第240話 お正月気分も段々と抜けて行く件



 あれから30分掛けて地上へと戻って、岡野のお婆ちゃんへ無事な帰還の報告をして。お茶をよばれて、少しの時間まったりと世間話をした後に。

 来栖家チームは、仲良くキャンピングカーで帰路についてその日の業務は終了。お風呂で温まって食事をして、全員揃って夢の中へ。


 若干名、夢の中でゾンビと戯れた者もいたようだったけど。次の日は家畜の世話が終わって、朝食後にはスキル書とオーブ珠の相性チェックだと盛り上がる子供たち。

 今日は日曜なので、香多奈も学校は無いしゼミ生達の授業も無い。彼らは今日の午後から、地元のダンジョンの間引き業務が待っているとの事である。

 凛香チームも同じく、自警団と数チームの編成で探索するらしい。


 それにはもちろん、林田兄妹や神崎姉妹チームも参加する予定。来栖家チームだけ土曜に先行したのは、いざと言う時にサポートに駆けつけられるから。

 今となっては、押しも押されもせぬB級ランクのチームなのだ。地元の自警団にも頼られるのは、ある意味当然なのかも知れないけれど。


 護人としては、呼び出しも何も無く終わって貰った方が当然良い訳で。1日中ソワソワして過ごすより、子供達と何か用事をこなしていた方が気分的にも楽。

 そんな訳で、相性チェックも積極的に参加するのだが。


「やった、まずはレイジーがスキル書を覚えたよっ! 久々じゃないかなっ、とにかくお手柄だねっ……護人叔父さんも褒めてあげてっ!」

「おおっ、それは凄いな……どんな能力のスキルなんだろう?」


 妖精ちゃんが飛んで来て、早速鑑定してくれている間。要望通り、レイジーをひたすら撫でて褒め上げてあげる護人。姫香も一緒に撫で回して、レイジーはとっても嬉しそう。

 その結果、レイジーが新たに覚えたのは『魔喰』と言う吸収系の能力だとの事。良く分からないが、魔力を吸収してパワーアップするのだと香多奈の翻訳も曖昧あいまいだ。


 それは仕方がない、スキル自体が元々は不思議系の能力なのだし。などと騒いでいる最中も、香多奈はせっせと新戦力の茶々丸と萌の相性チェックに余念がない。

 ちなみに茶々丸は、今は仔ヤギの姿に戻ってスキル書の使用も大変そう。それも仕方が無くて、どうも《変化》には割とMPを使用するみたいで。

 連続での使用は、最大で4時間が精一杯みたいである。


 そんな末妹の苦労は、ようやくオーブ珠の使用で報われたみたい。ぱあっと承認の光が周囲に満ちて、小躍りする香多奈と《変化》した裸の茶々丸。

 しかも今回、茶々丸が姿を借りたのは目の前の少女だった様で。裸の香多奈が、服を着ている香多奈と喜んでいると言う変てこな図式に。


 慌てたのは香多奈ばかりでなく、紗良も同様だったけど。姫香は大笑いして、護人は紳士らしく見て見ぬ振りをしてあげている。

 これは茶々丸のお茶目な行為なのか、悪気は全く無かったのかは不明だけど。近くにあった瞬間に着脱可能な忍者服を紗良が差し出して、この件は無事に終了。

 プリプリと怒ってる香多奈と、何故怒られてるか分かってない茶々丸。


 それはともかく、茶々丸が新しく覚えた特殊スキル技だけど。妖精ちゃんの鑑定によると、《刺殺術》系の槍使いにはピッタリの技らしい。

 今も『角の英知』のお陰か、茶々丸の槍扱いは割と凄いレベルだと言うのに。これで更に凄味が増すのは、本当に大丈夫かなって感じもする。


 本人は香多奈の姿で、無邪気に喜んでいるのでまぁ良いのだろう。そして残念ながら、新人の萌は1つも相性チェックに引っ掛からずの結果に。

 それを慰める2人の香多奈、良く分からない絵面になってるがもはや誰も突っ込まない。そんな事をしている間に、お昼を過ぎて凛香チームの出発の時間になった模様。

 探索に参加出来ない、和香と穂積が暇だからと遊びに来た。


 それをようこそと家へと招き入れる香多奈、年少組は香多奈が2人いるのにビックリしている。とは言え、忍者服を着ていた少女の正体にはすぐに気づいた様子で。

 ついでに言うと、額の両端から、ニョキっと小さな角が覗いている。それに気付いた穂積は、自分の姿を茶々丸が止めてくれたのに心底ホッとした様子。


 それから家族は、協会に報告と魔石を売り払いに行くと言うので。和香と穂積も一緒に、家族の車で麓へと降りて行く事に。山間の峠道は、雪が相変わらず多い。

 今回はハスキー軍団だけでなく、茶々丸と萌も連れて行くと香多奈の我が儘発動。車内は物凄く窮屈だが、子供達が世話をするのならと護人も何となくそれを許してしまう。

 日曜日なのだし、こんな時は子供の事情が優先だ。


 そして辿り着いた協会前、ハスキー軍団が一斉に車から降りて広場で寛ぎ始める。それについて行く茶々丸、萌は無反応なので香多奈が抱えて建物内へ。

 そして迎え入れられた来栖家の面々は、いつもの席についてまったり商談モード。仁志支部長と話しながら、今回の自治会依頼の間引きの結果を報告して。


 能見さんに魔石やポーションの販売分を渡して、その場で換金して貰う。今回は初級エリクサーや解毒ポーションも売りに出して、それから動画チェックの流れに。

 いつもの事だが、一緒に動画を観ていた和香と穂積は、動画に映るゾンビやスケルトンに凄いリアクションを示している。香多奈がそれを見て、今回の探索の説明を始めて。

 暫くして、戻って来た能見さんがその鑑賞会に混ざって行き。


「墓地は怖いよね、ゾンビとスケルトンばっかりだから……でも今回は、強いゴーストが出て来なかったからまだ楽だったかな?」

「そうだね。印象としては秋祭りの時のキャンピングカーの方が怖かったわね。あの時のゴーストに較べたら、今回の墓地ダンジョンはそうでも無かったかな?

 ただまぁ、11層と12層は苦労したかもっ!」


 姫香の感想に、和香と穂積どころか能見さんもへぇっと言う表情に。動画は未だ3層辺りで、まだ中ボスさえ映っていない。小さな画面の中では、茶々丸が元気に跳ね回っている。

 ちなみに今回の魔石とポーション販売額は175万円で、さすがに“もみのき”や“三段峡”には遠く及ばなかった。それも当然か、ここはD級判定の場所だし。


 1日の稼ぎにしては出来過ぎで、それに対しての文句は護人や姫香には無い。香多奈も動画の説明に夢中で、そもそもこの売上金は子供達はノータッチである。

 ドロップは物凄く平凡だったよねと、文句もその程度の可愛いモノで。ミケの神通力も、今回の“墓地ダンジョン”までは及ばなかったねと残念そう。

 そう言えば今回は、ミケさん元気なかったねとの末妹の心配の声。


「敵が途中まで弱かったし、茶々丸と萌のデビュー戦でもあったしねぇ。あれでも場を読んで、手出しを極力控えたんじゃないかなぁ?」

「まぁ、ミケももう若くないからな……毛並みも最近は良くないし無理はさせられないよ。最近は寒さもあるけど、外にも出ずに寝てばっかりだしなぁ」


 それでも探索に付いて来てくれるのは、家族や子供達を思っての事だろう。またヒヨッコの行動を見守って、いざと言う時には手助けするために。

 現状は、レイジーとミケが来栖家のダブルエースなのには変わりがない。護人や姫香も頑張っているが、強敵を相手にタイマンでソイツを倒すとなるとなかなか大変で。


 それをこなしてしまうのが、レイシーでありミケなのだが。今後の探索では、ミケにあまり無理をさせない方が良いのかも。戦闘はともかく、スキル使用がどの程度身体に負担が掛かるのか不明なのが痛い所である。

 それはともかく、動画の中の来栖家チームは順調に中ボスを退治して6層へと到達していた。その傍らで、和香が巻貝の通信機でチームの小鳩に通信を飛ばしてみる。

 今回は、心配だとの言葉を受けて香多奈が凛香チームに貸し出したのだ。


「今は探索中で詳しく話せないけど、もうすぐ終わって帰れそうだって、香多奈ちゃん。凄いよね、この通信機……スマホじゃ通じないダンジョン内でも、こうやって話せるし」

「もっとたくさん見つかればいいのにね、そしたらチームごとに配れるのにっ」

「確かにね、ダンジョン内でチームがはぐれた事も前にあったし……能見さん、コレ系の魔法アイテムってどこかで売ってないかな?

 魔法の鞄くらいの値段だったら、もう1セット欲しいよね、護人叔父さん?」


 確かに欲しいかもと、以前に広域ダンジョンでチームが逸れた時の事を思い出して同意する護人。ところが能見さんは、これの売値は確か3百万程度だった筈と言って来て。

 希少である点を除いても、やはり便利なので手放すチームも少ないのが高値の理由らしい。来栖家チームにしても、今は子供の玩具になっているけれど。

 自チームの探索では、持つ者を決めてしっかり活用しているのだ。


 能見さんは、これは巻貝タイプだけど蝸牛かたつむりタイプもあった筈と思い出しながら語ってくれた。無理に水際に行かずとも、森林ダンジョンでも回収は可能かもとの事。

 香多奈はそれを聞いて、このアイテムとなら交換して貰えるかなと、水晶製の頭蓋骨を持ち出して来た。それに3百万の価値は無いでしょと、家族の反応は冷たい。


 能見さんも不思議顔で、それも魔法アイテムですかと問うて来るのだが。妖精ちゃんは全く反応を示さなかったので、ただの飾りで間違いなさそう。

 ちなみに、今回の魔法アイテムの鑑定も終了済み。



【オーガ骨の指輪】装備効果:体力up・小

【死神の大鎌】装備効果:急所突き&腕力up・中

【強化の巻物】使用効果:武器強化(赤の魔石使用)

【邪道の馬上槍】装備効果:毒付与&腐壊・中

【重撃のナックルガード】装備効果:不壊&重撃・大

【吸血のマント】装備効果:吸血&回復&回避up・大


【不死者の骨壺】使用効果:スケルトン召喚(黒の魔石使用)




 今回はD級ダンジョンだっただけあって、鑑定の書が余る程しか魔法アイテムは出なかった。それでもフランケン的な何かと吸血鬼のドロップの、魔法の装備は割と良品かも。

 マントに関しては、薔薇のマントが食べないようにするのが大変だった。《吸血》のスキルがどんなのかが心配だが、他の効果は後衛に装備させても良い感じ。


 他の槍とか大鎌とかは死蔵になるか、売るかするしか無いだろうけど。スキル書とオーブ珠でそれぞれ当たりが出た時点で、年明け早々縁起が良いと言えなくもない。

 それより不吉な『不死者の骨壺』だが、何もスケルトン縛りでなくても良さそうなのに。これも恐らく、来栖家チームでは使う事は無い気がする。

 召喚アイテムは、確かに強いとは理屈では分かっているのだが。


 召喚した従者を使い捨てみたいに扱うのが、絆がウリの来栖家チームの方針に合わないと言うか。恐らくチームの士気にも影響しそうで、護人的には積極的に扱うつもりは無い。

 とは言え、こんな危険なモノを家に置いておくのも遠慮したいのも当然で。またもや子供の玩具になりはしないかと、少々肝を冷やしていたりもするのだが。


 香多奈はスケルトンは可愛く無いよねと、和香とそんな話に興じているので。まぁ、余程の事が無い限りは使わないだろう。つまり、よほど好奇心がうずかない限りは。

 動画はようやく、10層の中ボス戦を映し出していた。香多奈が雑魚戦は早送りしているのだが、それでも動画の視聴会は既に1時間近くになっている。


 一度香多奈の顔をした茶々丸が扉から顔を覗かせて、仁志と能見さんをビックリさせていたけど。《変化》のスキルだとの説明で、何とか大事にはならずに済んでいる。

 しかし、確かに同じ顔が2つは不味いかも……例えば茶々丸が外で粗相をして、香多奈の学校での評判がガクッと下がる事態が無いとも言い切れないし。

 どうするべきか、早急に対応は必要かも?


「おおっ、11層から洋風の墓地ですか……相変わらず、ダンジョンの法則は訳が分かりませんね。おっと、この召喚用魔方陣の敵が強そうだなぁ。

 来栖家チームは、もう普通に10層超え出来る実力を備えてますね」

「ウチは探索の目安が3時間くらいだから、どうしてもそれ以上潜るのは大変かなぁ? 集中力も途切れるし、疲労も貯まって大変だよね、護人叔父さん?」

「そうだな、どうしても子供たちの体力や集中力が基準になるからね。ハスキー軍団も、やっぱり後半は怪我も増えて来るし、これ以上深く潜ろうとは思わないよ。

 ダンジョンは、深く潜る程に強い敵が増えて来るからね」


 それに比例してドロップも良くなるじゃんとは、香多奈の言い分ではあるけど。命の方が大事に決まってるよと、簡単に姉の姫香に言い負かされて。

 そして12層の吸血鬼の登場に、和香と穂積が大盛り上がり。画面の中の来栖家チームへと、今更ながらも必死に応援を飛ばしている。


 最後は穂積の姿をした茶々丸も活躍して、動画は終了の運びに。最後の敵も魔石(大)を落として、さすがに強敵だったよねと改めての認識である。

 中ボス形無しの強いモンスターが出て来るのも、ダンジョンの一種のトラップなのだろう。階層やダンジョンのランクを当てにしちゃダメだねと、最後は姫香が締めくくって。

 こうして動画依頼を能見さんに出して、本日の任務はほぼ終了。





 ――自警団のヘルプコールも無く、こうして日曜日は平穏に過ぎて行った。








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