第246話 敷地内に新たなダンジョン(?)が見付かる件
1月も下旬の週末、凛香チームは活発に活動を始めて午前中からお出掛けしていた。当然探索と言うか、稼ぐために日馬桜町のダンジョンの間引きへと出掛けたのだけど。
残された年少組の和香と穂積は釈然としない感じで、香多奈の所へと遊びに来ている。そんな来栖家は、今月は自治会依頼を既にこなしてまったりモード。
冬だからってダンジョンの活動が穏やかになる訳では無いが、農家の活動としては冬はお休みの時期である。1月の青空市などのイベントも終わって、完全に暇をしている感じ。
もちろん家畜の世話は毎日あるので、働かない日は無いのだが。最近はお隣さんも鶏卵や牛の乳を分けて貰うために、お手伝いを買って出てくれている。
その分、来栖家の負担はかなり緩和はされていたりして。
忙しいのは朝の早い時間なので、午後に近い時間はまったりとした時間が流れているだけ。週末は勉強会もお休みで、護人も趣味のCDをオーディオで流して休息中だ。
1月のこの時期、来栖家の田畑は雪まみれで地面を窺い知る事は不可能。子供たちがお正月に作ったかまくらも、まだしっかりと健在である。
そこで遊んでいる年少組だが、いつもの勢いがないのは置いていかれた寂しさ故か。そして話題は、香多奈の探索での活躍とか役割とかの話になって。
和香と穂積も、ダンジョンに入ってみたいねとそんな願いを口にして。その熱を感じ取った香多奈は、叔父さんに相談してみようかと提案を口にする。
何しろ子供に甘い護人、駄々を
次案としてはコロ助やルルンバちゃんを引き連れて、こっそり敷地内ダンジョンにお邪魔する位だが。これをやってしまうと、バレた時大人達から大目玉を喰らってしまう。
それはさすがに、和香と穂積も本意では無いと拒否の構え。特にリーダーの凛香に怒られたら、しばらく家から出して貰えなくなる可能性が。
それならやっぱり、叔父さんに頼んで敷地内の“鼠ダンジョン”にお試し探索が良いかも知れない。姉の姫香やハスキー軍団に護衛して貰えば、安全度は増すだろうし。
そう言えば、自分も探索に同行したいと、叔父さんにしがみ付いて泣いたなぁと。1年近く前の事を思い出して、何となく照れてしまう香多奈だったり。
あの頃は若かった、今もまぁ若いけど。
ただし最近は茶々丸や萌と言う弟分が出来て、お姉さん感が溢れ出ちゃってるかなぁと思わなくもない香多奈。現状で泣いて駄々を捏ねるのは、友達の前も加味してちょっと無理かも。
そんな事を思いつつ、作戦会議のついでに敷地内ダンジョンの1つに様子見に近付いて行く年少組。仔ヤギ姿の茶々丸が、飛び跳ねるように後に続いて来る。
ところがここで異変が起きた、いや異変と言うのもアレだけど。慌てたようにハスキー達が近寄って来て、子供達の進行を邪魔するように立ち塞がったのだ。
おやっとレイジーを見つめる香多奈と、頑なに目を合わせようとしないレイジー達。まるでこっそり盗んだ家族の靴を、秘密の隠し場所に持ち込んだ時のよう。
実際、レイジーが子供の頃に家族の靴は何足かやられた事があって。
「……ハスキー達ってば、何か隠してるね! そこのダンジョン、探って欲しくない感じがアリアリだもん!」
「えっ、私たちが勝手に危ない場所に入らないように、ガードしてるんじゃないの?」
「違うねっ、何かをダンジョンに隠してて、それを見付けて欲しくないんだよっ!」
名探偵の香多奈の推理に、おおっと驚く素振りの和香と穂積。それって何なのとの問いには、見てみれば分かるよと少女は強引に突破しようと試みるも。
ハスキー軍団も本気で止めて来て、その体格差は
容赦の無い仔ヤギの突進は、ハスキー達の妨害工作より恐ろしい。途中で諦めた末妹は、叔父さんに知らせるからねと捨て台詞を残して母屋へと逃げ込んで行く。
ただし心の中では、面白くなって来たと喝采を上げていたけど。
その頃の来栖邸のリビングでは、姫香が護人を誘ってこの前のキッズチームの動画を観ていた。面目はギルドリーダーの護人に対する報告だが、まぁ暇潰しでもある。
紗良はキッチンで、ただ今絶賛お昼の準備中。鼻歌と良い匂いが、リビングまで漂って来ている中。コタツで動画を視聴中の2人は、ひたすらまったりモード。
ミケも護人のお腹の上で、完全に丸くなって寛いでいる。姫香が先週の『ユニコーン』の魔石&ポーション販売額は、約65万円程度だったと報告して来て。
このダンジョンに月1で潜れたらいいねと、楽しそうに護人に話している。ちなみにスキル書は2枚出たけど、相性チェックは全滅だったそう。
残念だけど、それはまぁ仕方がない。
とにかくその成功に勢い付いて、今週も探索に出掛けた凛香チームだったり。先週は帰りに植松の爺婆の家にお邪魔して、キノコ類やら何やらをお裾分けして。
調理法を教わったり、その場で下処理をして貰ったりとお世話になって。来栖家もお肉やらキノコ類やらを、姫香を通じてたくさんお裾分けして貰ったりもして。
それも家族で3日で食べ尽くして、その名残はコタツの上のビワ位のモノ。そこに台所から、お昼にするから子供達を呼んで来てとの紗良の声に。
は~いと返事をして、元気に立ち上がる姫香。そこに都合良く、縁側から雪崩れ込む香多奈と和香と穂積。何故かプリプリ怒っていて、護人へと文句を並べ立てる。
それによると、ハスキー達が何か重大な隠し事をしているらしい。
「何よ、その隠し事って……どうせ香多奈の妄想かでっち上げでしょ? それより手を洗って、ちゃんと勝手口から家に入んなさい。
和香と穂積もね、萌の足も洗ってあげてよ」
「でっち上げじゃ無いってば、姫香お姉ちゃん! レイジーとか嘘つくの下手だから、隠し事あったらすぐ分かるもん……叔父さんも分かるでしょ、レイジーの誤魔化してる時の仕草」
「とにかくお昼にしよう……話はその後でな、香多奈」
そんな訳でお昼をみんなで食べ終わる頃には、末妹の機嫌も完全に回復していて。和香に促されるまで、さっきまで騒ぎ立てていた事すら忘れている始末。
それでも香多奈の話を
目も当てられないし、今は和香や穂積だって近所に住んでいるのだ。護人がそう言うと、それじゃあ探索着に着替えてちょっくら潜ってみようと姫香の提案に。
誰も反対する事なく、何となくその流れに。そして護人が魔素鑑定装置を手に外に出てみると、なるほどハスキー軍団の様子はハッキリと変と分かる始末。
ただまぁ、それが何なのか護人には全く心当たりは無い。
「ほらほらっ、明らかに変でしょ、叔父さんっ……レイジーが子供の頃、家族の靴を隠してた感じにそっくりじゃない?
私の予想だと、ダンジョンの中でモンスターの子供を育ててるんじゃないかな?」
「確かにヘンだわね、どう言う状況なんだっけ……香多奈たちが“鼠ダンジョン”に入るのを、3匹全員で嫌がったんだっけ?
そりゃあ隠し事だね、でも子供のモンスターって何よ、香多奈?」
そんなのは香多奈にだって分からない、ただ何となくの口から出まかせだ。ただし、ダンジョン内には危機感的なモノは感じられず、装置の反応も魔素は軽微と告げて来る。
その頃には完全に観念したらしいハスキー軍団は、項垂れて判決を待つ
香多奈の通訳は、動物相手では何となくの感情を拾うだけで曖昧である。今は隠し事がバレちゃったとの感情が伝わるだけで、それが何なのかまでは分からない。
つまりは、実際に潜ってみるしか無い訳で。
「あっ、護人さん……どうしましょう、和香ちゃんと穂積君をダンジョン前に残して行くのも怖いかも?」
「むっ、そうだな……2人とも、ウチの家で大人しく待っててくれるかい?」
護人の問い掛けに、もちろん2人は嫌だと即答する。仕方なしに、護人は非常手段でルルンバちゃんを招き寄せて。小型ショベルの座席に、2人を乗せての護衛体制。
それに加えて、ミケを和香に預ければほぼ万全の態勢だろう。これには和香と穂積も大興奮で、チームに置いて行かれた事など忘れ去る始末。
香多奈も良かったねと友達と話していて、取り敢えずルルンバちゃんは後衛に決定。肝心のハスキー軍団だけど、家族がダンジョンに入れば当然ついて行くしか無い訳で。
とぼとぼと、まるでドナドナのムードを漂わせて先頭を歩くその姿に。さすがに護人と姫香も、この子たちは何を隠しているんだと不安になって来て。
ところが、第1層はこれと言った異変は見付からず。
しかも、遭遇したのは大ネズミが2匹のみと言う。それもレイジーとコロ助が噛み殺して、特等席で観覧中の和香と穂積も物足りない表情を浮かべている。
探索って言ってもこんなもんだよとは、先輩面をしている香多奈の弁。こっちも勝手について来た茶々丸は、《変化》させてくれと先程から香多奈にせっついている。
さすがの彼も、ペンダントを取られたら人間形態に変化は出来ない。今回はメインが探索では無いので、新人ズの2匹は本当に付いて来ているだけである。
そんな感じでの散歩気分での第2層、異変はそこで起きた。敵影もやっぱりないその本道から、支道へと続く道に護人が入ろうとしたら。
入っちゃイヤと、レイジーが止める仕草。
「あっ、この奥に何か隠し事があるみたいっ! メッだよ、レイジー……道を開けなさいっ!」
「この子たちが、護人叔父さんに怒られるような事するかなぁ? まぁ支道は細いから、私が見て来るよ……護人叔父さんは、レイジーを叱っておいて」
叱ろうにも、何をしでかしたのか定かでは無いのだが。それでも支道は細くて、ルルンバちゃんが侵入するのもギリギリな感じなのも確か。
1人で行動しようとする姫香に、危ないから待ちなさいと言う間もなく。さっさと奥の小部屋に入って行った少女、そして驚きの声が響いて来て。
何があったと、慌ててそれに続く来栖家チームの面々だけど。姫香は無事で、驚き声は突き当りだと思っていた小部屋に階段があったからだと判明した。
その階段だけど、確かに立派な奴が存在していて護人も思いっ切り困惑。この“鼠ダンジョン”の構造は物凄く単純で、真っ直ぐな本道の突き当りに次の層への階段があるのだ。
間違っても、こんな場所に隠し階段など無かった筈。
ハスキー達が隠したかった秘密も、まず間違いなくコレだろう。狭い小部屋は、今やチーム全員が入り込んで満室状態なのだけど。
取り敢えず魔素鑑定装置を作動させて、ここの魔素値を測定してみると。このダンジョンの入り口よりも、遥かに高い数値をはじき出してしまっていた。
「あっ、割と高いかも……護人叔父さん、コレって新たな3層への扉なのかな? それとも、どっか別のダンジョンの入り口が繋がっちゃったのかな?」
「えっ、そんな事あり得るのっ、姫香お姉ちゃんっ?」
「えっ、私も知らないけど……試しに入ってみたら分かるかな、護人叔父さん?」
「そうだな、推測だけしてても埒が明かないし、ハスキー達も特に騒ぎ立ててないし。入ってみようか、そしたらもう少し詳しい事が分かるだろう」
了解と、元気に返事をする姫香を先頭に。割と大きいその階段を、皆で降りて辿り着いたその先には。広いロビーのような空間と、何と新たに5つの扉が窺えて。
これは何だろうと、更に混乱が広がる中。香多奈がハスキー達の反応を見て、ようやく合点が行ったと声を出した。つまりはここは、新たな彼女たちの夜間特訓所だと。
それを黙っていたのを、怒られると思って必死に隠していたらしいハスキー軍団。なるほどそれなら、確かに話の筋は通りそうだと護人も納得。
つまりこの先は、敵もしっかり存在するピチピチの新たなダンジョン?
5つの扉は等間隔に存在していて、左右の4つは何故かスイングドアだった。それぞれに何かモンスターの絵柄が記されていて、雰囲気はたっぷりある。
真ん中の1つは、鍵穴が4つもある重厚な扉だった。この扉にもモンスターの姿が記されていて、敵が向こうにいる演出はバッチリである。
香多奈が張り切って、この先に進むには鍵が必要なのかなと動画撮影に余念がない。姫香が試しにノブを引いたり押したりしているが、案の定反応は無し。
逆に左右の扉は、下の隙間からハスキー達も入り放題である。つまり香多奈の推論は、概ね当たっていた感じ。彼女たちの強さへの渇望が、これほど強いとは。
いやしかし、これは𠮟るべき案件なのか悩む護人。
――隣では子供たちが、さあ探索だと
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