第241話 竹藪ダンジョンの再稼働を確認する件



 1月の中旬、週末を迎えて動き始めるギルド『日馬割』なのだけど。何しろ地元の日馬桜町は、ダンジョンの数には困らない“魔境”である。

 凛香チームも、効率的に稼げるダンジョンに入りたいと言うので。姫香が思い出したのは、6か月前に攻略してダンジョンコアを破壊した“竹藪ダンジョン”。


 アレがそろそろ、再稼働しているかもと凛香と話し合って。調査のついでに、一緒に車に乗って協会に赴く事に。つまりは金曜に2人で調査して、土曜に探索の流れを狙う形で。

 凛香にしてみれば、この町のダンジョンの特徴などはほとんど把握はしていないので。案内役の姫香の提案は、大助かりに違いなく。

 と言うよりも、最近は普通に仲の良い2人である。


「凄いな、ダンジョンコアを壊した事なんて、私のチームでは1回も無いぞ。聞いた所によると、経験値もたくさん稼げるんだろう?」

「それは良く分からないけど、この町は出来立てのダンジョンも多いからね。私たちのチームで壊したコアは、実は結構多いかもね?

 でも今回のダンジョン、エーテルとか定期的に稼げるなら壊さない方が良いのかも」


 そんな話をしながら、姫香の運転で麓の協会の駐車場へ何とか滑り込む事に成功。乱暴な運転に肝を冷やした凛香は、帰りは自分が運転しようと心に誓う。

 彼女も運転を覚え立てだけど、峠のコーナーを雪上で攻めるような運転よりはマシだ。良く事故らなかったなと、ランドクルーザーの車の性能に感謝する凛香。

 或いは、一緒に乗ってたツグミの影なるサポートのお陰だったのかも。


 協会は今日も平和で、姫香と凛香の貸し切りだった。それも当然、この町で活動している探索者など来栖家チームの知り合いのみなのだし。

 それでも最初に較べたら増えたのは確か、来栖家チームの負担は減ってはいないけど。護人辺りはそれを不満に思ってるかもだが、姫香としては大歓迎で。


 実際、それらのダンジョン探索でお金は儲かってるし、仲間も増えたし。凛香チームやゼミ生チームなどの賑やかなお隣さんも増えてくれた。

 ダンジョンとの共生生活が否応なくこの先も続くなら、自分で自分の身を守れる探索者は姫香的にはグー。護人叔父さんは勉強しろとうるさいが、こんな時代だし学を身につけても就職先がある訳でも無し。

 真っ向から反論はしないが、何だかなぁって気分の姫香である。


 ただし、紗良姉さんも勉強は大事だよの信者なので、仕方なくお隣のゼミ生勉強会には毎日参加しているけど。そして、凛香チームの子供達も割とこの勉強会に乗り気と言う。

 将来を思うなら、姫香は紗良に習って料理や裁縫を頑張っている最中で。本当はこれだけで勘弁して欲しいと、内心では考えている姫香だったり。


 それはともかく、協会では“竹藪ダンジョン”の1月のデータは得られなかった。最新で昨年の10月に、自警団チームによって魔素の鑑定が行われており。

 その時には活動は確認されてなかったそうで、それはまぁ順当である。そろそろ半年経ってるし、再稼働してるかもと言うと、申し訳ないけど調査して欲しいとの依頼が。

 何しろこの協会も、常に人手不足だったりするのだ。


「それじゃあ、活動してるかの調査と、再稼働してたら凛香チームで探索に入るね。私も用心に、最初は案内で一緒したげるよ」

「了解しました、それじゃあ協会からの依頼の形を取りますね。少額ですが、調査と間引きの依頼金も出るように手配します」


 能見さんにそう言われて、それから世間話を少々交わして。どうも日馬桜町の協会の新職員は、2月の頭から補充が決まったらしい。

 しかも2人で、一応はアイテム鑑定や装備のメンテに精通している職員らしい。能見さんは協会にアイテム販売書を作りたいそうだが、そこまではまだ無理な様子。


 それでも一歩前進の支部の発展に、仁志支部長と能見さんはとっても嬉しそう。私たちもこの町の探索者として頑張るよと、姫香は凛香の手を取って気勢を上げる。

 まぁ頑張るけどと、凛香の方はそのノリに少々出遅れ気味。それでも今から“竹藪ダンジョン”の捜査に向かうのは、全面的に賛成の様子。

 儲かるダンジョンなら、定期的に通うメリットはかなり大きい。


 毎日の特訓のお陰で、凛香チームの地力もかなり上がって来ているし。今年は週に2日は探索に費やして、チームの稼ぎを是非とも増やしたい所である。

 何しろ護人のサポートと言うか、この前は車までプレゼントされたのだ。貸し出された武器もそうだが、お揃いの装備などは借金だと捉えている凛香。


 ダンジョン探索を軌道に乗せて、そのお金を少しずつ返して行きたい思いも当然ある。今年からその1歩を踏み出せるとなると、確かに気合も入ろうと言うモノ。

 そんな思いをお隣の姫香に話すが、そんな気張る必要は無いと軽いノリ。


「民泊移住は自治会の考えた、町に人と安全を増やす為の政策なんだから。凛香たちが、そんな焦って行動するのも考え物だと思うよ?

 まずは実力と装備を充実させようって、護人叔父さんの考えは私も正しいと思うけどな。探索業って、やっぱり危険がつきものだからね」

「そうは言っても、私たちは一応の活動実績もあるんだ。あそこまで過保護にしなくっても」


 護人叔父さんは自分達に対しても過保護だよと、その返しでグーの音も出なくなる凛香。香多奈みたいに泣いて頼めば、多少は折れてくれるかもねと言われたけど。

 そんな恥ずかしい事は出来ないと、本当に赤くなって反論されるとは思わなかった姫香。ウチの妹は恥ずかしかったのかと、初期の探索の日々を思い出す少女。

 たった半年とちょっとで、随分と成長したモノだ。


 そんな事を話し合いながら、2人の乗った車は目的の山の入り口へ到着した。ここから少し歩くよと言われ、雪の積もった山道をげんなりした表情で凛香は見遣る。

 それに構わず、長靴を取り出した姫香はそれに履き替えて平気で山へと上って行く。それを先導するツグミは、こんな山道も慣れたモノって勇ましさ。


「あっ、見えて来たよ……どんなかな、ツグミ?」

「姫香、魔素鑑定装置とか持って来てないけど分かるモノなのか?」

「そりゃあ分かるよ、ほら見て……前より成長してるし、活動もしてるみたいだね。雪が積もってるから、オーバーフローが起きて無い事も分かってお得だね!」


 ここまでの道のりを思えば、間違ってもお得では無いと息を切らしながら凛香は思うのだが。オーバーフローが起きてないのは、確かに真っさらな雪上からして分かり易い。

 再稼働していると言う姫香の言い分も、何となく理解に至る凛香。何度もダンジョンに潜った事のある者なら、魔素のあるなしってのは感覚的に分かるのだ。


 ツグミも多少興奮して、許可があれば潜って行きたそうな雰囲気。いい子だから明日まで待ってねとの言葉と共に、来た道を戻り始める姫香。

 念の為に同伴すると言う姫香に、そっちも結構な過保護じゃんと思わないでもない凛香だったり。ただまぁ、その心遣いは有り難いと最近は思うようにもなって来て。

 周囲のサポートは、肩肘張らずに受けるのが田舎流なのだから。





 そんな訳で明けて翌日、凛香チームの5名に加えて姫香とツグミのチーム構成で。再稼働した“竹藪ダンジョン”へと、間引き依頼の形で突入する事に。

 本命は中で得られる物資なので、コアまで辿り着いても破壊はしない事になっている。前回潜った時には、食糧や薬品類の回収は凄かったとの話なので。

 凛香チーム的にも、期待度は割と高かったりして。


 何しろ広島市での活動時代は、広い敷地のダンジョンを歩きまくった割には、利益はさほど上がらずな感じで。強い敵は当然避けるし、同じエリアの活動チームにも遠慮するし。

 宝箱など、1日1個あり付く事が出来たら大当たりである。そんな話を聞いた、来栖家の面々のリアクションは何それって感じで。


 この町では、探索者不足で放置されてるダンジョンの方が多いと言うのに。それにしても、未だに大きい街にこだわって住み続ける住民の気が知れないと思ってみたり。

 取り敢えず凛香チームに関しては、自身で選んだ選択肢が正しかったと証明して貰うために。張り切って、この町で間引きしつつ稼いで貰いたい所である。

 その手助けなら、進んで行う所存の姫香。


「ここって、食料も回収出来るんだっけか? 一応そっちのチームの探索動画も観たけど、変化が無ければかなりおいしそうだよな。

 とくに薬品の回収が出来たら、かなりの金額に届きそう」

「そうね、でも根こそぎ捕っちゃうと次までに回復してるか分かんないし。程々の回収と、安全に5層程度まで降りれるかを確認しながら行きましょう。

 それでいいよね、姫香?」

「こっちは構わないわよ、私も今回は盾役に前衛に出るけどいいよね? そっちで間に合う感じなら出しゃばらないし、ツグミと一緒でサポート要員と思って頂戴」


 姫香はどうやら、チーム『ユニコーン』の前衛不足を心配して同行してくれたらしい。これは割と深刻な問題で、確かに凛香チームは5人のうち2人しか前衛能力が無い。

 しかも凛香はサポート役って感じで、バリバリの前衛は隼人だけである。譲司は『氷槍』スキルで後衛アタッカー、小鳩が『風癒』で回復役って感じで。


 13歳の慎吾に至っては、最近『投擲』スキルを覚えたとは言え、荷物持ち的な立ち位置で。戦闘能力に関しては、余り高くないチームだったりするのだ。

 しかも全員若く、最年長の凛香でさえ15歳と言う。これで過保護になるなと言うのも難しく、護人や姫香の心配ももっともだったりする訳だ。

 それでも、こんな世の中になっても食べて行かないと野垂れ死んでしまう。


 そんな意気込みで、新生チーム『ユニコーン』は探索を開始する。その前の魔素鑑定の結果だが、まずまずの平均的な数値に落ち着いていた。

 再稼働したてのこのダンジョン、それ程の活性化もしていない様子でまずは一安心。それでも以前と急激な変化もあるかもだし、全く気は抜けないのだけど。


 慎重に階段を降りて行っての第1層目、先頭は隼人とツグミが担っている。ツグミの反応速度なら、ある程度何が来ても安心だと姫香も先陣を任せる構え。

 そして姫香にとって2度目の“竹藪ダンジョン”は、相変わらず日本家屋の土間みたいな造りに見えた。出て来る敵も、キノコ型のモンスターやハクビシンで変わりなし。

 それらが、わらわらと扉で区切られた奥の部屋から出現して来る。


「隼人、キノコ型の奴は毒胞子撒くから注意ね」

「分かってるよ、マスク持って来てるし」


 予習もバッチリ、大ハクビシンはツグミが始末して、隼人は薙刀でキノコを突き刺して始末する。姫香も念の為にマスク装着、ツグミはまぁ平気だろう。

 何しろいざとなれば、自分の影に逃げ込めるハイスペック振りなのだ。今回の探索も、あんまり出しゃばらないって事も織り込み済みではあるけど。


 どうも、中型動物を見ると首筋に咬み付いて始末したくなるみたいで。影を操って落ちてる魔石を拾うと、もうあんまり前に出ないよと、姫香の傍まで下がって来る。

 それを見て、今度は凛香が前へと出て。隼人と顔を見合わせて、行く方向を取り決めて前進し始める。扉が開いているのは、真ん前と右にも確認出来て。

 この辺の間取りは、前回とそこまで違いは無い感じ。


「今回の探索は間引き目的じゃ無いけど、安全の為に敵は倒して行こう。取りこぼし無く、時間が掛かってもいいから」

「了解……譲司、地図の作成頼んだぞ」

「任せといて、隼人兄ちゃんっ」


 譲司は『記憶術』と言う便利なスキルを取得して、地図作製などお手のモノである。後衛の3人は、そんなサポート的な役割も探索中は果たしながら進んでいる。

 1層の部屋数は全部で9個で、大きさはほぼ同じで全部が15畳くらい。敵がいる部屋もあれば、いない部屋も存在して。いるのはキノコ型のモンスターと、ハクビシンに大キジ型モンスターが少々。


 密度もそれ程では無く、厄介なのはキノコの毒の胞子飛ばし位だろうか。ハクビシンの速度も、最初だけ凛香は戸惑っていたけど、すぐに慣れた模様。

 最初こそ、チームに妙な緊張と硬さがあったモノの。1層の探索が終わる頃にはそれも良い具合にほぐれていて。それぞれの役割も、しっかり定着して来た様子で何より。

 凛香のリーダー振りも、ちゃんと発揮出来ていて頼もしい限り。





 ――そして一行は、何事も無く2層へと降り立つのだった。







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