控える中ボスを発見に至り。最終戦に向けての、最後の作戦会議。


「まだ反応してないって、どんだけ甘えん坊さんなんだろうっ!? 紗良お姉ちゃん、構わないから魔法撃ちこんでやってよっ!」

「敵はオーガとトロルと、後は大蛙に乗ったヤモリ獣人だねっ。香多奈の言う通り、向こうが反応しない内に先制打を喰らわすのもアリなんじゃないかなっ?」


 それはダンジョンルール的に有りなのかなと、疑問に思わなくもない護人だったけど。時間短縮も大事だと、その作戦にゴーサインを出す事に。

 それから対戦相手決め、厄介なのはやはり4メートル近い毛むくじゃらのトロル兵だろう。巨大な棍棒を手に、割と獰猛そうな顔付きだ。

 ヤモリ獣人は忍者タイプかも、オーガも3メートル超えと体格は良いのだが。


 オーガとは既に何度も対戦をして、来栖家チーム的にも慣れている感じ。その相手をルルンバちゃんとコロ助に任せ、護人とレイジーでトロルと対戦する事に。

 姫香がそれじゃあ忍者の相手するねと、これで対戦カードは決定した。そして遺跡の派手なフロアに居座る中ボス相手に、まずは紗良の範囲魔法が炸裂する。


 何故か今日は協力的なミケが、それに便乗したのは完全に計算外だったけど。お陰で何やら格好良く、忍術ポーズで待ち構えていたヤモリ獣人とその騎乗の大蛙は瞬殺。

 何もしていない内に酷いとは思うが、他の2体も似たような境遇で。姫香がえ~っと悲鳴を上げる中、止めを持っていかれたら堪らないとレイジーとコロ助が動く。

 結局は、護人も最終戦に出番なしの結果に。


「あらら、結局はミケさんとハスキー達で決まっちゃったね。茶々丸、仕方無いからドロップを拾いに行こうか」

「最終戦に出番なしって、酷いなぁミケはっ。でもまぁ、仕方無いか……」


 なおもブツブツ文句を言ってる姫香も、宝箱の開封に呼ばれて機嫌を直した模様。その中からは鑑定の書が4枚と魔結晶(中)が5個、魔玉(炎)が7個に中級エリクサー700ml。

 それから異国の金貨が数十枚にスキル書が1枚、角突きの兜と3つ目の鍵をゲット。兜は魔法アイテムだと、妖精ちゃんが教えてくれた。


 ちなみにドロップには、やっぱりスキル書は無しで魔石(中)とトロルの毛髪など。忍者は手裏剣を数枚落としたが、他に武器らしきものは無し。

 長時間の探索にしては、回収品の総合は微妙かも知れない。とは言え魔石に関しては、バカみたいな量が集まった気がする。何しろ戦闘が多かった、本当に。


 いつもの探索だと、移動時間に半分は取られてしまう感じなのだけど。今回は進む端から敵が大量に待ち伏せていて、戦闘時間がやたらと長かった印象だ。

 とにかく長く感じた探索は、ようやく終了した。中途半端に残った扉2つは、仕方無いのでまた次回と言う事で。側にあったワープ魔方陣に飛び込んで、いざ地上を目指す。

 子供達もハスキー軍団も、既に完全にリラックスモード。





 ――後はひとっ風呂浴びて、夕食のおでんを楽しみに待つだけ。










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